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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
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楽しいおでかけ

レミレス家に来て三日目の朝。

私はうきうきと浮かれながら朝の支度を整えていた。

黒いドレスの中でも少しばかり華やかなものを選び、薄く化粧を施す。

鼻歌まで歌う私にネイカが呆れて言った。


「アリス姫と出かけるのがそんなに楽しみなの?」

「ふふふぅ。だって今日は、友だちとして出かけるんだもぉん」

「昨日も聞いたけど、それって本当にアリス姫と友だちになったの?ミリの勘違いじゃなくて?」

「違う!!ほんと!!」


ネイカは私を椅子に座らせると長く伸びた黒髪を手に取った。


「…本当にまたちゃんと伸びてる」

「だから言ったでしょ。騒がなくても大丈夫だって」

「だってびっくりするじゃない。アリス姫と話し合いが終わって帰ってきたらばっさり髪が切り落とされてるんだもん」

「昔から切っても切っても日を跨いだら元に戻るのよ。ネイカは違うの?」

「そんな変なのなったことないわよ。それ逆にそのうちハゲそうね」

「は…」


思わず頭を手で押さえたがネイカに邪魔だとはたき落とされた。


「大体、クロアとアリス姫を取り持つためにお城に行ったんじゃなかったの?なんでミリがちゃっかり友だちになってんのよ」

「え!?あ、そうだった」

「まったく…。あーもう、上手く結えないなぁ。ミリの髪サラサラしすぎててまとまりにくい!!」


ネイカは一度結いかけた髪を全て外し元に戻した。

両サイドに細い三つ編みを作り直すとそれを後ろに束ねる。


「…また練習しておくから今日はこれで行きなさいよ」

「うん、分かった」


私は立ち上がると鏡の前で自分の姿をチェックした。


うん。

可愛い可愛い。

アリス姫の隣に並んでも大丈夫。

何だか初めてイザベラ姫の姿で良かったと思えたぞ。


ネイカを連れて、私は待ち合わせ場所にした城の門に急いだ。

クロアには申し訳ないけど今日だけは私がアリス姫と過ごさせてもらおう。

だって初めて出来た友だちなんだ!!

ここ大事。


アリス姫は門の前で既に待っていてくれた。

その隣には一人だけ侍女がいる。


「アリス姫!」


私は全身から満開の花が吹き出る勢いで両手を広げた。

対してアリス姫は清らかで美しい微笑みで応えた。


あぁ、なんて綺麗…!!

もう今までと笑顔が違うね笑顔が!!


