表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
イザベラ姫の災難
95/277

一夜

オルフェ王子はざわりと体に感じた熱に私を見下ろした。

私は一見観念したかのように目を閉じてはいるが、その顔は明らかに何かに集中しようとしている。

王子は自分を掴む私の両手が不自然に温かくなっている事に気付いた。


「…」


不敵な笑みを浮かべると構わずに私の体に手を這わせる。


「うっ…」


せっかく掴んだ魔力の流れは、一瞬で音も立てずに分散した。

私はハッと目を開いたがまたすぐに閉じた。


し、集中。

集中だ私!!


もう一度魔力の流れを具体的にイメージする。

が、その途中でまた私の体は勝手にびくりと動き、力は分散された。


なんてことだ!!

上手く集中出来ない!!

だってあちこち体撫で回すんだもん!!


「何か企んでるな」


王子は舌先で私の首筋をなぞった。

アリス姫のネックレスがしゃりと音を立てる。


「ひゃあ!!や、やめてください王子!!集中出来ないじゃないですか!!」

「ミリが集中しようとしてるのはこの熱い手先か?」

「へ…!?」


王子は私の両手を掴むと固定した。


「これは危ないな」

「お、王子!!」


私はなんとか強気で言った。


「そ、そうですよ!?このまま好き勝手してたら火傷するのは王子ですからね!!」

「それは困る」


王子はベッドに何枚も無駄に掛けられている布の一つを手繰り寄せると束ねた私の両手に巻きつけた。


「中々そそる姿だな」

「お、王子ぃ!!」


私は必死で叫んだ。


「だ、ダメなんですってば!!ほんとに!!本気で!!」

「…」

「私は黒魔女なんです!!こんなことをして王子がタダで済む保証なんて本当にないんです!!そんなことになったら…私は、私は嫌なんです!!」


王子は涙目で懇願する私を見下ろした。

ぜぃぜぃと苦しげな呼吸と共に白く丸い胸元が上下する。

王子の動きは止まり、ただ互いを見たまましばらく呼吸だけを繰り返した。

静かになった部屋に、王子の低い声がした。


「では、何故ここへ来た」

「え…」

「俺は断らせないと言ったはずだ。その上でここへ来てそんなことを言ってもどうしようもないぞ」

「それは…」

「ミリ」


王子は体を沈めるともう一度私にキスをした。


「話は終わりか?」

「うぅ…」

「それなら今度は魔力ではなくちゃんと俺に集中しろ」

「でも…!!」


言いかけた言葉は口付けで塞がれる。

なぞるように撫でる手。

翻弄される熱。

混乱する私の頭はだんだん麻痺してきた。


…なんか、なんかもう駄目かもしれない。

だって、何も考えられない。

私は目を閉じ体から力を抜いた。

その瞬間。

私の口が勝手に動いた。


「人のものに手を出すな。愚かしい人間よ」


その声は私のものではない。

見開いた瞳は緋く光る。

王子は息を飲んだ。


「…ミリ?」

「これは俺の花嫁だ」


王子は一瞬で頭を切り替えると私の首に手を回した。

目まぐるしく頭を回転させる中に、花嫁という言葉が引っかかる。


「お前は…、ミリの悪魔なのか」


私の顔はひんやりと笑みを浮かべた。


「随分冷静だな」

「充分驚いてるさ。だがこれでも黒魔女を相手にしている自覚はあるからな」

「…」


首を絞めてはいるが王子の手には力が入っていない。

私の口元は挑発的に笑った。


「もっと本気で締めろよ。今ここで殺しておかないと次は俺がお前を殺すぞ」

「…」


オルフェ王子は少し考えると低い声で言った。


「逆じゃないのか?」

「…」

「今お前は俺が何もしない限りそうやって現れても何も出来ないのでは?」


王子は手を離すと私の上から退いた。

それでも身動き一つしない私に確信を持った。


「わざわざ挑発したところを見るとミリが何らかの危機に晒されない限り自由は効かないようだな」

「…」


王子は不満げに乱れかかった自分の服に手をかけた。


「それにしても邪魔にもほどがあるぞ。さっさとミリを返せ」

「…」

「おい」


見れば私は全身に汗を流しながらもすぅすぅと眠りに落ちていた。


「…。せめて、起きて戻ってこい」

「…」

「ミリ」


隣に腰掛けそっと揺すってみる。

が、ちっとも反応はなし。

王子は仕方なく立ち上がるとタオルを手に戻ってきた。

私の流れる汗を拭うと自分が乱したナイトドレスを整え直す。


「…俺の望みは、いつもすり抜けてしまうな」


自嘲気味な笑みを浮かべると眠れる唇にそっと触れる。

それから私を抱きかかえるように包み込むとそっと自分も目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