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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
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レミレス家とクロア

レミレス家。

一体どこまでがレミレス家なんすかね、これ。

私は中々途切れない塀のそばをずっと歩き続けていた。

どこの国でも貴族様ってのはすごいねやっぱ。

やっと辿り着いた正門をくぐればこれまた幾つお屋敷があるのかぱっと見では分からないほど建っている。


「…迷子になりそう」


私の不安をよそにアリス姫は慣れた足取りで正面玄関まで歩いた。

その途中で玄関扉が開き中から身なりのいい男性と侍女がわらわら出てきた。


「アリス姫。連絡いただければお迎えにあがりましたのに」


レミレス家当主らしき男が慌ててアリス姫の元に走り寄る。

アリス姫はにこりともせずに足を止めた。


「クロアは?」

「クロアなら今頃部屋で経済学を学んでいる頃だろう。あれも海外から帰ったばかりでしてな」

「呼んできてくださるかしら。大事な用があるの」

「姫…」


当主は困り果てた。


「クロアが貴方の従者であったのは貴方がスアリザ王国へ行かれるまでです。今後はあまり密な関わりを持たれるのは好ましくないかと」

「二人で会うわけではないわ」


アリス姫は私を振り返った。


「この方もオルフェ様の側室です。一週間こちらでお世話になる予定のイザベラ姫ですわ」


急に振られて私は変な息を飲んだ。


「はっ、あの、イザベラ姫です」


とりあえず頭を下げる。

当主はにこにこと両手を広げた。


「これはこれは。ようこそ我がレミレス家へ。歓迎しますよ」

「はぁ、よろしくお願いします」


当主は気品の足りない私に一瞬怪訝な顔をしたがすぐに笑顔を取り繕った。


「長旅お疲れでしょう。屋敷の中へどうぞ。クロアだけでなく倅たちを皆お呼びいたしましょう」


アリス姫は一瞬顔を曇らせたが反論せずに当主に続いた。

通されたのは適度に広く落ち着いた客間だった。

広いテーブルには高そうな茶菓子が品良くセットされている。

私とアリス姫は否応なくここでしばらく当主を相手にお茶タイムとなった。


「スアリザ王国は如何でしたか?私も昔何度か足を運んだことはありますが治安も良く美しい国であったと記憶しておりますな」


当主はにこにこと話しかけてくるが、アリス姫は答える気が一切ないのか黙ってお茶を飲んでいる。

…となると私が何か言わなければならない雰囲気じゃないか。

静かに控えているレイをちらりと見たがレイはこういう時はいつも知らんぷりをする。

助けがないと悟った私は腹を括り、顔中の筋肉を総動員させて笑顔を作った。


「スアリザはとても住み良い国です。特に海が美しいですわ」


見よう見まねでおほほと笑って見せるがどう見ても不自然だ。

ネイカもレイもあからさまに呆れた顔をしているが無視だこのやろう。


しかしこのままスアリザのことを聞かれてもあんまり答えられないよな。

よし、ここは受け身にならない方がいいはずだ。

私は出来るだけにこやかに身を乗り出した。


「わたくし、ニヴタンディには初めて来たのですけれど、とても賑やかで楽しい国ですね。よろしければどのような国なのか是非お聞かせくださいませ」


若く愛らしい姫に目を輝かせながらお願いされて悪い気はしないはずだ。

当主は思惑通り嬉々としてこの国の見所やおすすめを話し始めた。

レイはにやりと笑う私にひとつ咳払いをしたが、その目は及第点だと言っている。

私は内心ほっとしながら表面上はにこにこと当主の話に相槌を打った。

そうこうして場を乗り切っていると、ノックの音がした。

入って来たのは三人の男性だった。


「おぉ、すまんな呼び出して。お前たちにも紹介しておこうと思ってな」


当主は立ち上がると私を振り返った。


「こちらが昨日話していたオルフェ王子の御側室、イザベラ姫だ。姫、こちらから長男のアール、次男のベイガ、三男のクロアだ」


長男はいかにも跡取りといった雰囲気で、がっちりと大きな体に賢そうな顔が乗っている。

歳はおよそ二十後半くらいか。

少し年下の次男も長男に似た感じだがもう少し文学者寄りだ。

三男は上二人から歳が離れているのか私とそう変わらなさそうだ。

この三男だけやや毛色が違う。

線も細く物腰の柔らかそうな優しい面立ちだ。

三人はまじまじと私を見た。


「これは可愛らしいお姫様だ。一週間、ここを我が家と思いゆっくりくつろいでください」


長男が当たり障りなく言うと弟二人も黙って頷いた。

アリス姫はじっと三男のクロアを見つめている。

従者だったということはだいぶ近しい仲だったのだろうか。

クロアを見ればアリス姫とは絶対に目を合わさないようにしている。

やっぱり何かありそうだなこの二人。

私は切なそうに瞳を揺らしたアリス姫を見た途端声を上げていた。


「あ、あの」


