お義父さん「口では嘘と言っても体は正直ではないか」
ふんどし一丁お兄さん
「も、武士たるものいつなんどき戦になってもよいように常に臨戦態勢でなければなりませぬ。俺はいつもこの状態です」
ひええ。このお兄さん常時抜刀しちゃってるなんて怖いよお。ああ、刀じゃなくて薙刀かあ。
池おじ
「嘘つけ。そんなの絶対ムリだぞ」
褌兄さん
「少なくとも今ここで孫七を襲うつもりはございませぬ。俺が人を襲うのは戦場だけです」
今さら紳士感だしても遅いわい。
池おじ
「いいから何もしないならその武器しまえ。服着ろ。孫七郎殿が怯えておる」
褌
「はい」
いい体した褌さんが服をきている間、お義父さんが彼の紹介をしてくれる――
「孫七郎殿。この者は————」
「森武蔵守勝蔵長可と申す」
――紹介をしてくれる流れかと思ったら本人が袴を履きながら名乗った。
名前長いよぉ。
私「あ、あの」
池「いかがいたした?」
私「息子さんなんですか?」
名字違いますけど。養子に出したの?
池「あなたと同じく娘婿にござる」
あ、なーる。
褌「だから俺とお前も兄弟みたいなもんだ」
なるほど。穴兄弟ということですか。(違う)
私「森殿とお呼びすれば良いですか?」
褌「森殿はやめてくれ。勝蔵でよいし、お前なら長可でもよいぞ」
親や主君にしか呼ばせないと言われる名で呼んでよいという。なにやらただならぬ親密な関係なのか。
私「で、では勝蔵殿で。武蔵守は何を意味してるんです?」
森「それは俺が勝手に名乗ってる官位だ」
へー、官位って勝手に名乗って良いんだ? 武蔵って埼玉県だっけ?
池「本来なら官位は朝廷からいただくものでござるが、今の時代自称する者は大勢おりまする」
武蔵守ってことは武蔵の国司よね、たぶん。
私「武蔵に領地があるのですか?」
森「いやまったく。かすってもおらん」
私「ではなぜ武蔵守と」
森「ふふん。よくぞ聞いてくれた。今は亡きお館様が俺を武蔵坊弁慶に例えられたのよ。それで武蔵守を名乗っている」
私「今は亡きお館様?」
森「織田上総介様にござる」
私「もしかして織田のぶ————」
池「シッ! そういうのですぞ。亡くなられておられても名を口にしてはなりませぬ」
私「ああ、すみません」
じゃあ呼ぶ機会ないじゃん。あんま使わないのね、本名は。
池「なので我らは生前同様お館様と呼んでおりまする。いずれは羽柴殿をこう呼ぶかもしれませんな」
森「え、ってことは将来俺は孫七のことを殿と呼ばなきゃいかんのか」
池「今気づいたのか。そしてさきほどお主はそんなお人のお尻を脅かした。勇者であるな」
森「親父殿も囃し立てたではありませぬか」
池「邪魔をしなかっただけ」
森「あ、ずるい」
私「守というのは国司という意味ですか?」
池「左様」
私「では介はなんですか?」
池「介も国司にござる」
私「は?」
池「国を支配する役人として4つの官職がありそのどれも国司にござる。守と介はそのうちの2つ」
私「え、じゃあ1つの国に4人も国司がいるんですか?」
池「4人であったりもっと多かったり少なかったりしたそうですぞ」
私「国司は1つの国に1人かと思ってました」
池「時代が下ると最終的に1人となったと聞いておりますゆえ、その通りでしょうな。守や介はそれ以前からの名残。そして国司自体も今にあってはほぼほぼ名前だけの存在にござる」
私「紀伊守というのも?」
池「左様。名前だけにござる。紀伊国に縁もゆかりもございませぬ」
紀伊は知ってる。和歌山県。紀州藩は暴れん坊将軍吉宗の出身藩だ。
池「ただ、縁もゆかりもなくても朝廷より官位をもらうことは可能でござる」
私「どうやってです?」
池「そらもう銭で」
私「買ったんですか? 紀伊守の官位を」
池「いえ、それがしも自称にござる」
自称かい!