天にも昇る心地で浮かれきっていたが、隣の侍女の顔を見た瞬間光の速さで我に返った。


「随分楽しそうですね、イザベラ姫様」

「れ、れれれ、れ…」

「浮かれ過ぎているとケガでもしますよ?」

「…。はい、たった今氷点下まで冷静になりました」


そう、アリス姫の連れていた侍女はシュガー・レイ。

まぁ、そりゃ私にも狙われている疑惑ありだし心強いっちゃ心強いけどさ。

しゅおんと音を立てて萎んだ私にアリス姫がくすくすと笑った。


「オルフェ様に今日ミリと出かけると話したらレイをつけてくださったの」

「王子が?」

「ええ。レイがいれば少し足を伸ばしても大丈夫だろうからって」

「あ…」


そっかなるほど。

思えばレイなら見知らぬ侍女よりよっぽど気心知れてるしまぁいいか。

私は気を取り直してアリス姫と一緒に町へ出た。

今日の案内人は恐れ多くもアリス姫だ。


「あまり、面白いところではないかもしれませんが…」


やや心配そうなアリス姫が向かった先は賑やかな町の西外れにある絵画館だった。


「さ、さすが…。絵画館なんて初めて来た」


私は教養の無さが表立たないか密かに心配したが、中に入ればそんなことすっかり忘れてしまった。

とにかく見るもの見るもの素晴らしい作品だらけだった。

巨大な絵画はその迫力に息を飲むほど躍動感に溢れているし、人物画など今にも微笑みそうなほど瑞々しい。


「凄い…どうやったらこんな上手に描けるんだろう」


画家って天才だな。

本気で感心しているとアリス姫が一つの絵を見上げて言った。


「この絵が昔から一番気に入っているの」


つられて見上げると、そこには一面に花畑が広がっていた。

その先には海が広がり夕日が落ちている。

透明感が半端ない。


「…綺麗ですね」

「スアリザに似ていますでしょう?」

「あ、本当だ。そういえば」

「初めてスアリザへ行った時に真っ先に思い出したのがこの絵だったのよ」


アリス姫は嬉しそうに目を細めた。

私はもう一度絵を見上げ、アリス姫と一緒にもう遠くなってしまったスアリザに想いを馳せた。


不思議だな。

今まで振り返りもしなかったのに今初めてスアリザが懐かしく感じる。

出歩かなかったし町に思い入れなどないと思っていたけど、やっぱり自分の育った国だもんな。


アリス姫はその後も自分がニヴタンディにいた頃に好んだ場所に連れて行ってくれた。

ゆったり流れる川を船で下ったり、町から漏れ聴こえる音楽が僅かに響く心地よい通りを散歩する。


アリス姫と話しながら並んで歩くだけで、何だか世界の色すら変わった気がした。

友だち効果って本当凄い。

何でもない場所でもうきうきして楽しい。


「顔が緩みっぱなしだぞ、ミリ」


レイはレモンシャーベットのカップをアリス姫と私に渡した。


「だって楽しくて。ねぇ、アリス姫」

「ええ、本当に。わたくしもこんなに楽しいのは久々ですわ。付き合ってくださってありがとう、ミリ」

「全然いいの!!」


二人でふふと笑うとレイが肩をすくめた。

ネイカは憧れのアリス姫がいるせいか今日は至って大人しい。

私たちは疲れ果てるまで歩き回り、美味しいものを食べて大満足で帰路に着いた。


夕日に照らされ町はオレンジ色に輝いていた。

ゆっくりと動く馬車に揺られながら、ただ流れ行く景色を見ている。

疲れもあり皆黙っていたが、城が近づく頃にアリス姫がぽつりと言った。


「…今日はありがとう。ミリにもオルフェ様にも随分気を遣わせてしまいました」


私とネイカは顔を上げたがレイは微動だにせず窓の外を見たままだ。

アリス姫は切なげな微笑みを浮かべた。


「わたくしならもう大丈夫よ。クロアのことも、これ以上迷惑はかけませんから」

「え…」

「クロアはとても優しくて、わたくしはきっと甘えすぎていたのですね。でも…もういい加減に解放してあげないと」

「そんな…!!」


この二人、互いに気を遣いすぎてすれ違いまくってるぞ!?

こんな時ってどうすればいいんだ!?


口だけぱくぱくしている間に馬車は城に入ってしまった。

あっという間に正面玄関までたどり着くとゆっくりと止まる。

結局何も言えないまま私たちは馬車から降りた。

アリス姫は優しく微笑んだ。


「今日は本当にとても楽しかったわ」

「アリス姫…。あの…」

「ミリ。貴女は四日後にはニヴタンディを出てしまうけれど、よろしければその後もまたいつでも遊びにいらしてね」

「…はい」


アリス姫はふわりと私を抱きしめた。


「もっと早くお友だちになりたかったわ」

「アリス姫…」

「優しい子。大好きよ」


私の胸はまたきゅうぅんと詰まった。

私も、大好きですアリス姫!!

私には目一杯思いを込めて抱きしめ返すことしか出来なかった。


レイに送ってもらいレミレス家に帰るとそのまま食事の準備が整った部屋に通された。

私はいつものようにレミレス一族に囲まれて豪華なディナーを頂いた。

左前には暗い顔で食事をとるクロアがいる。


…言いたい。

アリス姫に会いに行けと今すぐ言ってやりたい。

何で行かないんだよクロアさん。

そこでため息ついてんなら、行け!!


「…イザベラ姫さま」


ネイカに呼ばれてはっと我に返る。

ネイカはレイ仕込みの微笑みで言った。


「どうかされましたか?」

「い、いえ。失礼いたしました」


私は顔を整え直すと改めて食事に取り掛かった。

夜になり、ベッドに入っても私はしばらく悶々として寝付けなかった。


…やっぱりね、どう考えてもオルフェ王子のことが引っかかるんだよ私は。

アリス姫はともかく、クロアは身分の他にも何か引け目があるのかもしれない。


これはきっと目先のことばかり考えていても分からない。

アリス姫の背景…王子の立場…クロアさん…。

もっと視野を広げて考えるんだ私!!


引っかかったところから手当たり次第仮説を立てていくと、そのうちある一つの道筋が見えてきた。

それはもしかしたら全くの見当違いかもしれないが、そう考えればやっと納得できる。


「…やっぱり、王子に直接話をするべきだな」


出来ればレイの目も搔い潜って王子と二人で話したい。

私は目を閉じながら一晩中あれこれと考えこんでいた。

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