お、落ち込まないで。たとえもふもふさんに負けたとしても!
鋭い声でこえをかけられて、私はつい嫌な顔をオマケに向けてしまった。
もふもふさんをしっかりと抱え、その柔らかい毛並みと暖かさを楽しみながらも、オマケに向き合う。
「ここは一体なんなの? 私はなんのために召喚されたの?」
言葉だけ聞いたら、現状を的確に把握している冷静な人間に見えるだろうけど……その瞳は、「さぁ。魔王を倒してくださいと乞いなさい」と言う類なものなのが良く分かる。
まさかそんな期待をしている人に、オマケです。帰れませんから後は好き勝手生きてください。なんて酷いことは流石に私だって言えない。
ここはとりあえず事情を説明して、魔王様に支持を仰ご……いや、それだとこの私が召喚にし、しっぱ.……けふんけふん。してしまったことがバレていまう。そんなの、この私に許される筈がない。だって私は、魔王様の忠臣なのだから!
「この世界は、あなたの住んでいた世界と違います」
そう言い始めて、あたりを見渡した。実はここ、街のど真ん中。城下町のこの広場は魔力の溜まり場なのだ。
こんなところで長々と話しをするなんて、自分でも飽きれたから、近くのパブに行くことにしよう。
……昼からお酒飲むけど、なに? だってこんな事実、認められるわけ無いでしょう!
お酒の一杯も飲まずにやってられるかアホー!
「この世界は、あなたの住んでいた世界と違います」
ハイ、仕切り直し。
オマケは、目をキラキラと輝かせ聞いています。彼女の目の前は、フレッシュオレンズィジュースです。
私の前には、大麦ビール。酒豪です、テヘ!
「この世界に来たからには、あなたはもう帰れません。それだけは覚悟しておいてください」
「全く構わないわ! どうせパパもママも私のことなんていらない子扱いなんだから!」
オマケは自身の過去に同情して欲しいのか、そんなこというけど、無視。
この国だってそうなってしまったこは沢山いる。
「あなたは勇者として召喚されました。これから私とともに旅をしていただきます。各地に魔王の荒らしたあとがありますので、それを浄化していただきたいのです!」
私は考えた。
オマケが、魔王を敵視しているらしく、だったらそれに乗っかって、この国のゴタゴタを片付けてもらおうと!
ゴタゴタと言っても、たまに起こる小競り合いとかそんな程度だけど。
つまり、雑用してもらうのです。
とても辛いことだけど、モフモフさんにはおまけになってもらいましょう!
そのために、このパブで高級なズィンギスカンミルクを用意してもらったのですからね!
美味しそうにペろぺろ舐めてる姿は眼福です。
飲み終わって、おかわりは?と赤い目をうるうるさせている姿に、クラりとやられて、「もういっぱい!」と反射で叫びました。
オマケはそんな私を冷たい顔で見ています。
「アンタ、うさぎ好きなの?」
「ウサギ? それはこのもふもふさんのことですか? もちろん、だってそのために、けふんけふん」
あっぶない!
口を滑らすとこだった! お酒怖い、一杯しかのんでないのに怖い!
今日は良いが回るの早いなぁおい(凄く酔ってる)
「それで、今から倒しに行くのもいいけど、なにか装備くらい寄越しなさいよ」
オマケはバカのようで頭が回るタイプのようです。
そうだよね、だれも竹竿と布の服でボス戦したくないよね。
「じゃぁ行きましょうかねぇ」
都合のいいことしか説明しなかったけど、まぁよし!
質問されなかったし。
さぁ、どんどん次に行きましょうか!
***
そう言ってきたのは、王都から少し外れてる、だけれどもひときわ賑やかな、大きい建物。
この建物は、冒険者紹介所と言って、冒険者になってもらう、国が運営している職業。
冒険者と言っても何と言うか、オマケの国でいうところの、「こーむいん」てやつですね。
なんで知ってるかというと、あんなに平和ボケしている世界の国なんて滅多にないからですよー?
「ここで、なにするのよ」
もふもふさん、もふもふだけじゃなくてふあふあなんだね....。柔らかい毛並みに、私はメロメロだよー!
