第89話 血染めの終結
「アンを何処にやったのよ!」
ジェシカの怒声が草原に木霊する。
ミッシングは不敵に笑いジェシカの怒りを待ちわびたかのように。
「アン?アンとは……これですか?」
中指を自身の指に突っ込み脳を掻き混ぜる。
男の顔が変貌していく。
それはくすんだ金髪。紛れ者のジェシカの妹。
「アン…………。アン!」
「姉さーん!」
妹の声とは似ても似つかない。喋り方、仕草。全て。
アンドーソンではない。
ジェシカは妹を侮辱した者に怒りの鉄槌を下す。
辺り一面が閃光に包まれる。
閃光がおさまるとミッシングの片腕が消滅していた。
「〜〜っッヅ!……空間操作?空間断絶?
やはり金獅子姫は人間の性能を超えてますね。
理解出来ない理解出来ない。理解してみたい!!!してみたい!!!」
左腕を消し飛ばされたミッシング。
対してジェシカは苦痛に顔を歪めている。
「…………痛ッ……。なんで……?」
ジェシカの左腕は消滅していた。
大量の出血が床を滲ませ少女に失血死と言う名の
死神の鎌を突きつけられる。
「ハァ……ハァ……アン…………を。何処に…………」
ジェシカは再度指をミッシングに向ける。
指先が震え焦点が合わない。
「イヒヒヒ‼指から放っているのですか!?
ならばこれは…………どう?どう!どうです!?」
ミッシングは自身の指を躊躇いなく食い千切る。
吐き捨てたのは3本の指。
人差し指。中指。薬指。
「………い…た…い…………。」
ダラリと腕をおろしたジェシカ。指は2本。
親指と小指だけ。呼吸は荒く。視界がボヤける。
ミッシングは少女の覇気のなさに満足し
「貴女の魂を…………この為に……。
50年以上貴女を探しましたよ!」
体に腕をめり込ませ…………二本の指で引き抜く。
心臓を。魂の結晶を。
それを自身の口に含み。咀嚼していく。
目から涙が溢れている。感動に打ち震えている。
「素晴らしい力です素晴らしい力です!
この力なら……エンハンス様にさらなる奉仕が出来る!
吾輩がエンハンス様の為に使ってあげます。
貴方の魂はエンハンス様へ!
……残りカスにようはありません。
精々安らかに苦しんで死になさい。」
ミッシングは新たに得た力を試す。
音速を超える速度で姿を消した。
「…あ……これ…は…死んだ……わね……。
アン…………無事で……いて……。」
力なく仰向くけに倒れ、土埃が舞い上がり
血染めの大地で赤く染まった天を見上げるジェシカ。
………………
…………………………
誰かが泣きながら抱き上げてる。もう眠いのに。
「…………うるさい。…………寝かせて。」
「ジェシカ!大丈夫ですわよ!血は止めましたから。
しっかり意識を保って!」
あぁ……泣いてくれるの?あたしの為に?
「もう…………いいわ。」
諦めの一言を声に出す。魂の残滓が身体から離れていく。
あたしは百年以上数え切れない程、殺してきた。
だからわかる。あたしの身体だともう助からない。
そして……助からなくて良い。
この身体じゃアンを守れない。アサミを守れない。
守れないなら……姉ではない。
守れないならジェシカドーソンという価値は何も残らない。
だから……「もう…………いいわ。」
ジェシカはゆっくりと瞳を閉じようとする。
「よくありませんわよ!!お願い!生きて!
諦めないで!目を開けて!!」
エリーは必死でジェシカに呼びかける。
その熱い涙はジェシカに最後の力を与える。
「…………。あの男は……嘘つきね。何が……139年よ。
何が……みんな喜ぶよ。アナタが……泣いてくれる。
それが……あたしの救いよ。」
「やめて……ジェシカ。それ以上……。」
「……迷惑かも……しれないけど……あたしの家族に……
伝えてくれる?……ワガママでごめんなさいって……。」
ジェシカは空を見上げている。
見つめる先は虚空。その遥かに高い場所。
エリーは視界には入っていない。けれでもその熱が近くにいることを知らしめている。
「アンに……ダメなおねぇちゃんで……ごめんなさいって。
アサミに……守れなくてごめんなさいって。
みんなに……あたしは幸せだったって…………。」
「やめて……やめてジェシカ…………。」
エリーは必死に懇願する。最後の言葉。
その遺言を言い終えればジェシカは満足して死んでしまう。
その遺言を聴き逃せばエリーは一生後悔する。
「……弾丸。銃………………て。…………して。」
エリーは涙を流しながら必死に頷く。
もう声は聴こえない。けれども想いは伝わる。
伝えたい意味は理解出来ない。
けれども絶対に伝える。
エリーは絶対を誓うように深く頷いた。
最後に……しっかりとエリー.ヴァイスを見つめ
「ありがとう。
……………………エリー………………………………………………」
ジェシカ.ドーソンは静かに息を引き取った。
………………
………………………………
………………………………………………。
ヴァイス王国の一室。エリザベス.ヴァイスの部屋で
ジェシカ.ドーソンは安らかに眠っていた。
左腕の欠損。右手人差し指、中指、薬指の欠損。
心臓の欠落。しかし表情は穏やかな死に顔。
島から駆け付けた者達に見守られながら。
誰一人として悲しい顔はしていない。
悲しめばジェシカは安らかに眠れない。
けれども溢れる涙は止めようがなかった。
過去にジェシカに仕えていた
隻腕の男ドグマ.マグナスは涙を流す。枯れ果てた筈の血の涙。
クーガーエヴァンスも同様。
そしてユウゴ.カーティスも。
赤い髪の青年。黒髪の女性ミカも涙を流す。
唯一涙も悲しい顔すら見せない少女がいた。
「…………許さない。」
鮮やかな紅い髪の少女アサミ。
悲哀など外には出さない。全て胸の内に秘める。
代わりに排出するは灼熱の憤怒。
アサミの怒りは周りの全ての者に伝わっている。
「パパもママも止めないでね。」
止める者など存在しない。
悪魔教徒は触れてはならない領域を犯した。
太陽の姫を怒らせたのだ。




