下
それから、結局ヴァルドが旅の最中に便利だからと覚えた繕いでなんとかドレスを修繕。シナモンは大人しく迎えの者を待つという事でその場はお開きとなった。ちなみに、子猫は怪我もなく野生に返った。
特に再開の約束をしたわけでもないのに、その次の日ヴァルドはまたシナモンに会った。町を散策していると情けない微かな声が聞こえて来て、それが妙に覚えのある声でなんとなく立ち寄れば、
「……」
「ああっそこのお方、たす、助けて下さいっ…!一人では上がれなくて、」
何故かシナモンは落とし穴の中で泣きべそをかいていた。色々疑問や困惑があったが、ここで見捨てる程ヴァルドは薄情な男でもなく、彼は意図せずして彼女を再び助けることになる。
「なんでこんな場所に落とし穴があるのでしょうか…!」
(それに落ちるお前も大概だがな)
ぷんぷんと泣いて怒るシナモンにそんなことを思った。
それからヴァルドはまるで呪いかと思う程シナモンの窮地に遭遇した。ある時は風でスカーフが木に引っ掛かり、ある時はひったくりに会っており、ある時は子どもの投げた藁のボールに直撃し気をやり……兎に角、不幸の神に好かれているとしか思えなかった。
「ま、毎回まいかいお世話をかけて申し訳ありません……」
「……」
帽子を忘れてうっかり熱中症で倒れたシナモンに偶然行き交った日、ヴァルドは木陰でシナモンを休ませながら仕様のない不安に駆られていた。明日、ヴァルドはこの国を出る。それはつまり、シナモンを置いていくという事だ。
(この女は一人で生きて行けるのか…?)
いや、聞けば年は16だと言うし、それだけ長い間この体で生きていけたのならこれからも大丈夫だろう。だが、ヴァルドは不幸にもここ数日自分以外に彼女の不幸に気づき助ける者を見た事がなかった。その所為で余計に不安に駆られるのだ、まるで自分の行動1つがこの会って間もないシナモンの命運を握っているようでヴァルドは深く眉間の皺を深めるばかりだった。
「ヴァルド様、ヴァルド様は傭兵なのでしょう?沢山の国を廻っていらっしゃるんですよね、凄いわ」
「…」
貴族の身分である彼女が自分を様付で呼ぶのはむず痒い感じがする。だがそれを指摘する程長い関係であるわけでもないと、ヴァルドなりに割り切って彼女の好きなように呼ばせていた。
「私はこの国しか知りません、この国で生まれて、ずっと…生きてきましたから」
「…」
「きっとこの国の人と結婚して、子どもを産んで、死ぬのだと思ってました」
「…」
「そうであることに疑問はなかったですし、これからもそうであると疑いもしなかったと思います。…貴方に会うまで、」
予想外の言葉に振り返ったヴァルドを見て、火照った顔でシナモンは微笑む。
「あなたに会って、世界を見たくなりました」
まるで何事でもないように呟かれた言葉は、しかしヴァルドにとって革命に似た何かを孕んでいた。
「……お前が外に出た所で、直ぐに死ぬぞ」
感じた事のない熱が急激に胸を占める異様な感覚に襲われながら、なんとかその言葉を口にする。自分を…多分きっと恐らく、砂粒位は自分を慕ってくれているかもしれない者相手に、皮肉しか言えない己が嫌になる。だがクスクスとヴァルドの言葉に笑うシナモンの声に、気づけばするりと力が籠もっていた拳は解けていた。
「そうですね、世界は遠いです」
(そうでもないさ)
国境を超えるなど、腹さえ据えてしまえば簡単なものだ。きっとシナモンなら自分より上手く世界を渡れるだろう。大らかで優しい彼女の事だ、誰もが彼女を助けてくれるに違いない。彼女は自分とは違う。
「でも、ヴァルド様と一緒にいるととても近い様に思えるのです」
風が運ぶ花と果実の甘い香りに酔わされたような気分だった。
「貴方がこの国の騎士だったら良かったのに」
そう言って笑うシナモンの真意がどこにあったのか、ヴァルドには解らない。
この国の騎士であったなら、雇用して自分の共として連れて行けたのに。そんな気持ちで言ったのかもしれない、あるいは自分程強い人間がこの国にいれば簡単なことであったと揶揄したのかもしれない。でも____少なくとも、ヴァルドには、
