第49話 第5.0章〜悪魔の団欒〜
名も与えられていない樹海の1角。人の目に届かぬ廃墟。
そこに銀の男トルコマンが威勢良く足を踏み入れる
「おおゥ!相変わらずしけてんなァ!
悪巧みしろォ!悪巧みィ!」
銀の長髪を左右に2つ縛った小さな女の子は
キョトンとした表情を向けている。
「屑悪魔 母様達に 怒られたんじゃないの?」
悪魔が人間に敗北した。
トルコマンが今回天界に呼ばれたのは、
悪魔の剥奪ではないかと廃墟内の存在達は
予想していたが、どうも男の表情を見るに外れだ。
しかしそんな事は銀の男は気にしない。
仮に怒られたとしても、この男は笑うだろう。
「褒められたぜェ!俺様の日々の努力の賜物だァ!」
褒められた。神々に。
アッという間にトルコマンを囲う人だかりが出来上がる
「何をやったのだ?我にも教えろ!」
「お前と同じ事をすれば俺も神々に会えるのか!?」
「信じられない どうせ 屑悪魔は
怒られても 褒められた って 言う。」
銀髪の少女は認めない。
自分でも褒められた事などないのに……
寄りにも寄ってこの男が褒められる?信じられない。
銀の男は調子に乗ったように周りを宥め賺し
「落ち着けェ屑共。……人気者は辛ェなァ!
正直何で褒められたのかも分からねェ。
少しずつ解き明かして行くつもりだァ。」
「「「…………ッチ!!死ね!」」」
周りの舌打ちが同時に響く。
「まず話しを聞けよォ。俺様も母様達に罰を
与えられると思っていたからなァ。
それでも構わなかったが違ったァ。
俺様がやった事はァ上級生物を神の供物に捧げた事だァ。
しかしそれはクレッセ……そこの銀女も一緒だったァ。」
「ちゃんと 名前で 呼んで」
途中で名前を遮られたのが気に触ったのか
銀髪の女の子は頬を膨らませる。
「……ならお前も俺様を名前で呼べよォ。
クレッセントは母様達に褒められてねぇよなァ?
隠すなよォ?タダの情報共有だァ。」
「うん!ワタシが母様に言われたのは
屑悪魔に伝えた通りだよ!……ッッ!
………… 上級生物は 今回と 関与していない 筈」
「褒め言葉だがァ……面倒臭せェ奴だなァ。」
名前を呼べば喜ぶクセに平静を装う姿に多少可愛げは
感じるが……今はどうでも良い。
銀の男トルコマンは宙空に腰掛け思考を巡らせる。
ーーーーー
何故褒められた?俺様は何をやった?
可能性が高いのは魔狩人の件だ。アイツを見逃した事。
魔狩人の女を怪物に変えようとした事。
恐らく、このどちらかが神々にとって良い行いだった。
もしくはその両方が都合が良かったのか?
現に母様……生命神と癒しの女神は魔狩人に力を貸して
魔狩人の女を治癒した。母様達はこれを狙っていたのか?
しかし……この程度で褒められるか?
たまたま機嫌が良かっただけ?……絶対に違う!
機嫌が良いだけで半数もの神々から
褒められる訳がない。別の何かをやっている筈だ。
もう一方。金髪の少女。
一方的にヤラれただけだが……この件はどうだ?
普段なら有り得ない。出来損ないの烙印を押されかねなかった。
神々は金髪の少女の力を計ろうとしたのか?
無い事もないが、結局あの金髪の力はまるでわからなかった。
やはり褒められる事では無い。
しかし何か引っかかった。
神々に褒められたが一歩間違えれば……
俺様は…………罰どころか……
トルコマンが熟考している間に銀の女の子が
廃墟から僅かに指す空を見上げ
「…………! …………分かりました。 …………はい。
ワタシが 伝えます。 仰せのままに」
銀の女の子は頭を垂れる。そして静かに瞳を閉じる。
「誰からだァ?」
神々からか?アイツは気に入られているからな。
「ファティマが 死んだ 二度と転生も されない」
濁った空気が蔓延した廃墟は一気に殺気に
満ち溢れる。悪魔が殺された……悪友が……殺された。
「龍種かァ!?あの金髪かァ!!!誰に殺されたァ!?」
あの金髪は悪魔の力を殺せた。やはり存在も殺せたのか?
