025 これまでのこと、これからのこと
マリナとルカを伴ってマドゥロ商会を後にする。
マドゥロ商会にいる間、始終暇そうにしていたルカの背鰭はへにゃりと萎れていた。
『つまんなかったでしょう?』
『つまんない、つまんない。狩りに行ってきていい?』
『一緒に行くからちょっと待って、一度家に帰りましょう』
そうメッセージをルカに送り、ちらりとマリナに視線を向けた。
視線に気付いたマリナは笑顔で尋ねてくる。
「ルカさんはなんて言ってるんでしょうか?」
「狩りに行きたいんだってさ」
「それなら冒険者ギルドに立ち寄ってから行くといいと思いますよ。冒険者登録しておけば狩った獲物の討伐報酬も得られますから」
「お金には困ってないし、別にいいかな。荒ごとを専業にする気もないし、見た目で侮られたりしそうだしね」
「一応、私達はマドゥロさんの支援を受けてますが、収入源が不明なままだと厄介な場面も出てくるかもしれないですよ」
スキルを使って貨幣を偽造してるって疑いをかけられたり、それが悪人の目にとまって力を利用される事態に巻き込まれるってことかな。
その辺りの未来がマリナのルートコンダクターには見えてそうだし、彼女の提言には素直に従っておいた方が無難かもね。
「忠告どうもね。あとでそうさせてもらうよ。それよりも一度きちんとあなたと話をしておきたいんだけど、構わないかな」
「はい」
そこからは不満げなルカの相手をしながら家路を急いだ。
何事もなく帰宅した私達は、昨日荷物を運び込んだ部屋でテーブルを挟んで向かい合う。
ルカには複製した山盛りのミストスクァートを渡して、しばらく我慢してもらうことにした。
「それであなたはどこまで把握してるの?」
「メイさんが私のスキルを使い始めてからのことはスキルツリーを介して大体見てました」
ルートコンダクターのスキルツリーに魂を引き寄せられて半分同化しちゃってたマリナとはスキルを使用した際に一時的に繋がっちゃってたのかな。
「もしかしてヌシと相対してたとき、あなたもスキルを通して私に指示を出したりしてた?」
「はい。ほとんど役には立てませんでしたけど」
あのとき感じた違和感はマリナによるスキルへの介入が原因だったのかと理解し、頭の片隅に引っかかっていたちょっとした気持ち悪さがすっきりと拭いされた。
「そうだったのね。それであなたはこれからどうするの?」
「メイさんたちと一緒に居させてもらえませんか。きっとこの出逢いは精神樹界のお導きだったと思うんです。それに私ひとりではこれまで通りには仕事をこなせるとは思えないですし、出来れば手を貸していただけないかと……」
アルフレードならマリナを放逐するようなことはないと思うけど、助けたのは私なのだから彼の支援がなくても彼女が自活出来る環境が整うまでは手を貸すべきかな。
それに私自身も当分の滞在先を確保したいと言うのもあるしね。
「いいよ、あなた自身がひとりだち出来るようになるまでは付き合うよ。もし私に依存するだけになるようだったら、そのときは切り捨てさせてもらうけどね」
「ありがとうございます」
マリナはテーブルに額をつけそうなほどに深々と頭を下げた。
私は堅苦しい話は終わりだとばかりに話題を変える。
「それで今日はどうする?」
「その辺りのことは朝食を摂りながら話しませんか? メイさん、まだ食べてないですよね」
お腹が空くことがないからか全く気にしていなかった。
「そうね、そうしましょう。あなたもお腹空いてるでしょうしね」
「……それなんですが、メイさん。『栄養』のメール止めてもらってもいいですか」
マリナに言われ、予約設定していたのを思い出す。
「ごめん、ごめん。意識が戻ったんだからもう必要ないよね」
手早く操作して予約設定を削除した。
「あと食材お願いします。料理は私がしますので」
「どこに出す?」
結局使うことのなかった食料箱を使用する機会が巡っていたので遠慮なく提供させてもらう。
マリナに案内された台所に食料箱を出し、手伝いを申し出たけれど「キッチンが狭いので」とやんわりと断りを入れられた。
マリナが手際よく料理する様子を眺めながらルカにメッセージを送る。
『ルカも食べる? 人間のつくった食べ物って食べたことないでしょう』
『食べる、食べる』
そう返事をしたルカは興味深げにマリナの周りを泳ぎ回って、料理が出来上がっていく過程を見つめていた。
ほどなく出来上がった料理が食卓に並べられ、それぞれ席に着く。
「どうぞ」
少し緊張気味にマリナが勧めて来たので、先にいただかせてもらう。
口にした料理をひとくち食べ感想を告げる。
「うん、おいしいよ」
安堵するマリナを前に食事を進める。
私の隣ではルカが皿に盛られた料理を横向きになりながらどうにか口の中に入れていた。
基本食事は丸呑みだし、ヒレを手のように使って食べることも出来ないのでそうなってしまうことにまで頭が回っていなかった。
それでもルカは満足げに『おいしい、おいしい』と言っていた。
マリナにルカが味に満足していることを告げると彼女は喜んだ。
随分と久しぶりに感じる賑やかな雰囲気の中で食事を満喫し、食事の後片付けを済ませて気力も体力も準備万端に整えた私達は家を後にした。
私達はこれから迎える新生活の第一歩を踏み出すため、冒険者ギルドへと赴くのだった。




