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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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幕間~修業~

とある季節のとある日。

マグと神獣たちの日常です。

 家からそう離れていない、山奥の一角にて。

 俺は目を瞑り、その場に佇んでいた。


「……」


 目を閉じて深呼吸を数度繰り返し、ゆっくりと集中力を高めていく。

 それからここだというタイミングで、静かに目を開いた。


「さて、いけるか……!」


 体内から熱を発するイメージで魔力を練り出し、手のひらに集約させていく。

 手の中に魔力が充満したタイミングで、魔道書の補助を受けながら術名を宣言。


「いくぞ、火口ティンダー!」


 手の中に魔法陣が展開され、そこから小さな火球が生まれて燃え盛る。


「よし成功……あっ!?」


 しかし小火球はすぐに燃え尽き、魔力共々霧散してしまった。

 それを見て体から力が抜け、背中から大の字に草原へと倒れこんでしまう。


「くっそー、良い線行っていたと思ったんだけど。中々上手くいかないな……」


 ここ最近はこんな調子で、魔術を扱う修行を積んでいる。

 だが失敗続きで、修行の成果が出ているとは言い難かった。


「正規の【魔術師】系スキル持ちじゃない俺は、魔力の量が少ないのは分かるけども……」


 懐から魔道書を取り出し、見つめる。

 自分はあくまでこの魔道書の力で魔術を扱える、謂わば【擬似魔術師】だ。

 だからこそ通常の【魔術師】ほど魔術を連打できないのは、当たり前の話ではあるけれど。


「初歩の魔術を日に二、三回使った程度でへばるのはなぁ」


 悩みの種は、そこだった。

 クズノハからもらった魔道書による魔術行使のお陰で、炉に火を入れたり濡れた髪や洗濯物を乾かしたりするのも随分と楽になった。


「でもだからって、使いすぎると動けなくなるのも困りものすぎる……」


 この前なんかは魔力切れで倒れかかったところをローアに支えられ、その後一日(心配したローアが離してくれなかったのもあり)膝枕されて過ごしていた。

 典型的な【魔術師】系スキル持ちの人は、自分の魔力が枯渇しないように活動していると聞いてはいたが、なるほど枯渇するとああいう状態になるらしい。

 ローア曰く「わたしたち神獣の力もだけど、人間の魔力も生命力に等しいものだから。使いすぎは厳禁だよー?」とのことだった。


「ローアも修行すれば魔力量が増えて使える魔術の幅も多くなるって言っていたし。もっともっと頑張らないとな」


 俺は立ち上がって、次の修行に移る。


「こうなったら、また体を鍛えてみるか……!」


 体がひ弱では、きっと魔力量もロクに多くならないだろう。

 それに俺は成人の儀を終えてしばらくの十五歳。

 まだまだ体を鍛えなくてはいけない年齢なのだ……そう思って、半ば日課と化した腕立てを始めてみるのだが。


「馬鹿者。筋肉を鍛えて魔力量が増えるなら、妾も今頃腹筋が割れておるわっ!」


「あいてっ!?」


 ぺしりと軽く頭を叩かれ、体勢を崩してしまった。

 頭を上げると青空と一緒に、見覚えのある狐耳が見えた。


「……クズノハ? 何だ、来ていたんだ」


「うむ、時間ができたのでな。お主らの様子を見に来たのだ」


「つまりまた暇だったと」


「やかましいわっ!」


 クズノハは狐耳と尻尾を逆立て、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 けれど、すぐにちらりと瞳を向けてきた。