瞳孔を開き虚空を見定める。
これからの仇を瞳孔に焼き付ける為に。
「ファティマは 神々に粛清された
満場一致 だった もう一度 伝える
『神々の意を汲め』 伝言 終わり。」
動揺する悪魔達。トルコマンが褒められた直後に
ファティマが粛清された?逆だろう?
神々は気が……これ以上は神への侮辱。あってはならない。
「ファティマは……最後に何をやったァ?
理由が絶対にあるゥ。それを教訓にさせてもらうゥ。」
仇討ちなど最早存在しない。
悪魔達に出来る事は、散った悪魔の死を無駄にしない事。
「アイツは太陽の島の魔法使いに力を貸した。
その直後に天界に呼び出された。
魔法使いの種族は獣の亜人。相手は人間。」
「獣の亜人〜?魔狩人ォの知り合いにもいたなァ。」
繫がっている筈だ。
俺が出来て仲間が出来なかった事。
逆に俺が出来なくて悪魔がやってしまった事。
まず 魔狩人とその女。 本命だ。
この二人に手を出すのは良いが……何をすれば良い?
そもそも、生命神が直々に『手を出すな』と言ってきた。
何がキッかけか分からない内は様子見が得策。
「ビブル砂漠に居た
魔狩人ォの知り合いにちょっかいかけるのは
ハイリスク.ハイリターンだァ。一旦保留にしようぜェ。」
悪魔達は苦虫を噛み潰した顔をする。
保留……それは銀の悪魔は神に褒められたから良い。
しかし他の悪魔は違う。
自分も褒められたい。自分も神に見ててほしい。
その思いがトルコマンの論に素直に頷けない。
「……貴様には従えんな。我が調べてやる。
トルコマン……貴様の思考にあった人物。
暗殺依頼が来ているぞ」
「心を読んだのかァ……ついでに共有しといてくれよォ。」
フードを被った大男が白紙を突き付ける。
しかし悪魔が目を通す事で透けて見える。
この白紙に秘められた文章。想い。嫉妬。
人物までが鮮明なビジョンとなり浮かび上がる
「…………。慎重に行けよォ。その金髪はァ……マジで強ぇぞォ。
暇潰しの依頼は遂行する必要はねェ。
とにかく死ぬなよォ。ヴィジャ!」
「ワタシも その金髪 見るだけ 見てみる。
やるのは 全部 デカブツ」
銀髪の女の子が自身の4倍もあろうかという大男の隣に立つ。
「我はまず情報を集める。ファティマの死因と
神々の満足のいく過程の詳細。
その為なら……消滅など恐れぬ!」
銀の女の子は大男を見上げ忌々しげな瞳を向け
「………… ヴァイス王国は ワタシの 管轄。
あまり 好き勝手 しないでね。」
無表情に言葉をつげる。
大男は液体となり廃墟に染み込むように溶けていく。
トルコマンは白紙に指を向け
ボッ 紙は青黒い炎を上げ 一瞬で灰に帰す。
「せっかく楽しくなりそうな依頼だったのになァ……」
名残惜しそうに依頼内容を考える。
悪魔の斡旋所。
悪魔を崇拝する種族が作った裏の稼業。
そこに本物の悪魔が何体も紛れている。
理由は勿論…………暇だからだ。
自分だったらどうやって最悪の結末にしてやれただろうかと。
人間は面白い。仲間同士殺し合う。
家族だろうと……姉妹だろうと……関係ない
悪魔にとって最高の種族だった筈が
今は悪魔が玩具にされている。
自ら玩具になろうとしている。
〈対象者 メアリー.ヴァイス 王女の暗殺。※遺体必須
報酬は希望の額をお支払いします。〉
「……。クレッセント!この依頼はやめとけェ。
代わりに俺様が望みを叶えてやるって言っとけェ!」
「望みって何?お金かな?あの姫お金好きそうだし。
……会うの 面倒。 あの守銭奴 好きじゃない」
銀の悪魔は立ち上がる。笑みは歪。酸の涎を下垂らせ。
「戦争だァ!少し早いが構わねぇだろォ。
妹なんかにかまけて無ぇで
南のトカゲの種族と殺し合ってろォ!」