立ち上がるとクロアに近付く。


「よろしければ町を案内して頂けないかしら」

「…僕が?」

「はい。あの、あまり年上の方だとわたくし緊張してしまって」


私の思わぬ行動に皆揃って目を丸くした。

機嫌よく答えたのは当主だった。


「ははは。美しい姫君からのご指名とあっては無下にはできんな。クロア、行って差し上げなさい」


クロアは傍目にも困惑している。

私は無駄にはしゃいでみせた。


「ありがとうございます!やはりアリス姫と女二人では心許ないと思っていたんです」


当主はぎょっとした。


「え、あ、その。アリス姫もご一緒で?」

「ええ。町を見る約束をしていましたの。クロア様、よろしくお願いしますね」


私があんまりにも無邪気に言うので、当主はそれ以上何も言えなかった。

私は勢いに乗っているうちにアリス姫の手を取り立たせた。


「行きましょう」

「…」


アリス姫は驚いてはいたが、そのまま私に手を預けた。

すべすべしてて柔らかい手。

なんて理想なお姫様の手なんだろう。

こんな時だがはぅんとなっているとクロアが私たちの前に来て礼儀正しく頭を下げた。


「ご指名頂き光栄です。すぐに支度をしますのでエントランスでお待ちいただけますでしょうか」


しっとりと優しいハスキーな声。

私はぺこぺこと頭を下げ返した。


「は、はい。分かりました。無理を言ってすみません」


私は当主とクロアの兄に礼をしてからアリス姫の手を握ったまま廊下に出た。

私たちの後からアリス姫の侍女とレイたちが続く。

アリス姫はエントランスに着くと私より先に立ち止まった。


「手…」

「あ、ご、ごめんなさい勝手に!!」


私は慌てて手を離すとアリス姫に謝った。


「あの、もしかして迷惑だったらごめんなさい!!その、アリス姫はクロアさんと話したがっていたからつい…」


アリス姫はじっと私を見下ろした。

綺麗な人に冷たい目で見下ろされるほど怖いものはない。


いや、違う。

かっこいい。

そうかっこいいと思うんだ!!

ほら、その鋼のように冷たい眼差しは最高にクールで、ほら、えと、すてき!!


心の中はともかく、私は出来るだけ目を逸らさないように踏ん張った。

アリス姫は冷たく言った。


「…わたくしに取り入っても、もう貴女に得なことはひとつもないでしょう?」

「は?」

「貴女はなぜわたくしのために?」


私の眉は思いっきり寄った。


「そんなんじゃないです!!ただ私はアリス姫が…」


言いかけたが慌てて口を閉ざす。

だってまさか本人に切なそうだったからとか言えない。


「いえ、えと。とにかく余計なことだったのなら謝ります」


アリス姫はしばらく私を見つめてから静かに微笑んだ。


「いいえ。ありがとう、イザベラ姫」

「はっ…」


女神だ!!

あの時の優しい女神の顔だ!!


私は胸が震えて体が一気に熱くなった。

やっぱりあのアリス姫は嘘じゃないんだ。

何だろう。

やたら嬉しい。

実は私、アリス姫が結構好きなのか!?

すっかり見とれていると後ろからレイが咳払いをした。


「イザベラ様」

「はっ」

「どうやら今日は町に出ることになりそうですね」

「…勝手してごめんなさい」


私はびくびくしながら振り返ったが、レイはにっこり笑顔を見せた。


「アリス姫とご一緒なら安心ですわ。それではその間わたくしはお暇を頂いてもよろしいでしょうか」

「え!?」

「イザベラ様、くれぐれもアリス姫の側は離れないでくださいね」

「いや、えと…」


そういえばレイは王子のそばにもいなけりゃいけないもんな。

レイが離れてもいいと判断したのなら大丈夫…かな。


「分かりました。またこちらにも戻ってきてくださいね」


力なくいうとレイはさっさと頭を下げ行ってしまった。


「ネイカはいてくれるの?」

「ええ。…はい。レイにも任されていますので」

「ありがとう。じゃあ、よろしくね」


ネイカはぎこちなくもちゃんと礼を返した。

エントランスで待っていると着替え終えたクロアが一人で来た。


「お待たせ致しました」


にっこりと微笑む顔はなんとも魅力的で優しい。


…ん?

でも待てよ。

この人どこかで見たことあるような…。

まじまじと見たが、すっきりと短い黒髪も白い肌も理知的で優しい瞳も見覚えはない。


おかしいな。

どうして見たことがあるとか思ったんだろう?


「どうかされましたか?」

「あ、いえ」


クロアは私にも分け隔てなく優しい笑みで言った。


「どこか行きたい場所などはありますか?」

「え!?いや、実は全くその辺りも分からなくて…」

「かしこまりました。それでは城の下町を順にご案内いたしましょう」


クロアは自分が付いているからとアリス姫の侍女を屋敷に残して外に出た。

レミレス家お抱えの馬車にアリス姫、私、ネイカ、クロアが順に乗り込む。

私たちはのんびり進む馬車に揺られながら賑やかな下町を巡った。

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