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14:君がいつか祈ることができますように

 二人でヒローナについて行きながら満点の星空を見ていると、大きな家? 施設を中心に小さな一軒家が集まる村が見えてきた。中心の施設はランプの灯りを大量につけているのか明るくて、この村の焚火みたいだった。


「着いたぞ。さぁ入ってくれ」


 俺たちは周りの一軒家ではなく、中心にある施設にいた。


「お、お邪魔しま~す…」


 知らない家に入ることが最近なかったせいで、なんだか気恥ずかしかった。


「ヒローナ!」

「お姉ちゃん!」

「ヒローナさん」


「「おかえりなさい!」」


 玄関の扉を開けると、中にいた多くの子供と幾人の大人とおばあさんが手厚く出迎えてくれた。


「おや、そいつが噂の聖女様と…誰だ? お前? まぁ良いか! ヒローナが連れてきたんだ!」

「ようこそ! 僕たちの家に!」


 最初はヒローナに対してだったが、知らない俺にも聖女にも手厚く出迎えてくれた。

 こんな暗い時間になっても元気いっぱいの子供たちは、初めてここに来た俺たちの周りに集まってきた。


「聖女様だ~初めて見た」

「可愛い~!」


 ほんわかした女の子やおしゃれに興味のありそうな女の子。


「兄ちゃんなんだかボロボロだけど、大丈夫か?」

「なんだか草の臭いがする~」


 俺を心配してくれるガキ大将みたいな男の子。長い間草刈りをしていた俺の臭いに目を輝かせる不思議な子。家の中で飼っている犬にじゃれつく子。

 本当に色々な子供がいた。似ている子もいたけれど、個性のある子供が多かった。


「おいガキども! 飯だ! 食え!」

「ご飯ですよ~」

「は~い!」


 そんな様々な子供をまとめている人が、筋肉隆々の元気な男と優しそうな猫背のおばあさんだった。


「そこにいる客人! お前らもだ! 俺の飯はうめぇぞ~!」

「は、はい! 行こうぜ、セイ」


 ヒローナに連れ去られる前に祭りでスペシャルデラックスサンドウィッチを食っていた俺だが、部屋に漂う飯の匂いにつられてお腹が空いていた。そういえばセイのために買ったスペシャルデラックスサンドウィッチ……無くなっちまった。

 空腹が我慢できなかった俺はセイの手を握って一緒に食卓へ着く。

 遅れて、筋肉隆々の男が食卓に着くと皆手を合わせて…祈る。


『『いただきます!』』


 だが、祈らない者もいた。食卓に着かずに話しているおばあさんとヒローナは当然として、聖女であるセイが祈っていなかった。


「ね~聖女様は『いただきます』って言わないの?」


 当然、それが気になってしまう人はいた。


「え…いや…」


 セイの手は震える右手をもう片方の手で押さえつけていた。


「聖女様にも事情ってもんがあんだ。そこに気安く触れちゃいけねぇぞ。そうやってデリカシーのない奴は…モテない!」

「えー! モテないのは困る!」

「大丈夫か…?」


 震える少女の手を軽く握る。赤ちゃんの手に触れる時みたいに、繊細に。


「大丈夫だよ~…アン」


 大丈夫だという割には随分と恐怖しているような苦悶の表情をしていた。

 ちょっとしたイザコザに気付いたのか、ヒローナが食卓の方に歩いてくる。


「まぁ、無理に祈らなくても良いさ。これまでに何千回も祈ってきただろうからね」

「なら良いか! お姉さん、ご飯美味しいから、いっぱい食べて!」

「それは俺のセリフだろ」


 生意気なことを言う男の子に料理を作った筋肉隆々の男がツッコミを入れていた。


「うん。ありがとうね」


 セイは俺でさえバチくそにハートを射止められそうになる笑顔をその男の子に向けていた。


「お、俺も…食べるぞ!」


 セイの笑顔を見た俺は非常に嬉しかったが、同時にあの男の子がめちゃくちゃ羨ましかった。俺もスペシャルデラックスサンドウィッチさえあれば…この大地さえセイのために環境を変えるほどの笑顔を俺に向けていたはずなのに…!

