39話・出会いたくないやつにあったけど、これも負けイベなのかな?
ダンジョン・魚民のエリアボス前にある大広間。
壁際で休憩しているトバリ達を見つけた近衛姉妹が笑顔で近づく。
「おお! 阿笠さん、また会いましたね」
「少なくともお前には会いたくなかったけどな」
「またまた! ボクみたいな美少女に絡まれて照れてるだけですよね」
「いや全く!」
「……え?」
トバリの冷たい返答にスイレンが口を大きく開けた。
「スイレン、アナタはやらかした自覚しなさい」
「ひ、ひい、お姉様、申し訳ありません!」
ヒョウカに睨まれたスイレンは涙目でお尻を抑える。
その姿に振り向いたシオンがため息を吐く。
「貴様も尻が痛いんだな」
「ふふん! この程度は慣れて……え?」
「ん? わたしの顔に何かついているのか?」
立ったままのシオンが首を傾げる中、スイレンの表情が急に変わった。
「お前、なんでここにいるんですか!」
「……は? わたしと貴様は初対面だろ?」
「とぼけないでほしいですね如月トウカ!!」
「「「「は?」」」」
スイレンが槍を構え警戒体制に入った。
彼女の変化にトバリ達が戸惑っていると、ヒョウカがため息を吐き、腰の日本刀を鞘ごと抜く。
「決めつけは良くないわよ!」
「ぎゃん!?」
ヒョウカはスイレンのお尻を鞘入りの日本刀で強打した。
その一撃の破裂音が大広間に広がり、周りにいた冒険者や傭兵は目を逸らす。
「また変な奴が来たわね……」
「あいつら、見た目はいいのに中身はやばそうだな」
「「「あ、ああ」」」
ドン引きする人たちをよそに妹を沈めたヒョウカが左腰に日本刀を鞘ごと戻す。
そのまま軽く息を吐き、シオンの方へ目を向ける。
「愚妹が申し訳ありません」
「い、いや、別に問題ない」
シオンが苦笑いを浮かべると、一礼したヒョウカが頭を上げた。
「それでアナタが去年の4月の名家が集まるパーティで大乱闘して出禁になった如月トウカさんですか?」
「へ? トウカは双子の妹で、わたし如月シオンだぞ」
「「え?」」
急に固まった近衛姉妹へ、シオンがため息を吐く。
「だから! トウカは双子の妹でわたしは如月シオンだ!」
「マジですか!?」
「ああ! てか、また間違えられたな」
「そっくり……。というか、カレン先輩に似てるわね」
「ああ! カレンはわたしの3つ上の姉だしな」
「「な、なるほど?」」
スイレンが槍を下ろして叩かれたお尻を撫で始めた。
彼女と隣にいるヒョウカが、一応は理解したのか軽く微笑んだ。
「確かにシオンとトウカはそっくりだしな……」
「双子だから似ているに決まっているだろ!」
「確かに! それで近衛姉妹はここに何しに来たんだ?」
「私達はトライデントシャーマンを倒しに来たんだけど、今はそれどころじゃないわ!」
「いや、なんで?」
ヒョウカがスイレンの腕を引っ張り、トバリ達の前に立つ。
「それは如月家にウチのプライドが傷つけられたからですよ!」
「あのすみません。我々はボス戦後で消耗してるので、また別の機会にしてもらえませんか?」
「角刈さん……。なら、明日の10時に話したいですね!」
「急にスケジュールを決めるな!?」
間に入る河原の一言で、スイレンが頷きトバリが突っ込んだ。
「トバリさん大丈夫ですよ。姉上のお金で高級喫茶店の個室を予約します」
「それならいいか?」
「トバリ!? 流されるのが早いッスよ」
「いやさ、過去にトウカが何をやらかしたのか気になるじゃん」
「それは……」
露骨に目を逸らすソラをよそに、シオンが頭を抱える。
「わたしも噂程度でしか大乱闘の話は知らないぞ」
「ふむ。如月さんは毎年ある名家パーティに参加されてないのね」
「面倒だし最初以外には行ってないぞ」
「な、なるほど」
ヒョウカが苦笑いを浮かべる。
すると少し回復したトバリが立ち上がり、地面に置いてある大型のリュックを背負う。
「2人には悪いけど、俺達はもう帰るよ」
「ええ!? またトバリさんをオモチャにしてないですよ!」
「ヒョウカさん、後10発ほど叩いておいてください」
「承知したわ」
「は?」
一礼するヒョウカへトバリは冷たい笑みを作った。
そのままトバリ達4人は大広間を出て、地上へ向かう。
「しっかし、あの人達が噂の近衛姉妹なんスね」
「ああ。面倒なやつに目をつけられたよ」
「わたしに関しては人違いで絡まれたんだぞ」
壁の穴から出てくるサバジンをシオンは力を込めてぶった斬る。
落ちたドロップ品は河原が回収しつつ、本人も口を開いた。
「まあでも、大広間で戦闘にならなくてよかった」
「「「それはそう!!」」」
河原の一言に、トバリ達はホッとしたように頷く。
「しかもあの2人、どっちも覚醒者ッスよね」
「ああ。姉が氷魔法、妹が水魔法だな」
「羨ましいッス」
ソラがポツリと呟くと、前を歩くシオンがジト目を向ける。
「そう簡単に覚醒者になれるなら苦労しないぞ」
「ん? なぜシオンは苦しそうなんスかね」
「貴様はわたしにしたお仕置きをもう忘れたのか!?」
涙目で叫ぶシオンへ、ソラがニヤリと笑いメイスを握る。
「シオンはいい顔をするッスね」
「この鬼!」
「2人とも、ここはダンジョンだよ」
「「はい、ごめんなさい!!」」
緊張のない2人のやりとりを聞いていた河原が、冷たい笑顔を浮かべた。
その姿にトバリがなんとか歩きながら息を吐く。
〈コイツらはいつも通りだな〉
消耗が激しいので一番後ろを歩くトバリは、シオンとソラの会話を聞きながら軽く微笑む。
その後、ダンジョン魚民を出た4人はドロップ品や武器を売却するために、ナバールリゾート近くにある管理所へ向かうのだった。




