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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
友情と親愛
70/277

ニヴタンディへ

その日はなんだかよく眠れなかった。

王子と同じ部屋な手前すぐに寝たふりはしたがここまで寝付けないのも珍しい。

窓から朝日がさすと私はすぐに起きて身なりを整えた。


「オルフェ王子」


用意を終えてからまだベッドに横になる王子に呼びかける。


「王子、起きてください。今日は朝一でニヴタンディに入るんでしょう?」


王子は開ききらない目のまま手を伸ばしてきた。

私はつかまらないように半歩下がった。


「…こっちへ」

「駄目ですよ。寝ぼけてる王子につかまったら離してもらえないじゃないですか」

「なんの不満がある」

「なんのって…。とにかく駄目です。起きてください」


王子はわざわざ上半身を起こし私の手を掴んだ。


「わわっ…」


そのままベッドに引きずり込まれる。

私はじたばたともがいた。


「王子!!」

「騒ぐな」

「ふざけないでください!!」

「ふざけてない」


なお悪い!!

しぶとくもがいていると突然何の前触れもなくがちゃりと扉が開いた。

私は瞬時に氷のように固まった。


「おはようございます。オルフェ様」

「れれれ、レイ!?」


そこにはにこやかに挨拶をするレイがいた。

はっきり言って、その笑顔が怖すぎる。

王子はレイを見もせずに私を抱えて丸まった。


「ちょっ、王子。レイですよ!!超絶怒っているレイさんが来てますよ!?」

「構うな」

「それは無理でしょ!?」


ここで構うなとか言っちゃえる辺りが王子のすごいところだよな。

レイはにこにこしながらベッドに近寄るとおもむろに私の腕を掴んだ。


「これはこれは、イザベラ様。もう支度ができているとは関心しきりです」

「れ、レイ…」


レイは真顔になると馬鹿力で私を王子の腕から引っこ抜いた。


「うわはっ!!い、痛いってレイ!!」

「知るかっ。朝から甘えてる暇があるなら町の外でも走ってこい」

「私のせいじゃないよ!?王子が引っ張り込んだんだからね!?」

「お前が隙だらけだからだろうが!!」

「そ、そんなぁ…」


贔屓だ贔屓!!

寝たふりをしていた王子は堪えきれずに笑い出した。

レイは怖い顔で私を離した。


「王子、悪ふざけにもほどがあります。勝手な行動は今後慎んでください」

「怒るな。どうせその辺りでずっと見張っていたのだろう?」

「当たり前です。俺が国外で貴方を放置するはずがないでしょう」


私はぎょっとした。


「…ずっと、見てたの?」

「…」

「昨日から??」


私はみるみる真っ赤になった。

よく分からないが何だかすんごく恥ずかしい。


「や、やだなぁ!!レイってば悪趣味…うっ!!」


つい大声を出した私の脇腹に間髪入れずに肘が入る。

朝から厳しいっす、レイさん。


「王子、ニヴタンディで王がお待ちです。これに着替えてさっさと用意してください」

「まだ早いぞ」

「早くありません。アリス姫より遅れたらどう言い訳するつもりですか」


アリス姫…。

何だかその名を聞いた途端私は急に現実に帰った気がした。

レイは私を冷たく見た。


「ミリ。ニヴタンディに入れば王子にはアリス姫以外近付く事も許されない。イザベラ姫は他の側室と一緒に行動してもらうぞ」

「えっ嘘!?」

「嘘をついてどうする」


うぅ…。

何だか肩がずっしり重くなってきたぞ。

王子はやっと起き上がるとのんびり言った。


「ミリは俺のそばに置く」

「オルフェ様…」

「アリス姫なら大丈夫だ」

「そういう問題ではありません。アリス姫がよくとも王の前で他の側室を贔屓にするわけにはいきません」

「もちろんアリス姫を一番に引き立てはするさ」


レイは厳しく王子を見ている。

オルフェ王子に完全に従順なのかと思いきやそうじゃないんだよな。

何だか不思議な関係な二人だな。

レイは王子に譲る気がないと分かるとぎらりとこっちを向いた。


「ミリ」

「は、はい?」

「そこの椅子へ座れ」

「へ!?いや、王子が言うことを聞かないからって私に当たられても…」


後ずさったが狭い部屋ではすぐに壁際に追い詰められる。


「…座れ」

「はい」


私はこそこそと身を縮めながら椅子に座った。

レイは棚を漁ったかと思うと私の髪を結い始めた。


「え…、なになに?」

「アリス姫の隣に並ばされるんだ。少しでも見た目をよくしておけ」

「別に気にしないけど…」

「貴様、王子の評価を下げる気か」

「…。お任せします」


恐いよぉ。

レイが恐いよぉ。


レイはテキパキと私の頭を綺麗に結い上げると次は王子の支度を手伝った。

しかしレイ一人で三人分は働いてるよな。


私たちは早めに宿泊した宿を出ると北に向けて歩いた。

爽やかな風は寝不足な私にも優しい。

このままいつまでも三人で歩いていたかったが、国境まではあっという間に着いてしまった。


「ミリ!!」


私たちを見つけて飛んできたのはネイカだった。


「ミリ!!もう、急にいなくなるなんてびっくりしたじゃない!!」

「ご、ごめん…」


ネイカは王子をちらりと見ると声を潜めた。


「で、ずっとあの王子様と一緒にいたの?」

「…いたけど」

「いいなぁ、抜け出してロマンスなんて」

「別にやましいことはしてないから」

「え、どうして?もしかしてミリ、あの王子とまだ何の関係もないの?でもミリは側室なんでしょ?」


これはまたストレートな。

私は出来るだけ平静を装った。


「側室なのは表向きだけ。大体王子は最初から私が黒魔女だって知ってるしどうにかなるわけないでしょ」


まぁ出だしは危なかったけど。

ネイカは首を傾げた。


「ねぇ、もし黒魔女のミリが悪魔と契約する前に他の人のお嫁さんになったらどうなるの?」

「え…」


そういえばどうなるんだろう。

考えたこともなかったな。

それってもしかして、契約…出来なくなるとか…?

