五十一話:敗者
fateのバレンタインイベントが始まりました。
初期からやっている私はあのメンテに謎の安心感を覚えました。
・・・やっぱりおかしいですかね?
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「お前の協力者にリリィ様がいるとわかった時点で部下に捜索させていた。俺はそれまでの間時間を稼いでいれば良かった。まさか城に潜入しているとは思わなかったがな」
もちろん戦闘では殺すつもりでいたが。
捕らえたリリィへと近づきながらオーガは語る。
「彼女を待っていたのだろう?だからあのような戦い方だったのだろう?挟み撃ちをするつもりだったか援軍として期待しているだけだったかは知らんが無駄な足掻きだったな?」
オーガが手を上げる。
それが指示だったのだろう。
周りの魔族がリリィとタマモに武器を向ける。
「さて、答えを聞こうか・・・そういえば名を聞いていなかったな?」
ミカは構えを解いて棒立ちのような状態で答える。
「・・・ミカです。そちらは?」
「我が名はヴェゴ。人間には鬼神と言う名の方が知られているな。新旧共に魔王軍の将であり、貴様らの主に成るものだ」
「あっそ」
ミカの返事は素っ気ない。
その事に苛ついたのかオーガ、改め、ヴェゴは顔をしかめ、大剣を肩に担ぎ上げる。
「・・・口の聞き方には気を付けろよ?今、お前らの命は俺が握っているんだからな」
その言葉に対してミカはラルバの町で出会った執事をイメージして一礼する。
出来は良くない。
擬きだ。
「そんな短気を起こさないでください。自分は負けたのですから。勝者の指示には従いましょう。何をすれーーー」
ミカの姿が欠き消えた。
彼にとって会話とは油断を誘うもの。
その隙をついてミカは魔法を発動し、高速移動したのだ。
オーガはリリィの前に大剣を振るおうと構えるが、それは途中で止まる。
ミカが違う方に行ったのが見えたからだ。
「・・・リリィ様より奴隷を優先するだと?」
「やはり見えますか・・・」
ミカは元いた中央、ヴェゴの前にいる。
その腕にはタマモが抱えられていた。
「・・・どう、して?」
ミカの行動に疑問を持ったのはヴェゴだけではない。
タマモも疑問に思いミカへと問いかける。
「最初に言ったでしょ?リリィ達の事はリリィ達が、僕たちの事は僕達がやるって」
「ですが、彼女は今、気を失っんぐっ」
ミカは作戦会議の時に話した内容を言う。
言い回しは違うが確かにそのようなことを言っていた。
それでも納得できずにタマモはミカへと意見しようとする。
が、それはミカが彼女の口に回復薬を突っ込むことで止められた。
だからといって、事態の進行が止まった訳ではない。
「・・・殺せ」
広場に冷たい声が響き、リリィに槍が突き込まれる。
それは静かな処刑だった。
アニメやゲーム等でよく聞く串刺し音は聞こえなかった。
辺りに血が撒き散る。
「っ!ゴホッ!こ、この!」
それを見たタマモは回復薬を少し吐き出しながらもヴェゴに向かおうとする。
だが、ミカがタマモを止めた。
彼女は何故?という瞳でミカを見つめる。
端から見れば、彼は自身の髪で表情を隠すように俯いているように見える。
だが、タマモはミカの下で、ミカを見上げるように見つめている。
だから彼女にはミカの表情が見えた。
「・・・ぇ?」
彼は薄く笑っていた。
ミカはヴェゴに表情を見せないまま静かに立ち上がる。
「これが貴様の選択の結果だ。一度断ったんだ。もう一度チャンスがあると思うなよ?」
ヴェゴが武器を構え、それに合わせるようにミカ達を囲っている魔族達もそれぞれ武器を構えた。
「・・・まるで勝利を確信しているかのようですね?」
「あ?この状態でお前にまだ勝ち目があるとでも思ってんのか?」
「ええ。だってまだ死んでませんし」
ミカは顔を上げた。
ミカの薄い笑顔を見たヴェゴが警戒心を高める。
ミカはヴェゴにバレないように注意しながらヴェゴからほんの少しだけ視線をずらす。
「貴方の見落としは二つあります」
ミカはヴェゴに左手でピースを作って見せながら、おちょくるように右目を閉じる。
直後だった。
ヴェゴに首輪を渡していた魔族がヴェゴに短剣を突き込んだのは。
「・・・は?」
ヴェゴが間の抜けた表情で固まる。
「バカ!何で首を狙わない!」
焦った声を上げたのはむしろミカの方だった。
ヴェゴが間の抜けた表情のまま大剣を振り上げる。
状況を理解しきれている訳ではなく反射で叩き潰そうとしているようだ。
「っ!」
魔族は怯えた子供のように目をつぶる。
「クソッ!・・・?」
