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蛇足の話:お見合い編 06 「館のやり方」

本当は書き溜めながら投稿していこうと思っていたのですが、油断していたら書き溜めが無くなってしまいました。今週これから頑張らねば……しかし……暑くてヤル気が……。

そんな泣き言はともかく。


ルサがゲーエルーに、(ある意味で)交際を申し込む話……になっているはず……。

決して、交際と書いて決闘と読むなんてことは……。

01.ルサの決意


「先日、ちょっとした経験(注:ルサたちは知らないが、ゲーエルーとマスターとの決闘)をしてな」

 ゲーエルーは表情を明るくしながら言った。

「あの状況で姉御を連れて逃げ出すには、やはり勇者の首を落とさなくては無理だと確信した。今のオレは当時よりも強い。それこそ、ヤツと何号でも撃ち合えるほどになった。撃ち合って、撃ち合って、だが、そうやって時間を稼ぐのが精一杯だと言うこともわかった。やつとは撃ち合えるが勝つには至らない……いや、時間を稼いだすえ最終的にはオレの首が落ちる。姉御を逃すことは出来るだろう。しかし、姉御独りではあの状況を生き延びるのは不可能だ。あの中で、生き延びられる実力を持った仲間……例えばチェーリあたりに託すしかない」

「チェーリ……? 氷の種族の術師でしたっけ」

「ああ。性格に問題はあるやつだったが、実力だけはピカイチだった。だが、そのチェーリと姉御がその後に下の大地で逃避行をするなんて、想像するだに業腹だ。やはりオレは勇者に勝たなくてはならないんだよ」

「……やけに具体的ですね。何があったんです……?」

「ちょっとした事だよ。まあ、最近、そういう確信を得たんだ」

「ここ数日、鍛錬に熱が入っていたのは見ていました。それこそ、口出しできるような雰囲気ではありませんでしたが。ハクちゃんもよく近づけるものだと思いましたけど、まあ、流石に付き合いが長いからでしょうか。」

 それとも……と、ルサは言葉を続ける。

「それとも、ミティシェーリの記憶や想いを共有しているから?」

 ルサの問いに、ゲーエルーはただ微笑んで答えなかった。

 ルサは軽く笑いながら肩をすくめ、そして表情を改めた。

「まあ、いいです。それはともかく、私も今、一つの確信を得ました」

「ほう……それは?」

「護っていても、欲しいものは手に入らないということです」

「そうかもしれん。オレも護りに特化したスタイルだったから失ったものも多かった。まあ、今更それは変えられんが」

「ゲーエルーさんと違って、私はもともと攻撃が得意なんです」

 にっこりとした笑顔で、ルサは言った。

「だから、攻めに転ずることにします」



02.館のやり方


「そうなんだろうな。砦跡でキキさんに聞いた「先輩」の話や、噂に聞く山河の義勇軍のリーダーの性格は、即断即決を旨とする果断なリーダーのそれだ。攻めをもって護りとする、そういうタイプだ」

 オレとは反対だな、と、ゲーエルーは付け加えた。

「義勇軍のリーダーには、よく方針を変える割りといきあたりばったりなタイプという印象もあったが……」


 ゲーエルーのつぶやきに、ドアの外ではキキさんとモコがうんうんと頷いていた。

(そうそう。先輩は判断は速いけど、失敗と思ったときの見切りも速い)

(ですねぇ。ある意味では指揮官としては心強い資質でもありますけどぉ)


「この館に来て、ルサさんがその「先輩」であり、義勇軍リーダーだと知って少し驚いた。大人しすぎて、聞いていたイメージに合わないと」

「キキが私のことをどう言っていたのかは分かりませんが……」

 苦笑しながら、ルサが答える。

「義勇軍は優秀な手駒が育ちましたが、絶対的に人数が少なかったので一つの方針に固執してしまうとジリ貧になることも多かったんですよ。状況に応じて、臨機応変な対応が求められていたんです」

 懐かしそうな眼をして、ルサは言う。

「それに、義勇軍の仲間には長期的な計画を立てるのが得意な参謀もいました。私もそれに随分と学んだつもりですよ」


(……!! 先輩が長期的計画を……!?)

(あのぉキキ先輩……? それは流石に驚き過ぎでは……? いくらなんでもルサ先輩に失礼ですよぉ?)


「ゲーエルーさんの前で猫を被っていたのも事実です。嫌われたくなかったので。それが、事前にあった私のイメージとの違いになったんだと思います」

 少し照れながら言うルサに、ゲーエルーは応じた。

「それで、猫の皮を脱いで攻めに転ずるとは、具体的にはどうするつもりだ?」

「そうですね。ゲーエルーさんにこの館のやり方を押し付けようかと」

「館のやり方?」

「この館を拠点としていた冒険者時代。リーダーが中心でしたが、私は最古参としてサブリーダーの役割を務めていました。しかし、後輩たちは……まあキキやモコを見ても分かる通り、とにかくクセの強いタイプばかりで……」


(ルサ先輩、あんなことを言ってますけど、自分が一番クセ強いですよねぇ?)

