上の連中
連れてこられたのは、剣術院のさらに奥だった。
今まで見習いが使ってた訓練場より広い。
でも妙に静かで、空気が重い。
「……うわ」
思わず声が漏れる。
そこには、もう何人か集まっていた。
見たことあるやつもいれば、ないやつもいる。
でも、一つだけはっきりしてる。
全員、強そうだ。
見ただけでわかる。
いや、わかりたくなかったけど。
「今日からお前たちは選抜組だ」
教官が前に立つ。
ケッヒル隊長じゃない。
もっと年配の、顔の怖い教官だった。
「ここから先は、見習いの延長ではない」
こわ。
「腕が立つから呼ばれた。だが、腕が立つ程度で生き残れる場所でもない」
なんか最初から空気暗くない?
「まずは組手だ。順に見る」
来たよ。
やっぱりこうなるんだよな。
「お前、顔死んでるぞ」
グリードが横で言う。
「だって今から面倒なこと始まるじゃないっすか」
「始まるな」
「お前は楽しそうでいいよな」
「まあな」
即答かよ。
くっそ、ちょっと羨ましいなその雑さ。
「……」
少し離れたところに、レオンがいる。
やっぱり姿勢がいい。
なんかもう立ってるだけで腹立つな、こいつ。
「なんだ」
視線に気づいたのか、こっちを見た。
「いや別に」
「そうか」
それだけかよ。
会話終了早すぎるだろ。
……まあ、いつものことか。
「始め!」
組手が始まる。
乾いた音。
踏み込み。
ぶつかる木剣。
「……」
強い。
思ったより、じゃないな。
普通に強い。
今までの模擬戦相手とは違う。
全員、ちゃんと“戦う形”になってる。
見てるだけでわかる。
ああ、ここ、そういう場所なんだな。
「次、エイゼンシュタイン」
早っ。
心の準備とかそういうの、ないんですかね。
「……はいはい」
前に出る。
相手は知らない顔だった。
細身。
でも目が鋭い。
嫌だなこういうタイプ。
絶対速いやつじゃん。
「始め!」
来た。
やっぱり速い。
けど――
見える。
スッ、と一歩ずれる。
カンッ!!
受けて流す。
相手の体勢が浮く。
そこ。
振る。
「っ!」
相手が慌てて下がる。
今の避けるのかよ。
え、普通に上手くない?
二度、三度と打ち合う。
さっきまでの見習いたちとは違う。
一発で終わらない。
でも。
「……見えるな」
ぼそっと漏れる。
動きは読める。
癖もある。
タイミングも掴める。
だったら――
踏み込む。
最短で、無駄なく。
カンッ!!
相手の剣が大きく流れる。
「そこまで」
教官の声。
あ、終わり?
「勝者、エイゼンシュタイン」
ふう、と息を吐く。
勝ちは勝ちだ。
でも。
「……全然楽じゃねえ」
腕が少し痺れてる。
見えてるから勝てる。
でも、見えてるだけで余裕ってほどじゃない。
「悪くねえな」
グリードが言う。
「そっちも勝ってたじゃねえか」
「当たり前だろ」
はいはい。
「だが」
今度はレオンが口を開く。
「それで安心するな」
「してないっすよ」
「ならいい」
ほんと、一言多いんだよなこいつ。
でも、今日は続きがあった。
「ここでは、“見える”だけでは足りない」
「……は?」
なんだその言い方。
昨日までそれで勝ってきたんだけど。
「すぐわかる」
そう言って、レオンは視線を奥へ向けた。
つられて俺もそっちを見る。
……で、見つけた。
一人だけ、空気の違うやつを。
壁際。
腕を組んで立っている男。
大きいわけじゃない。
派手でもない。
でも。
「……なんだ、あれ」
思わず口に出る。
なんか、変だ。
そこに立ってるだけなのに、近づきたくない感じがする。
「見るな」
小さく言ったのは、グリードだった。
珍しく笑ってない。
「関わるな」
「なんで」
「別格だからだよ」
……別格。
また便利な言葉が出てきたな。
でも、冗談じゃないのはわかった。
レオンも何も言わない。
否定しない。
「……へえ」
へえ、って言うしかなかった。
内心は、全然へえじゃない。
なんだよ別格って。
そういうの、今からやめてほしいんだけど。
せっかくちょっとだけ「いけるかも」とか思ってたのに。
「……めんどくせえな」
ぽつりと呟く。
するとグリードが笑った。
「お前、そればっかだな」
「だって面倒なんすもん」
「でも逃げねえだろ」
「……まあ」
逃げられないしな。
隊長にも、レオンにも、なんなら自分にも。
それが一番面倒なんだけど。
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