ミカが慌てて飛び出そうとするが、それは不自然な体勢で止まった。
ヴェゴが動かないのだ。
足下をよく見れば彼の影に少し不自然な影が重なっている。
「妾が主様への攻撃を許すとでも?」
上から声。
槍に貫かれているリリィが声を出したのだ。
その事にミカとタマモが驚く。
死んだ筈のリリィが声を出したから。
ミカは殺されたのがリリィではないことは分かっていたがあれが誰なのかは分からなかった。
てっきりヴェゴの部下の誰かだと思っていたのだ。
「バカな・・・。あれで生きている筈がない」
「そうね。こんな状態で生きていられる生命体なんて存在しないわ」
偽リリィが、まるで自身を縛っている十字架に同化するようにして沈んで行く。
「でも残念。妾は生命体じゃないの」
完全に沈んだ偽リリィが、今度はヴェゴを刺した魔族の影に波紋を生じさせながら出現する。
全身を出現させきった彼女は手を繋ぐようにして魔族を連れながらミカへと歩み寄る。
彼女の服には先程刺された事によって生じた筈の傷が存在していない。
歩き方からも、彼女の体には異常が無いように思える。
その事に周りの魔族のほとんどは怯えに似た表情を見せていたが、そうではない魔族が偽リリィ達へと攻撃しようと武器を向ける。
「っ!」
だが、行動に移すことは無かった。
いつの間にか無数の、様々な種類の魔法が球状で浮かんでいたのだ。
その数は十や二十ではない。
おそらく、百を越えている。
それも、一つ一つが魔族一体殺すのに充分な魔力を秘めているものが。
こんなことができるからミカは彼女を囮役兼正面突破役に入れたかったのだ。
「ヴェゴを捕らえたけど、どうする?聞きたいこととかある?」
彼女、偽リリィことシャーリィがミカに問いかける。
「僕達を狙った理由かな?・・・新旧共にとか言ってたから何となく想像つくけど。あとは・・・リリィの家がある町の方角かな?」
少し考えた後にそう答える。
「あ、家の方ならもう妾達も分かってるわ。ここは人間にとって重要な拠点だったから教えられてたの」
「そう?と言うかその新魔王軍(仮)とやらに狙われたであろうリリィ達の方が聞きたいことがあるんじゃないの?」
ミカは魔族を見つつ問いかける。
「妾が言うのもあれだけど、よくこの魔族がリリィ様だと分かったわね?」
一緒にいる魔族を指し示しながらシャーリィはミカに問いかける。
その表情は、本物を見極めたからだろうか?どこか嬉しそうなものだった。
「まぁ、ヒントくれてたしね」
「ヒント?」
ミカの言葉にタマモが首を傾げた。
「そ、ヒント。まず、捕まってるのがリリィじゃないことは出てきた時点ですぐに分かった」
「え?どうしてですか?」
「手」
「手?」
「右手の人差し指と小指が伸びてた。これは最初に作った偽の合図。つまり、あれは死んでも構わないものだったわけ。・・・それがシャーリィで、刺されても平気そうなのは驚いたけど」
「それは妾が魔法体だからできたことね。体の一部を魔力にして、剣を素通りさせたの」
見る?と自身の服を軽くめくるようにしてミカを誘惑してきたが、ミカは首を振って拒否する。
シャーリィは断られたのに楽しそうにしている。
ミカが首を振るまでに少し間があったからだ。
ミカはそれを誤魔化すように咳払いする。
「・・・んんっ。話を戻すよ?あの魔族がリリィだと確証があった訳じゃない」
この解答にシャーリィがまた笑う。
今度は嬉しそうに。
「心が通じたのね?」
「僕にテレパスは無い」
「・・・乗ってくれてもいいじゃない」
ミカの即答に少しショックを受けたようだ。
「・・・首輪を渡した魔族がリリィかもと思ったのは・・・えーと、そうヴェゴだ。ヴェゴに首輪を渡すときに目を合わせて無かったからっていうのが一つ」
面倒になったのかミカはシャーリィを無視して話を続けることにした。
「あとは首輪を渡した後、ヴェゴが何か指示を出している間もじっと僕を見続けていたからおかしいと思ったからって感じかな」
「もしそれで主様じゃなかったらどうしたの?」
「リリィの偽物が出てきた時点で二人が近くに居ると判断してたから、適当に二つ何か言って時間を稼いでたかな。その隙に暗殺してくれるだろうと。合図もだしたし」
「合図決めておいて良かったわね」
「うん。それは否定できない」
ミカの返答にシャーリィが得意気な笑顔を見せ、直後に爆音が響いた。
会話している姿を隙と見た魔族が一体ミカ達へと攻撃しようとし、すぐさまシャーリィの魔法を浴びたのだ。
音からわかるように、その近くにいた魔族達も巻き込まれている。
「・・・捕虜は一人、充分な地位の者がいる。貴様らを殲滅してもこちらは困らないのだぞ?」
