四十九話:躍り狂おう
昨日はとても寒かったですね?
どこもそうらしいです。私の所も霙が降りました。
今日は暖かくなって欲しいですね。
・・・春はまだ来ないのでしょうか?
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ーーー私のご主人様は優しい。
ーーー奴隷であるはずの私に、普通に接してくれる。
ーーーご飯も一緒だし、武器だって選んでくれた。
ーーー戦闘は、まぁ、うん。
ーーー効かないって分かっているからだろうけど盾にされたときは流石に酷いと思った。
「ごめん。とっさだったから」
ご主人様が私に謝っている。
ーーー奴隷にそんなことをしない下ください。
そう言わなければならないと思ったのだが口が開かなかった。
『お前達は道具だ』『常に主に気を使え』『主に頭を下げさせるな』
奴隷になってずっと言われ続けてきた。
『貴方は奴隷なのよ?』
ーーーそんなことは分かってる。
言ったらこれまでの関係が無くなり、主人と奴隷になってしまうのではないのか?
ーーーっ!
怖かった。
耳にした奴隷の末路はどれも酷いものだった。
ーーーでも、言わなきゃ。
「それより、タマモ。作戦と行動が違うよ?」
ご主人様が少しムッとした表情で聞いてきた。
ーーー作戦・・・ご主人様が私に敵兵を送って...
敵ではなく自身が運ばれたことを思い出した。
「さ、作戦には、私を、だ、抱いて、離れるなんてありませんでした」
「そこはほら、あの数相手に広いところとか難しかったからね」
「ご主人様も違う行動をしているじゃないですか」
ーーーあぁ。恥ずかしかったからって、ご主人様に何て事を。
「・・・確かに」
ーーーご主人様、お仕置き何てことは・・・
恐る恐る様子を伺う。
「もう作戦はいっか。とにかく倒そう。それが作戦」
ご主人様は軽い口調で笑っていた。
複数の事を考慮して作戦を作っていた人物とは思えない作戦に頬が弛んだ。
ーーー・・・フフッ。なんですかそれ。
「なんですかそれ」
声にも出てしまった。
「無理だと思ったらすぐに下がって良いからね」
ご主人様が言う。
当たり前の事のように気を使ってくれる。
「ありがとうございます」
ーーーやっぱり、私のご主人様は優しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ガキン!キン!と金属同士がぶつかる音がいくつも、間近から聞こえる。
「くっ!なんなんだこれは!」
魔族は一度立ち止まり怒鳴り散らした。
「どうしたんですか?もう手詰まりなので?」
敵対している男、ミカは武器を腰に下げたまま、攻撃の素振りも見せていない。
ミカは武器を持っていない。素手だ。
金属音は仲間であるはずの魔族同士が武器をぶつけ合っていることで発生していたのだ。
「貴様。何をした?」
「別に何も」
「ふざけるな。何もせずにこんなことが起こるわけがーーー何もせずに?」
魔族は首を傾げた。
自身の言葉におかしな点でも見つけたかのような仕草だ。
「ラーン族・・・成る程。幻属性の魔法か」
魔族はニヤリと笑いミカを見た。
ミカの表情が固まった。
「やはり図星か!それが判れば対策はいくらでもある!」
魔族は叫ぶ。
それは自身を鼓舞するものではなく周りの仲間に知らせるためのもの。
魔族の体に黒い蛇のような文様が浮かび上がった。
いや、この魔族だけではなく周りすべての魔族の体に同じような文様が浮かんでいる。
「これで貴様の幻は通用しない!」
魔族は笑い、声と同時に突っ込んできた。
その速度は今までで一番速い。
並みの動体視力では消えたように見えるほどだ。
ミカは大きくバックステップをするがすぐに追いつかれる。
魔族は勢いを乗せた拳を突き出した。
その拳はミカを囲っていた魔族を吹き飛ばした。
「くっはははは、は、・・・は?」