 モコのつぶやきに、キキさんはただジト目で彼女を見返した。その眼は、一番クセが強かったのはお前だと雄弁に語っていた。


「揉め事なんてしょっちゅうでした。その際に仲介して裁定するのは、基本的には私の役目で。でも、まあどちらの言い分を認めても別にどっちでもいいようなイザコザも多く……」

 ルサは昔を懐かしむように一息ついてから、言葉を続けた。

「そういう場合は、一騎打ちで白黒つけさせていたんです」



03.一人勝ち


「それが館のやり方でした」

「それはまた……随分と乱暴な」

 そう言うゲーエルーは、しかしニヤニヤと口元をほころばせている。その「乱暴なやり方」は、むしろゲーエルーの好みにあっているようだった。

 苦笑しながらルサは答えた。

「キキあたりは、頭の悪いやり方だと言います。実際、問題が複雑でこの方法が適さない案件と判断した場合は、リーダーや他のメンバーを含めて協議して、時間を掛けて解決することもありました」

 ルサは何かを思い出したのか、懐かしそうな表情を見せ、改めて口元を引き締めた。

「しかし、仲間内のイザコザを即座に解決できるという意味では、一騎打ちも有効なシステムではあったんです。魔物の討伐やダンジョン探索をする冒険者として腕を磨くという意味もありました。もっとも、お互いに信頼があって後に引きずらないという暗黙の了解があって、かつ皆が実力伯仲で、一人勝ちも一人負けも殆どなかったからこそ可能だった面もありますが」

「ふむ……聞きたいのだが、殆ど……ということは、そうではない場合もあった……?」

「私がいましたから。私も欲しい物があったときや、譲れないことがあったときには一騎打ちに臨みましたが、それは本当に差し迫った時だけにしていました」


(嘘だ! ルサ先輩、結構頻繁に一騎打ちで欲しい物をかっさらっていってました!)

(ですですぅ! 私も何度も泣かされてましたぁ!)

 ドアの外では後輩たち二人が目をむいていたが……それとは関係なくルサとゲーエルーの会話が進む。


「それは何故?」

「不公平だったからです。私だけは、やろうと思えば一人勝ちすることも出来ましたので」



04.ルサの能力とゲーエルーの実力


 お見合い前夜に、キキさんがルサに伝えた「いざとなったら館のやり方がある」とは、まさにこの一騎打ちで言うことを聞かせるという乱暴な方法だった。

 もちろん、本来は館の外の相手に強要できるようなシステムではない。だが、この件に関してはモコもキキさんに同意している。

 二人の認識として、ゲーエルーは基本的に「脳筋」。あまりゴタゴタした複雑な取り決めを交わすよりは、むしろそのような「頭の悪い」シンプルな方法で白黒つけたほうが話は早く、かつ、そういうやり方を好み、理解もあるだろう……というのが、後輩二人の意見だった。

 ルサに語っていた過去の話を聞くに、そこまで単純な性格ではないのだろうが、しかし根っこにあるのは子供の頃の腕自慢だ。一騎打ちに乗ってくる可能性は高いと見ている。


 もちろん、館のやり方で愛の告白を強制的に受け入れさせるには、ゲーエルーに勝たねばならない。


 戦闘におけるルサのスペックは、前線での戦闘から後方支援、壁役や撹乱、敵の足止めなどをこなすバランスの取れたオールラウンダー。武器よりは魔術が得意な術師のタイプ。

 もともとが水の精霊だけに、使用するのは水の法術。 

 攻撃から防御、そして回復など幅広く使えるが、どちらかと言うと一対一よりも多数を相手にした足止めや全体攻撃が得意。

 

 攻撃手段として杖を扱う物理攻撃にも長けているが、それはアタッカーだった仲間のルギエはもちろん、キキさんの棒術にもわずかに劣るレベル。


 対するゲーエルーは、かつて冥と闇の法術と棒術を駆使したキキさんを打ち破った実力の持ち主。長い戦闘経験に裏付けられた絶対的な防御とカウンターを得意とし、ルサとの会話から、キキさんたちのパーティのアタッカーだったルギエと対峙し、その本気を引き出しながら彼女の攻撃を防ぎ切ったことも判明している。


 キキさんたちが知らないことではあるが、その戦闘力は「勇者」と互角に撃ち合えるほどの高みにある。


 普通に考えれば、ルサが不利。少なくとも、自信を持って一騎打ちに望めるような相手ではない。


 それでもなお、キキさんとモコは、ルサが初見の一騎打ちでは負けるわけがないと考えていた。




05.


