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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
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勝手な変更と思惑

ニヴタンディ滞在もあと二日。

私だけでなく他の側室たちも朝から城に呼ばれ足を運んでいた。


「うぅ…人がいっぱいいる…」


私が怖気付くとユセはエスコートする位置に立った。


「人はいますが、ここは町中とは違いますので大丈夫ですよ」

「でも…」

「行きましょう」

「う、うん」


私はユセの腕に手をかけて一緒に歩いた。

ユセはああ言ったが、私もネイカも辺りを充分警戒していた。

敵は町にいる他人ではないのだ。


「ミリ…」


案内されたホールに入ると、ネイカが後ろからそっと声をかけた。

見れば私に気付いた側室の姫たちがあちこちからあからさまに敵意を込めてこっちを見ていた。


「う、うわぁ」


今までもそれなりだったが、ここまで酷いのは初めてだ。

きっと前に絡んできたリヒラ姫たちの話を聞いたのだろう。


私は出来るだけ気にしない顔で部屋の隅へと寄った。

しばらく待たされた後、オルフェ王子とアリス姫、それから五人の貴族騎士が現れた。

今は姫よりも恐いのはこっちだ。

私は反射的にユセの後ろへ隠れた。

王子はざっと部屋を見回すと話を始めた。


「明日、このニヴタンディを出発する。行き先が定まったので先に伝えておこう」


静かになったホールに王子の声はよく響いた。


「明日の行き先はここから北北東に進み、ミントリオへ向かう。そこで各姫君たちの国からの使者を待ち、この旅を予定より早く打ち切ることにした」


ホール内はざわざわと騒めいた。

それはそうだろう。

本来なら最後まで一国ずつ姫たちの国を周る予定だったのだから。

王子は更に続けた。


「各国には俺自身が出向き王に姫をお返しするのが礼儀というものだが、先日不覚にもイザベラ姫が魔物の傷を負ったばかりだ。

ミントリオならばここにいる姫君たちの国から比較的訪れやすい国だ。ここは皆の身の安全を優先し解散の選択をすることにした」


ホール内はまたざわざわと大きく揺れた。

私は更にユセの背中で小さくなっていた。


いやいや、こんな所で名指しされるなんて聞いてないぞ。

ほら、ほらほらほら!!

見てよ姫たちの刺し殺しそうな視線を!!

お、王子ぃ!!


