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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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64話 【呼び出し手】と魔力の扱い

 ……あの、少し不思議な夢を見た翌日。

 俺は起き抜けに、首を傾げるローアからこう言われた。


「お兄ちゃん、夜はあまり寝れなかったの? やっぱり、わたしが無理矢理お布団に入ったから……?」


「……そんなに顔、やつれているか?」


「うーんと、何だかくまができてるね。ご主人さま、本当に何かあったの?」


 フィアナからも心配されたが、あの夢についてなんて説明したらいいのか。

 俺はあれから一晩中青年に挑んで、何度も弾かれたり、投げ飛ばされたりした。

 そのお陰で、いい線までいっている感触は掴めたが……。


「……あの人、肉体的な疲労は溜まらないとか言っていたけど、精神的な疲労は明らかに溜まっているぞ……」


 何せ、寝た気分になれないので仕方はないけれど。


「お兄ちゃん、何か言った?」


「……いや、何でもないよ。それにローアのせいでもないから、気にしないで。それより今日も渓谷の中を回るんだろ? なら、そろそろ起きないと」


 俺はそう言い、体を起こして身支度を始めた。

 しかしあれは夢じゃなかったような、でもやっぱりただの夢だったような。

 本当に不思議な感覚だったが……引っかかった点が一つ。


「あの声、最近どこかで聞いたような……?」


 今思い出そうとしても、青年の声や顔は霞がかかったようになっていて、うまく思い出せない。

 ……けれど、もうあんな夢は見ないだろう。

 妙に現実感はあったが、所詮は夢だ。

 実際にこの世界には干渉しては来ない。


 ──この時の俺はまだ、こんなふうに思っていたのだが……。


 ***


「今日は渓谷の中央にある、大滝の裏へ行って遊んだみたいだね。そこで水に精通しているケルピーの子があれこれやったようだけど、楽しそうで何よりだよ」


「……どうして知っているんですか?」


「それはもう、君の夢に間借りさせてもらっている身だからね。その日の行動くらいは分かるさ」


 ……そうあっけらかんと言う青年は、この日の晩も夢の中に現れた。

 少し昼寝をしたのでまだいいが、これで昼間寝ていなかったら徹夜二日目に等しい。

 拷問か何かだろうかと、少しげんなりする思いだった。


「その、今晩も修行ですか?」


 恐る恐る尋ねると、青年は剣を投げ渡してきた。


「おうともさ、話が早くて助かるよ」


 ……悪気のない表情なだけに、余計にタチが悪いと感じる次第だった。


「あと何回僕が君に修行を付けられるか、分からないからね。できることはできるうちにやっておきたいのさ」


 言いながら、いつの間にか青年は既にこちらまで迫っていた。

 剣を振るって牽制した直後、見よう見まねの回し蹴りで迎撃する。

 青年はバク転しながら紙一重で後退し、好戦的な笑みを浮かべた。


「惜しい……!」


「その動き、昨日の僕の。たったの一晩で随分とやるね。僕も教えがいがあるし、神獣の力と組み合わせれば近いうちに……まあ、いいさ。今はともかく、修行に集中してもらおうかな」


 青年はそう言いつつ一瞬で再接近し、半ば油断していたこちらの胴へと突きを放ってきた。


 ──後何晩、こんな夢の中での修行生活が続くんだろうか……。

 このままだと、体は睡眠不足でもないのに倒れてしまうような、おかしな状況に陥ってしまう気がする。


 そう考える俺とは裏腹に、青年の修行、剣術は日々苛烈さを増していった。

 聞けば彼の扱う剣術は、非常に古い流派でもう継承者も他にいないだろうと言う話だった。

 だが、古臭いとか侮れるほど、その剣筋は生易しくない。


「はぁっ!!」


 青年の一閃を何度も受け止めようとするが、どうしても力不足で大きく後退させられてしまう。

 体格差はそこまでないはずなのにどうしてと考え続け、ある時、そのカラクリを見破ることができた。


「……今、一瞬体から噴出させていたのは……魔力?」


「その通り、ようやく気づけたね」


 青年は剣を床に突き立ててぱちぱちと手を鳴らし、種明かしを始めた。


「僕は君に打ち込む直前、一瞬のみ体から魔力を噴出して動きを加速している。常に魔力で加速していては、すぐに魔力が尽きてしまうからね。でも必要な際に一瞬のみなら、継戦可能時間は飛躍的に伸びる」