シナモンはヴァルドを求めているように聞こえたのだ。
他の誰でもない、その役割がヴァルドであることを望んでいるように、
「…」
「…ヴァルド様?」
「…」
「あの、気分を害してしまいましたか?すみません、私ってばまた考えが至らないことを、」
そう言って無理やり寝かしていた体を起こそうとするシナモンを慌てて掌で制した。「ヴァルド様?」と不思議そうに問いかけ来るシナモンに気づいたが、それでも返事を返せる気がしなかった。ましてや彼女を見る事なんて出来やしない。
(…クソッ)
どうやったら、無愛想面の自分に戻れるのか解らずヴァルドは戦慄く手でひたすらに顔を隠した。彼女を見る度胸も、見ただけで済ませる勇気も、ヴァルドには到底持てる気がしなかった。
そして、ヴァルドは次の朝。関所に向かうはずの足を、役場へと運んだ。そこで移住権を申請し、下級騎士へ志願した。この国では大した功績もない移民である自分では、シナモンが言う様な上等な騎士には程遠い。そんな自分を嘲笑しもした。だが、次会った時に自分の姿を認めたシナモンはそれでも嬉しそうに笑った。
だから、それで良いと思ってしまった。
シナモンは、ヴァルドといると世界が近くなると言う。だが、ヴァルドには彼女といるとその分世界が遠くなるように感じた。しがない旅装束から薄い騎士甲冑へ纏うものが変わった今、なおひどくそれを感じる。不幸に愛され、考えもしないドジを踏みながらシナモンは常に麗しい女性だった。絹の様な茶色の髪に、どんな宝石よりも美しい翠色の瞳、真白な肌に彼女に良く似合う品の良いドレス。彼女は、貴族なのだ。
(___遠い、)
「どうしました、ヴァルド様?」
それが、自分と彼女の距離。
国境を超えるのはあんなに容易いのに、彼女との絶対の一線を越えることはこんなにも難しい。
「ヴァルド様、今日のお仕事は何なのですか?」
桃色のシートの上、慣れた様子で編み物をするシナモンを横目にヴァルドは答える。
「西の関所の夜警だ」
「どんなお仕事なのですか?」
「…関所を無理に超えようとする族を蹴り返す」
「まあ、大変なお仕事ですね」
「…」
神妙な顔で頷く彼女に、一瞬自分の言葉がそのままシナモンの知識として培われているのでは…と危ぶんだ。彼女ならありえる。だが、考えてみると大した支障はないのでよしとすることにした。年頃の貴族の娘が、世話話で下級騎士の仕事の話題を上げるとは考えにくい。
「夕食はどうするのですか?何も食べないですか?」
「…当番制だ、休憩時間がある」
「そうなのですねっ夕食は関所で出るのですか?」
「申告制だ、中には弁当を持ってくる奴もいる。……なんなんだ今日は、」
やけに熱心に仕事の事を聞いて来るシナモンに漸く違和感を覚え、ヴァルドはシナモンを振り返った。訝しむような彼の視線に射抜かれ、シナモンが「えっ!」と解りやすい動揺を示した。…やっぱり、彼女は嘘が着けないタイプだ。
「え、えっと、その…あの、煩わしかったでしょうか?」
「……」
「ごめんなさい、ヴァルド様」
「……俺は、理由を訊いている」
しょぼんと肩を落としてしまったシナモンに溜息返したヴァルドが言う。そんな彼の様子をちらりと翠色の瞳が窺って来る。促すつもりでそれをじっと見返せば、やがてシナモンはそわそわし始めた。目尻を染めてもじもじと忙しなく泳ぐ視線はどこぞの小動物を思わる。そろそろ昼休憩が終わるのだが、興が乗りしばらくその様子を見ているとシナモンが膝の上で手を擦り合わせながらおずおず言って来た。
「あの…実は、ヴァルド様に…お渡ししたいものが…」
「? なんだ」
「えっと、初めてで、上手くできたとか…その解らなくて、だから不味いかもしれないし、そしたら捨ててくれて構わないんですよ、えっと」
「早くしろ。休憩が終わる」
ヴァルドの一言に、ハッとしたシナモンが「すみません!盲点でしたっ」と慌てた様子で後ろに置いてあった小さなバスケットを引き寄せた。そこから大事そうに両手で取り出されたものはシナモンの手には少し大きく、ヴァルドの手にはかなり小さいであろう包み紙だった。
「ぱ、ぱぱぱ、」
(ぱ?)
