〜ギルド〜
目を覚ましたその瞬間、異世界に転生していた。広大な草原が広がり、遠くには巨大な城が見える。少しぼんやりとした視界の中で、王様らしき立派な人物が目の前に現れる。
「ようこそ、異世界い……コホンッ……勇者よ!君には異世界を救う使命がある!まずは、ギルドに行って仲間を集めてくれ!」
王様が言葉を詰まらせたが、僕はその言葉に気を取られながらも冒険に胸を躍らせ、ギルドへ向かうことに決めた。きっと、僕は一流の冒険者として世界を救うはずだと思っていた。
だが、ギルドの入り口をくぐった瞬間、すべてが予想外だった。
ギルド内の掲示板に目をやると、そこには「パーティメンバー募集中」の掲示がずらりと並んでいた。しかし、そのどれもがどこか異様な雰囲気を漂わせていた。「50代歓迎」「年齢不問」といった文字がやけに目立つ。
「50代歓迎って…どういうことだ?」
不安を感じつつも、さらに掲示を見ていくと、「スローライフ系ダンジョン探索」「穏やかな冒険を求める方向け」など、どうにも冒険とは言えない内容が並んでいた。
そして、最も目を引いたのは「異世界人不可」という一文だった。
そのとき、杖をついた老人が近づいてきた。
「おい、君は異世界人か?ありがたいなぁ」
驚いてその老人を見ると、片手で杖を支え、もう片方の手でゆっくりと歩くことに注意を払っている。彼もまた、掲示板にある「年齢不問」の募集に応募しているようだ。
「え…ええ、僕は勇者として転生してきたんですけど、何か問題でも?」
老人は肩をすくめ、ため息をついた。
「問題も何も、この世界じゃな、ほとんどが俺みたいな年代の奴らばかりだよ。昔、転生者が大量に来てな。その結果、報酬がどんどん下げられて、未婚者が増えちまったんだ」
「未婚者?」
僕は思わず声を上げた。老人は軽く頷いた。
「そうさ。昔は、みんな結婚して家庭を持つのが普通だった。でも転生者が増えて、仕事が増えた分、報酬が減った。今じゃ30代以下は10人に1人ってところだ」
「10人に1人!?超高齢化社会じゃないですか?」
老人は苦笑しながら言う。
「その通り…だから今、異世界人を大量に呼び寄せて、肉体労働をしてもらおうってわけさ。それが君の役目だ、異世界移民者よ!」
「え、冒険は?」
「そんなもの、この世界にはない。あるのは、過酷な肉体労働だけだ!君には、それをやってもらうんだ!」
数日後、僕は案内されて、モンスターの死体処理をしていた。大きな洞窟から運ばれてくるのは、倒されたモンスターたちの死体。オークやゴブリン、そして、得体のしれない怪物も混じっている。
「これが異世界の仕事か…」と呟きながらも、言葉にできないほどの疲労感が僕を支配していた。体力があっても、この仕事は精神的にきつい。
その日、最も恐ろしい出来事が起こった。
巨大なオークの死体が運ばれてきたとき、僕はそれを処理するために近づいた。その瞬間、オークの生首と目が合った。
その目は、死んでいるはずなのに、僕をじっと見つめているような気がしてならなかった。死後硬直していたからだろうが、まるで生きているかのような錯覚に陥った。
「いや…いやいやいや!」
思わず後ろにひっくり返り、しばらく立ち尽くしてしまった。周囲の冒険者たちは、次々と死体を処理していくが、僕の異常には気づく様子もない。
その瞬間、僕は心に誓った。
「もう…二度と肉を食えないだろうな……」
その後、食事の時間が来ても、あのオークの目を思い出してしまい、全く食べることができなかった。
「なんてこった……」
僕は心の中で呟きながら、この異世界がどれだけ過酷な場所なのかを、ようやく理解した。
――完