 青年は剣を握り直し、ふん! と気合を発した。

 すると腕から青白い魔力が迸り、暴風のように吹き出していく。

 これが今の話にあった、魔力の噴射らしい。


「要は、最小の消耗で最大の成果を叩き出そうという話さ。そして君には、この技術を特に覚えて行ってもらいたい。威力のほどは、君がここずっと受け続けていたから分かるだろう?」


「それは勿論。でも、俺は【魔術師】スキル持ちでもないから体内に魔力が……」


 加えて神獣の武装もなく、クズノハからもらった魔導書だって夢の中には持ち込めない。

 魔力を得る元がなければ、ネタが分かっても再現はできない。

 すると青年は、周囲を見回した。


「君に魔力がないのなら、周りのものを使うといい。【呼び出し手】スキルは周囲の魔力を消費して、神獣に己の声を届ける、それは知っているね?」


「ええ、それは」


 クズノハに前に聞いたので、理解している。

 そしてその応用で、俺も魔導書さえあれば魔術を使えると。


「だったらその周囲の魔力を自由に吸収して、使ってしまえばいい。スキルで魔力を消費するって点においては、【魔術師】も【呼び出し手】も大差ない。要は出力する結果が違うだけの話だ。ここは夢の中、イメージ次第で現実と同じことができるはずだし、ここでできるなら現実でも再現可能なはずさ」


 ……と、青年はこともなげに言っているものの。

 実際問題、そう簡単にはいかないだろう。

 そもそもそんなに簡単に魔術……もとい魔力が扱えるなら、俺も苦労はしないのだ。


 何より、肝心の周囲にある魔力の使い方というのが分からない。

 体に力を込めたり深呼吸していたりしてあれこれ試していると、青年が寄ってきて、手で俺の両目を覆った。


「すまない、まずはコツを教えよう。まずは目を瞑って……よし。それから僕の魔力は、感じるかい?」


 一度頷く。

 すぐそこにいる彼の魔力は、強く暖かく、視覚を閉ざしていても熱のように肌で感じられる。


「だったら、僕の魔力を大気中に逃したものは?」


 もう一度頷く。

 うっすらとしていて感じられにくいが、それでもまだ分かる。

 それから青年は大気中に噴出する魔力をどんどん薄く、伸ばしていく。

 薄れていく魔力を追いかけるように感じるうち……最後にほんのり感じられたのは、視覚を閉じているのになぜこう感じるかは分からないが、半透明にも思える質の魔力だった。

 よく感じ取れば、それが俺や青年の体を覆うように、空気のように満ちている。


「捉えたかい? それが大気中に薄く漂う、自然界の魔力の感覚だ。今は僕がそれを再現しているに過ぎないが、現実でも同じように知覚できる」


「つまり、この魔力を利用すると?」


「その通り。だから君のこれからの修行は主に、この魔力の感知に吸収と、放出による急加速かな。僕の剣技や体運びももちろん覚えてもらうが、まずはこの基礎技術だ。これさえ覚えれば、基本動作の一つさえも飛躍的に素早く、強力になる」


「……」


 青年は基礎と言ったが、なかなか高度なものに思える。

 それに体に吸収した魔力を放出とは……神獣の力で似たことをしたことはあったが、それは大抵の場合、武器から魔力を放出していた。


「……でも、覚えておいて損はないな」


 習得して応用できれば、神獣の力をより精密に扱うことにも繋がるかもしれない。

 それに神獣の力を武器だけでなく体から放出できれば、機動力も圧倒的に向上する。

 この先、もし【魔神】のような敵がまた現れた時のために、あの技は習得しておくべきだろう。

 そう決心して頷くと、青年は言った。


「気持ちも固まったようだし、早速始めよう。慣れれば扱いは難しくもないし、今夜のうちにある程度は仕上げてしまいたいから」


 ……その後、昨晩みたく疲労困憊になるまで修行が続いたのは言うまでもない。

 けれどそのおかげか、またひとつ、新しい力を手にした感触があった。


【お知らせ】


本作のコミカライズが決定しました、描いてくださるのは色s先生です!


年内オープン予定のWEBサイト、ナナイロコミックスさまにて連載されますので、WEB版や原作小説と共によろしくお願いします。


コミカライズの方は原作小説(書籍版)に沿って行われますので、WEB版から改稿した内容などが気になる方はぜひ書籍版もチェックしてみてください!

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