相手が悪かった
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
https://hatuyuki-ku.com/?p=4566
観光客たちの墓場となった、ヘト・ネテル。
広いエントランスホールで、アティーファが奥へ歩いていく。
100人が入っても余裕があり、2人が縦に並んでも手が届かない高さだが、閉じ込められたことを意識すれば、圧迫感でパニックに陥りそうだ……。
しわがれた老婆の声で、アティーファが説明する。
「ここは、イシス女王と神官たちが儀式をする場じゃ! 大勢が入れるように作られていて、歴代の女王へ感謝を捧げる意味もある」
「へー! 詳しいんですね? まあ、『死んだ後に復活する』という教えですし」
他人事のように、ガイドの若い女が相槌を打った。
先頭にいる2人に対して、ゾロゾロとついていく面々は憂鬱そう。
やがて、広い地底湖にぶつかる。
立ち止まったアティーファは、後ろを向く。
「この世とあの世を区切っている湖じゃ! つまり、向こうに見えている場所があの世というわけだ」
「そこまでは、知っているぞ? まさか、泳いで渡れと?」
知的な爺さんが、嫌味を交えての質問。
いっぽう、若い女が首を横に振り、とある場所を指さす。
「あそこに、遊覧船を停泊させています! 本来は地底湖をグルリと回るだけですが、非常事態なので奥へ進みましょう」
縦に細長い、現代でいうカヌーを大型にしつつ優美なデザインである木造船を見たアティーファが、顔を見せないままで呆れた。
「女王の船だぞ!? ハアッ……。まあ、良い! ここでお主らと立っていても、仕方ない。妾が許す」
10人ぐらいは楽に乗れるため、次々に足を踏み入れた。
オタクっぽい男が、文句を言う。
「お、俺たちがオールで漕げと? あっ……」
ロープを外した後で、木造船はゆっくり動き出した。
気まずい男は、口を閉じる。
静かな水面をかき分け、ザアアッという音が響く。
上から差し込む光により、幻想的な光景が広がっている……。
両端に陣取った観光客が、それぞれに水面を覗き込む。
教授と呼ばれた老爺は、助手のような若い男と話す。
「見たまえ! 水が腐っていない……。おそらく、地下水路と繋がっている」
「……そうですね」
いっぽう、アティーファは中央の椅子に座り、堂々たるもの。
一番細くなっているうちで、前方にある船首に女ガイドの姿。
気になったフランソワーズが、そちらに近づく。
「どうかした?」
「この人が気になって……」
女ガイドの前には、1人が立っている。
ミイラだから男女の区別もつかないが、ボロとはいえ、貫頭衣を纏っている。
「んー、邪魔だなー!」
女ガイドは、ミイラを避けるように左右から前を覗き込む。
すると、横から回り込んだフランが、思いっきり蹴飛ばした!
驚いたリナとシャーロットは、それぞれに叫ぶ。
「えっ?」
「ちょっと、待ちなさい!」
しかし、物理法則は無常だ。
与えられたベクトルに従い、横へ吹っ飛んでいくミイラ。
心なしか、くぼんだ穴2つだけの顔も、納得していない雰囲気だ。
干物だから、バシャンという音も軽い。
いっぽう、それを成した本人は、悪びれることもなく、あっさり告げる。
「ほら、空いたよ?」
「……何をしているの! えっ?」
自慢の巨乳を揺らしつつ、シャーロットが抗議するも、すぐに驚く。
まるでミイラが飛んで行った軌跡をなぞるように、フランも宙を舞った。
バシャーン!
先ほどよりも派手な着水音が、女王の船に乗っている人々の耳に届いた。
――地底湖の中
引きずり込まれたフランソワーズが、口からブクブクと空気を吐き出しつつ、自身をこうした元凶と向き合う。
それは、自分が蹴飛ばしたミイラ……。
日光が差し込み、透明な水中を照らしているものの、動くはずのないミイラがフランにしがみつき、話せるはずのない口を動かす。
『お前の罪を裁く』
男女の区別もつかない、低い声。
不思議と、フランは明瞭に聞き取れた。
呼吸できないまま、動きを封じるように手足で抱き着いたミイラと共に――
そのミイラは、急に下降を始めた。
抗えない水流が、ミイラを下へ押し流す。
驚いたミイラが手足をばたつかせて、フランを巻き添えにしようとするも、上へ浮上しようとする動きのままで深度が深い暗闇へ消えていく。
その雰囲気は、理不尽すぎるだろ? と告げていた。
まったく動揺しないフランは、ジェット水流があるかのように水面を目指す。
水の精霊ウンディーネに水中で喧嘩を売ったほうが悪い!
この世界は、残酷なんだ……。
――女王の船
リナとシャーロットが、左右の端から水面を覗き込んでいる。
他の面々も、恐る恐る、そちらを見たまま。
すると、地底湖の水面が盛り上がり、その中心からフランソワーズが飛び出した。
空中でクルクルと縦回転を繰り返しつつ、船の上に着地。
「「「わぁああっ!」」」
その衝撃によって、左右に揺れるも、誰も落ちずに済んだ。
バランスを取り戻した船の上で、ずっと中央の椅子に座っていたアティーファが、しわがれた声で独白する。
「神への背信の罪ぐらいでは、死なぬか……。まあ、そうでなければ」
フードで顔を見せぬまま、クククと笑った。
アティーファが言う通り、ここが王族の墳墓なら、この先にも危険はあるだろう。
過去作は、こちらです!
https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31