シャーリィが威厳のある声で周りを威圧する。
「そういえば、変装解かないの?」
その喋り方がリリィのものに似ていたため聞いてみる。
本当に一瞬だった。
蜃気楼のように体が揺らいだり、体の大きさが徐々に変わっていったりすることなく、まるでアニメーションのコマを跳ばしたかのようにいつの間にか元の姿に戻っていた。
「じゃあ、ヴェゴを問い詰めに行きましょう」
シャーリィは突然の変化に驚いているミカにリリィの手を握らせてくるりと回り、ヴェゴに向かって歩き出す。
リリィはミカの手をギュッと握る。
彼女の手は震えていた。
(初日に死にたい的なことを言ってたけど、やっぱり直面すると恐いよね。分かるわ~)
魔動輪に引き殺されそうになった時のことを思い出してミカは一人で頷く。
「・・・そういえば、どうして僕にも幻属性の魔法をかけたの?やっぱり不自然さを出さないようにするため?」
「・・・それは、そのーーー」
ミカは彼女の不安を紛らわすために話しかけるが、彼女はその問いにも答えにくそうにうつむいた。
しばし沈黙。
ミカは前も似たような事を問いかけて、答えが無かった事を思いだしたため、それ以上追求することなく手を握ったままヴェゴの方へと向かう。
「ほら、タマモも」
ミカは後ろで羨ましそうにリリィを見ていたタマモに声をかける。
その声にタマモは輝くような笑顔を浮かべてリリィと反対側の手を取った。
ミカは『ヴェゴの方に行こう』という意味で言ったのだが通じなかったようだ。
「いや、歩きにーーー」
「アアァァアアアアアァァァァ!!」
ミカの言葉はヴェゴの叫び声に欠き消された。
見ればヴェゴが拘束されているはずの体を反らして叫んでいた。
ミカはリリィ達の手を離してヴェゴの近くにいるシャーリィへと問いかける。
「シャーリィ!何をした!?」
「ちがっ、妾は何もしてないわ!」
「じゃあそれは何がーーー」
「ア、アアァァアアアァァ!!!」
「ガァァァアアァァァ!!!」
「なっ!?」
話している途中でミカ達を遠巻きに見ていた魔族達も次々と発狂したように叫びだす。
その光景に気圧されミカ達は後退りする。
「シャーリィ!こっちに!」
ミカはシャーリィを呼び寄せ、全員で周りを警戒する。
ヴェゴは拘束が効いているようだからまだ問題ないが、他の魔族はやたらめったらと武器を振り回し始めた。
「拘束も解けそう?シャーリィ。留めてる魔法をぶっぱして」
「でも、それじゃあ死んじゃうーーー」
「ああいう狂ってるのが一番まずい。何が来るか分からないんだから。とにかく意識を奪って!捕まえたやつも!」
「・・・あぁもう!」
ミカの指示にシャーリィがやけくそ気味に返事をしながら魔法を着弾させた。
響く爆音。
「煙が晴れるまで背中を合わせて四方を警戒!」
発生した煙によって何も見えないなか、ミカが叫んで指示をする。
それに従い各々自身の武器を取り出し、互いに背を合わせてそれぞれの正面を警戒する。
「状況は?」
「何も見えん‼」
「同じく!」
「何も見えませんが、何の音もありません。恐らく全て気絶、あるいは死んだものだと思います」
ミカの問いかけにリリィ、シャーリィ、タマモが答える。
「シャーリィ、リリィ。煙を散らして。タマモ!きちんと確認できるまで警戒を解かない!」
「了解」
「うむ」
ミカの指示に従いシャーリィとリリィが風の魔法で通路の奥へと煙を吹き飛ばす。
それによって転がっている魔族に被害が少々出たようだが気にしている暇はなかった。
「・・・タマモ?」
ミカの指示にタマモだけが反応しなかった。
煙が散り、正面に異常が無いことを確認したミカはちょうど真後ろの確認をしているはずのタマモへと振り向く。
そこではちょうどタマモが前のめりに倒れているところだった。
「なっ!?どうしたのだ!?」
同じく疑問を持って確認していたリリィがタマモを支える。
「・・・気絶しているわ」
タマモの様子を確認したシャーリィが呟く。
これはミカに知らせるためだ。
ミカはタマモが倒れた後もある一点を凝視していたから。
「・・・リリィ。シャーリィ。あれ、何?」
タマモの前方にあったのは黒い靄。
どことなく人の形をしているように見えるが輪郭はまるで分からない。
リリィとシャーリィもタマモを寝かせ、それを確認する。
「・・・分からん」
「・・・まぁ、味方っぽくは無いわ、ね!」
シャーリィが影の刃を靄に向けて放つが、靄は避ける素振りも見せず、その刃を消した。
「・・・この魔法の対策を知っている、ね。何者?」
答えはなかった。
その代わり靄が大きくなる。
(・・・違う!)
