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戦争捕虜の少女たちが労働施設でロックバンド  作者:
みんな傷つけザラザラ山猫
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後日談

 ライブは失敗に終わった。

 その後私たちには平穏な奴隷としての日々が戻ってきて、私は強制労働に駆り出された。視察が終わったために、頑健な奴隷をお披露目する必要がなくなり、医療部隊は解散させられ通常の労働に戻った。

 寒さに堪え、眠い目をこすることもできずに重い鉱石を運ぶ。そんな毎日だった。熱に浮かれた日々が終わり、死んだように毎日に耐えた。

 音マスは失敗に終わった。何も変えられなかった上に、もう活動することさえできない。それに落胆しているのは私だけではないはずだ。ニッポニアの捕虜のみんなだって、いくら直前で私にムカついていたにしろ、心のどこかでは期待していたに決まってる。

 ただ不思議なことに、私の奴隷生活は平穏だった。誰も私を罵倒してはこなかった。逆に私を無視して除け者にしようとすることもなかった。普通の奴隷生活が普通に待っており、それは過酷でポッカリと穴の空いた空虚な生活だった。

 桜も私と同じように、奴隷仕事ばかりの日々に戻った。桜はいつも周りに気を配り、誰かが酷い目に合わないように目を光らせている。その上で誰よりも働いて、まるでそうすることが彼女の幸せに繋がるかのような清々しさを放っている。

 チョコは監察官としての仕事に戻ったが、随分と目にする機会は減ってしまった。以前のように桜を殴りつける『ふり』をする姿も見るが、それもたまにだ。ただし、教会の近くを通ると彼女のパイプオルガンの音色が聞こえることが増えた気もするけれど。

 そして、雲の姿はすっかり見なくなってしまった。彼女は宝物庫の管理があるためもともと奴隷労働はしておらず、その上最近は食事時や集団房でも見ることがなかった。まったく目につかなくなってから何日もせず、その噂は駆け巡った。

「雲は手毬と同じで、名誉ムオン人になったんだってさ」

 手毬と同じ……。そういえば余興でダンスを披露した手毬は、ニッポニア捕虜の中で唯一の成功者だ。彼女は自分を魅力的に表現して見事ムオンの高級官僚にみそめられたらしく、共産党の面々がさると同時に連れて行かれた。手毬はソリの合わないところも多い少女だけれど、自分の目的を見事にやり遂げる心意気は素直に凄いと思ってしまう。

 ともかくとして、手毬と同じ。

 それはそうか、と今更ながら思う。雲は誰よりも可愛くて、ミステリアスな女の子だ。エルフォイドと比べても美しさで劣ることはなく、その上舞台であれだけのギターパフォーマンスを見せた。さらに言えば、上級将校の娘であり、家柄も申し分ない。まぁ、ニッポニアの家柄がムオンでどう扱われるかは知らないけれど。きっと雲であれば、どこに行ったとしても幸せになることができるだろう。彼女はこんな強制労働所にいたって、自由に振る舞いいつも幸せそうにふわふわと笑っていた。

 手毬と雲。

 少なくとも二人がこの地獄から抜け出すことができたのであれば、私たちがやったことは少しは意味があったんだって言えるのかもしれないね。

 私は何も変わらなかったとしても。

 二人以外のほとんどみんなの不幸が決定したのであっても。

 もともと、何もできないのはわかっていたんだし。

 そう、わかっていた。

 わかっていた?

 偉そうに。未来がわかっているだなんて傲慢にもほどがある。

 うそうそ。

 本当はわからないから頑張ったんだ。

 もっと良くなると思ったからやり切ったんだ。もしかしたらムオンの偉い人が気分を変えて私たちをたすけてくれるなんて夢物語に縋ってさ。

 だってそれも仕方ないでしょ?

 それ以外になにもできることがなかったんだからさ。できることが、所詮この程度のことしかなかったんだ。

 でももう無理。なにも上手くいきやしない。

 あーあ。

 もう本当に無理かも。もうきっと私なんて、この場所で利敵行為を繰り返しながら朽ち果てていくんだ。もうどうでもいいや。

 夜。私は集団房の棚で横になりながら、隠し持っていたナッツ毒のカプセルを眺めていた。もしこの中身を口の中に流し込めば、私は楽になれる。それをしない意味なんて特になくて、ただただ惰性で生きているだけ。

 あるいは、もう死んでいるのかもね。

「ねぇ」

 急に声をかけられた。

 振り返ると、隣で寝ていたのは桜だった。見られた? 私はカプセルを口の中に隠した。死までの距離は、たった一口。

「山猫ちゃん、聞いた?」

「……何を?」

「雲ちゃんが脱出に成功したって話」

 脱出に成功した、だなんて大袈裟だ。そんな言い方は主体的すぎる。少なくともいまこの瞬間の雲に、そんな自由はないだろう。

「ああ、聞いたよ。ムオンの偉い人に気に入られて、連れて行かれたんでしょ?」

「その偉い人っていうのが、ネクタリオ=ハックツァーなんだって」

 それは私たちが変えたかった、共産党のトップの一人だ。

 でも、だから何なのだろう。

「へぇ。そんなに偉い人ならきっと奥さんが何人もいるんだろうね。ニッポニアの奴隷なんかがその人のところにいったとして幸せになれるとも思えないけど。強制労働施設から逃げて性奴隷になったってこと?」

 自分の口の悪さにゲンナリする。しかし残念ながら、それは現実的なシナリオだ。

「……それがね。チョコちゃんに聞いたんだけど。ネクタリオ=ハックツァーって別に女の人が好きじゃないらしいよ」

「……へ?」

「だから、雲ちゃんにそういう乱暴をすることは、多分ないんだって」

 頭の悪い私には、桜の言っていることの意味がわからない。

「それって、どういうこと?」

「わかんない」

 あっけらかんとした物言いに、私はコケそうになる。寝てるんだけど。

「でもさ」桜は続けた。「たぶん、意味があったんだよ。私たちのライブ」

 そうなのだろうか。

 私はまだ、ちゃんと意味を理解していない。

「だからさ、また雲ちゃんと会ったときのために、練習しとかなきゃだね。チョコちゃんも誘って」

「…………うん」

 自然と、頷いていた。

 私は急激に覚醒した。どうやってまた練習時間と場所を確保しようか頭が勝手に動き出していた。それは、以前は雲が全部やってくれたことだ。今度は、自分がやらなきゃいけない。

 後から考えれば、その戯言は桜が元気のない私を慰めるための単なる方便だったのかもしれない。だとしたら、桜は見事だ。私は彼女の言葉たった一つでやるべきことを考え始め、口の中のナッツ毒なんてすぐに吐き出してしまったわけだし。

 とにかく、こんなことをしていてはダメだ。

 もっとたくさん練習しなきゃ。もっといい曲を作らなきゃ。

 また、雲に会ったときのために。


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