「パイを、焼いて見たんです!! きゅ、給仕の者に教わって、その、味見した時はほどほどにできたと思ったので よよよ、宜しければヴァルド様にと!」
そう言ってずいと出された包み紙は女性らしい飾り布で飾り付けられていた。場を占める沈黙と、何時までも経っても受け取って貰えない包み紙に悪い勘違いをしたシナモンがじわりと目尻を弛ませる。うけ、受け取って貰えないかもしれない。そう思った所為で大きく掲げられたシナモンの手がじりじりと下がってしまう。もう冗談ですとこの場を収めてしようとシナモンが口を開くのと、それは同時だった。
「あのっ__!?」
「…」
シナモンが何か言う前に、ひょいと包み紙が何かに浚われてしまう。大きな手が無骨な包み紙を掴む様子を、シナモンはまるで妖精でも見た様に見つめていた。
「…」
そんなシナモンに何を言うでもなく、さっさと立ち上がって何事も無かったかのように森の奥へ消えてしまうヴァルドの背をシナモンは呆然と見送った。彼の大きな背が完全に見えなくなった頃、ぽつんと森の中に残されたシナモンの後方____ワイルドベリーが実った茂みからがさりとその影が飛び出す。
「き、聞いていた以上に寡黙な方ですね…あれは口数が少ないというより無愛想と言うのでは…?」
「! しぇ、しぇしぇしぇシェリー!」
「はいはい、姫様にパイの焼き方を伝授したシェリーはここですよー」
今にも泣き出しそうな主を前にしても、白と黒の給仕服を纏った女中は悠々としていた。そんな悪戯な雰囲気に怒ることなく、シナモンは連日の緊張やら興奮やらから解放された所為か……あるいは新しい不安からか、全身をがたがた奮わせながら女中に縋った。
「わ、私、可笑しくなかった? ヴァルド様に変に思われなかった?」
「いやーそれは妖しいですね。姫様ってばあんなに練習したのに違和感バリバリな上、台詞カミカミでしたから。見た所、あのお方も大分にぶちんな感じですがこのシェリーの神眼をもってしてもいかんともしがたい所かと」
「!!?」
ガーンッと音がしそうな程、シェリーの言葉にシナモンに激震が走った。
一拍置いて、シーツの上に蹲りしくしくと泣き出してしまった主をよしよしと慰めながらシェリーは先ほどまでの一連を思い返して…嘆息する。
(ま、あの人はど~ぉ見ても、姫様に骨抜きって感じでしたし。バレたにしろバレなかったにしろ、結果は見えてますね)
「うっうっ…わ、私、次にどんな顔で…ヴァルド様に…お会いしたら…」
「あーもう!姫様ってば元気出して!大丈夫っどんな結果になっても……シェリーは姫様の見方です!!」
シェリーの言葉に、シナモンはあわわと泣きながらも顔を喜色の色に染める。
そして「シェリー!」と抱きついて来るシナモンにシェリーはよしよしとそれに答えた。こんな姫様を見たいが為に業と不安をあおる様な言葉を言っていることは可愛い主さまには絶対に内緒である。
「我が国ジャスミンが「春を呼ぶ国」と呼ばれる所以とはなんぞや」
「……」
太陽が沈み、時刻は夜。
静まり返ったジャスミンの西の関所、松明の火が絶えずにごうごうと燃え続ける石壁の砦の中にヴァルドはいた。シナモンの暖かい熱が未だに冷めやらない体も、夜風に当たって懲りたのか随分と大人しくなった。
門番を交代の者に変わり、短い休息に鎧を外して食事をしているとびしりと匙を突きつけられた。不快だ。
「…」
「ンだよ、ほんとにノリ悪いな。今は俺とお前しかいないじゃんっ盛り上がっていこうぜ」
「不本意な結果だ」
「うわ酷いっまったくジャスミンの香しき乙女たちはこんな血も涙もない冷漢男のどこが良いんだか」
