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占いの館で彼女を奪われ、異世界で王族の婚約者にされたので、僕は必ず取り戻す  作者: 播磨 颯太


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7. 連れ去られるのぞみ──動き出すアデンの運命

——アデン国 パール城・中庭——


冷たい風が吹き抜ける広大な中庭。灰色の石畳の上に、二人の若者が膝をついている。


クリスとヒーダ。


先ほどの裁きによって、二人が姉弟でありながら恋に堕ちたことは明らかとなった。


だが、裁判長ジロームは、まだ裁きを終えていなかった。


ゆっくりと椅子から立ち上がると、重々しく口を開いた。


「次の罪に移る」


ジロームの言葉に、中庭を埋め尽くす群衆が息をのむ。


「次に裁く罪は——この国で最も犯してはならぬ罪だ」


低く、静かに放たれたその言葉が、空気を震わせる。


「……お前たちは、その罪の重さを理解しているか?」


ジロームはクリスとヒーダを鋭く見つめた。


二人は無言で俯いたまま、肩を震わせている。


「答えよ」


しかし、二人の唇は固く閉ざされたまま。


ジロームは深く息をつく。


「お前たちは、姉弟でありながら——


口にするのもはばかられる行為に及んだ!!」


群衆から、悲鳴のような声が上がった。


「まさか……!」

「そんなこと……!」

「許されるはずがない!!」


騒然となる中庭。


のぞみは、信じられないというように手で口を押さえている。


一方、似蛭は、ますますニヤつきながら足を組み、その様子を楽しんでいた。


「間違いないか?」


ジロームが冷たく問いかける。


クリスとヒーダは、涙を滲ませながら激しく首を振った。


「違います……! そんなこと……!」


「私たちは、そんなことは……していません……!」


震えながら、命乞いするように否定する。


しかし、ジロームの目は微動だにしない。


「最後に聞く」


静かな、だが絶対的な声。


「認めるか?」


クリスとヒーダは、お互いを見つめた。


そして——


恐怖に怯えながら、震える手で互いの手を強く握りしめた。


「違います……!」


「どうか、信じてください……!」


切実に訴える二人。


しかし、ジロームの表情は変わらない。


「ならば——これを見よ」


ジロームは手を上げる。


係員が再び前に進み出る。


手には、布の被さった盆があった。


ジロームはゆっくりと布に手をかける。


「……これは、お前たちが罪を犯した決定的な証拠である」


そして、


布を剥がした。


布の下にあったのは——


一枚の絵だった。


しかし、それはただの絵ではない。


群衆がそれを目にした瞬間、再び悲鳴が上がった。


「なんだこれは……!」

「まさか……!」


のぞみは絶句したまま動けない。


似蛭は、ますます笑みを深める。


それは——


クリスとヒーダが、夜の森の奥で生まれた姿のまま抱き合い、唇を重ねている姿を描いたものだった。


絵は、恐ろしく細部まで精密に描かれていた。


クリスの腕がヒーダの背中に回され、ヒーダの指がクリスの頬に添えられている。


その目は熱を帯び、愛を確かめ合うかのように交わされていた。


絵に描かれた彼らの姿は、言い逃れのできない証拠だった。


「これでも否定するか?」


ジロームは、静かに問いかける。


クリスとヒーダは、愕然とした表情で絵を見つめた。


「……これは……!」


クリスの声が震える。


「違う……! こんなもの……!」


ヒーダも涙をこぼしながら叫ぶ。


「私たちはこんなこと……!」


「言い逃れはできぬ」


ジロームは冷たく言い放つ。


「これは、この国の宮廷画家によって描かれたもの。目撃者の証言を元に、限りなく真実に近い形で再現されている」


「な……!」


クリスとヒーダは、言葉を失った。


「お前たちが、そのような行為に及んだ証拠だ」


「違う……! 誰かが……!」


必死に叫ぶが、群衆はもはや耳を貸さない。


「なんということだ……!」

「神に背いた罪人め!!」

「恥を知れ!!」


群衆から罵声が浴びせられる。


「私たちは……私たちは……!」


クリスとヒーダは、手を繋いだまま震えていた。


その姿を見ながら、似蛭は、ますます口元を歪めた。


「フフッ……フハハ……」


彼は足を組みながら、その光景を楽しんでいた。


裁判は、最も残酷な結末へと向かおうとしている。


重々しい静寂が広がる中、裁判長ジロームが再び木槌を振り下ろした。


コンッ……コンッ……!


響き渡る音が、まるで運命の鐘のように中庭全体に鳴り響く。


係員たちが一斉に動き出し、クリスとヒーダの両腕を力強く掴んだ。


「やめてくれ!! 俺たちはただ——!」


「クリス!! クリス!!!」


絶叫する二人。


クリスは必死にもがくが、係員の冷酷な力に逆らうことはできない。


ヒーダもまた、涙を振り撒きながら手を伸ばすが、指先は空を切るだけだった。


二人の愛は、この国の法によって無残に引き裂かれようとしていた。


彼らが連行されたのは、城壁の奥にそびえる石の扉。


その表面には無数の傷跡が残され、過去にここを通った者たちの絶望を語るようだった。


クリスとヒーダが扉の向こうへ消えると、数人の兵士がかりかかって巨大な扉を押し閉じる。


ギギギギ……ドォン!


