022 街への帰還
ヌシとの相対やルカとのやり取りなど想定外のトラブルで、それなりに時間を取られてしまった。
けれど魄楊までの往路と違って、復路は障害物の一切ない上空を、地上を全力疾走していたときの3倍近い速度で移動していたこともあり、あっさりと夜明け前には街の上空にまでたどり着いていた。
想定よりも早く着き過ぎたこともあり、私は上空からヘラシャードの街全体を俯瞰しながら朝までどうやって時間を潰そうかと悩む。
泳ぐのをやめて空を無気力に漂う私の周りをぎゅんぎゅんと自由気ままに泳ぎ回っていたルカが、急に私の眼前に顔を寄せるようにして動きを止めてひと鳴きした。
『ねぇ、ねぇ、ルカお腹空いたかも。ごはん狩りに行ってくる』
『ちょっと待って』
そう告げて急降下しようとするルカを呼び止める。
『なになに、なーに?』
『この下って私の仲間がたくさん住んでるの。勝手に入ったら攻撃されちゃうし、2度と入れなくなっちゃうからやめてね』
『そうなの? じゃあ、どうしよ、どうしよ』
私はネブリーナ大森林で採取したものがあったことを思い出し、メールに添付して複写したものをルカに送信する。
『これ食べれる? 森で採ったものなんだけど』
ルカがメールを受信すると同時に空中にミストスクァートがひとつ出現する。
一瞬、ルカは驚きを見せたけれど、咄嗟に口を開けてミストスクァートを丸呑みした。
『これ美味しいよね。おやつでよく食べてた。食べてたよ。メイもっと持ってたりしない?』
『持ってるけど、ごはんどうするのかって森を出る前に言っておいたよね』
『うん、言ってた。言ってた。でも、メイが狩りに行かせてくれないんだもん』
『それなんだけどさ。今から狩りに行っちゃいけない場所を教えるからその外でなら別に狩りして来てもいいよ』
『そうなの? じゃあ、早く教えて教えて』
ルカに催促され、私たちはヘラシャードの外縁部上空をぐるりと1周する。
私自身も街の地理を把握するのも兼ねての遊覧飛行だった。
『今ぐるっと回ったとこの外だったら狩りしても大丈夫なはずだよ。ただ私の仲間になるべく見つからないようにやってね』
『うん、うん、わかったよ。じゃあ、行ってくるね』
『日が昇る前には戻って来なよ。私と一緒じゃないとこの下の中に入れないからさ』
『はい、はーい』
ルカは上機嫌に泳ぎ去り、私ひとり街の上空に残された。
遊覧飛行の最中にルートコンダクターでマリナが居る屋敷の場所も把握済みなので特に今やることはない。
あるとしてもヘラシャードに入る際にルカのことをどう説明するか考えるくらいかな。
私は地上には降りずに東門からそれなりに離れた位置に仰向けで足を軽くパタパタさせて移動しながら門番への言い訳を考える。
やがて空が白み始めた頃、ルカが口の周りを派手に血で汚して私の元へと戻って来た。
『もうもう、あの上にいなかったから探したよ』
『ごめんね、合流場所のこと言ってなかったね』
何十㎞離れてても私を見失うことなく追って来たのだから前もって言ってなくても問題ないと都合よく考えて連絡を怠ってしまっていた。
『口周りの汚れって、どうにかならない?』
『うん、うん? ルカ汚れれてる?』
もしかして森では基本的に小魚を丸呑みしてたとか、血で汚れても霧でいつの間にか洗い落とされたりしたのかな。
『かなり汚れてるよ。私が綺麗にするからじっとしてて』
『任せる、任せる』
私は『噴霧』スキルとブレザーのポケットに入れていたタオル生地のハンカチを駆使して、ルカの口周りの血汚れをしっかりと拭った。
ハンカチに血が付着したからか添付リストに『フレイルラビットの血液』『グラスボアの血液』などが新たに並んでいた。
それらを除去に登録してハンカチをまっさらな状態に戻してポケットにしまう。
『メイも汚れてる。汚れてるよ。綺麗にしないの?』
ルカに指摘され、さまざまな出来事が立て続けに襲いかかって来たこともあり、自分以外のことに気を取られ過ぎていて今更のように制服がドロドロになっていたのを思い出す。
添付リストから泥を削除して手早く処理する。
『うん、うん、綺麗になった』
『これで準備は整ったし、ここからは地上を行くよ』
そう告げて私は素潜りするように地上付近にまで降り、体勢を整え直して『遊泳』スキルを切って地面に降り立った。
ルカと無駄話をしながらゆっくりと時間をかけて歩き、太陽が空に顔を出してそこそこ経ったくらいに東門へと到着した。
案の定、門番にはルカのとこを問い詰められたけれど、私のスキルは動物と意思疎通することが可能で、それを使って友達になったんですと訴えたら思いの外すんなりと通された。
どうやら私の『メール』スキルがそもそもどういったものなのかヘラシャードの入出管理をしている認証装置の鑑定程度ではわからないものの他にも類似した効果を発揮する『調教』スキルなどがあるらしく、変に疑われることはなかったらしい。
それに加えてルカも私の隣で大人しくしていたのも門番を安心させる大きな要因とひとつとなっていた。
目の前でおやつをねだられてミストスクァートを手ずから食べさせたりしてたしね。




