65.5話 最後の【魔神】とその行方
『……』
星々の隠れた夜空よりも、なお昏い闇の中。
最後の【魔神】は居城の玉座にて、世界を眺めていた。
【魔神】の手の中に、様々な景色が流れていく。
星々の照る青空、明るく輝く深海、溶岩に溶けない街並み。
それらは並大抵の人間では立ち入ることが叶わぬ地、神獣の住まう秘境。
人間であれば十人中十人が絶景だと声を上げるだろう光景を目にして、しかし【魔神】は顔色一つ変えはしない。
そこには「【魔神】の心のうちが人間のそれと乖離しているため、人間にとっての『素晴らしきもの』が彼にとってはそうでもない」という大きな理由が確かに存在する。
だがそれ以上に、そもそも【魔神】は風景を楽しむために世界を眺めていた訳ではなかったのだ。
その瞳に映る光には、風景を愉しみ慈しむのではなく、その手中にすっぽりと収めんとする侵略的な力強さが宿っている。
『ふむ……』
【魔神】は手のひらに映し出す景色を次々に変えていき、最後に、とある風景を映し出して低く唸った。
……否、肩を揺らして呻くような笑い声を響かせていた。
『やはり、ここ以外は考えられませんね。私の目的を達成する足掛かりとして、さらなる力を得るにふさわしい場所は、やはりここしか』
【魔神】……ファルヴードは玉座から立ち上がり、居城の「行方」を決定した。
その身に宿る膨大な魔力を居城全体に循環させ、その機能を立ち上げてゆく。
彼の手のひらに映し出されていたのは、青空のもと、巨大な竜巻が天まで立ち上る平原。
世界最大の大陸中央部にして、世界で最も魔力の集まる地、ドラゴンたちの楽園。
……そして【魔神】ファルヴードと原初の【神獣使い】が、最後の激闘を繰り広げた地。
ファルヴードはその地を懐かしむかのように、口を開いた。
『かつて手にできなかったかの地を、今度こそぜひ、我が物としたい。そうして得た力で……ぜひあなたをもてなしたい』
ファルヴードは両腕を広げ、何かを迎え入れるように告げた。
『当代の【神獣使い】よ、宴の時は近い。我が目的のため、そしてあなたとの戦を愉しむべく、私も準備を始めましょう』
そうして、ファルヴードは玉座より、配下の者たちに指令を下した。
『蹂躙せよ。かの渓谷、かつて原初の【神獣使い】とぶつかりしあの地を』
──最後の【魔神】が、遂に動き出す。




