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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
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クロアの思い

「クロアさん!!クロアさーん!!」


私の叫びに気付いたクロアは振り返るとすぐにこっちに走ってきた。


「イザベラ姫!!」

「クロアさん!!」

「アリス姫は!?」

「アリス姫は!?」


私もクロアも同じ名を口にして愕然とした。


「え、だって…アリス姫はクロアさんと一緒にどっかへ行ったんじゃ…」


クロアは傍目にも焦りを見せ首を横に振った。


「いえ。その…少し言い合いになってしまって気がついたらアリス姫が店を飛び出したんです」

「アリス姫が?」

「はい。すぐに後を追ったのですが人混みに見失ってしまって…。それに店に戻れば今度は貴女たちもいらっしゃらなくて」

「私たちはクロアさんたちがいないから慌てて探してたんですよ」


クロアは青い顔でうなだれた。


「すみません。アリス姫のこととなるとどうも僕は周りが見えなくなってしまって…」

「ま、まぁ、こっちはこれ以上迷子になる事態は避けることが出来たのでいいですけれども」


それにクロアが一緒ならそうそう狙われることもないだろう。

とりあえず一安心だ。


「ミリ!!ちょっとミリってば。いきなり走っていかないでよ!!」


後ろからネイカが追いついてくる。

ネイカはクロアを見ると明るい顔になった。


「見つけたのね!?」

「ううん。それがアリス姫がいないみたいなの」

「え?」


私が掻い摘んで話すとネイカは眉をつり上げた。


「言い合いになってアリス姫が飛び出したですって!?何でまたそんなことに!?」


クロアは憂いを帯びた瞳で私を見た。

その顔に誰かの面影が重なる。

えっと…、誰だっけ。


「イザベラ姫」

「あ、は、はい?」


クロアは慎重に問うてきた。


「貴女も自分の意思でオルフェ様の側室になったわけではありませんよね」

「えっ」


私はぎくりとしたが、クロアさんは思ったのとは違うことを言った。


「そうですよね。全ては国の為に王である父君が決められたこと。…貴女はそれに不満を持った事はありませんでしたか?」

「…不満、ですか」

「はい。例えば他に想いを寄せる人はいなかったのですか」


あぁ、そういうことか。

内心胸をなでおろすと私はクロアを見つめ返した。


「クロアさん。貴方は以前アリス姫の従者をしていたとお聞きしました」

「はい。僕は幼い頃からアリス姫と一緒に育ったようなものです」

「クロアさんは…アリス姫が好きなのですね」


クロアは率直に聞く私に目を見張ったがはっきりと頷いた。


「はい。ずっと」


わお。

何だかこっちの顔が熱くなったじゃないか。

これはアリス姫が国を出た時は相当辛かったんじゃないかな。

…オルフェ王子めっ。


「アリス姫が戻ってきてよかったですね」


流れとして自然と口にしたが、クロアは悲痛な顔になった。


「戻られてもアリス姫にはすぐに新しい縁談が持ち込まれます。今度こそ…正妻になるようなものが」

「で、でもクロアさんだって立派な身分があるんでしょう?それなら候補に上がるはずでは?」

「それはあり得ません」

「え…」

「僕は、養子なので」


養子…。

そうか、だからクロアだけ上二人とあまり似ていなかったのか。

こんなデリケートな話題に機転が効くはずもなく、私は困って黙り込んでしまった。

が、その隣でネイカが切れた。


「もうそんなことはどうでもいいから早く行きましょうよ!!」

「どうでもって…ネイカがけしかけたくせに」

「うるさいわね!!大体アリス姫が一人で飛び出したっていうのならもうお城に帰ったんじゃないの!?」


クロアははっとすると遠目でも見える城を振り返った。


「…そうか。そうですよね」

「もう、あんたもミリも相当のんびりした性格してんだから」


私たちはとりあえずアリス姫を探しがてら城に帰ることにした。

行きは馬車で来た道を、今度は歩きながら帰る。

それなりに疲れていたが私もネイカも気力を振り絞った。


「…み、見つからないね。やっぱりお城に帰ってるのかな」

「流石に疲れたわ」


歩き通しでお腹も空いてきた。

さっきからずっと見えているのにお城は中々近づかない。

クロアはすまなさそうにした。


「店のあるうちに休憩を入れるべきでした。ここからは屋敷ばかりですので城についたら休ませてもらいましょう」

「はい…おねがいします」


重い足を無心で動かしていると、私たちを追い越した馬車が少し先で止まった。

何だ何だと見ていると中から見覚えのある姫が二人出てきた。


「あらあら、イザベラ姫様じゃなくて?お一人で外に出られているなんて珍しいこと」

「あ…えと…」


ほら、あれだ。

あの、いつもフリンナ姫の斜め右後ろら辺と左ら辺にいた…。

姫たちは反応のない私にあからさまに嫌な顔をした。


「まぁ、やはり貴女はわたくしとはお話すらしたくないのかしら」

「オルフェ様にご贔屓されているからって流石に失礼すぎますわよねぇ、リヒラ姫様」


あ、そうそう。

確かそんな名前だったなこの姫。

北東だ。

北東っぽいとこの国。

天然石が自慢。


それからこっちのおべっか使いの小さい姫は東の方の国じゃなかった?