私の脳裏に諦めるなと言った王子の言葉が浮かんだが、すぐにぶるぶると首を振って打ち消した。


「だ、だめだめ。もしそんなことして相手に災厄でも降りかかったらどうすんの」

「じゃあミリはあの王子諦めるの?」

「ちょっ、指ささない指!!」


私は慌ててネイカの指を下ろさせた。

王子とレイはこそこそ話す私たちを追い越し、苦々しい顔を隠しもしないソランたちの元へ行った。


「王子、町の調査に出向くのでしたら我々に命じてください」

「急に消えられては我々の立場もございません」

「ましてや側室を連れて行くなどとは酔狂にもほどがあります」


ソラン、ロレンツォ、ファッセと三人揃って苦言を申し立てたが、オルフェ王子はどこ吹く風で国境となる平野を眺めた。


「何かあっても自分と姫一人の身だけなら守れるさ。それよりアリス姫はいつ頃ここを通る予定になっている?」


レイもすました顔で答えた。


「私の見立てではあと一時間ほどでここに辿り着くはずです。先にニヴタンディに入りますか?」

「いや、先に合流しよう」

「かしこまりました。それではここの領主に挨拶だけしておきましょう」


他人の前ではもうすっかり従者の顔だ。

相変わらずレイの裏表の差は激しい。


それにしてももう合流か。

嫌だなぁ。

一人鬱々としていると何故かソランとロレンツォが私に近づいて来た。

…来るなよ。


「イザベラ姫。オルフェ王子の夜遊びに付き合うなど、姫も不名誉な評判を流されるぞ」

「昨日は一日何をされていたのかな」


私は半歩さがった。

オルフェ王子とレイは少し先のレンガの塔で領主らしき人と話をしている。

どう返したものかと迷っているとネイカが私の前に出た。


「なに?王子様にあしらわれたからって揃いも揃ってこっちを責めに来たの?」

「ね、ネイカ…」


ソランははっきりと厳しい顔つきになった。


「小娘、誰に向かって口を聞いている。オルフェ様が何も言わない手前追求はしなかったが、お前は一体なんなんだ?」


私は言い返そうとするネイカの口を慌てて塞いで自分の後ろに隠した。

ファッセならともかく、このソランにネイカ節をぶつけられたら本気で危ない。


「この小娘は神殿の者です。今はイザベラ姫専属で魔払いの後遺症を抑えるためにやむなく同行しています」


ソランの後ろで答えたのは、後から来たファッセだった。

ファッセは私をじろりと見た。


「イザベラ姫。オルフェ王子がお呼びだ」

「え?あ、はい…」


私はネイカの手を掴むとソランとロレンツォに軽く頭を下げてその前を通り過ぎた。

ファッセは私とネイカを連れて王子のいる塔まで歩いた。


「…あの、ありがとう」


私は小声でファッセに礼を言った。

おそらく王子が呼んでいるというのは方便で、ファッセはあの場から私たちを逃してくれたのだろう。


「礼などいらん。それにお前、ソラン殿には気をつけろ」


ファッセはネイカに冷たく言った。


「あの人は躊躇いなく不要と判断した人間を斬れる人だ。調子に乗ると闇に葬られるぞ」

「な、なによ。大げさね」


大げさじゃない。

実際魔物に取り憑かれた男の人は殺される寸前だったんだから。


「ネイカ。ファッセの言うことは多分本当だと思う。ロレンツォって人のことはあんまり知らないけどソランはまずい」

「…分かったわよ」


ネイカは不貞腐れながらもやっと頷いた。


私たちは王子の邪魔にならない距離で止まり、そこでアリス姫を待った。

レイの見立て通り、団体は五十分後に現れた。

先頭を歩くのはヤドカリともう一人の貴族騎士。

その後ろに姫たちの馬車が続き最後はセスハ騎士団がぞろぞろとついてきている。


「お待たせいたしました。オルフェ王子」


ヤドカリは王子の前で優雅に礼をした。

それからにやにやと私を見下ろした。


「どうやらイザベラ姫の魔物の傷は無事に清められたようですな」


私は一応丁寧に頭を下げた。


「どうもお騒がせいたしました。見ての通りもう大丈夫です」


ここは流石に大人な対応をしないとね。

ヤドカリはふんと鼻を鳴らした。


「ではこのままニヴタンディに入りますか」

「そうだな」


ヤドカリが後ろに合図を送ると、従者が馬を引き連れてきた。

王子は馬に跨ると私にも手を差し伸べた。


「イザベラ姫」

「あ、は、はい」


見ればソラン、ロレンツォ、ファッセも既に馬上の人だ。

ネイカに馬は与えられずレイの隣で恨めしそうにこっちを見ている。

私は気まずい思いになったが、レイが二、三話しかけるとネイカはぷいとそっぽを向いて行ってしまった。


長い行列は問題なく国境を超えた。

先頭を行くのは私と王子。

ここまではばたばたと旅をしてきたけど、ニヴタンディでは一週間も滞在するのだから少し落ち着ける。

大陸一の大国か。

一体どんな国なんだろう。


自然とそう思ったことに気付くと、旅をしてから随分変わった自分に驚いた。

人ってすごいな。

どんな時でも成長するんだ。


呑気なことをしみじみ感じている私を乗せて、一行はニヴタンディ王国の首都を目指して進み始めた。

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