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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
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ミリの危機

私は半ばロレンツォにせっつかれる形で長い廊下を歩かされていた。

嫌な予感にどくどくと心臓が音を立てる。

大体なんでこの格好なのにイザベラ姫だって分かったんだろう…。


ロレンツォは一つの部屋の前で足を止め、扉を開いた。


「入れ」

「…ここは?」

「私の滞在している部屋だ」

「えっ!!」


い、嫌だ嫌だ!!

入りたくなんかないぞ!?

私は足を止めたがまた背中をぐっと押された。


「あ、あの…、一体何なんですか!?突然部屋連れこむなんて…!!」

「人に聞かれて困るのはお前だろう?」

「え…」


ロレンツォは冷たい眼差しで見下ろしてきた。


「お前とは一度こうして話してみたかったぞ。イザベラ姫」

「へ…?」

「…いや。お前は本当にイザベラ姫なのか?」


私の体は勝手に強張った。

ロレンツォは私を部屋に突っ込むと後ろ手で扉を閉めた。


「な、なに…」

「私は兼ねてよりイザベラ姫に疑問を持っていた。ただの粗野な姫かと思いきや調べれば調べるほど妙な点が浮かんでな」


私は逃げ場がないか部屋中に視線を巡らせたが、ロレンツォが背に塞ぐ扉以外出られる所はない。


「イザベラ姫。今から簡単な質問を三つさせてもらう」

「しし、質問?」

「なに、全く難しくないものだ。…お前が本物の北国から来たイザベラ姫だというのならな」


…やばい。

もうやばい気しかしない。


「一つ目。イザベラ姫の正式なフルネームを教えて頂こう」

「へ…!?」

「簡単な質問だろう?自分の名だ」


私は一気に全身に冷や汗をかいた。


えと、なんて言ったっけ!?

確か前にレイが…!!


「い、イザベラ・コール…」

「…」


ロレンツォは目を細めた。


「それから?」

「…」

「終わりか?一国の姫とは思えぬ短さだな」


うぅ…分かんないって!!


「では二つ目」

「うっ…」

「北国パッセロの国旗は何色だ?」


えっ!!


「どうした?自国の国旗ならば城に常時はためいてるいるだろう?複雑ならば柄までとは言わない」

「…」


知らない。

知らないってば。

ぶ、無難な色…無難な色!!


「…し」

「…」

「白?」

「国旗が白だけなはずないだろうが」

「…と」

「ん?」

「緑…だった、かなぁ?」

「…」


ここにてロレンツォの態度は更に高圧的になった。


「…三つ目。お前は北国パッセロからどのルートでスアリザへ来た?通って来た大国くらい覚えているだろう?」

「…」

「答えられんのか」


私の頭はすでに真っ白になっていた。

そんなこと聞かれるなんて今まで考えたこともない。

でも確かに私が本物のイザベラ姫なら全て答えられるはずの簡単な質問だ。


ロレンツォは完全に固まってしまった私の腕を掴んだ。

そして力任せにソファに放り込んだ。


「いたっ…」

「これで決まりだな。この偽イザベラ」


ロレンツォは腰の剣を引き抜くと私の目の前でぴたりと止めた。


「さて、これで遠慮なく尋問が出来る」

「うわはっ!?」

「とりあえずお前は何者だ?黒姫と噂される黒魔術の正体とは一体なんなのだ?」


私は身をよじったがロレンツォは容赦なく剣を押し付けた。


「いいか。王族を騙るだけでも重罪だ。私の剣を穢れた女の血で汚すのは本意ではないがお前がこのまま質問を拒否するというのなら致し方あるまい」


ど、どうしたらいい!?

この人なら私が黒魔女と知ればどっちにしても斬り殺しそうだし!!

冷や汗をかきながら黙り込んでいると、ロレンツォは無情にも私の首に押し当てた剣に力を込めた。


「…痛い目を見なければその口は開かないようだな。これは罪人への拷問だ。容赦はせん」

「や、やめて…!!」


ロレンツォは見せつけるように剣を振り上げた。

私は恐怖のあまり無意識に悲鳴を上げていた。


「だ、誰かぁああ!!」


部屋に金切り声が響くと同時に荒々しく音を立てて扉が開いた。


「ロレンツォ!!何をしている!?」


血相を変えて飛び込んで来たのはあの無口な貴族騎士だった。

ソファで怯えながら震える私と剣を持つロレンツォを交互に見ると、ツカツカとロレンツォに詰め寄った。


「他国の城内で侍女を斬り捨てるなど言語道断の大問題だぞ!!」


ロレンツォは今にも舌打ちしそうな顔で剣を下ろした。


「カウレイ殿、これはただの曲者です」

「…曲者?」

「この顔をよく見てください。こんななりですが、これはイザベラ姫です」


カウレイは私を見ると眉を寄せた。


「こ、これは…確かにイザベラ姫。なぜこのような姿に?いや、それよりもイザベラ姫だというのなら剣を向けるなど尚更大問題ではないか」

「正確にはイザベラ姫のふりをずっとし続けていたどこぞの者です。こいつは自国の旗どころか自分の正式名称ですら答えられませんでしたからね」


カウレイはあまりの事に信じられないと首を振った。


「…な、なんという事だ。それではスアリザの深部にどこぞの間者が入り込んでいたということか!?」

「そうなりますね」


カウレイはいかつい顔を更に厳しくして私に向き直った。


「…お前はどこの国の者だ?よくぞオルフェ王子を騙し抜いたものだ」


ロレンツォは腕を組むと冷酷な笑みを刻んだ。


「いや、これは案外オルフェとこいつはグルなんじゃないですかね。…となるとイザベラ姫とオルフェが魔物に襲われた事件は自演で、シウレ姫が殺されたのは本当にオルフェが誰かにやらせたのかもな」

