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ミリのシンデレラストーリー   作者: ゆいき
旅へ
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怯えるミリ

報告を受けたオルフェ王子は、堪らずに笑いだしていた。


「笑い事ではありません」


レイは片膝をつきながらも苦い顔で言った。


「見ているこっちの肝が冷えました」

「あの暴君と名高いヒューロッド卿にまさかのお仕置きだな。そろそろ目に余るから何とかしてくれと報告が上がっていたところだ。卿には丁度いい薬になっただろう」

「オルフェ様、呑気なことを言っている場合ではありません。リヤ・カリド侯爵は黙ってはいないでしょう…」


幼いヒューロッド卿ならともかく、リヤ・カリドに楯突けば、下手をすれば犯罪者としてその場で斬り殺されかねない。


「で、問題の姫君は今どうしてる」

「ミリはまだ宿泊中の村にいます。部屋から出てこようとしません。騎士団はとうに次の町へ出発したというのに…」

「自分のしでかしたことに怯えているのか」

「もはや死にかけてますね。何故あれで強気でヒューロッド卿にあんなことが出来たのか不思議でなりません」

「騎士団の面々は?」

「まだ表面上は目立った変化はありませんが、ミリの落とした一撃は必ず波紋を呼ぶはずです。現に団長とリヤ・カリド侯爵はすっ飛んで騎士団に戻られたようですから」

「ふむ…」


王子はどこか面白そうな顔で考え込んだ。


「いっそミリを俺の側へ呼び戻すか…」

「それは反対です」


レイは間髪入れずにはっきりと言い切った。

ヒューロッド卿へのおしおき光景が余程衝撃的だったのだろう。


「…不本意ですが、あの大馬鹿者は私が側で守ります。王子は気になさらずにこの旅が無事に終わるよう尽力してください」


言葉は辛辣だが、レイがミリを気に入っていることは間違いない。

王子は信頼を込めてレイを見つめた。


「ミリを、頼む」

「はい」


短いやり取りで締めくくると、レイは村に帰るために部屋を出て行った。




ーーーーーーーー




私はベッドに転がったまま夜までずっと震えながら悶えていた。

今朝のことを何度も思い返しては嫌な動悸をやり過ごす。


あぁ、だめだ。

もう一生この部屋から出たくない。

明日世界が滅びればいいのに。


「サクラぁ…助けて…」


手を伸ばし、枕元で丸まるサクラの背中をそっと撫でる。

サクラは少しだけ目を開くと気持ちよさそうに伸びをした。

ちょっぴり現実を忘れて癒されていると、こんこんと扉がノックされた。

私はびくりとなると枕を頭の上に乗せてベッドに顔を伏せた。


「ミリ、俺だ」


れ、レイだ!!

