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021 命名

『友達がいるんなら私について来なくてもいいんじゃない?』


 このさき確実に待ち受けているであろう面倒ごとを回避するために、拒絶の意を込めたメッセージを送り付ける。


『だって、だって、あいつって話は聞いてくれるけど、聞いてくれるだけなんだもん。つまんないよ』


 話ぶりからすると友達に該当する相手はひとりだけなのかな?


『他の友達は?』


『いない、いない。みんな話してたら寝ちゃってるんだもん。失礼しちゃうよね』


 このシャチって、もしかしてスキルを無意識に行使しててコントロール出来てないんじゃないかな。


 それでひとつ思い至ったんだけど、あの森で強制的な『睡眠』が効かない相手って、魄楊を守ってたヌシくらいしか思い浮かばない。


 しかもシャチをちいさくしちゃうなんて魔法みたいなこと出来てるみたいだしさ、ほぼ間違いなさそう。


『あのさ。私の声を「違うけど同じ声」って言ってたじゃない。あなたもそれと同じで違う声出せたりする? その声が出せないと私の住んでるところではあなたに喋らせられないよ』


 メールに睡眠が付与されているかいないかは認識してるみたいだし、スキルをコントロール可能になれば誰彼かまわずに眠らせることはなくなるはず。


 そうなれば私を追って来て、何かが違うと理解してくれれば森に帰っても話し相手くらいは出来るんじゃないかな。


『うーん、うーん。こんな感じ?』


 当初とは微妙に鳴き声が変わって聞こえ、送られて来たメールにも『睡眠』は添付されていなかった。


 意識的にやれば簡単に実行出来てただけに、本当に無意識にスキルを発動させっぱなしだったのだとわかる。


 あの森にいた魚たちだって、大半が『遊泳』スキル持ちで常に発動させてたくらいだし、わざわざスキルを使用しない理由なんてないから仕方ないのかもしれないけどさ。


 これなら勝手について来られても少しはマシになったかな。


 このまま城門前までついて来られて、スキル効果全開のひと鳴きで門番のひとたちを強制的に眠らせて、バタバタ倒れさせるなんてトラブルは起こらないよね。


『そうそう、そんな感じ。その声なら話し相手が途中で寝ちゃうことないから森でもみんなちゃんと話を聞いてくれるようになるよ』


『そうなの! 知らなかった。いいこと聞いちゃったね。ありがと、ありがと』


『じゃあ、私は行くね。森のみんなによろしく』


 そう告げてささっと退散しようとしたけれど、見逃してくれるはずもなく、まとわりつくように私の周囲を泳ぎ回る。


『なになに、なに言ってるの? 一緒に行くよ』


『本当に来るの? すぐに森が恋しくなっちゃうかもよ』


『今は違うよ? それに帰りたくなったら帰るもん。だから行こ行こ。一緒に行こ』


 もう諦めさせるのは無理だと察した私は、これ以上時間を取られるのも馬鹿らしいと感じて今は折れることにした。


『勝手についてくるのはいいけど、私の仲間を攻撃したりしないでね。そんなことしたらすぐに私の住んでるところから追い出されちゃうからね』


『うん、うん、大丈夫だよ。安心安全なんだから。それよりそれよりなんて呼んだらいい?』


 近所に住んでる野良猫と戯れるようなゆきずりの関係もすぐに終わるだろうと思ってただけに、シャチから名を聞かれるとは思いもしなかった。


『メイだよ。あなたのことはなんて呼べばいいの?』


 返事とともに、そう問い返すとシャチは深く考え込むように悩み始めた。


『うーん、うーん。わかんない』


 それでもどうにか答えを出そうとして、途中であきらめたのか、何かを思いついたのか、どことなく軽い声音で告げてくる。


『わかんないからメイが決めて、決めて。なにがいい?』


 相手はシャチだけど野良猫に名付ける趣味とかないし、ペットを飼ったこともないから困った。


 私にネーミングセンスがあるとも思えないしね。


 猫ならねこって呼ぶし、犬ならいぬって呼んじゃう程度にしか動物と関わったことないしさ。


 宛先リストに記されたシャチの名前は『ヒュプノスオルカ』になってるけど、このまま呼ぶには長いし、種族名っぽいから名前として呼びにくいんだよね。


 シャチって呼ぶのもなんだか変な感じするしね。


『本当に私が決めていいの?』


『いいよ、いいよ』


『決めてもいいけど、後で文句言わないでね』


『言わない、言わないよ。あとね、出来ればメイみたいな感じがいいかな』


 私みたいってことは2文字の呼び名にすればいいのかな。


『そうそう聞いてなかったけど、あなたって男の子なの? それとも女の子?』


『わかんない、わかんない』


 異世界の魔獣だし、オスメスがない生物だったりするのかな。


 それとも仲間を求めてたくらいだから長いことひとりで過ごしてて、その辺りの判断基準がないのかな。


 ある程度の条件が揃ったので、それに見合った名前を付けようと数秒ほど頭をひねり、直感で決める。


『それなら「ルカ」なんてどうかな?』


 種族名のお尻2文字を取っての名付けだけど、この名前ならオスメスどちらでも通りそうだしさ。


 ただ何となく見た目通りのシャチっていうより、響きがイルカっぽいけどね。


『うん、うん、わかった。じゃあ、これからはルカのことはルカって呼んでね』


 ルカは名前が相当に気に入ったのか、私の周りを跳ねるように泳ぎ回った。

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