いや、西か?

どっちだ?

リヒラ姫は手に持った扇子をゆっくりと仰いだ。


「分かりました。貴女がそのような態度なのでしたらこの際はっきり申しますわ。イザベラ姫、わたくしたちは貴女にもう我慢できません。フリンナ様はお優しい方ですから何も言いませんが、オルフェ様の隣に涼しげな顔で立つ貴女の存在は正直不快ですわ」

「はぁ…」


気の無い返事しか出来ないでいるとリヒラ姫は更にヒートアップしてきた。


「その人を小馬鹿にした態度を改めなさいと申しているのです!!本当に、情けない。オルフェ様は何故わたくしよりこんな黒姫なんか…」

「悲観的になられてはダメですわ、リヒラ姫様。もう少し、もう少しの辛抱です」


小さい姫はキッと私を睨んだ。


「アリス姫さえ離れてしまえばもう我慢することもありませんわ。こんな礼儀知らずで傲慢な姫なんてフリンナ様が本気になれば刹那にぎゃふんと言わされて仕舞いです」


私はアリス姫の名に反応して顔を上げたが、その目の前にネイカが立っていた。

反射的にまずいと思ったがネイカは止める間も無く口を開いた。


「巷のお姫様って揃いも揃ってこんな嫌味ったらしくて下品なんだ。はぁ、幻滅」

「なっ…!!」


ネイカは真っ赤になった二人を冷笑した。


「ミリ…いえイザベラ姫は確かにお上品とか愛想がいいとかはないですけどね、それでもあんた達なんかよりよっぽどましだわ。

人を貶めている時の自分の顔を鏡で見てみることね。そんな顔で姫を名乗るなんてあんた達の方がよっぽど傲慢よ!!」

「んなっ!!なんですって!?」


二人の姫は恐らく生まれてこのかた一度も浴びせられたことのない暴言に赤くなったり青くなったりしながら震えた。

遠巻きで見ていた姫の侍女たちが異常を悟り慌ててこっちへ走ってきた。


「リヒラ姫様!?」

「ヨリ姫様、どうかされましたか!?」


ネイカは振り返ると私の手を掴み唖然としていたクロアをせっついた。


「行くわよ。ぼけっとしないで」

「あ、それならこっちへ…」


姫たちと同じ方向へ進むのはよくないと判断したクロアは、この場を離れることを優先した。

ネイカは中々怒りがおさまらないのか荒々しく足を運んだ。


「全く…何が姫君よ。家柄と顔がよくてもあれじゃそりゃ王子も相手にしないわっ」


一人ぶつぶつと怒っているとクロアが感心して言った。


「君…、凄いね。姫に向かってあんな暴言吐いてるのって初めて見た」

「暴言?事実しか言ってないわ。大体ミリも少しくらい言い返したらいいのにぼけっと大人しく聞いちゃってさ。ほら落ち込んでないで…」


俯いていた私は急にあぁ!と声を出した。


「西だ!西西!!西のヨリアレンナ姫だ!!銀が豊富!!」


ネイカはぱちぱちと瞬きをした。


「…ミリ?」

「あぁすっきりした。もぅ姫たちの名前なんて一人一人覚えてられないっての」

「あんた、あんなに貶されてる間にそんなこと考えてたわけ…?」

「え、だっていちいち気にしててもしょうがないし。あ、でも私のために言い返してくれてありがとう」

「…」


ネイカは怒っている自分がバカらしくなってきた。

握りしめた拳を開きため息をつく。


「ミリって本当変わってるわよね。もういいわ。それより早くお城に行きましょうよ」

「うん」


遠回りにはなったが私たちはやっと城まで戻ってきた。

城の者を適当に捕まえたクロアは内心の焦りを綺麗に隠して笑顔を取り繕い、アリス姫が帰っているかを聞いた。

しばらく待たされた後、聞いた返事は先ほど戻っていらっしゃったようですというものだった。


「よ、よかったぁ」


一度城の中庭に出た私たちは安堵に崩れ落ちそうになった。

三人でベンチに腰掛けぐったりともたれ込む。


「アリス…」


クロアは泣きそうになりながら城の上部を見つめた。

それは男の人にしては本当に繊細で儚げな横顔だ。


「あの、アリス姫の所まで行きますか?」


私が聞くとクロアは俯き首を横に振った。


「恐らく、僕には会ってくれないので…」

「え?」


クロアは立ち上がると深々と頭を下げた。


「今日はせっかくの町案内だったのにすみませんでした。今飲み物を頼んだのでここで休憩したら屋敷に帰りましょうか。明日はもう少しまともな案内をしますので」

「クロアさん…」


私とネイカは顔を見合わせたが結局何も言うこともできずにただ温かな日差しを浴びていた。

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