第39話 アブソーブ
南の国境を通過しアサミ リア マリーの3人は
南の国の象徴とも言えるビルブ砂漠を通過していた。
ザシュ ザシュ ザシュ ザシュ
体重をのせ砂漠を歩く。一歩一歩が重く
平原を歩くよりも確実に体力を奪われる。
加えてこの照り返す太陽。
生命の息吹を感じさせない灼熱の大地。
その地を3人はひたすら歩き続ける。
「…………」「…………」「…………」
無言で歩き続けるリアとマリー。
アサミだけはキョロキョロと見渡す限りの砂漠から
何かを見つけようと神経を張り巡らせる。
「あっ!」何かを見つけたアサミは
ザシュザシュと砂をかき上げ遠くへ走ってしまった。
マリーとリアの目が合う。そして心が通じ合う。
「……ゆっくり行きましょう。体力の消耗は避けた方が良いです。」
「……ごめんなさい。私が休憩ばかり申し出てしまって」
「マリーさんから言わなければ私が言ってますよ。
アサミさんは特別……別格ですね。」
二人は見つめ笑い合う。
そして少女の足跡を頼りにゆったりとしたペースで
途方も無い砂漠を歩き続ける。
………………
「……木が生えてますね。あれは……オアシスでしょうか?
あそこで長い休憩を取りましょう。アサミさんも疲れてる筈……」
疲れてない気がする。
休憩と言う言葉にマリーさんの表情が明るくなる。
本当はかなり疲れている筈なのに。
健気に隠そうとしているが、私から見たらバレている。
マリーさんは心肺がかなり弱い。
多分長い期間廃屋で生活していたからだろう。
目に見える希望に向かい足を踏み出す。
力強く一歩……また一歩と。
流石にアサミさん……オアシスで待っててくれてますよね?
一抹の不安がよぎる。だがそれは杞憂に終わり。
「この水。そのままでも飲めるみたいだよ〜!」
助かった……水は命の源。こんな砂漠では死に繋がる。
直接オアシスに口を浸けて飲む私に対して
コポコポと山羊皮で作られた水筒に入れて。
口に水を含むマリーさん。
育ちの違いだろうか?煮沸消毒しなくても飲むあたり、
私に品が無いだけなのだろう。
「プフゥー」
冷たい水が体の隅々まで行き渡り気力が回復していく。
アサミさんはどうやって飲むのかな?
ふと隣を見るとアサミさんは顔ごとを水につけて
ブクブク音をたてながら…………
何時からそうやってるのだろう?
少なくとも2分以上は息を吐き続けている。
吐き続けているという事は意識はある。
……ありますよね?大丈夫ですよね?
「アサミさん?……!」
声をかけた瞬間 違和感を感じる。小さな音。小さな振動
「…………」獣耳を地面に押し当てる。
オアシス近辺は草木が生えており地面の温度も低い。
砂漠でこんな事をやれば火傷してしまう。
地中から音が聞こえる。
ゴゴゴゴ 大地を揺らしながらゆっくりと確実に
こちらに向かって来る。
「マリーさん!アサミさん!何か来ます!」
「え?は……はい!」「ブクブクブクブク」
ズザザァァ 砂漠を蹴り上げ全長……解らない。
見えているだけで50メートルを超えた巨体なミミズ……
瞳など無く牙も無い
あるのは直径10メートルにもなる巨大な口。
飲み込まれれば。怪物の胃酸により溶かされる。
砂漠の地中に住まい。僅かな生命を己の糧とする
砂漠の怪物 サンドワーム
アサミさんが気付いてない!
「アサミさん顔を上げて下さい!」
少女の身体を強引に引き起こした瞬間。
バシャァァン 大きな水飛沫をあげ
暗闇が訪れた。
流される。水と一緒に少女とともに。
幾重にもカーブを描き抵抗する間も無く
ドロンと目的地へと流される。
「……飲まれた?不味いです!」
「リア様!アサミ様!ご無事ですか?
ここは何処なのでしょうか?何か嫌な感じがしますわ。」
マリーさんも一緒に飲まれたのか……
「多分サンドワームの体内です。
速く逃げなければ私達は溶かされます。」
私の焦りにアサミさんが気付き
「ん〜?届くかな〜?」
指を暗闇に掲げ小さく円を描く
「一周〜目〜!」
暗闇で描いた円は光を放つことは無く
「……届かないみたいだね〜」
アサミさんでも無理なのか!?
私は短剣を抜き手首を傷つける。
記す。結界を速く!速く!
魔導書を開く時間も無い!間違えなければ良い!
魔法陣を描く為に怪物の体内に指をつける。
ジュウゥ 「ッッツ!アッ!」
皮膚が……溶けている。
不味い不味い不味い不味い!
アサミさんはキョロキョロと見渡している。
焦りは無いようだ。マリーさんはガダガタと震えている。
私はどうだ?冷静なのか?焦ってはいけない。
どんな時でも常に可能性を追い求める。
可能性がある限り焦る必要など無い。
「フゥーーー」全ての酸素を吐き出す。
「スゥーーー」新鮮とは言い難い淀んだ酸素を取り入れる。
ここは怪物の体内。駆け巡るは自然の恵みでは無く。
怪物の謀略。文字通り腹の中。
靴はまだ溶けていない。徐々にだが薄くなっている。
皮膚だと怪物の胃酸でもたない。
いずれ靴を溶かし皮膚を溶かし肉を……骨を……
バッグの中には…………食料と、
小瓶に詰めた僅かに残った《神酒》ではなくなった物。
……先生の人形達。古代遺物。
替えの服と下着……髪と筆……後は変なドングリ。
最後にお金。
「……大丈夫です先生。可能性があるのなら
それは簡単な事なんですよね?」
魔導書を破る。先日までは空白だったページ。
いつか私が完璧な状態にして誰かに残すべき……記すべき1ページ。
替えの服で両手を厚く包む。
「マリーさん!アサミさん!
この龍を私の血でなぞって下さい!速く!」
アサミさんに手渡し
「は……はい!」マリーさんが私の手首の血を
白と黒で書かれたページを赤く染め上げる。
私は怪物の体内に両手を沈める。
ジュウゥ ジュウゥ 私の衣服を溶かすが
まだ皮膚までは到達していない。
到達する事は無い。その前に私達は消える。
無理矢理過去に飛んでやる!
その為の魔力は十分にあるじゃないか!?
何百年前から生きているのか?
何千何万と生命を奪い続けたサンドワーム。
その魔力を……生命の源を…腹の中から
吸い尽くしてやる
神の力を借りる術士
それに対して《魔法使い》は決定的に違う。
魔法使いは自分を含めた他者の力を
使う 奪う 支配する
absorb
「魔源吸収」




