後日譚その6 秋の味覚……?
本作【世界最強の神獣使い】コミカライズ1巻は11/8発売になります!
電子版も同日発売です!
各種店舗特典もありまして、活動報告にてまとめていますのでよろしくお願いします!!
《追記》
コミカライズ1巻の重版が決定しました!
読者の皆さんありがとうございます!!
「ご主人さまー。……ホントに行くの?」
「クズノハの誘いだからな。……一応」
声に覇気がなく、乗り気ではなさげなフィアナにそう言った俺の手の中には、クズノハからの手紙がある。
たまに手紙を書いて使い魔に送らせるクズノハだが、今回の手紙ばかりは思わず俺も「勘弁してくれ……!?」と呟いてしまった。
何せ、手紙に書かれていた内容と言えば。
「お、お兄ちゃん。マンドラゴラ狩りって本当にやるの?」
そう、ソファーの上でクッションの下に隠れるローアが言う通りだ。
クズノハから送られてきた手紙の内容は、要は「妾と楽しくマンドラゴラ狩り!」といったものだった。
マンドラゴラ、それは引き抜くと悲鳴にも似た怪音を立てる植物型の魔物だ。
しかもその悲鳴には生き物を硬直させ、混乱させる性質がある。
野山にも自生しており、誤って引き抜いたが最後、しばらく動けないわぼんやりして思考は纏まらないわでえらい目に遭うのだ。
「わたし、ドラゴンの姿で地面を蹴る時にマンドラゴラを間違えて抜いちゃって、何度もびっくりさせられたから……ちょっと苦手かも……」
「あ、あたしも正直ね。あれは抜く前に地面ごと燃やすものだよ、うん……」
普段快活なフィアナまで苦手オーラを全開に放っている。
二人ともマンドラゴラにいい思い出など全くない様子だった。
「でもどうしてクズノハはマンドラゴラなんて抜きたいのかしら?」
「マンドラゴラって色んな薬剤の材料になるから。研究熱心なクズノハのことだ、素材として欲しいんじゃないか?」
ちなみに俺の故郷でも、マンドラゴラは解熱剤などの原材料として重宝されていた。
前は俺も抜きに行くのを手伝わされて、何度もえらい目にあったものだ……。
「もう! クズノハも今回だけは一人で行って欲しいもん!」
マンドラゴラを抜きに行くストレスに耐えかねたのか。
ローアがクッションを放り投げ、頭のアホ毛を激しく揺らして抗議しだした。
横にいるフィアナも今回ばかりは意気投合して「そうよそうよ!」とか言っている。
しかし、しかしだ……。
俺はすっと手紙の端、最後の行を皆に見せた。
『p.s. 妾だけで行ったら半年は皆に会えぬ気がするので何卒』
「……クズノハさん、行ってただですまないと分かっているならやめておけばいいのに……」
物腰が柔らかく大体なんでも肯定してくれるリーサリナでさえ引き気味だった。
なお、ローアとフィアナも「クズノハに何かあったら困るしね……」と折れていたが、その日の晩、二人は今まで見たことがないほどどんよりとしていた。
***
「ほう! 来たかお主ら!」
数日後、待ち合わせの山へとドラゴン姿のローアに乗って向かうと、背にカゴを背負ったクズノハがいた。
尻尾をぶんぶんと振り、いかにも上機嫌だ。
……我が家の神獣たちとは対照的に。
──東洋では秋にキノコ採りをするって前にクズノハから聞いたけど、まさかそんなノリじゃないだろうな。
「まさしくそんなノリだが。故郷の思い出や風習も忘れがたくてな。季節もちょうど、故郷では秋くらいであろうし」
ふん、と鼻を鳴らしたクズノハ。
しまった、俺の心の声は神獣たちにも聞こえるんだった。
もっともそれは一部だったり感情の高まりで聞こえたりするようだが……閑話休題。
「うえぇ……クズノハ、早く終わらせようよ〜」
人間の姿になったローアは既に涙目だ。
「すまぬすまぬ。だが若いマンドラゴラはこの時期にしか採れぬ。キノコとは違うが、ぜひお主らにもアレの美味さを知って欲しくてな」
「……って食べるのマンドラゴラ!?」
「うむ。香ばしく焼くのもよいが、塩を振っての踊り食いもよい」
「ヒエッ」
フィアナが小さく悲鳴をあげた。
マンドラゴラは人面っぽい植物的見た目をしているが、植物型とはいえ魔物は魔物。