聞いてなかったのは五人の貴族騎士も同じだったようだ。

中でもリヤ・カリドは激怒して王子に詰め寄った。


「オルフェ王子!!なんの相談もなく決められては困りますな!!」

「この一週間でミントリオと連絡も取り合い各姫君の国へ事情も伝えてある。問題はない」

「そういうことではない!!」

「心配せずとも事態が落ち着けば姫たちの国にはまた改めて顔を出すと伝えてある。国同士に軋轢を残すことはないぞ」


オルフェ王子は高圧的な笑みを浮かべた。


「それとも他に何か問題でも?」

「ぐぬっ…!!」


リヤ・カリドはぎりぎりと歯ぎしりをしながら王子を睨んだ。


「…この身勝手さは、後に王に報告しますからな!!」

「どうぞご自由に。俺は自分の判断が間違っていないと確信しておりますので」

「ぐっ…このっ」


今にも胸ぐらを掴みそうなリヤ・カリドを後ろからソランが止めた。


「やめろ。皆が見てるぞ」


王子は冷たく二人を見下ろしてから姫たちに向き直った。


「ミントリオでは既に歓迎のための準備が進んでいる。滞在して三日後には町をあげて祭りまで開くらしい。おそらくそれが旅の終わりとなる」


王子は優しい笑みを浮かべた。


「姫たちにはこの場を借りて礼を言いたい。今までよく従順に俺に尽くしてくれた。こんな結果になったのは残念だが、皆のことは一人とて忘れはしない」


王子からの真摯な言葉に、姫たちは言葉を飲んだ。

それから一人、また一人とこうべを垂れる。

中には涙ぐむ姫さえいた。

王子は静まり返ったホールに背を向けるとそのまま出て行った。

王子がいなくなるとホール内はまた騒ついた。

リヤ・カリドは舌打ちをすると忌々しげに首を振った。


「くそっ。大人しくしていたかと思えばこれか!!」


ソランも同調した。


「やられたな。この一週間は休息期間でもニヴタンディをたてるためでもなかったわけだ」

「これではまた予定が丸崩れだ」

「いや…」


ソランは考えながら顎を撫でた。


「ようはオルフェをパッセロまで行かせれば良いのだろう?」

「…」

「まだ手は打てる」


低い声で話していた二人は目配せをするとすぐにホールを出て行った。

姫たちは一連の衝撃が去ると、揃って同じ行動に出た。

それすなわちイザベラ探しである。

なぜならどう考えても全ての元凶はそいつだからだ。


…だよね。

そりゃそう思うよね。

でも待て。

こっちも結構な被害者だぞ。


私はこそこそと出口に向かっていたが、もう少しで出られるというところでフリンナ姫にどんと進路を塞がれた。


「あら、イザベラ姫様。一体どちらへ?」

「うはっ、ふ、フリンナ姫…」

「わたくし、少しあなたにお話があるのですけれど」


ユセは私を背にかばいながらもフリンナ姫にきちんと礼をした。


「これはフリンナ姫。ご機嫌麗しう」

「…あら、どちら様でしたかしら?」

「インセント卿が三男、ユセと申します」

「あらそう」


フリンナ姫は邪魔くさそうに扇でユセを払った。


「今はイザベラ姫に話がありますの。邪魔はしないで頂戴」

「いえ、そういうわけには…」


暴漢ならば勇ましく立ち向かえるが姫君となると相手が悪い。

ユセはなんとか取り持とうとしたが、私の後ろから側室の姫たちがわらわらと集まってきた。


「まぁ、イザベラ姫さま。そんな所にいらっしゃったのね」

「わたくしたちも丁度お話があったのよ」

「ここではなんですから部屋を変えましょうよ」

「そうですわね」


何人もの姫と侍女たちが私を取り囲む。

私の中では王子への恨み節が湧いて溢れていた。


ちょっと見直したと思えばすぐにこれだ。

問答無用で人のこと利用してくるんだから。

あの人でなしっ。

猛獣王子!!

心の中で罵倒し続けてもこの場はちっとも収まりそうにない。

私は逃げ場もなくホールから引きずり出された。

姫たちは捕らえた獲物に楽しげに笑みを浮かべていたが、廊下に出た途端それは凍りついた。


「皆さまお揃いで、お茶会でもされるのですか?」

「あ、アリス姫!!」


声をかけてきたのはいつの間にそばまで来たのか、冷たい顔をしたアリス姫だった。

私は現れたメシアに手を伸ばした。


「あ、アリス姫ぇ」

「イザベラ姫はこの後わたくしと予定があるのですが」


フリンナ姫は忌々しそうに顔を歪めた。

いつもならここで大人しく引き下がるが、今は今後のことなど関係ない。

気を取り直して笑みを浮かべた。


「あら、アリス姫。貴女はもう側室ではないのですから口を出さないでくださらない?」


アリス姫はひたとフリンナ姫に目を合わせた。


「側室で有ろうと無かろうと関係ありません。イザベラ姫を連れて行った貴女たちが何をなさるかくらい予想はつきます。イザベラ姫を返しなさい」

「なっ…。何の権限でわたくしにそんなことを…!!」


アリス姫は今まで決して姫たちに見せなかったあの優しい笑みを浮かべた。


「イザベラ姫はわたくしの友です。これ以上の権限はありませんでしょう?」

「え…」


ユセとネイカはこの隙に私を姫たちの中から引っ張り出しアリス姫の方へ抜けた。

私はアリス姫に抱きついた。


「アリス姫!」

「ミリ…」


アリス姫は私の手を取った。


「行きましょう」

「は、はい!!」


私は嬉しくて嬉しくてなんだか泣きそうになりながらアリス姫の隣を歩いた。

残された姫たちはぽかんとその背中を見送っていた。


「あの…アリス姫が…!?」

「あんなお顔、初めて見ましたわ」

「イザベラ姫が友ですって?」

「一体いつの間にそんなことに…」

「まさかアリス姫も黒魔術に??」


フリンナ姫は苛立たしげに扇を投げ捨てた。


「やっぱりわたくし、イザベラ姫が気に入りませんわ…」

「フリンナ姫様…」

「今に…みてらっしゃい」


今ではほとんど自分に見向きもしないオルフェ王子。

身分を振りかざし、その存在だけで散々屈辱を与えてきたアリス姫。

そしてどちらにも愛されるイザベラ姫。

考えれば考えるほど、イザベラ姫が憎らしくなってきた。

フリンナ姫はふっと歪んだ笑みを浮かべた。


「ねぇ、皆さん?皆さんも正直なところイザベラ姫が疎ましくなくて?」


今までこういった言動は謹んできたフリンナ姫が言うと、他の姫たちは喜んで食いついた。


「それはもう!!」

「わたくしたち、我慢も限界ですわ!!」


口々に言うとフリンナ姫はくすくす笑った。


「そうよね。わたくしもですわ」

「フリンナ姫様!!」

「今後のイザベラ姫の為にも、彼女には制裁が必要だと思うの」

「制裁…?」


フリンナ姫は背筋を伸ばすと侍女が拾った扇をひったくった。


「それでは皆さん、どこかでお茶会でも開きましょうか」


話の続きはまた後でということだ。

姫たちは揃って意地悪く笑うとフリンナ姫を取り巻いて城を出ていった。

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