第40話 種族の頂点
「absorb!」
リアは魔法を唱える。理解出来ない発音と言語。
マリーが生きてきて18年間。聞いた事の無い言葉。
「…………。」
似たような発音をアサミは聞いた事があった。
しかしアサミでは理解出来ない。
リアの傷口からドス黒い濃霧が流入していく。
次第にリアの身体から獣の体毛が生まれ。
獣の特徴は、耳だけである筈のリアは
全身を獣…………いや 魔獣と化し
「カミヲハヤク!」
魔獣が手を向ける。目は血走り口からは涎を滴らせ。
「は……はい……リア様?あの……大丈……」
「ハヤク!」
恐怖に陥るマリーから無理矢理奪い取った1ページ。
その紙を握り潰し。
「ワタシニ ツカマッテ!」
マリーとアサミがリアの体にしがみつく。
「リアちゃん!しっかしして!」
アサミが魔獣を心配するように抱きしめる。
「リア様……リア様……。」
マリーも同様に魔獣を包み込むように抱きしめ
「ァァァァアアああ!」
怪物の体内に残されたのは。リアの僅かな血液。
奪われたのは……百年以上培った大量の魔力。
………………
ドザ ザシュ スタ
3人は空中に放り出され
マリーが尻もちをつき、リアは手を着き着地。
アサミはフワリと地面に足をつける。
ブシュブシュ
「リア様!?何をなさってるんですの!?」
リアの異常な行動に臀部の痛みも忘れリアに駆け寄る。
「怪物の魔力を外に出してます。このままだと私は……」
説明しながらも左腕を切り刻み。
大地を鮮血で滲ませる。
「…………粗方出し尽くしましたかね。」
一息ついたようにリアは自身の腕を包帯で巻き始める。
「リアちゃん。ちょっと待って。」
アサミがリアの傷を軽く触れる。
暖かな光がリアを優しく照らし……
「消毒!これぐらいしか出来ないけど……ごめんね。」
「アサミさん。いえ。ありがとうございます。」
緑溢れるオアシスの前で3人は腰を下ろす。
………………
…………………………
リアが額を抑えながら顔を下げる。
「〜〜つ」頭が痛い。
アレ程大型の怪物の魔力を自身に収め。
循環させる事無く放出したんだ。時間が無いとはいえ。
失敗を考えたら恐ろしい。
もし魔力を吸収出来無ければ……
それは死ぬだけだ。凄く嫌だけど……仕方無い。
恐ろしいのはもう一つ。
もし放出しきれなければ……私は……亜人ではなくなる。
現状をアサミさん達に説明しなくては。
「スイマセン。非常事態だったので怪物の魔力を使い。
過去へ飛んでみましたが……戻る方法が完全にありません。
魔力もありませんし紋様の写筆も消失しました。」
廃屋の紋様。全く解析していなかったが、
あれでよく発動した物だ。案外難しい方陣じゃないのかな?
でももう覚えていない。見様見真似なら出来るが、
細かい場所が絶対に間違っている。
方陣の間違えは魔法使いにとって致命傷だ。
先生は普通は一度描けば忘れないと言っていたから……
私は余程才能が無かったのだろう。
先生と離れて もう3年も経過すると言うのに、
未だに魔導書を手放せないどころか、
私が理解しやすいように……発動しやすいようにと
アレンジまでにしてくれた。
先生の力に頼った半人前の魔法使い。
私が沈んだ表情をしていると、
「リアちゃん。《うぃうおうざわ〜ど》って解る?
さっきリアちゃんのような喋り方だったんだけど……」
「うぃうおうざわ〜ど?ウィウオウザワード……
ひょっとして《the will of the world》ですか?」
アサミさんにも理解しやすいようにゆっくりと発音してみる。
「そう!それ!多分そんなだった!」
アサミさんが私に顔を近付けて来る。
その瞳は希望に満ち溢れ私に、期待の眼差しを向ける。
「《世界の意志》という魔法ですけど私には……
と言うか、この世界にその魔法を使える人はいません。
深淵。現世。天界。参界の想いを全てを
自分の力に変換出来るという事ですが……
神の領域。いえ。神を含めた全ての存在の想いを聞ける時点で
神を越えてますね。だから誰も不可能だと思いますよ?」
あれは空想 妄想魔法だ。自分の想像を具現化出来たら
どんなに、素晴らしいだろうか?
最初に考えられた魔法にして誰も到達できない領域。
可能性など無い。他の未達成魔法の方が遥かに簡単だ。
《時間旅行》も《死者復活》も完全ではないが、
まがい物なら用意出来る。
《世界の意志》は1%すらも用意出来ていない。
ゴッドハンドと、呼ばれた人物がいずれ達成するのだろう。
そのゴッドハンドですら神歴では一人も誕生していない。
私には全く関係ない……関係ない魔法のはず……
「あたしはその魔法を使いたいの。
魔法は1つも出来ないけど……あれを使いたい。」
確かな意志を秘めた瞳。
少女にも出来ない事など当たり前に存在する。
願いだけでは辿り着けない境地がある。
少女はニッコリと笑う。
「1回戻ろっか!?
この時代は色々危ないみたいだから。」
「アサミ様はこの時代がいつなのか解るのですか?」
「……現代よりも百九年昔。人間と亜人が最も死んだ年代ダ。」
「貴方は、アカリ様?それに英雄……戦鬼が存在した年代ですか?」
751年。最悪の年。災厄の年代。
「……亜の娘に酒娘ヨ。次に我が目覚めるまでには
用意しておけヨ?我を満足させる物ヲ。」
少女は砂漠に手足を着き、
それは四足歩行の生物を彷彿とさせる。
少女は頭を遥か空に向け 集める
キイイィィン 自身の力を全て集め
周囲一帯の力すらも自身の力とし
少女の口は砲口と化し目標など無い遥か上空に向けて
音無き閃光を 打ち放つ
「龍の息吹」
上空に打ち放たれた極限の閃光。
周囲の力。光さえも奪うその力は空を削り。
空間を喰らい。時間という概念すらも破壊しつくす。
宙空に破壊された事で出現した
大穴を見つめフラフラと足を運ぶ少女
「元の世界へ戻るゾ。この様な子供騙シ……すぐに修正されル」
「は……はい!…………リア様?速く行きませんと……」
「…………はい…………行きます。すぐに……」
マリーとリアも大穴へと足を運び踏み入れる。
この時代に留まる危険を考えれば
すぐに元の時代に戻れるのは奇跡だ。
運が悪ければ出会っていた。最悪の人間に。
そして出会っていたら殺されていた。最悪の人間に。
そしてもう一つの奇跡。
少女の口から放たれた咆哮。圧倒的な力の射出。
そしてその寸前少女が放った言葉。
龍の息吹。龍だけが使える事を許可された絶対の力。
全種族の頂点に君臨する最大の理由。
天使と悪魔すら屠る事を許された 存在に対する攻撃。
世界にすらダメージを負わせる一撃。
それを……この少女が放った。紛れも無くそれは、
この少女は龍である事の証明に他ならない。
人間である筈の少女が……




