帝国と世界は滅びるかもしれない運命
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
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ザザザと、砂を押しのける音。
それに伴う振動が、俺の目を覚ました。
金属の配管などがある、せまい個室だ。
壁に固定された粗末なベッドから上体を起こしつつ、息を吐く。
上から吊るされた明かりが、ぼんやりと金属の天井や壁を照らす。
ギィイイイッ
「あっ! 気づいたんだね? 良かった……」
若い女の声だ。
縦に切り取られた空間から、明るい光が入ってきた。
黒いシルエットになった人物は、小柄。
重そうなドアをバタンと閉めれば、ようやく見えた。
濃い茶色の髪は肩ぐらいの長さだが、後ろで一本に縛っている。
童顔で、青紫の瞳。
(年齢は……俺と同じか、少し下だな?)
しげしげと眺めていたら、
「僕は、フランソワーズ! フランでいいよ?」
その両手に抱えているのは、水が入っている容器と思われる。
「よいしょっと!」
片手で持ちやすいサイズで、縦に細長い、密封型。
「飲み水だよ! 食事は、目を覚ましてからと思って……」
人工的な明かりの下で、フランソワーズは壁に固定されている出っ張りを引き出して座る。
「帝国の砂上艦と戦った傍で、倒れていたんだよ? 助けてあげたから、感謝して!」
「ありがとう……何だ?」
フランソワーズは、ジト目。
腕を組み、何とも言えない表情で俺を見たまま。
彼女は、意を決したように尋ねる。
「あのさ? 僕が助けたんだけど、その時のこと、覚えている?」
「気づいたら、ここだったが……」
探るように、ジーッと目を合わせていたフランソワーズは、やがて根負けする。
「覚えてなければ、もういいよ! よくないけど……」
顔を赤くしたフランソワーズは、顔を伏せた。
しかし、すぐに俺を見る。
「君の命を助けたわけで……。ちょっと、僕たちも助けてくれない?」
「嫌な予感がするけど、言ってみて」
俺が催促したことで、彼女は頷いた。
「僕たち、アーデンティア帝国に抵抗しているんだ! 手伝ってよ?」
――30分後
個室を出た俺は、せまい通路を歩き、外が見られるブリッジへ。
要するに、砂上艦の指揮所だ。
名前は、ノイエ・ヴァサー。
金髪碧眼の若い男が、笑顔で話しかけてくる。
「俺は、ユーリだ! ここの艦長で、反帝国軍のリーダーもしている」
「サクリフィ王国から来た、ティルです……。砂漠越えをしていて、艦同士の砲撃をしている場面に遭遇しました。近くに隠れていたら、水が切れて」
立ったままで自分の腕を組んだユーリは、首を振る。
「誰も納得しないぜ? あの時に砂漠を越えているキャラバンはなく、他の乗り物もいなかったはず……。わざわざ、タスレドル砂漠を選ぶのは、ヤバい連中だけ! 俺たちのようにな?」
息を吐いたフランソワーズが、口をはさむ。
「信用できると思うよ? それより、こんな生活を続けてもジリ貧! 彼が加わった以上、もう一気に攻め入るタイミング」
驚いたユーリは、腕を下ろす。
「お前が言うんだったら、そうかもな? このノイエ・ヴァサーも、いい加減にガタついているし」
2人が、俺を見た。
「お前の返事は? 嫌なら、ここで――」
「それはダメ! たぶん、すぐに全滅するから」
暗い顔で叫んだフランソワーズは、絶句したユーリに構わず、俺に頭を下げた。
「お願い! 僕たちに力を貸して! もう、君しか頼れる人がいない」
ブリッジにいる全員が、俺を見つめる。
「命を助けられたし、その分はな?」
「ありがとう!」
フランソワーズの明るい声で、ブリッジは落ち着く。
続いて、彼女が言う。
「じゃ、善は急げで……。僕は、彼と準備をするから!」
驚いた表情のユーリが、慌てて尋ねる。
「おいおい!? 本当に、いいのか?」
どこか達観したフランソワーズは、投げやりに答える。
「いいよ! あんな事をされたら、今更……」
後半はボソボソと喋り、聞こえなかった。
気を取り直したフランソワーズは、俺を見上げる。
「じゃ、僕の部屋に来てくれる? とっとと、済ませるから」
「あ、ああ……」
呆れた雰囲気のユーリは、外が見える正面に向き直った。
「こっちは、オアシスまで指揮する! 戦闘以外で、邪魔をしないぜ」
フランソワーズに手を引かれ、せまくも女の子らしい部屋に案内された。
言われるがままに宣言して、何やら儀式めいた行動をする。
よく分からないが、これでいいようだ。
◇
風の精霊シルフィードとして目覚めた、マリカ・フォン・ミシャール伯爵令嬢。
サクリフィ王国が血眼になって探しているため、見つかりにくい隠れ家で優雅に過ごす。
外のテラスで、紅茶のティーカップを置いた。
「いいわね……。さて、ティルの様子は」
いつも通りに、風の権能で探ろうとするも――
閉じていた目を開けたマリカは、唖然とする。
「あれ? リンクが切れてる!?」
冷や汗をかくマリカは、ティーカップの水面が動いたことに気づく。
“初めまして、シルフィード”
“君のパートナーだったティル君はねー!”
“僕の男になったんだー!”
“じゃ、そういうことで”
水面は、平らに戻った。
マリカが持っているティーカップは瞬時に破裂して、中の紅茶がぶちまけられた。
ずぶ濡れの服に構わず、マリカは笑う。
「ハ、ハハハハ! 初めてね……。ここまで私をコケにした女は!」
過去作は、こちらです!
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