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最終話 黒陽

はじめまして、大森林総史です。

主人公・優星(ゆうせい)が復讐の果てに何を見るのか。

そんな物語を書いてみました。

宜しければ、お読みいただけると嬉しいです。

 明里は白霞に触れた。


 その瞬間だった。


「――っ!」


 白霞が吸い付くようにその手へ収まる。


 脳裏に景色が流れ込む。


 退魔との戦いの日々。


 幼い優星。


 共に過ごした時間。


 そして――。


 儀蔵との戦い。


 敗北。


 深い霧。


 全てが蘇る。


 明里の瞳から涙が溢れた。


 目の前には成長した優星がいる。


「優星……?」


 優星の目が見開かれる。


「光……姉さん?」


「そうよ……」


 光は泣きながら微笑んだ。


「優星……」


「姉さん!」


 二人は強く抱き合った。


 長い年月。


 失われた時間。


 その全てを埋めるように。


「優星……こんなに立派になって……」


「師匠⋯氷魔様と月花のおかげだよ」


 光は首を振った。


「苦労したのでしょう……?」


 涙がこぼれる。


「ごめんなさい……私が弱かったから……」


 優星も静かに首を振った。


「弱いのは僕も同じさ」


 月花を見る。


 氷魔を見る。


「二人がいなければ、僕はここにはいなかった」


 光は深く頭を下げた。


「優星を見守り、育てて下さってありがとうございました」


 月花は慌てる。


「や、やめてください!」


 氷魔も頭を掻いた。


「照れるではないか」


 しばらく穏やかな時間が流れた。


 そして。


 光は白霞を見つめた。


「優星」


「何?」


「白霞を受け取ってくれないかしら?」


 優星が目を見開く。


「僕が?」


「ええ」


 光は静かに頷いた。


「私は、もう刀を振る事はできません」


 少し寂しそうに微笑む。


「けれど退魔はいる」


 そして。


「意思を継ぎ、皆を守れるのは優星だけ」


 優星の脳裏に儀蔵の姿が浮かぶ。


 復讐。


 憎しみ。


 闇。


 全てを越えてここまで来た。


 そして、儀蔵が果たせなかった思い⋯


 優星はゆっくりと頷く。


「承知」


 白霞を受け取る。


「白霞……拙者を受け入れてくれるか?」


 その瞬間。


 白い刀身が黒く染まった。


 だが禍々しさは無い。


 夜明け前の空のような美しい黒。


 そこへ白い紋章が浮かび上がる。


「これは……」


 光が息を呑む。


 氷魔が目を細めた。


「新たな退魔刀じゃな」


 優星は静かに呟く。


「黒陽……」


 誰も反対しなかった。


 その名が自然に思えた。


 光の瞳から再び涙が流れる。


「退魔刀が、優星を認めたのですね……」


 優星は黒陽を構えた。


「黒陽」


 静かに語りかける。


「拙者と共に皆を守る為、その力を貸してくれ」


 そして鞘へ収めた。


「案ずるな」


 氷魔が笑う。


「儂らも支援するわい」


「私もです」


 月花も微笑む。


 優星も笑った。


 もう一人ではなかった。


     ◇


 その頃。


 小さな墓の前に一人の男がいた。


 儀蔵だった。


 手には酒。


 目の前には妻と子の墓。


 長い沈黙の後。


 儀蔵は静かに腰を下ろした。


「すまない……」


 墓石を見つめる。


「参るのが遅くなった……」


 風が吹く。


 草木が揺れる。


「仇は討てなかった」


 儀蔵は苦笑した。


「だがな……」


 空を見上げる。


「ようやく帰って来られた」


 酒を墓前へ置く。


「俺ももう、人斬りじゃねぇ」


 その表情は穏やかだった。


     ◇


 数日後。


 氷魔の屋敷。


 優星たちの前に役人が現れた。


「優星殿」


「拙者に何用でしょう」


 役人は深く頭を下げた。


「殿より言伝でございます」


 一同が耳を傾ける。


「今回の件で、忍びと退魔剣士の力がいかに重要かを痛感されました」


 役人は続ける。


「そこで新たに退魔忍軍を設立したく」


 優星は目を見開く。


「退魔忍軍……」


「そして頭目には優星殿を、と」


 しばし沈黙。


 優星は戸惑う。


 まだ若い。


 未熟だと思っている。


 だから。


 月花を見る。


 光を見る。


 氷魔を見る。


 三人とも優しく頷いた。


 優星は微笑んだ。


「拙者一人では無理です」


 役人が首を傾げる。


 優星は仲間たちを見た。


「ですが」


 そして。


 真っ直ぐ前を見る。


「皆がいるなら引き受けましょう」


 氷魔が笑う。


「決まりじゃな」


 月花も笑う。


「はい」


 光も微笑む。


「きっと大丈夫」


 屋敷の外には青空が広がっていた。


 復讐の旅は終わった。


 だが。


 新たな物語は始まる。


 優星は黒陽に手を添える。


 守るべき人々のために。


 共に歩む仲間たちのために。


 そして――。


 未来のために。


 完

完結まで読んでいただき、ありがとうございました。

この物語は如何だったでしょうか?

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