重厚な音を立て、扉が閉ざされる。


それは、二人の人生が完全に分断された瞬間だった。


ゆうは、呆然とその光景を見つめていた。


——何が起こっている? これは一体……何の判決なのか?


彼のすぐそばで、貴族らしき老婆がゆっくりと口を開いた。


「姉弟による禁忌の恋の裁きは……」


「男は奴隷となり、生涯その身分を回復することは叶わぬ」


——奴隷!?


「そして女は……今から”おぞましい三日間”が始まる」


老婆の声には、冷酷な響きがあった。


「おぞましい……三日間……?」


ゆうは恐る恐る尋ねる。


「どういうことなんですか?」


——その時だった。


突如として、重い足音が響いた。


ズン……ズン……ズン……!


ゆうが視線を向けると、そこには……


獣のような目をした、異形の男が立っていた。


——巨大な肉体。


上半身は裸で、鋼のように隆々とした筋肉が蠢いている。


全身から湯気が立ち昇り、まるで獲物を見つけた猛獣のように鼻息を荒げている。


「……あれは……?」


ゆうの声が震えた。


老婆が低く囁く。


「あれは……執行人のガイメン」


「恐怖と絶望の請負人……」


ガイメンは、重々しい足取りで石の扉へと向かう。


ゆっくりと……扉が開かれた。


その奥には、さきほど連れて行かれたヒーダの姿。


ヒーダは、目を見開いていた。


——恐怖に顔を引きつらせ、息もできないほどに震えている。


ガイメンは一歩、また一歩と中へ入っていく。


ヒーダの小さな身体と、彼の圧倒的な巨躯。


——まるで小鳥と猛獣のようだった。


そして——


ドォン!!


扉が閉ざされた。


ゆうの心臓が、冷たくなる。


——ヒーダの刑とは、一体何なのか?


考えたくもない。だが、考えずにはいられない。


どんな刑が、この国には存在するのか。


ゆうは、身震いした。


「……この国で最も重い罪の刑は?」


彼は、思わず問いかけていた。


老婆は、一瞬だけ顔をこわばらせた。


そして、低く……短く答えた。


「……屈辱の限りを尽くされるのです」


「!!」


それが、何を意味するのか。


ゆうは聞きたかった。


聞かなければならなかった。


だが。


恐ろしくて、言葉が出なかった。


裁判が終わった。


クリスとヒーダは連れ去られ、彼らの運命を決める場であった中庭には、貴族たちが残されていた。微かな風が吹き抜ける。夜の帳が落ちかける中、沈黙が支配している。


ゆうは、まだ現実感をつかめずにいた。目の前で繰り広げられた裁きが、あまりに理不尽だったこと。そして、それを傍観するしかなかった自分に、言い知れぬ無力感が押し寄せていた。


周囲には貴族たちの従者が次々と集まってくる。静かに、それでいて迷いなく、それぞれの主のもとへ。


「ゆう様、こちらへ」


凛とした声が背後からかかった。ゆうの従者、カオリだ。彼女はゆうより三つ年上の二十三歳。落ち着いた佇まいで、何もかもを見通しているような瞳をしている。


ゆうは、カオリが自分とのぞみを部屋に案内してくれるのだと思った。裁判に立ち会った貴族たちは、当然それぞれの居に戻るはずだ。ゆうはのぞみと一緒にいるはずだった。


立ち上がり、のぞみの方を見る。


のぞみにも、従者がついていた。


のぞみも、ゆうと同じように立ち上がる。しかし、彼女はゆうではなく、別の人物の視線を受けていた。


「ニヒル様」


従者の一人が、ゆうの背後でそう言った。


——ニヒル様?


ゆうの心がざわついた。今、何と言った? 似蛭じゃなくて……ニヒル?


疑問に囚われた次の瞬間——


「行こうか、のぞみ」


ゆうの目の前で、似蛭——いや、ニヒルと呼ばれた男が、のぞみの腰に手を回した。


ゆうの頭の中で、何かが弾けた。


何をしている?


なんでお前がのぞみさんの腰に手を……?


のぞみって、呼び捨てにした?


目の前の光景が信じられなかった。ニヒルは、まるで当然のことのようにのぞみの身体を自分へと引き寄せ、そのまま歩き出した。ゆうとは逆の方向へ——。


のぞみは、悲しげな顔をしていた。


ゆうを見ている。


無言のまま、何かを訴えるように、ただゆうを見ていた。


それなのに——


彼女は、何も言わずに、ニヒルとともに去っていく。


まるで夫婦のように、寄り添うような距離で。従者たちに囲まれながら。


「ゆう様、ご案内いたします」


カオリの声が、遠くから響く。


ゆうの肩にそっと手が置かれるが、力が入らない。目の前の光景が現実として受け入れられない。


唇が震える。声にならない声が喉に絡みつく。


「のぞみさん……」


かすれた声は、風にさらわれて消えていった。


のぞみを連れたニヒルは、ゆうから離れ、パール城の奥深くへと吸い込まれていく。


その後ろ姿を、ゆうはただ呆然と見つめていることしかできなかった。


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のぞみとゆうの前作もぜひお読みください!

のぞみとゆうの物語 ~こんな恋をしている二人が羨ましい

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