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戦争捕虜の少女たちが労働施設でロックバンド  作者:
冒涜的チョコ・コーティング
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チョコ=ヴィッテの報告

 翌日の労働時間中、チョコは採掘場を抜け出して倉庫へと向かった。

 倉庫の扉を開けると、そこは綺麗に整頓された物資とそれなりに広いスペースがあり、掃除の行き届いた良い場所が広がっていた。

 その隅の方で、少女たち三人が手先指先まで揃えるようにしてゆったりとしたダンスを踊っていた。私に気がつくと、彼女たちの一人がすぐに声をあげた。

「ど、どうかされましたでしょうか! お怪我ですか?」

「……何をやっているの?」

「今度、共産党の方がこちらにご訪問されると聞きましたので、その余興の練習を……」

 ばつが悪そうに、少女はそう言った。

 確かその余興の練習のため、桜たちもバンド活動をしているはずだ。

「別に文句があるわけじゃないから続けていいよ。ところで桜は?」

「桜ちゃん? あっちの待機室で、雲さんといると思います」

 待機室のドアの前に立つ。

 微かな音楽が聞こえてきた。たぶんスタップドギターの音色だった。

「——……え?」

 テクニカルなイントロから伴奏のパワーコードに至るまで、素晴らしい。リフはオリジナルだろうか、聞いたことのないパッセージがチョコの心を貫いた。ミュージシャンがいるんだと、チョコは一瞬で理解できた。

 そもそもムオンに大衆音楽はない。周辺国とは文化断絶しているため、音楽といえば軍歌か聖歌になってしまう。それらは、人を動かすための音楽だ。権威付けしたり、迫力を出したり、あるいは規律のために使われる音楽だ。すなわちそれは、目的ありきの道具だった。

 でも、その音楽は違う。

「すごい……適当に弾いているみたいなのに」

 間奏のソロはどんな譜面を弾けば再現できるのだろう。いや多分、ギタリストの中の無限のパターンを繋げて、いまこの瞬間最高のものにしている。そんな気がした。

 荒々しくて格好良い。それはチョコにとって初対面の音楽だった。

 ただし、その完成されたバッキングに比べて、メロディーラインを取るボーカルが弱い。荒々しいギターに比べて、歌い手の声はあまりにも優しかった。と言うよりも、元気がないのか? 

 そして、チョコは気がついた。その声の主こそが桜だ。

 チョコは演奏が止まるのを待ってから、扉を開いた。

「あ、チョコちゃん!」

 すぐさま桜はチョコに気がついて、顔をほころばせた!

「ひょっとして山猫ちゃんのこと、見てきてくれた⁉︎」

 監察官が入ってきたにも関わらず、なんの疑いもなくそんな表情ができる桜に少々不安を覚える。

「まさか。まぁ見たは見たけれど。そのためにくるわけないでしょ。あと私のことをチョコちゃんって呼ぶのはやめて。監察官様でしょ」

「監察官様! 山猫ちゃんの様子はどうだった?」

 チョコは頭を抱えるが、しかし伝えない理由もないので教えてやることにする。

「……もうダメかもね。おかしくなりかけっていうか、もうおかしくなってるかも。バンドをやってるんでしょ。他のメンバーを考えたほうがいい」

 言うと、桜は心配そうな表情を浮かべた。しかし雲はそうではなかった。

「他のメンバーっていうのは誰を指しているのかしら〜? こんなところにいる音楽的素養がある人なんて限られているのに。ああ、例えばチョコ=ヴィッテ監察官様なんていい人選かと思わない?」

 何を知っているのか、雲はそんな軽口を叩く。

「ちょっと雲ちゃん! 今は山猫ちゃんのことでしょ! 早く助けないと、山猫ちゃんが——」

「山猫さんは、しょうがないんじゃない?」

 その言葉には、チョコでさえギョッとした。桜の方をみると、彼女も血の気の引いた顔で雲を見ていた。

「しょうがないって……なに? ……山猫ちゃんは嘘の因縁をつけられて、意味もなく連れて行かれて苦しんでるんだよ」

「しょうがないわよね〜。私たちは奴隷よ〜? ムオンの監察官に、羽虫みたいに弄ばれることだって当然あるでしょう? そうなったらどうしようもないわ!」

 チョコは心臓を掴まれたようだ。

 同じニッポニアの捕虜であり、同じ音楽仲間として努力をしてきた仲間に対してどうしてそんな言葉が出てくるのか。

「そんなの……正しくない」

 思わずチョコの口から、そんな言葉が出てしまった。出てきた言葉を飲み込むことができず、チョコは続けた。

「あなたは以前、山田山猫を助けたことがあるでしょ。助けるための方便としてわざわざ医療部隊を作ってまで」

「ええ、そのときは助けましたよ〜。でも監察官様の知っての通り、いまこの『医療部隊』こそが火種になっているでしょ? 私だってそう何度も助けられるわけじゃないわ!」

 雲は自分の立場をよく理解している。どこまで無理ができて、どこから無理が利かなくなるのか。施設側からすれば雲を殺すなという指令があるとはいえ、個人的に暴挙に出るものがいてもおかしくはない。おそらく雲には監察官側に内通者がおり、よく知っている。

「山猫ちゃんを見捨てるの?」

 桜が冷たい声で尋ねた。

「どうして山猫さんを助けたいのかしら〜?」

「……だって彼女はバンドのドラマーで、前から雲ちゃんと二人で練習してて、それって替えの利かない人ってことじゃないの?」

 桜はあえて、意味のある理由を口に出したようにチョコは感じた。本当は、仲間だからだとかそんな単純な理由で助けたかったはずだ。桜なりに雲に伝わりそうな言葉を探したのだ。

「すべては結果よね〜」

 雲から出てくる、理解のできない言葉の数々。

「共産党への出し物のときに、私と一緒に演奏をしていた人がいるとするでしょ? その音楽が素晴らしいものだったとして、そのときに初めてわかるの」

 なんという、冷たい言葉。

「その人たちが、替えの利かない仲間なんだってね!」

 結果こそが、すべてを示す。

 いままさに狂おうとしている仲間を思考の脇に追いやりそんな言葉を紡ぐ。御久遠寺雲は、悪魔だ。そして、その悪魔が言った。

「あなたはどうなの〜? チョコ=ヴィッテ監察官様」

 まるで試すような笑顔で、雲はチョコのことを見た。その挑発に意味はないだろう。おそらく雲はチョコがオルガンを弾けることを別の監察官経由で知っているのだ。その上で、ドアの前で聴いていたことに勘づいている。

 だからといって、まるでバカにしているようなその勧誘を考慮する必要はない。

 この悪魔は、正しく無い。

 それでもチョコは、思ってしまったのだ。もし彼女のギターに自分のオルガンが合わされば、一体どんな音楽になるのだろうか。


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