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35 ハナちゃんを助ける

一平くんの家は、ちょっと坂を下って山に入ったところにある。

私は知らなかったけど二人は何度も来ているそうでズンズン進んで行った。

十五分くらい歩いてお家についた。

ちょうど玄関に出ていたおばさんに手紙と折り紙を渡すとすごく喜んでくれた。

昼からずっと寝てるけど、もう熱は下がったから明日は学校にも行けると聞いて、ハナちゃんは跳びはねて喜んだ。

みんなでお辞儀をして、来た道を帰る。


ハナちゃんは私と繋いだ手を振って、るんるん嬉しそうだ。

勇次郎くんは相変わらずダ ーッと走ったり道端の花を見たり、木を見上げて虫を見つけたりと忙しい。


「よかったねー、いっぺいちゃんあしたくるって」

「ね。あ、勇次郎くん。そっちの方は危ないよ」


勇次郎くんが木が生い茂っている崖の方を見ている。


「なあに、ユウちゃん、なんかあったの?」

「あそこ、おはな」

「ほんとだ。かわいい! とってくるー!」


二人の視線の先にはピンクの可愛い花がポツンと咲いていた。

崖、と言っても山の斜面だから、山育ちの彼らはちょっと注意して降りれば行けそうな気がするのだろう。

私にはとても無理だけど。


「危ないから、やめよう? ね、早くお家に・・」

「だいじょーぶよ! だってほら、すぐそこだもん! いけるよー」


ハナちゃんが前に大きく一歩を踏み出した時、一瞬の出来事だった。

足元の大きな石が音もなく崩れ、ハナちゃんの姿ががくんと下に消えた。

「ッ、ハナちゃんっ!」

手を伸ばしても届くはずがない。

隣にいる勇次郎くんが身を乗り出そうとするのを咄嗟に抑えた。


「ダメっ! 勇次郎くんっ! 落ちちゃう!」


真っ青な顔で呆然としている勇次郎くんの肩をがしっと掴む。


「勇次郎くん、私がハナちゃんを助けるから!

勇次郎くんは一平くんのおばさんに言って来て! お願い」


勇次郎くんはくちびるを噛み締めて大きく頷くと、背を向けて、ダっと走った。

私も、ハナちゃんが落ちた場所を見下ろす。けど、ここからじゃ何も分からない。

思い切って、斜面を滑り降りた。

思ったよりずっと足場は悪くて、転がり落ちてしまう。

あたりを見回しても岩と木の枝が邪魔で、ハナちゃんがどこにいるのか見つからない。

腕で左右から生い茂る草木を掻き分けて何度も「ハナちゃん!」と叫んだ。

返事はない。

最悪の事態を考えると、足がガクガク震える。

どうしよう、どうしよう、どうしよう・・!

夢中で叫んで、回りを探す。


「ハナちゃんっ! ・・ハナちゃんっ!」


背の高い草の透き間に、ピンク色が見えた。

ハナちゃんだ!

小さな体は大きな木に埋もれるように包まれている。

抱きかかえて全身を確かめて見る。大きなケガはないみたいでほっとした。


「ハナちゃん」


ぎゅうっとだきしめると、ハナちゃんが眉をしかめて目を開ける。


「・・・まなみぃー」


よかった。

体中の力が抜けて、ハナちゃんを抱き締めたままその場にしゃがみ込んだ。


「ごめんね、こんな思いさせて・・。怖かったね、ごめんね」

かわいい顔や細い腕のところどころ擦りむいて 血がにじんでいる。


「早く、山城先生に、ケガ、みてもらおうね」

もう一度全身の力を振り絞って抱き上げて、立ち上がる。

目に何か入ったの、視界がぼやけてよく見えない。

一足ごとにズキリと痛む。早く、助けを呼ばないといけないのに。


「だれかーっ! たすけてー!」


何度も、何度も声を張り上げた。

うまく動かせない片足を引きずって歩く。

誰か、 と叫びながらも、頭に浮かぶのはユウくんの顔だけだ。


「ユウくん、たすけて・・」

そう小さく呟いた時、上の方でザワザワと人の声が聞こえた。

私は「ここです! たすけて!」ともう 一度、声を振り絞った。


「まなみちゃんっ! ハナちゃん!」 聞き慣れた声。ユウくんだ。

かすむ視界に、上から降りてくる人影が見える。

もう、だいじょうぶだ、そう思った瞬間、ふっと意識が途切れた。


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