 場面はドアの内側。お見合いの席に戻る。


 ゲーエルーは腕を組んだ。

「館のやり方はわかった。だがオレは外から来た客だ。その掟に従う理由は無いと思うのだが」

「そうでしょうね。しかし、それ以外に私がミティシェーリからあなたを奪う手段が思いつきません」


(ルサ先輩……そんなあけすけに言わなくても……)

(あ、ある意味、ルサ先輩らしいというかぁ……男らしい……)


「正直な話、搦手から攻めるのも苦手です。恋愛に関して、そんな手練手管を持っているわけでもないですし、そもそもそんな駆け引きをしたところで無駄でしょう?」

 腕を組んだまま黙っているゲーエルーに対し、ルサは言い募った。

「私にも……チャンスをくれませんか?」


 ゲーエルーは一つため息をつく。

「……砦跡でキキさんと手合わせをした際、さほど苦もなく彼女を取り押さえた実力が、オレにはあるぞ。それも武器だけの戦いじゃない……シャドウサーバントと棒術を併用した恐らくは本気の一撃を返しての勝利だ。あの時には、あれがメイドの業か? などとも思ったが、今では、まあ納得している……」


 ドアの外で、モコがキキさんをジト目で睨んだ。

(それ、ルサ先輩にも話していませんよねぇ?)

 キキさんが目をそらしながらしぶしぶ頷く。

(仲間にも話していないあたり、負けず嫌いは相変わらずなんですねぇキキ先輩……)


「オレは、あの時よりは多少は強くなっている。もしも一騎打ちでキキさんと互角程度の実力ならば……いや、それはそれで大したものだが、それでもその線での希望は持たない方がいい。オレは、剣を握る以上は決して手を抜くことはない」




06.


 猫を脱いだルサは、歴戦の戦士としての駆け引きも込めて、余裕の笑みを浮かべた。

「体術だけでは、私では相手にならないでしょうね。正直、私の杖術はキキの棒術に及びませんし、昔、ゲーエルーさんとやり合ったという八節の蛇腹剣の女性……その子に比べれば武器の扱いは天地の差があります」

「……それでも、勝算ありと思っているんだろう?」

「ええ。私は術師ですし、魔術を使用する以上、剣士に負けるつもりはありません」

 ゲーエルーも笑いを返す。こちらは駆け引きの意図はなく、単純にこのようなやり取りが好きなのである。

「自信家だな。だが、そういうのは嫌いではない」

「ゲーエルーさんも、放浪中に掛け試合くらはやったことがあるのでは?」

「あるある。路銀を稼ぐためにな。負けたことはない」

「では、私も掛け試合を申し込むことにします。勝ったほうが、相手に一つ言うことを聞かせる。館のルールとして、勝敗を根に持ってはいけない」

「単純でいいな。そう。オレとしても、ルサさんに再び猫かぶりさせない事を強制できるというのが良い」

 だから……とゲーエルーは続けた。

「だから、その掛け。乗った」

 ゲーエルーは言い募る。

「オレの好みとしても、猫を被っていないルサさんの方が好きだしな」

 その言葉に、ルサははっきりと顔を赤らめた。

「一騎打ちは、いつでもいい。なんとなれば、今すぐでも」

 ルサは少し考えてから答えた。

「……いいえ、明日の昼前にしましょう。私……」

 一つ深呼吸を挟む。

「私、今、少し興奮しておりますので」

 その言葉と同時に、ルサは立ち上がって振り返った。

 ドアを開けて部屋を出ると、ルサは視線を動かさずに言った。

「一騎打ちが決まった。聞いての通り、明日の昼前。悪いが中庭をいつも通りに準備しておいてくれ。……私は少し……部屋にこもる」

 幻術で光学的に姿を隠していたキキさんとモコは、何も答えられずにそのまま姿も気配も消し続けていた。

 だが、ルサの後について出てきたゲーエルーが、眼には見えていないはずの二人を指さした。

「そういうことだ。自己紹介の文を書いたり、長々と喋ったりと慣れないことをして頭が疲れたが、しかし良い場を設定してもらった。腕がなるぞ、二人には礼を言っておく」


 ルサとゲーエルーが歩き去り、視界から消えた後。

 やっとキキさんとモコはマントを脱いで姿を表し、互いに目配せして、ため息を付いた。


「なんと言いますか……」

「随分と相性が良いですねぇ……あの二人……」

次回。

キキさんのアルバイト蛇足の話:お見合い編 07 「ルサの奥の手」


2023年8月31日(木)の投稿予定になっています。

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