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29.薬草畑の視察に行くわ!

 ビビアンは執務室に帰ると、届いていた報告書に目を通した。


(薬草畑は、あまりうまくいっていないようね……)


 実は石けん事業で収入が得られるようになってから、王都の郊外にある農地を購入していた。

 そして、人を雇って回復薬を作るための薬草を育ててもらっていたのだ。


 薬草は、冬でも葉を落とさない。

 そして、根付く土地は限られるが、根付いてしまえば管理は楽な方らしい。

 冬場でも植え付けは可能と聞いて、ギブソン男爵に隣国から苗を取り寄せてもらっていた。

 だが、植え付けた全ての株がしおれているそうだ。

 このままだと枯れてしまうだろうと書いてあった。


(どのような状態か、実際に一度この目る必要がありそうね……)


 しおれている、枯れそうだと書いてあっても、実際に見てみることで気が付くことがあるかもしれない。

 季節はもうすぐ冬の終わり。

 できるだけ早く栽培法を確立したい。

 早ければ次の冬に疫病が流行るかもしれなかった。


(土の問題、かしら……?)


 隣国や、ノークス伯爵領だけで薬草が育つのには、何か理由があるはずだ。

 前世の記憶はあるが、土の問題くらいしか思い浮かぶことがない。

 だが、土が合わないのならば土壌の改良はできる。

 簡単に諦めるつもりはなかった。


 ビビアンは執務室の警備に立っているマクシムを近くに呼び、外出の準備を告げる。

 いつもの孤児院ではなく、王都郊外の畑に行くと告げたことに驚いていたが、何を言っても無駄だとわかっているのか速やかに準備に向かってくれた。



 最近では、孤児院訪問の日程は事前に予定を組んでいた。

 先日のチャリティコンサートでユリウスに協力してもらった関係上、日程の調整がどうしても必要だったからだ。

 だが、今日のお出かけは突発で、流石にユリウスはついて来られなかったようだ。

 馬車に向かうと、マクシムと十名程の騎士が待機していた。


「本日は、急なことでしたので、ビビアン様がおっしゃった畑以外にはお立ち寄りはできませんので、あらかじめご了承ください」

「わかっているわ」


 ビビアンがまた気まぐれを言い出さないかと心配しているのか、マクシムの顔色は悪い。


「それにしても、護衛が多いわね」


 孤児院に行くときは、もう少し人数も少なかったはずだ。


「申し訳ありません。陛下から、くれぐれも皇妃殿下のご安全に配慮するようにと言われておりますので」


 普段出かけない場所に行くから、心配させてしまったようだ。


(ユーリったら、過保護ね)


 そんなことを思いながら、馬車に乗り込んだ。



 ビビアンの農場に着くと、管理人のサムに出迎えられる。

 急な訪問だったが、ビビアンは雇用主でもある。

 嫌な顔をすることなく対応してもらえた。


「早速だけど畑を見せてもらえるかしら」

「かしこまりました。足下が悪いですが、よろしいですか?」

「覚悟してきているから問題はないわ」

「では、今見えているこちらの畑からご案内しましょう」


 多少動くだろうと予想していて、乗馬服で来ている。

 話している最中から畑の様子は目についていたが、近づくとよりその惨状が痛々しかった。


 薬草は土に植えられているにも関わらず、水切れしたように葉がしおれている。

 葉先は水分を無くしすぎたのか、ちりちりに丸まっていた。

 このままだと乾燥し過ぎて枯れてしまうだろうと、素人のビビアンにさえ容易に想像ができる。


「なんてこと……! 水やりはしているのよね?」


 ビビアンの問いに、サムは頷く。


「しています。最初は言われていた通りに朝夕二回。こうなってしまったのを見て、昼にも追加しました。ですが、効果がありませんでした……」


 サムもこの状況をうれいているのか声に力がない。

 確かに足下の土はこれ以上ないほど湿っていて、雨上がりのようにぬかるんでいる。

 靴跡に、じわりと水がにじむ程だ。

 それなのに薬草の葉は乾ききっており、サムの言葉は真実なのだと信じられた。


「畑の薬草は全部、同じ状態なのね?」

「はい。ご確認されますか?」

「一応ね」


 ビビアンはサムに案内されて見て回ったが、確かに全てが同じ状態だった。


(土か、水か、どちらかが合わなかったのかしら……)


 なんとなくそう感じるのだけれど、ビビアンも明確には原因がわからない。

 以前図書館で呼んだ薬草の育て方が書かれた本には、水切れさせないように、水やりの頻度に気を付けるようにくらいしか、注意事項は書かれていなかった。

 特別な肥料などが必要とも書いていなかったし、薬草を見に来てみたもののさっぱり原因がわからない。


「何株か持って帰っていいかしら」

「もちろんです。すぐに用意させます」


 そして、畑の土を入れた枯れかけの薬草の鉢が十株準備される。

 それらを馬車に乗せてもらい、帰途についた。


 帰りの馬車の中で、ビビアンは考えこんでいた。

 やはり、どう考えても原因がわからない。

 隣国から輸送してもらい、植え付けた時には異常はなかったと聞く。


 畑についても、この近辺の地主から買い取った物で、薬草を植え付けるまでは野菜を育てており、普通に収穫できていたそうだ。


(帝国内でも、ノークス伯爵領では育っている……となるとやはり、土壌が違うのかしら……?)


 薬草のことについてはビビアンも素人だ。

 現状で原因と思える物はそれくらいしか思い浮かばない。

 馬車に揺られながら、延々と考えていたビビアンは、ふと閃いた。


(そうよ! 手段を選んでいられないわ! ノークス伯爵の領地を見学させてもらえないか、聞いてみましょう……!)


 流石に伯爵家の持つノウハウは教えてもらえないだろうが、アドバイスくらいならもらえるかもしれない。


(……視察の許可が出るかしら?)


 ノークス伯爵領は日帰りで行ける距離ではない。

 孤児院や、この畑への視察の手配はマクシムに任せきりだったが、ビビアン自身で許可を取る必要があるだろう。


(一番の難関は、ユリウスかしら……?)


 どう考えても反対されそうである。


(でも、ここで諦めたら後悔するのは未来の自分よ!)


 ビビアンは、どう説得すればユリウスが頷いてくれるか、頭を悩ませるのだった。

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