-21-「クリアランス、バイオレット。」
ヤノハ
「本日の環境維持活動を終了。片付けを完了後、基地へ帰還しまス。」
ヤノハロボはいつものゴミ拾いを終えて、使った道具の片付けとゴミ袋の整理を始めた。
しかし、毎日よくやるものだ。ロボの真似してるのが目につくが、いや、凄い良心的なことしてるよ。
世の中、こんなにも継続的にボランティアで環境整備してくれる人いるだろうか?もはや金もらってもいいレベルである。
だが、彼女は見返りを求めない。毎日汗水流して……いや、そう言ったら文句言いそうだ。オイル流して……いや、それ機械的トラブルだよな。表現難しいな。
なので、せめて私くらいは褒め称えてやるべきではないか。人知れぬ善意がいつしか報われてほしいと思うのは、人間性がもたらす感情に思える。
アンプ
「毎日ご苦労であるな。ほら、差し入れの飲み物だ。」
ヤノハ
「対話モード起動。物腰柔らかく。
ありがとうございます。いただきます。」
対話モードになると、平坦な機械音声から、おしゃべり上手な合成音声くらいのアクセントになる。決して人間そのものの声色にしないのはこだわりなのだろう。
アンプ
「しかし、よくやるよ。なにか思い入れでも?」
ヤノハ
「いえ、ありません。」
アンプ
「ほう。じゃあなんで。」
ヤノハ
「ヤノハの製作過程に関する情報へアクセスするには、セキュリティクリアランスがオレンジ以上である必要があります。あなたはバイオレットです。」
そう言いながら、ランドセルより厚めのファイルを取り出して、何十枚かめくったところを見せてくる。
そこには、セキュリティクリアランスとやらの説明が書かれていた。え、このファイルってまさか……ヤノハの取扱説明書か?
じ、自分で自分の取説、こんなに作り込んでるの?筋金入りだ……。
アンプ
「あ、あー……要は五色のランクに分かれてるのね、冠位十二階みたいに。私は最下位の紫で、順に青、黄、橙、赤ってレベルが上がるのね。」
ヤノハ
「バイオレット、ブルー、イエロー、オレンジ、レッドです。」
どうしても英語であってほしいようだった。ど、どうでもよくないか?
ちなみに、白川でさえブルーレベルらしい。簡単には過去を知り得ることはできないようである。
アンプ
「じゃあ、バイオレットレベルで知れる程度の貴様のことを教えたまえよ。」
ヤノハ
「承知しました。ヤノハに関するデータへのアクセスを開始……セキュリティクリアランス、バイオレット。制限された情報が提供可能になりました。
ヤノハは、環境維持ロボットとしての使命をもって活動しています。プログラムには場所の指定はなく、現在は活動可能距離と最大幸福算出関数の計算値をもとに、最も本機体の活動の効果が見込める江戸川流域河川敷を対象にしています。」
アンプ
「はぁ。まぁ、言わんとしてることは分かる気がする。要は、ここが貴様にとって、近場かつ活動の意義がある場所と判断したわけだ。」
ヤノハ
「要約ありがとうございます。」
アンプ
「じゃあ、聞きたいのは……なぜロボットになったのかだ。」
ヤノハは取扱説明書を見る。そして、どこまで話していいかを確認したようだった。いや、そこに書いてあるんかい。取説じゃなくて設定資料だな。
ヤノハ
「クリアランスが足りませんので、公開できません。
ですが……ヤノハは気まぐれに作られたのではなく、確固たる意志のもとに製作されたということだけはお伝えできます。」
アンプ
「ふーむ。まぁ、そうだろうな……じゃなきゃ、ロボットとしてここまで日々過ごせないって。
逆にさ。貴様は、学校ではどんな感じなのだ?」
ヤノハ
「機密事項です。」
ピシャリ。即答だったぞ。今までの会話で何よりも速い返答だった。
アンプ
「その取説確認してないだろ。」
ヤノハ
「機密事項です。クリアランス全然足りてません。レッドレベルは必須です。全然足りてません。」
頑なに言いたくないようであった。
その必死さを見て、なんか勝手に悲しい想像をしてしまう。
まさか、学校でもロボの真似して、クラスから浮いちゃってるのだろうか……?
アンプ
「い、居場所はあるのか?学校生活、キツくないか?」
ヤノハ
「余計なお世話です!!!
ピピピ、脅威検知、脅威検知。威嚇攻撃を開始。」
ランドセルからアームが4本出てきた。その全てにハリセンが握られている。
そして、高コンボ率のハリセンラッシュを喰らう羽目になる。空中に浮かされてズバババと。コンボが長く、地面が遠く感じた。
アンプ
「ぐぁぁぁ。心配して聞いたのに。」
ヤノハ
「心配するならなによりも、クリアランスの上昇を目指してください。
ヤノハの信頼に値することを証明することが求められます。そうすれば、段階的にヤノハの各種機能や製作過程にアクセスが可能になります。」
アンプ
「はぁ、はぁ、あぁそうかい。
だが……バイオレットランクでも、言わせてもらう。貴様は誇れる仕事をしているし、人々は貴様の活動に感謝を表している。
だから、そのまま自信をもって行くがいい。いざという時、きっと貴様の味方になってくれる者は多いはずだぞ。私も含めて、な。」
ヤノハ
「…………。」
ヤノハ
「……ぶ、ブルーレベルになります?」
アンプ
「や、チョロすぎるだろ……。」