そう言って匙を空になった器に戻す男は昼間にヴァルドの隣を陣取っていた男で、名をアルトと言う。ジャスミン国出身で、ヴァルドと同時期に騎士志願した気の軽い男だ。
「んじゃ、ジャスミン愛国歴23年の俺が直々に教えてやろう」
なんだその肩書は、と思ったが。ふふんと気を良くして椅子を近づけはじめたアルトに、好きにさせることにした。
「勇者時代に有名になった詩人のケルトが歌った「ジャスミンの春」って詩は知ってるか?これはとある国王様と民草の少女が恋に落ちる詩なんだけど、このモデルになったのが我が国ジャスミンだ。うちは身分の関係ない自由恋愛が許された初めての国だからな」
「…」
それは有名な話だった。
ジャスミンの「春」はその穏やかな国風以外に文化風土も表している。つまりは「恋」「恋愛」の春、初代ジャスミン王が身分差結婚して以降ジャスミンにはそう言った風潮が色濃く残っていた。現に、先王は父の行商に同行していた娘を見初め妻にしたと言う。
「だから俺たちは必死なのよ、こんな下級騎士でも貴族のお嬢さまに見初めて貰うことはそう珍しい話じゃねぇからな。むしろ、下級騎士は国に親しんでいるから下手に高級感の漂う上級騎士よりもずっと良い!貴族だけじゃなく、下町の女の子にまで顔が知れるからな」
「…そんな話、万が一あるかないかだろう」
「でも!ある! これが重要なんだよ、ヴァルドくんには解らないかな~」
猫なで声で伺って来るアルトが癇に障り目で黙らせる。ひゅんと大人しく席に着くアルトを端目にヴァルドはこの部屋にある唯一の熱源に目を向けた。パチパチと焚き木が弾ける暖炉には誰のものか、小さな鉄鍋がぶら下げられている。
(…ありえないだろ、万が一にも、)
ヴァルドの中に残った熱が燻り始める。シナモン、目が離せないほどのお転婆で運が無くて泣き虫な癖に、時折驚くほど大人の女性を香らせる女性。彼女が自分の名を呼ぶ声を知っている、しなやかな指先の温度を知っている、誰も見た事がないであろう嫋やかな足を知っている。だけど、彼女と自分はそんな関係になりえやしない。
(ありえない)
自分に言い聞かせる様にヴァルドは再度強く、自分に言い聞かせる。
不意に脳裏でクルトの言葉が甦った。それを打ち消す様に頭を振るヴァルドにアルトが不思議そうに眉を顰めた。だがそんなことヴァルドにはどうでも良いことだった。今は、再び灯ってしまった体の熱をどうして冷ましてやるのか、それが優先事項だ。
(俺と言う男は…どこまで浅ましいんだ…)
「え、なんで落ち込んでんの?俺なんか言った?」
元気出せよぉと肩をバシバシ叩くアルト。その呑気な声にイラッとして思い切りその手を捩じり上げるとまるで女子どものように泣くので幾分か気が晴れた。
「何すんだよチクショー!もう慰めてやんねぇからな!」
捩じられた腕を大事そうに抱えながらフーッと火傷をした訳でもないのに息を吹きかけるアルトを睥睨した後、ヴァルドはそっと荷の紐を解いた。そこから…まるで宝物を扱う様に取り出された物を見てアルトがきょとんと眼を丸くする。
「ンだそれ?似合わなねぇ……ハッ!もしかして女から貰ったんじゃ…!?」
「違う。買ったものだ」
弾くように返した言葉にアルトが「なんだ」とほっと胸を撫で下ろす。その様子に、咄嗟に着いた嘘がバレてないことを見てとり、ヴァルドは内心ほっと息を漏らす。
(…アルトにバレると面倒だからな)
話せばシナモンに会わせろと言って来るに違いない。それならまだ良いが、知らない内にヴァルドをダシにシナモンと親しくなっていたり、見初めました結婚して下さいなんて虚言を吐いた暁には幾らアルトと言えど拳を奮わずにいられる自信がない。最悪殺すかもしれない。