「……少し様子を見ておったが、魔術の扱いに難儀しているようだな。どれ、時間もある。妾直々に手ほどきをしてくれよう」


「いいのか?」


「またああいうことをされても、筋肉しか育たぬのでな。努力の方向があまりに違いすぎて、魔術の鍛錬としては時間の無駄以外の何者でもないわ」


 クズノハはばっさりと言い切った。

 つまり筋トレは意味がなかったらしいと。

 魔術鍛錬の後で地道に頑張ってはいたので、少ししょげたくなった。


「なら魔術の鍛錬って、何をどうすればいいんだ?」


「それは当然、魔術を使い続けて精度を上げる。同時に体へと魔力負荷をかけることで、魔力の貯蔵量を地道に底上げしていく。これに勝る方法はないな」


 クズノハにそう言われて、思わず後ろ頭をかいていた。


「その……悪いんだけど、今日俺が使える魔力ってもうほとんど残っていなくて。さっきの火口ティンダーで打ち止めなんだ」


 これ以上魔力を使えば倒れかねないし、自由に使える魔力が切れた以上はもう魔術は使えない。

 だが、クズノハは「ふふん、我に策ありだ」と不敵に笑った。


「ほれ」


 クズノハはくるりと後ろを向いて、人間姿でもくっ付いている柔らかな毛並みの尻尾を振ってきた。


「いや、ほれって?」


「存分にモフるがいい」


「存分にモフる」


 反射的に復唱してしまった。

 存分にモフるとは、これつまり。


「尻尾に触りまくれって解釈で合っているか?」


「然り。まあ、狐に化かされたと思って触れてみよ」


「……? それなら遠慮なく……」


 差し出されたクズノハの尻尾を両手で持って、もふもふとしてみる。

 銀の毛並みは思っていた以上に柔らかく、太陽のように暖かく柔らかな匂いがした。

 これ以上手触りのいいものに触った経験はない、そんな気すらしてくる。

 気がつけば、思わず顔を埋めていた。


「……お主、意外と遠慮がないな」


「そりゃクズノハが存分にって言うんだから。せっかくだし遠慮していたら勿体ないかなと」


「それはそうかもしれんが……。この九尾の妖狐たる妾の尾っぽをここまで無遠慮にモフりまくったのは、後にも先にもお主だけであろうよ」


 そう言いながらも、クズノハは満更でもない様子だった。

 そのままクズノハの尻尾と触れ合い続けてしばらく。


「あれっ? 俺の魔力が戻っている……?」


 いつの間にか、魔力消費による倦怠感が体から消えていることに気づいた。

 ──でも、自然回復にしては大分早くないか……?

 疑問に思っていると、クズノハが言った。


「尾っぽに触れている間、お主に妾の魔力を流し込んでおいたのだ。妾たち神獣は、魔力の塊とも言えるのでな。この程度は容易い」


「……もしかして、こうやって魔力を回復しながら魔術の鍛錬を積んでいくと?」


「理解が早くて助かる。では理解してもらったところで、早速始めよ」


 クズノハが動くと、両手から尾が離れてしまった。

 正直、もっともふもふしていたかったという気持ちはあるが……今はぐっと堪えて。


「それじゃあまた始めるか……!」


 回復した魔力を手のひらに集約して、魔術起動に必要な魔法陣を展開しにかかる。

 ……否、正確には展開しようとしたのだが。


「これ、魔力の扱いが雑すぎるぞ! 生娘のように綿菓子のように、より丁寧に扱うがいい!」


「えっ、ええ?」


「集中せぬか、魔力が霧散するぞ!」


「あっ、ちょっ……!?」


 クズノハの言葉に気を取られていた間に、手のひらに集めていた魔力は大気中に逃げてしまった。


「いやもっと丁寧に扱えって、具体的にどんなふうにだよ!?」


「生娘や綿菓子のようにと言っておろうに!」


「綿菓子って何だ……!? もしかして東洋の菓子とか?」


「ええい、男が細かいことを気にするものではないぞ!」


 ……と、このようにクズノハはこと魔術の鍛錬になると普段の鷹揚さが消滅するらしく。

 それからはクズノハに魔力を補充してもらいながら、休む間もなく魔術の手ほどきを受けていた。

 そしてそれは、日が暮れた後も続き……。


「あ、お兄ちゃん! 帰ってきたんだねー! 全く遅いから心配したよ……って」


「ふむ、まだまだ修行は必要だが、やはり人間にしては気骨がある方だな」


「そ、そりゃどうも……だ……ぐふっ」


 疲労困憊になり、九尾姿のクズノハの背に乗せられて帰ってきた俺を見て、ローアは声を上げた。


「お、お兄ちゃぁぁぁぁん!?」


 ……ローアの叫びを聞いた後、すぐに半ば気絶気味に眠ってしまったので、この日の晩の記憶はほぼないのだけれど。

 後から聞けば、涙目のローアが俺をクズノハの背から取り返し、一晩中抱きついていたらしい。

 なお、その光景をやれやれと見守っていたフィアナとマイラは、クズノハの「無茶をさせたのは謝るが、これも其奴のためを思ってだな……!」と一晩かけてローアに謝っていた姿もばっちり見ていたのだとか。