大きくなっているのではなく、ミカ達目掛けて滑るように動いて来ている。
動作らしきものが無かったので大きくなったのだと勘違いした。
ミカはとっさに魔法を発動。
風でブーストした回し蹴りでリリィを横に蹴り飛ばし、自身も反対方向へと跳ぶ。
「なっ!?ミカ!主様に何をーーー」
靄の動きに勘違いしたままのシャーリィがミカの行動に抗議しようとして、真上へと吹き飛ばされた。
彼女は天井にぶつかり、地でも何度かバウンドするようにして転がった。
「なっ?・・・痛、ぁ!」
「くっ!ミカ、何を・・・っ!シャーリィ!」
ミカに蹴り飛ばされたリリィがシャーリィの状態に気づいて駆け寄る。
ミカは靄をじっと見つめる。
(見えにくいけど。多分人、あるいは人形の魔族。濃い部分が蹴り上げのように動いてた)
靄がリリィ達の方を(おそらく)向いた。
その瞬間にミカは胴体があるであろう場所へと回し蹴りを放つ。
だがそれは靄を通過しただけだった。
(・・・実体がない?いつの間に)
狙いがリリィだと思っていたミカはリリィの方へと向く。
「ミカ!」
リリィが叫ぶ。
「グゥッ!」
ミカはとっさに靄から離れるように跳んだが、それでも蹴り飛ばされた。
攻撃は靄から。
実体が無かった事から移動したと思っていたがそんなことは無かったらしい。
「っつ!」
ミカは衝撃を殺すように跳んだにも関わらず受け身を取ることもできなかった。
何とか立ち上がるが、少しふらつく。
もう一度食らえば立てないほどのダメージを受けてしまったが、収穫はあった。
蹴り飛ばされた瞬間にミカの手は何か柔らかいものに触れた。
靄の中の何かに触れることができた。
そのことから攻撃する瞬間にはこちらも攻撃が可能な事が分かる。
ならばカウンターを狙えばいい。
神月流の得意分野だ。
だが、リリィを狙われてはそれも不可能になる。
「・・・どうした?こんなもんか?まだ僕は倒れてないぞ?」
だからミカは靄へと挑発する。
効果はあったようで靄がミカへと振り向くのが分かる。
動き出すのは速かった。
靄はミカへと近寄りながら右手らしき部位を袈裟懸けのようにして降り下ろしてきた。
明らかに射程範囲外に見えるが念のためミカは左手で鞘に入ったままの剣を盾のようにして左上へと掲げ、右手はカウンターのために手刀の形を作る。
ガキン!と確かに防いだ感触が左手に伝わる。
ミカはすぐさま右手に風を纏わせたーーーところで、靄の姿が右手らしき部位を振り切った姿勢をしているのが見えた。
左手には確かに攻撃を防いだ感触が残っているにも関わらず。
その靄の姿がある技を使っている自身のものと重なった。
(ちょ!?この動きって!?)
ミカは魔法をキャンセルして鞘を喉と心臓を守るような位置へと動かし後ろへと跳ぶ。
ーーーデスサイスーーー
その声は機械音のようだった。
ミカの右肩辺りが浅く切り裂かれる。
だが、それにも気づいていないような素振りでミカは呟いた。
ありえない、と。
技名は違うようだが、今のはミカの得意としているベルン流の剣技『虚ろに惑う死の一閃』だった。
それは自身の家で作られた技。
そのため、この技はこの世界にあるはずの無いもの。
「・・・何故。その技をーーー」
ミカの言葉は途中で途切れた。
靄が消えたのだ。
自身の疑問はとりあえず脇におき、周りを警戒する。
「ウッ!?」
腹部に衝撃。
だが、腹部には何も無い。
正面にも何もいない。
「ウッ、ア、っ!」
そのはずなのに再度衝撃。
視界が明滅しだす。
(何で、っ!)
何とか風を纏った手刀を前方に放つが当たったかどうかももはや分からない。
ーーーリリィ様。お迎えに上がりましたーーー
その声を最後にミカの意識は途絶えた。
シャーリィが魔族達を殺そうとしなかったのは同族殺しがしたくなかったからです。
何故人間殺しは平気なのかというと、彼女達魔族にとって人間は動物と変わらないからです。
リリィは言葉が分かるため人間でも抵抗がありますが、動物のように見ているところもまたあります。
シャーリィはリリィよりその考えが強いため人間殺しに抵抗がありません。
次回は、場違いな幸福感です。
次回の投稿は遅くなるかもしれません。
私はチョコを集めなければならないのです!