想像するだけで腸が煮えくり返るので早々にその考えは打ち消した。だが、抑えきれなかった殺気を受けてアルトが「さ、寒い…」と肩を震わせていた。…謝るつもりはない。
しゅるりとリボンを解くと、包み紙の中から愛らしい小さなパイが二切れ顔を出した。あまり菓子に詳しくないヴァルドが見ても相当な出来に見える。それは間違いではないらしく、興味津々な様子で覗き込んで来たアルトが感嘆の声を漏らした。
「おおっ…美味そう。なに?これどこの? てか一切れちょうだい」
「そんなに腕をへし折られたいか」
「ごめんなさい」
返事を待たずに手を伸ばしてきたアルトが顔を真っ青にして大人しく椅子に座り直すのを確認し、改めてヴァルドはパイを見た。シナモンが作ったパイ、本人は味が悪いだの大層気にしていた様だったがとてもそんな風に気を配るようなものには見えない。少なくとも、ヴァルドにはこんな風にパイを焼くことはできない。
(シナモン…)
彼女が、俺にくれた。俺のために、そう思うともうどうにかなってしまいそうだ。夜にも関わらず、シナモンの家に押しかけてあの軟い体を抱きつぶしてしまいたくなる。シナモンの家がどこなのかも知らないのに。
(馬鹿か俺は…それに、シナモンが俺の為に作ったなんて確証はない。きっと俺以外の誰かに贈る前の練習台程度だろう)
自分を諌める為にした想像だったが、そう思うと酷く悲しくなった。だが、その方がよっぽど現実的なのだ。だが、せめてもの情けでシナモンが自分にくれたものだ。有難く頂こう、そう思って大きな手に似合わない小さなパイを手にするヴァルドに、それまで静観を決めていたアルトが思い出したように呟く。
「そういえば、最近町の女の子の間で流行のまじないって知ってるか?」
「…」
また良く解らない話を始めたアルトに、ヴァルドはちらりと視線をくべただけだった。そうして再びパイと自分の世界に戻るヴァルドに違和感を覚えながら、アルトは続ける。なんで恋人を前にした様な目でパイ見てんだ?
「まじないっていうか、ジンクス?なんだけど、まあぶっちゃけ女の子からのプロポーズなんだよな」
「…」
「手作りのパイを二切れ包んで意中の異性にあげるんだよ。パイは1つは男、もう1つは女を意図してるから味が違うんだ。男はシナモンのパイで、女はさくらんぼのパイ」
「…」
「で、男のパイの方にはさくらんぼの茎で作ったリボンを入れておくんだよ。それが私の気持ちで、あなたに食べて欲しいですーって意味。いやぁロマンチックだよね!俺もそんな告白されてみたいよ~」
「…」
「おい、何口から出して…え、さくらんぼの茎?あーパイ作る時間違って入ったんじゃね?良くある良くある」
「…」
「てかその茎やけにちっこい…え、ちょっと待て。その茎リボンの形…」
「…」
「お、おい、なんで蹲るんだよ!え、え、ちょ、ちょっと待って、え、おおおおおお、オイッ!これもう一個さくらんぼのパイじゃねぇか!」
「…」
「おま、お前っこれ路上で買ったんだよな!そうだと言ってくれ!まさかこれ女の手作りとかじゃねぇよな!」
「…」
「…ヴァ、」
「ヴァルドが女から告白されたぁあああああああああああああああああああ!!!!!!」
アルトの叫びは、静まり還った関所に良く響き渡った。
(今頃、ヴァルド様も夕飯のお時間よね。…パイ、食べてくれてるかな。シェリーは『巷で流行っている恋が叶うおまじない』って言ってたけど…ううぅ…)
(あ、あいつ…次会ったらどうしてくれよう………)
後半のヴァルトのデレ具合がハンパない。