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「ナターシャ!貴様との婚約はこの場で終わりだ!私はこのミルーと結婚する!」
高々と声を荒げてるのは公爵家の長男アウロ。その腕の中にはウサギ耳が可愛く生えている女の子ミルーがいる。
対して、婚約破棄された令嬢、侯爵令嬢のナターシャは彼らと対峙する形で向かい側に立っている。
ここは学期末ごとに行われる祝賀会の会場。私たちは無事一課程終えたことへの喜びと明日からの休みの喜びでいっぱいだった最中に、この騒ぎは起きた。
中央で高らかに公爵子息が声を張ったことにより、参加者全員がそちらを見つめる形になってしまう。
壁の花を決め込み、中心から離れていた私、レティシアもその騒ぎを見つめることになってしまう。
「お話はわかりました。婚約解消の件、承知いたしました。ですが、これは家同士のお約束。そちらの過失での『破棄』という形でよろしいですね」
「なっ!ち、ちがう!『破棄』ではない!俺とミルーは『番』なのだ!」
『番』
この世界には獣人がいる。人のように動き、人のような知性を持つ。当たり前のように存在していた彼等と私達は共に生活を送っている。ただどんなに共存を送ろうと理解できない考え方がある。それが『番』というものだ。
自分達の半身ともよぶ存在であり、唯一無二の存在。出会えるかはわからないが出会った獣人曰く、この上ない喜びであり、最愛の存在。何があろうと手放さない存在。そう語る。
番について過去の歴史からこの国、エグリシア王国においては何個か法律が制定されている。
1.獣人達での番間のトラブルは獣人同士で解決可能とする
2.人と獣人のトラブルは人の意思の元、解決せよ。ただし獣人の番への執着は並々ならぬものの為、引くことをおすすめする。
3.トラブルを避ける為、番無効化の薬は無償で提供する
まず、獣人間で恋人が他者の番だった場合、双方が惹かれあってしまう為、どうしても番でない恋人は引かねば、ならない。どうしても諦めきれない場合、『強さ』が優劣を決める為、勝ち得ることは可能だが、結局、番の存在を知ってしまったせいでうまく行かないことがほとんどである。
問題は人と獣人の場合である。
人には恋人がいて、獣人が「お前は俺の番だ」と言ったところで人には実感がわかない。知らない人から「お前は俺の運命の相手だ」と言われてるにすぎない。そして、番を手に入れたい獣人が無理やり連れ去ったり、恋人と戦ったりとトラブルが絶えなかったらしい。そんな歴史から、『人側の意思を尊重せよ』と決められている。
また、番だという認識を無効化できる薬が開発されてから、トラブルは激減した。
一生を添い遂げたい相手が見つかったものはその薬を服用することにより、獣人から一切、番だと認識されないものらしい。番を感知する特殊なフェロモンを抑制するものらしく、後に運命の相手だと言われることがなくなるものだ。
人はその薬を飲むことにより、番トラブルから身を守るそうだ。
「『番』ですか。それが本当なら確かに仕方ありませんね。『破棄』という形も取れませんし。それが事実なら、確かに私も円満に終わらせなければなりませんね。ええ。事実なら」
扇で口元を隠しながら、さながら悪役令嬢のようにゆっくりとナターシャが言葉を紡ぐ。
「じ、事実に決まっているだろう!ミルーがそう俺に言ったんだ!間違いであるはずないだろう!」
動揺をしながらも、確かに怒りを混ぜながらアウロが反論する。
「アウロ様。お忘れかしら。あなたはエンリール公爵家御子息ですわ。将来、エンリール公爵家を継ぐ身。公爵家の御子息ともあろう方が無効化のお薬を飲まされていないとでも。公爵が獣人の奥方など、看過されるとでも」
優雅に、そして気品に満ちた口調で事実を淡々と述べる。
「…そ、それは」
思い当たる節があったのか、さっきまで愛おしそうに腕の中に閉じ込めていた存在に目を向ける。
「えっ。わ、私は、アウロ様の番ですよ!だって、こんなに愛しく思ったんですもん!」
必死に言葉を紡ぐが周囲からの視線は冷たい。
そのうち、侯爵令嬢が呼んだ衛兵が現れ、ミルーを拘束する。
「えっ、ちょっと!何するんですか!触らないでください!アウロ様!助けて!」
いくら叫んでも、肝心のアウロは動こうとしない。信じてた存在に裏切られ、茫然と佇んでいた。




