第118話 交渉
「……痛い…………。なに?この格好……。」
「起きたッスか?変な体勢で寝るからッスよ。」
アサミはゆっくりと身体を起こしならが
ゴシゴシと瞼を擦る。
「ゴンちゃん……また変な格好で寝て…………。」
ブツブツと独り言のように文句を言いながら、
ベッドから立ち上がり軽く屈伸を始め
歪んだ骨を正し始める。
「……龍神様って二重人格ッスか?
チョクチョク喋り方とか声質とか
魂の形まで変わりますね。」
「…………。うん。ゴンちゃん。
あたしが生まれた時から一緒に居てくれるの。」
ニーチェは興味深そうに聞きつつ珈琲を口に含む。
「この場合ってどちらに報告すればいいんスか?
龍神様ッスか?それとも龍神様ッスか?」
ニーチェが言いたい事はアサミか、
今は姿を見せていない龍神の事なのだろうが、
ニーチェにとってはどちらの存在も龍神に変わりはない。なので間違いとも言いきれないが、
「あたしに教えて!なにかわかった!?」
アサミは駆け寄りニーチェに顔を近づける。
ニーチェは手元の資料をパラパラとめくり
「昨日の今日なんでまだまだ経過ッスけど……
ジュウ?に関してはヴァイス王国に使者を送りました。
古代遺物の可能性が高いので
こちらからも交換材料を差し出しますます。」
歴史的価値ある代物である古代遺物に匹敵する対価。
金銭で済む場合もある。
友好を示す為に無償で贈られる事もあるかも知れない。
「こちらは一年間ヴァイス王国を侵略しない。
……停戦ってヤツッスね。
ジュウって名の古代遺物を持ってるなら
間違いなく飲むと思いますよよ。」
「……持ってて拒否したら?」
当然その可能性はある。古代遺物と言ってもピンキリだ。観賞用の品から実用……軍用に使える品まで。
ニーチェは資料をめくり僅かに下唇を噛み
「そりゃあもうヤッちまいますます。
隠してる可能性もあるんで
人間は無闇には殺せないですし、
焼き払う事も無理ッスけど……
村や町を見せしめで破壊するぐらいはしますます。」
「そっか……迷惑かけちゃってるよね?」
アサミは申し訳なさそうに顔を伏せる。
「別にいいんじゃないッスか?
竜王様はヤル気マンマンッスよ!
どの道、悪魔教徒を連行する算段もつけてるんで
戦争は避けられないッス。」
「どうやって探すの?
あたしも探したけど全然見つからなくて
……ゴンちゃんに聞いても知らないって言ってたから……。」
「それなんスけどけど、
龍神様はどの悪魔教徒を探してるんスか?
…………ハァ……。
8位の教徒なら南の王国でも
把握出来てますけどけど……」
少し歯切れの悪い言い方のニーチェとは裏腹に
アサミは唇に指を当てて天井を見上げ微笑を浮かべた。
「とりあえず……その場所教えて!殺してくるから!」
獲物を見つけた猟犬のように目を輝かせるアサミ。
ニーチェは大量の資料をテーブルに置き
アサミに向き直る。
「龍神様……わかってると思いますけど
全部は不可能ッスよ。
悪魔教徒を全滅させるって事は……。」
ニーチェが全てを言い終える前に
アサミはコクンと小さく頷いた。
アサミもわかっている。
悪魔教徒を全滅させるという事は……
「ゴンちゃんが言ってた。
人間を根絶やしにしないといけないって……。」
「そッス。そして人間を根絶やしにするのは
いくら龍神様でも不可能ですです。
アイツ等は男女一組でもいれば
ある程度の繁栄を神によって約束されてますからね。
だから弱くても絶滅しないッスから……
完全に神様達のお気に入りッスね。」
ニーチェは改めて資料にザッと目を通し
テーブルに放り投げた。
軽い目眩を抑えるように眉間に力をいれ。
「……なんであっしがこんな役なんスか……
スッゲェ嫌ッス。ゲロゲロ吐きそうッス……。
はぁ……龍神様ぁ……ぶっちゃけ……
悪魔教徒潰すの止めませんか?」
「は?」
アサミが殺気を帯びた瞳をニーチェに向ける。
ニーチェは決して瞳を見ないように下を向きながら
両手を前に差し出し
「いや!当然ッス!龍神様のお怒りは当然ッス!
言い辛いンスけどけど、
南の王国近辺の村で
八位の悪魔教徒に力を貸してる人がいて……
王国もそれを黙認……ぶっちゃけ容認してますます!」
「どこなの?殺してくるから。」
アサミは立ち上がりニーチェを見下ろしている。
必要な情報だけを吐けと、目で語っている。
「龍神様にはくだらない事と思いますが……
今研究してる魔法が実用段階に入ってます。
上手く行けば可能なんです。
時間旅行が。」
その言葉にアサミの思考がプツリと切れた。
どれぐらい昔……最近……それすらも思い出せない。
アサミの家出に同行していた亜人の女性。名前…………たしか……リア。
そう。彼女が言っていた。
過去へ行く為の紋様。
その手掛かりが南の王国にあると。
そもそも過去改変が目的で自分は島から出たのだ。
今更ながら自分のもう彼方へ忘れ去った目的を思い出す。
「時間旅行……リアちゃんが言ってた気がする……。それが出来れば好きな過去へ行けたりするの?」
アサミの瞳に希望が宿る。
過去へ行ければ……過去へ行って姉の仇を殺せば……
姉は……大好きな姉は……死なずに……
「……まだ実験中らしいですです。
世界各地に存在する
起動陣を把握してデータをとってますが
……目的の時間軸に辿り着いた事は無いそうですです。
戻ってこれた例も片手で数えるくらい……。」