 ──魔術はもっと使えるようになりたいけど、鍛錬も大概にしよう。

 翌朝、俺に抱き付きながらクズノハにジト目を向けるローアを見て、そう心に誓うのだった。


 ***


「……というか、昨日の晩は泊まっていたんだな」


「当たり前であろう。修行で夜も更けていたのでな。……それとも何か? か弱き乙女である妾に一人夜道をゆけと申すか?」


 昨晩倒れるまで鬼の修行を続けた自称か弱き乙女は、何か不思議な点でも? と言いたげな雰囲気を醸し出しながら茶を啜っていた。


「か弱き乙女、ねえ。少なくとも数百年は生きている九尾が一体何を……あいたぁ!?」


 俺でさえ突っ込まなかった野暮を言ったばかりに、フィアナはクズノハの手刀の餌食となった。

 超高速の手刀を食らったフィアナは机の上に突っ伏していて、手痛い反撃を食らった後頭部を抑えて身悶えていた。


「あらあら、今のはフィアナが余計だったわね」


 くすくすとひとしきり笑ってから、マイラはこちらを向いた。


「それで【呼び出し手】さんの修行の件だけれども。そんなに魔術の上達を急がなくてもいいんじゃないかしら? 今までだって魔術なんかなくても上手くやってきていたのだし。何より……」


 マイラが視線を落とした先には、俺の膝の上でクズノハが持ってきた茶菓子を齧るローアの姿があった。


「またローアがむくれても困っちゃうものね」


 ローアは唇を尖らせた。


「だって、お兄ちゃんが気絶するほど修行しなくたっていいと思うもん」


「それについては悪かったと言っている……あまり睨むな。お主は幼くともドラゴン、圧力が半端ではないぞ……」


 クズノハは両手を上げて降参の意を示した。

 それからローアは立ち上がって、一言。


「悪いと思うなら、クズノハは今日一日お手伝いね?」


「お手伝い……?」


 ローアはこくりと頷いて、窓の外に広がる畑を指差した。


「収穫のお手伝いとか。あんなにいっぱい実っているから、少し手伝って欲しいかなーって」


「あ、それ名案かも。そろそろ一気に収穫しないといけない頃合いだったし、水やりや雑草抜きも手伝ってもらえると楽だしさ」


 フィアナは頭を上げ、クズノハを見てにやりと笑った。

 ……頭に一撃もらったこと、フィアナも地味に根に持っていたようだった。

 なお、当のクズノハは妙に慌てふためいた。


「お、お主ら!? 九尾の妖狐たるこの妾に肉体労働をせよと申すか! それにこう言ってはなんだが、この姿では一般人にも劣る筋力だぞ!? ついでに最近座ってばかりで余計に……!」


「あらっ、そんなに運動不足なら丁度いいんじゃない?」


「うぐっ……!」


 横から刺さったマイラの正論に、クズノハは呻いた。

 それからうなだれるクズノハはフィアナとローアに手を引かれて「「よいしょ、よいしょ」」と家の外へと強制連行されていった。

 なお、その際クズノハが口にした「好きにせよ……」は何とも哀愁漂う一言だった。


「……少しだけ、可哀想だったかもな。元を正せば俺のために修行をつけてくれたわけだし」


「そう? でもクズノハが運動不足気味なのは本当のようだし。ある意味クズノハにも修行が必要ってことでいいのではないかしら?」


 にこりとして言ったマイラの様子から、ひとつだけ悟った。


 ──ああ。クズノハの天敵って案外、マイラかもしれないな……と。

新作始めました!


炎の皇竜がダンジョンを統べる〜俺だけ使える竜のスキルで現実世界のダンジョンを攻略する。冒険者として人生をやり直し、全てを手に入れる~


この下のリンクから飛べるのでぜひ一度読んでみてください!


書き溜めのある自信作ですのできっと面白いはずです、よろしくお願いします!

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