そう、根っことか葉っぱとかがウネウネ動くのだ。
流石に神獣でも、生きたまま魔物を食うのは抵抗があるらしい。
「マンドラゴラって踊り食いできるのね……」
マイラは笑っているけれど、心なしかその頬には冷や汗が流れている気が。
リーサリナに至っては目を丸くしている。
「さ、行くぞお主ら! この山には今年も多くのマンドラゴラが生えているはず!」
クズノハは意気揚々とマンドラゴラ狩りを開始し、俺たちはそれについていった。
***
……さて、マンドラゴラ狩りが始まってからしばらく。
結局どうなったかと言えば。
「マ、マグよ! すまぬ、おぶってくれ。体が硬直した……!」
「あっという間じゃないか……!?」
やはりと言うか、手紙の通りクズノハ一人ならどうなっていたか分からない惨状だ。
クズノハは速攻でマンドラゴラの悲鳴の餌食になり倒れた。
俺はクズノハをおぶりながら聞く。
「生きてるマンドラゴラは抜くと悲鳴を上げるから。地面で静かにしている隙に、ローアやフィアナみたいにブレスや炎で倒さないと。……まさか普通に抜くとは思わなかったぞ」
なお、クズノハの巻き添えを食らったリーサリナは気絶してしまったので、マイラに介抱されている最中だ。
俺は少し離れていたので助かった。
クズノハは震える手つきでキツネ耳を指した。
「ほ、ほれ、耳栓が入っておるだろう? 今日のためにと自作した、マンドラゴラの悲鳴をカットする魔道具なのだが……」
「効果なしだったと」
「力作だったのだが、改良が必要だな」
聞けばクズノハ曰く、今年こそはいけると思ったらしい。
逆に去年も同じ目にあっていたのか。
今までどうやって無事に戻ってきていたのか。
クズノハ、一周回って結構逞しい気がしてきた。
「こうなったら後はローアやフィアナに任せようよ。二人は中々調子がいいみたいだしさ」
目の前には、前にマンドラゴラにやられた怒りを胸に、地面に埋まっているマンドラゴラを片っ端から焼いて引き抜くローアとフィアナの姿があった。
「マンドラゴラは丸焼きだよーっ!」
「いいねぇローア! こんがり焼いてやろうねっ!」
「あ、ああ。マンドラゴラの踊り食いが……焼きマンドラゴラばかりになってしまう……」
クズノハは少し悲しげにしょげていたが、最低限クズノハが引き抜いた一本があるのでよしとしてほしい次第だった。
抜いた後ならマンドラゴラも安全だし、これ以上踊り食いのために被害者が増えてほしくない。
……視界の端のリーサリナがうなされているし!
そうして陽が沈む頃合い、俺たちは採ったマンドラゴラを食べようという話になった。
皆、ちょうどお腹が減る頃合いだったのだ。
まずはローアとフィアナから、クズノハに勧められるまま恐る恐るといった面持ちでマンドラゴラを口にした。
「もごもご……うん。焼きマンドラゴラ、意外といけるね! ふかし芋みたい」
「踊り食いの方も意外と甘くて美味しいかも! ……口の中で結構動くけどね」
ローアは子供らしい恐れ知らずさがあるのか、まだ動く生マンドラゴラの根の切れ端を、塩をかけてもしゃもしゃ頬張っていた。
……さ、流石ドラゴン……。
「あ、お兄ちゃんも食べてみる?」
ローアは生マンドラゴラの根をちぎって俺に寄越した。
相変わらずうねうねしているが、試しに一口いってみるか。
覚悟を決めて口に入れると、少し歯ごたえがあり、確かに意外と甘かった。
果物的な甘みというか、旨味だろうか、かなり不思議な味わいだ。
「おお、結構イケる。魔物を生で食べたのは初めてだけど、試してみるもんだな」
「そうであろうそうであろう? ……しかしな、お主よ」
「んっ?」
「頼むっ……! 妾にも一口……!」
振り向けば、未だ硬直中のクズノハが横になりつつそう訴えていた。
プルプル手を震わせてマンドラゴラに手を伸ばそうとしている。
マンドラゴラの叫びによる硬直時間は意外と長い。
この分では明日の朝まではきっとこんな調子かなと、俺は苦笑しつつクズノハに生のマンドラゴラを食べさせていった。
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