「なにすんのよっ!」
「はい?」
「……。ここで、わたし、なにを、するのかしらっ!」
「あぁ。はいはい。そんな大きい声で一言ずつ区切らなくても大丈夫ですよ。聞こえますから」
うわっ、冷たい視線を向けられた!
オマケ酷い。
「ここでは、あなたの身体能力を調べるんですよ。冒険者と言っても、例えば魔法使いやら、剣士やら、たくさんのクラスがあるんです。あなたはどのクラスかわからないので、とりあえず検査を」
困るのは、どれにも適正がなかった時である。
その場合冒険者にもなれないし、私の失態がバレてしまう!
どうしてもオマケには何らかのクラスを獲得してもらいたいもの。
でも、魔法使いはいらない、私とキャラがかぶる!
複雑です。ふ☆く☆ざ☆つ☆
「検査って何すんのよ」
「簡単ですよ、ぴーっと、けんさするだけですから」
「ぴーってなに!? そこなんで伏字なのよっ!」
ふせじ……? 何のことでしょうか?
「え? 機械が勝手に測定してくれるんですが」
説明するのも億劫なので、とっととやってもらいましょう。
受付にお願いすると、笑顔で受付嬢は引き受けてくれた。
さすがお仕事。
もふもふさんもついでに検査してもらって、私は受付嬢におまけを押し付けた。
***
「検査っていっても、椅子に座ってるだけで大丈夫ですからね」
どうして言葉が通じるんだろう、なんて疑問は頭の片隅にもわかなかった。
わかるからそれが全てだ。
異世界に召喚されたあたしは、これから勇者になるのだ。そのための検査らしいけど、正直言って勇者になるの確定でしょ。いまさらする理由がわからない。
でもまぁ、あの子何者かわからないけれども、こうして助けを求めてるんだからこの先仲間になる子だわ。
なんて考えながら、指定された椅子に座る。
「測定するのは、攻撃、防御、命中、回避、魔法、魔力ですね」
「魔法と魔力の違いって何よ」
「そのままですよ。魔法は、魔力を使って魔法が使えるか。魔力はどれくらい魔法が使える力があるか」
魔力があっても魔法が使えない人は結構多いんです。
と付け足された。
渡されたヘッドセットをかぶり、椅子に座るとほんとに耳にぴーっと超音波が聞こえた。
これで終了? はやくない?
そう思ったけど、結果が出るまで少しお待ちください。と笑顔で言われてあたしはあの女の子がいるロビーにまで戻った。
***
出てきた答えは、何と言うか。自意識過剰な彼女向きでした。
『攻撃:A
防御:S
命中:B
回避:B
魔法:E
魔力:B
適正:有
適職:剣士』
え? なにがって?
もちろん、魔力がなくて、攻撃に特化してるところが。
しかし当の本人は不満だったようで、むすっとした顔をしている。
「なによこれ」
あなたの適正です。
「なんなのよ」
もちろん声に出してないけど。
「良く分からないわよ」
……。
そうですよね、わかりませんよね。
何も知らない人に結果だけ渡しても無駄でしたゴメンなさい。
「大体、Bが多いじゃない。これ何段階評価で、上からどのくらいなの」
あ。上からって聞くのだから自分が上位にいることを疑ってないんだろうなぁ...
いや、まさに上位だけどさ。
「全部でE〜Sまであるんですよ。Bは上から三番目」
ふぅん。と気のなさげな声だったけど、頬が紅潮しています。ヨカッタデスネー。
ちなみにもふもふさんをみると
『攻撃:A
防御:A
命中:S
回避:S
魔法:B
魔力:S
適正:有
適職:治療師』
と書いてあった。
本格的にパーティができるね、できますね!
さすがもふもふさんとしか言えないよ。
横で、もふもふさんの結果を見たオマケは、がっくりと肩を落として、次の瞬間、両手を上にあげ、「うぎゃぁーっ!」と吠えた。
そ。そんながっかりしないで!
WEB拍手に小話掲載しています。よろしければ読んでみてください。