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大嫌いな先生のお試し妻になったら、謎に甘い生活が待っていました  作者: 遊井そわ香
第三章 砂漠の皇子の求婚は波乱のはじまり
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先生は実は数学勇者なのです!

 わたしは五組の教室から椅子を持ってくると、生徒たちが集まっている掲示板前に陣取った。

 椅子の上に立ち、力説する。

 

「みんな、よく聞いて!! ユガリノス先生は変身しました。外見がかっこよくなって、服装もオシャレになりました。でも中身は変わっていない。陰険で嫌味で潔癖症で口うるさくて難しい試験を出すのが大好きで人間嫌い、特に女性が大嫌いな男のままです。だからみんな、かっこいいとか騒いじゃダメ!!」

「でもさぁ、ノアナ」


 一番前にいるルーチェが不満げな声を出した。


「教師がかっこよくなるのっていいことじゃん。学校に来る楽しみができるし。ユガリノス先生ファンクラブを作ろうかな」

「ファンクラブなんて絶対にダメっ!! 性格は激しく悪いままだから、騙されちゃダメだよ! 話しかけないほうがいい。見るのも近づくのもやめたほうがいい」


 学年一の才女、フランソワが手を上げた。知的な眼鏡の奥にある賢そうな瞳が、わたしを見つめる。


「ひとつ疑問があるのですが、よろしいでしょうか? ユガリノス先生が着用しているスーツは、世界的に有名なデザイナーのものです。ユガリノスグループの直営店である、セレブ御用達の最高級ブティックでしか販売していません。教師の給料で、そのようなスーツを購入するのはおかしいです」

「どういうこと?」 

「宝くじにでも当たったのか?」

 

 ざわつく生徒たち。

 わたしは心の中で地団駄を踏んだ。


(なんで先生は、マダム店長が勧めたスーツを着てきたかな⁉︎ 今までどおり、辛気臭いダボダボの黒服を着ていればよかったのに!)


 フランソワはわたしの前に出て来ると、集まっている生徒たちに向かって声を張った。


「ユガリノス先生は外見を気にしない人でした。伸ばしっぱなしのボサボサ髪。無頓着な黒服。センスのかけらもない眼鏡。それがどうでしょう。一流ファッションに身を包み、清潔感のあるサラサラストレート髪にし、眼鏡をやめた。変身を遂げたユガリノス先生は、大人の魅力あふれるかっこいい男性になりました。ここから導き出される答えは、ひとつしかありません」


 よく通る美声で推理を披露するフランソワ。両手を広げて話す様が堂々としている。

 生徒たちの全視線はフランソワに集中し、わたしはフランソワの背後にある風景と化してしまった。


(さすが才女フランソワ。天職は、名刑事、名探偵、政治家、心理分析官、交渉人だけあって、人の心を掴むのがうまい)


 フランソワが導き出した答えにドキドキする。わたしと先生がお試し結婚をしたことがバレたらどうしよう!!

 フランソワは大きな声で断言した。


「ユガリノス先生に彼女ができたのです! それも、心から愛する女性です。その女性の歓心を買うために、外見を変えたのです!」

「異議あり!! 人間嫌いで、恋愛に無関心な先生に彼女ができるわけがない!」


 四組の筋肉男子、トリコゼーノが人混みをかき分けて前に進みでた。

 トリコゼーノの天職は勇者。そのためカリスマ性があり、彼の発言は世界を動かす。

 

「ユガリノス先生は、聖剣を引き抜いたのだ! その影響で変身を遂げたに違いない!!」

「あれれ⁉︎」


 わたしは椅子の上でずっこけた。さすがは勇者脳。ブレがない。

 フランソワは腕組みをし、ふふんっと鼻で笑った。


「ユガリノス先生は、単なる数学教師。勇者ではありませんわ。聖剣説を持ち出す必要はないかと。ただし、ユガリノス先生は恋愛に無関心。私も、そう思います。だからこそ、生まれて初めて落ちた恋に身を焦がし、その女性の気を引くべく、自分を変えたのです」

「証拠は?」

「私には名探偵の素質がありますから、観察眼に優れています。ユガリノス先生の表情筋が若干柔らかくなっていました。春休み中に笑うことがあったのでしょう。それと……」


 フランソワの知的眼鏡の奥にある目が光った。


「私はこの春休み中、刑事の体験実習を行いました。本職の刑事の相棒として、建物の影に隠れながらあんぱんを食べ、犯人を見張っていました。そこで偶然、先生を見かけました。ピンク髪の女性と並んで歩いていました。女性の顔は見えませんでしたが……あの距離感は恋人のものです」


 フランソワが真面目に話しているにもかかわらず、笑いがどっと起こる。生徒たちが口々に、「堅物先生に恋人?」「あはは! それはない」「親戚の子と歩いていたんじゃないの?」と笑い流している。

 しかし、ルーチェだけは笑っていない。

 ルーチェは、わたしが先生の妻体験をしたことを知っている。だから、ピンク髪の女性がわたしであることに思い至ったはずだ。

 でもそこは友達。素知らぬふりをしてくれるはず。

 期待を込めてルーチェを見ると、ルーチェはいたずら心を忍ばせたにこやかな笑顔で、話を振ってきた。


「ねぇ、ノアナ。春休みに先生と会ったって言っていたよね。誰と街を歩いていたか知っている?」

「えっ……」


 さすが悪友。容赦ない。

 好奇心をたたえた生徒たちの視線がわたしに集中する。


「あっと、えぇと、し、しらないなぁ……」

「そういえば、ノアナも変わったよね。髪型もそうだけど、雰囲気が変わった。女性って、恋をすると綺麗になるっていうよねぇ」


 ルーチェの意地悪ーーっ!! 

 さすがは天職がクレーマー処理係。わざと空気を読まずに、自分のペースに相手を引き込む能力に長けている。

 わたしはごくりと唾を飲み込むと、両手を腰に当てた。


「トリコゼーノの推理に賛成です! 先生の外見が変わったのは、聖剣を抜いたからっ。ユガリノス先生は実は数学勇者なのです!!」


 決まった! ルーチェに勝った!

 そう思ったのに、ガラス窓を震わせるほどの大笑いが生徒たちの間から起こる。トリコゼーノも腹を抱えて笑っている。


「あははー!! ごめんごめん。聖剣説さ、冗談で言ったんだ。まさか本気にするなんて、ノアナって素直だな。冗談言ってごめんな。それにしても、数学勇者って……ぷっ! ダメだ、笑いが止まらない。あははーーっ!!」

「あ、冗談……そう……」


 フランソワが話しに入ってきた。


「ノアナさん。私も謝るわ。ユガリノス先生が恋に落ちたなんて、本気の推理ではありませんわ。ちょっとした冗談。ユガリノス先生は、人を嫌い、世を嫌い、愛を厭う、孤高の男性。おまけに潔癖症で、こだわりが強い。そんな男性が女性と愛を育むなんて、無理ですわ」

「別に無理ってことは、ないんじゃないかなぁ? なんて……」


 ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り、トリコゼーノとフランソワが踵を返した。他の生徒たちも興味を失くした様子で、続々と教室に入っていく。


 母は言っていた。

 ──ノアナは素直でかわいらしい、お母さんの天使よ。でも素直すぎて、人の話を真に受けるところがあって心配。


「お母さん。勇者の冗談を真に受けてしまいました。聖剣とか数学勇者とか心にもないことを言ってしまい、恥ずかしいです」

 


 

 

 

 


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