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戦争捕虜の少女たちが労働施設でロックバンド  作者:
みんな傷つけザラザラ山猫
55/64

本番一週間前

 食事の列に並ぶと、私は耳元でささやかれた。

「死ねば?」

 私は聞こえなかったふりをして、炊事係の前で食事を受け取る。そこには具の入っていないスープと、一口にも満たないおかゆがあった。

「少ないんだけど」

「そこらへんの虫でも拾って食えば?」

 ところでムオンは虫が少ない。当たり前だ。寒すぎるから。

 ともかくとして、私はそれを受け取って適当な場所に座る。少ない量だけれどスープは温まる。

「桜にヴォーカル譲れ。クソ発情猫」

 また耳元でささやかれた。

 最近こういった嫌がらせが本当に増えた。監察官がいるからあまりおもてだった暴力はないが、みんな私への文句を隠さなくなっていた。

 みんな桜が好きで、私のことが嫌いだ。

 いいじゃん。それで。それが私の生きてきた道だから。

「消えてなくなれ、ニッポニアの恥晒し」

 私は立ち上がった。

 部屋の入り口のところにいる監察官を確認する。今日はチョコだ。彼女は私を友達だと思ってくれているだろうか。

 きっとこれから私がするのは、彼女だって傷つけること。私は地べたに座り貧しい食べ物を口にしている奴隷たちを睥睨した。

「残念だったな奴隷ども! 音マスのヴォーカルは私で、桜が歌うことはないんだ。ザマーミロ!」

 言い切ると同時に、私は誰かに殴られた。

 誰かに、というよりも誰も彼もが私を殴ろうと、蹴ろうとした。私は亀になってそれに耐えるが、一向に止む気配はない。

「おい、止めろお前ら! 懲罰房にぶち込むぞ!」

 チョコの声が聞こえた。

「やめてみんな! 山猫がヴォーカルをやることは、ウチだって大賛成なんだから!」

 桜の慌てた声も聞こえた。

 私は相変わらず蹴られ続けているが、それも徐々に治っていく。きっと監察官が増えてきたのだろう。わざわざ罰則行為を行って殺されたい奴隷はいない。

「やめろ」「静まれ」

 という面倒くさそうな声が部屋の中に増えてきた。それに伴って、暴力が止んだ。

 ああ、全身が痛い。

 でも、知るもんか。

 私は立ち上がった。そして一番近くにいた奴隷を見た。こいつは私の耳元で『クソ発情猫』って言ってきたやつだ。

 私はそいつに笑いかけた。精一杯の侮蔑を込めて。

 怒りで紅潮するするのがわかった。でも彼女はそれ以上私を殴ってくることはない。だってもう近くに監察官がいっぱいいるからね。

 さて、私は懲罰房にぶち込まれるかなぁ。何せ私が発端で起こった乱闘劇だし。ちょっと不安だったのだけど、けっきょく何か咎められることはなかった。

 それは最初に現場を見ていた監察官がチョコだったからだろう。私だってチョコがそこにいたからこんな暴挙に出れたんだ。

 ねぇ、チョコ。

 今回だって守ってくれたわけじゃん?

 それって私のこと、友達だって思ってくれてるってことでしょ?

 だったら言ってよ。

 チョコ=ヴィッテは音楽室マスターズの一員だって。


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