 悔しさのあまり野菜たっぷりのスープを口に運ぶと


「うっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっま」

「だろうだろう! そうだろう!!!」


 スープに溶ける野菜のうま味。ほくほくのジャガイモに口の中でとろけるキャベツ。

 認めるしかない。このスープだけは、俺の母ちゃんが作ったスープよりも美味い。


「美味しい…!」


 この美味さには気が沈んでいたセイも目を輝かせるしかないようだ。

 遅れてヒローナも食卓に着く。


「さっ。大仕事を終わらせた後だ! 私も食べるぞー!」


 みんなでワイワイ、ガヤガヤ騒ぎながらご馳走を囲んで満足するまで食べるのだった。

 夜ご飯をみんなが食べ終わって風呂の順番待ちで暇しているとき、ヒローナが俺たち二人に話しかけてきた。


「そうだ。セイ、アンコ。ちょうど空きの家があるんだ。今日はそこで泊って行ってくれ」

「ありがたいっすけど…俺、帰らなきゃで…」


 外はもう真っ暗で、マジに帰らないと家族に心配されそうな時間だった。


「この暗さで帰ろうというのか? 危ないぞ」

「いやでも…家族が心配してるかもしれないし」


 頭では危険なのを理解しているからか声量が段々と小さくなってしまった。


「なら、明日。君が帰る時私も同行しよう。私の家に泊めていたと説明すれば君のご両親も安心するだろう」

「むしろ余計に心配されそうだけど…」

「なっ」


 意表を突かれたようにヒローナは動揺していた。こほん。と気を取り直して続ける。


「とにかくまぁ…今日は泊れ。空いているといっても、家はちゃんと綺麗にしてある。聖女も気にいるだろう」


 ついてこい。と言って外に出て行くヒローナに、俺とセイは互いの顔を見やってからついて行くのだった。


「さぁさ。ここが今日君たちが泊る場所だ」


 小さな一軒家の灯りをつけて外に戻ってきた彼女は、両手を広げて一軒家を強調していた。

 その一軒家はあまりにも…普通だった。聖女が気に入ると言っていたぐらいだから、てっきり豪華な家だとばかり思っていたけれど、マジで普通だった。


「普通!」


 ガッカリする俺をよそに、セイは目を輝かせていた。


「え、えぇ…」

「なに落ち込んでいるのよ、アン。普通よ! 普通の家なのよ!」


 セイのテンションは妙に高くて、俺は困惑するしかない。

 あれか? 長い間大理石で出来た豪華も豪華な大教会に住んでいて、逆に普通が良いとか…そういうのか?

 この状況を呑み込めないまま苦笑いを浮かべていると、ヒローナが手招きする。

 俺たちは促されるままに玄関前に行く。


「今日はここに泊まるわけだが、聖女はここに住んでもらうわけだ」


 ということで。と一拍置いて。彼女は木の板を取り出して続ける。


「誰の家か分かるために君らの名前をこの木の板に彫る」

「彫るつったってお前彫る物もって無くないか?」


 彼女を一見しても戦いのときに使っていた剣くらいしか持っておらず、木を彫る道具何て無かった。


「何言ってるんだ? これで彫るが」


 そう言って取り出したるは…ナイフ程の刃渡りしかない剣だった。一緒に戦ってくれた剣に対する扱いは凄く雑みたいだった。


「それで、何が良い。『セイとアンコの愛の巣』にでもするか?」

「私は…別に」

「嫌」


 ヒローナの提案にセイは顔をイチゴみたいに赤くしてモジモジしていた。が、俺の答えはセイにとっては逆張りみたいなものだった。


「何でぇ!」

「いや…恥ずかしいって言うか…」


 俺は思春期真っ盛りなのだ。愛の巣とか…結婚しているみたいで………恥ずかしかった。


「アンコはまだ正直じゃないんだな」


 可愛いものを見たようにヒローナはクスクスと笑っていた。


「まぁ名前何ていくらでも変えられるさ。今回はシンプルに…」


 彼女は剣を巧みに扱って木の板に文字を彫って行く。


「『セイとアンコの家』これで良いだろう」

「まぁ…それなら」


 『愛の巣』とか『愛の城』とか変な文字が入っていなくて俺は一安心だった。


 ヒローナはその木の板を玄関前に取り付けて家の中を案内してくれた。

 風呂の場所、火をつけても良い場所などなど。結構丁寧に教えてくれた。


「それでは諸君! 楽しい一夜を! ハーーーッハッハッハッ!!!」


 俺たちをカラかっているのか…いや、絶対カラかいながらヒローナは高笑いして俺たちの家を去って行った。

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