ついに無理やりこの部屋から引きずり出される時が来たんだ。


「いい加減に鍵を開けろ。…壊すぞ」


枕を握る手に力を込めていると、本当にばきりという破壊音と扉が開く音がした。

レイはつかつかとこっちへ来ると掛け布団を容赦なくひっぺ返した。


「ミリ」


ミリなんていません。


「もう夜だぞ。ずっとそうしているつもりか」


死ぬまでこうさせてください。


心の中で受け答えしていると、レイは力任せに今度は枕をひっぺ返した。


「うぎゃっ!!」

「これで隠れてるつもりか。子どもじゃあるまいし」

「いやー!!もう私のことは捨てて行ってください!!私はもう、もう死ぬまでこの部屋にいるんだから!!」

「それじゃこの家の者に迷惑だろうが」

「じゃあ今すぐ死にますから!!すみませんが介錯お願いしまーす!!」


レイはため息をつくと騒ぐ私の肩を掴み仰向けに押さえつけた。


「れ、レイ!!」

「騒ぐな。…一度落ち着け。別に今すぐ何かあるわけじゃないから」

「へ…?」


泣きそうになっていると、レイは真上から呆れて言った。


「まったく…あの勢いはなんだったんだ」

「だ、だって…」

「ああいう時はな、その場は波風立てずに卿の好きにさせるべきなんだ。その後で団長なり上の者に報告をして対処してもらうのが常識だ」

「…そ、そんなまどろっこしいことしてるからあの子はあんなふうに横暴になってるんじゃないの」


レイは何故か少し笑みを浮かべると私の肩を離し今度は両手を掴んで引いた。

私は固くなりながらも逆らわずに体を起こしてベッドに座った。


「ミリ、明日の朝一番でここを出て騎士団の後を追うぞ」

「う…。や、やだぁ…」

「目指すのはこの国の最北、アンデルの町だ」

「行きたくない…」

「そこで正午にオルフェ様や姫君たちとも合流する。そこからは森を超えて隣国に入る」

「…」

「それに間に合わないとこの国から出られなくなるぞ」


レイは私の手を離すと間近から覗き込んだ。


「ミリ。俺は泣き言は受け付けないと言ったはずだ」

「そんなこと言ったって…」

「しゃんとしろ。お前は、間違ってはいないのだから」

「え…」


怒られるとばかり思っていた私は驚いて顔を上げた。

レイは厳しくもどこか優しい瞳をしていた。


「お前のしたことは、セスハ騎士団に誇りを持つ奴ほど胸がすいただろう。それを証拠に先に行った騎士団を覗いてみたが、ユセ様は一人ではなかったぞ」

「ほ、ほんと…?」


私は思わず立ち上がった。

やっぱり、おかしいと思う人はちゃんといるんだ…。

ユセが今一人ではないということが、なんだか死にそうだった私の心を温かくした。

レイは私のおでこをぴんと弾いた。


「だからって、褒められたことじゃないけどな」

「う、わ、分かってますよぉ」


おでこをさすりながら言うと、レイは少しだけ笑った。



翌朝。

私は気を取り直して長い髪を切り落とした。

セスハ騎士団はやっぱり恐いけど、オルフェ王子も合流するのならそう無茶なことはしてこないはずだ。

…たぶん。


朝食を頂き、余分な日数世話になったことをこの家の主に詫びてから外に出る。

先に出たはずのレイの姿を探していると、一頭の馬がこっちへ走って来た。


「へ…?馬?」


馬上にはレイがいる。

こ、これってまさか…。

レイは青くなる私に手を伸ばした。


「乗れ」

「や、やっぱり!?」

「当たり前だ。徒歩で追いつけるわけないだろ」


以前はオルフェ王子が後ろで私が前。

前に乗った私は横乗りで王子に必死にしがみついていたっけ。

あれは恐かったな。


で、今促されているのはレイが前で私が後ろ。

横乗りではなく跨る感じか。

…嘘だろ。


「早くしろ」

「早くって…、私が馬に乗れないことくらい知ってるくせに!」

「文句なら昨日部屋から出て来ずに寝ていた自分に言え」

「うっ…」

「ほら、置いていくぞ」

「あ、ま、待ってよ!!」


私は仕方なくレイに手を借りながら必死に馬に乗った。

今気付いたけど、馬上ってかなり高いから恐いんだよな。

私はがちがちになりながらレイの背中にしがみついた。


「そんなに力を入れていたら体が硬くなるぞ。何のために練習したと思ってる」

「だっ…だってぇ」

「前みたいにサクラの妄想でもしてろ。行くぞ」


レイの合図で、馬は出だしから軽快に走り始めた。

その容赦のない走りに私は心の中で悲鳴をあげ続けていた。

こうして乗っていると、オルフェ王子がどれだけ私に気遣って馬を走らせていたかがよく分かる。


もしかしてやっぱりレイはまだ怒っているのか?

そう思った瞬間、がくんと馬が大きく揺れた。


「うはっ!!れれれ、レイ!!」

「騒ぐな。小川を飛び越えただけだ」

「も、もうちょっとゆっくり走ってぇ!!」

「うるさい」


レイは微塵もスピードを緩める気はなさそうだ。


…鬼。


私は痺れてきたお尻をもぞもぞと庇いながらも何とか必死でレイの背中に掴まっていた。

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