「何!?」


ロレンツォは気色ばむカウレイに低く笑った。


「…まぁ、真相はどうでもいいですがね。どうせこの旅が終わればそうなる」

「喋りすぎだぞロレンツォ」


カウレイは青い顔をしたままの私を横目で見た。

ロレンツォは私に向き直った。


「偽イザベラはここで消すから問題ない」

「いや、ここで殺せば逆にこれが偽物だという証拠がなくなる」


カウレイは私に近づくと手を掴み引きずり立たせた。


「とりあえず縛り上げて閉じ込めておく。それからオルフェ王子と密かに話し合いの場を設け事の次第を問い詰めよう」


カウレイとロレンツォが私をどこに閉じ込めようかと部屋の奥を見た瞬間、私は動いた。


「えい!!」

「ぐ!?」


カウレイは急に手に痺れるような衝撃を感じ私を離した。

私はすかさず開きっぱなしの扉をめがけて走り、廊下に転がり出た。


「カウレイ殿!?」

「な、何だ!?急に手がしびれて…!!」

「イザベラ!!」


二人は私の後を追ったが、ずっと逃げ出す機会を伺っていた私は迷いなく一心不乱に走っていた。


「待て!!」


待てるか!!


「止まれ!!」


止まるか!!


心の中で叫びながら階段を駆け下り、人の気配がする方へひた走る。

フィズの時にかなり走り込んだおかげか何とか足は動いてくれた。

優雅に歩く煌びやかな人の間を縫い、あと少しで城から出られるという時に誰かが私の前に飛び出てきた。


「ミリ!!」

「わぷっ!!」


勢いが止められなかった私はその人に思い切り突っ込んだが、小さいその体はびくともせずに私を受け止めた。


「何してるこのバカが!!」

「あ…」


私の顔はくしゃりと歪んだ。


「れ、レイぃ…!!」


レイは様子のおかしい私に低く言った。


「何かあったのか?」


私は言いたいことが言葉にならずにただレイにしがみついた。

レイははっと顔を上げると私を背に庇うように押しやった。

血相を変えて私の後を追って来たロレンツォとカウレイは、追いつくと怒鳴りつける勢いで言った。


「お前は…ケイド・フラットの小僧!!その背に隠しているイザベラ姫を渡してもらおうか」

「…これはロレンツォ様、カウレイ様。一体どうなされたのです?身分あるお二人が城の中で姫一人を追い回すなどとはあまり良い光景とは言えませんよ」


冷静に指摘するレイにロレンツォは苛立ち、声を荒げた。


「いいから引き渡さぬか!!そいつはイザベラ姫の偽物だ!!」


レイは一瞬目を見張ったがすぐに冷静な顔に戻った。


「これは間違いなくイザベラ姫です」

「嘘をつくな!!」

「嘘ではありません。パッセロに到着すれば嫌でも分かるはず。国の者はこの姫を見ても誰一人人違いだと言わないでしょう」

「だがこいつは自分の名前すら言えなかったのだぞ!?」


レイはロレンツォを真っ直ぐに見上げながら淀みなく言った。


「それはそうでしょう。イザベラ姫は今記憶障害を抱えているのですから」

「記憶障害!?」

「はい。魔物の傷に侵され白聖女に魔払いを受けた者はしばらくの間精神がとても傷付くと聞いたことはありませんか?」

「…」

「イザベラ姫は王子の言いつけで外では出来るだけ普通に振る舞うようにしていますが、実は大変な後遺症に悩まされている最中です」


レイは振り返ると私の腕を掴んだ。


「高貴な貴族騎士が勘違いで姫を追いかけるという醜聞はわざわざオルフェ様に報告は致しません。ですので、貴方がたもこれ以上イザベラ姫に構いつけないようお願いします」

「ぐっ…」


完全に言い負けたロレンツォは睨み殺しそうな目でレイを見ている。

レイは素知らぬ顔で礼をすると動けそうもない私をひょいと抱え上げてその場をにした。


城の出口を目指して歩いているとどこからともなくネイカが早足で隣に並んだ。

レイは前を向いたまま厳しく言った。


「このままレミレス家に戻る。話は後だ」

「う…」

「勝手に一人になったりするからそんな目に遭うんだこのバカ」


ぴしゃりと諌められたが、危機を脱した私はまだ震える腕でずっとレイにしがみついていた。

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