敵を吹き飛ばした感触に魔族は笑い声を響かせていたが、吹き飛ばしたのが自身の仲間だと気がついたのか疑問の声を上げる。
「・・・この状況で自分が認識できない速度を出すとか、馬鹿じゃないの?」
ミカはその一連の動作をあきれた表情で眺めている。
「バカな!幻属性の魔法は無効化しているはずだ!」
「そもそも使えません」
そもそもミカは上位属性の魔法どころか下位属性の魔法すらまともに扱えない。
では、今何を行ったのか。
ミカは魔族の攻撃をすれすれで避けつつ突風を起こし魔族の速度を加速させたのだ。
当然そんなことをすれば気づかれる。
だから、バックステップで囲いとの距離を調整。
ブレーキをかけても魔族の仲間一人を殴ってしまうようにした。
したのだが、振り向くと魔族はブレーキをかけずに仲間を吹き飛ばしているではないか。
正直、予想外だった。
しかも、高笑いまで聞いてしまった。
あきれるのもしょうがないだろう。
「なっ!使えないだと!?では、今のは何だ!?その前の反応は何だ!?」
「いや、今のもその前のも同じただの技です。固まっちゃったのはそれを見当違いのもののように認識されたことに、何言ってんだこいつ?とか思ってただけです」
魔族をかわいそうとでも思ったのか、ミカは本当のことを言う。
だが、失笑気味で言ったのはよくなかった。
魔族はバカにされたものだと思ったようで顔を真っ赤に染める。
ボゴォ!と魔族の体内から音が響いた。
「うわっ」
音の発生源である部位、胸元を見た瞬間に魔族のまとっていた鎧が吹き飛んできた為とっさに避ける。
魔族の胸筋が不自然なほどに膨らんだ。
色も真っ赤に変化している。
そこから左右の腕に赤色が伸びて行き、少し遅れて肥大化する。
赤くなったのは切れて頭に血が上ったからではなく形態変化のためのようだ。
「ならば、技ごと力で叩き潰ーーー」
声が途切れた。
変化も中途半端に止まっている。
ごとり。と、
魔族の首が落ちた。
遅れて噴き出す血。
「変身パートで攻撃がないのはアニメだけだよ。昔からこれには突っ込みたかった」
その中でちょっとすっきりした顔でミカは呟く。
右手にはいつの間にかミスリルの剣が握られていた。
「さぁ。次々来てよ。共に踊り狂いましょう」
ミカは剣を鞘に納めながら嗤う。
彼目掛けて魔族が殺到した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「・・・すごい」
タマモは戦闘中にもかかわらずつい呟いてしまう。
彼女の視線の先では無数の魔族の攻撃をかわし続けているミカの姿がある。
彼の手に武器はない。
なのに、攻撃をした魔族の体にどんどんと斬り傷が増えていく。
ミカが魔法で斬っているわけではない。
魔族の攻撃が別の魔族を傷つけているのだ。
もちろん、仲間割れが起こったわけではない。
彼らはミカを攻撃しようとしている。
だが、そのことごとくをミカは逸らしているのだ。
それも、ただ逸らしているのではなく、その逸らした攻撃で他の攻撃を防ぎ、別の魔族を傷つけるようにして。
無駄な動きのようで、その実、一切無意味な動きが無い流れるような舞い。
鉄の武器や、飛び散っている血が廊下を照らす魔石の光を反射している。
ーーー綺麗...
不思議とそう思っていた。
舞い散る血は不快なもので、今もそれは変わっていない。
その血が辺りに撒き散らされているというのに、彼女はこの光景を綺麗だと思ったのだ。
ミカがこちらを見た。
「っ‼」
ビクッ‼としてタマモは目を逸らす。
何故だか、『目を合わせる』という行為に羞恥を覚えたのだ。
それでも、目を離したのは一瞬だった。
「あれ?」
なのに視界からミカが消えていた。
「ゴボッ!?」
背後から悲鳴が聞こえる。
「え?」
「戦闘中にボサッとしない。死ぬよ?」
「は、はい」
いつの間にか背後に回っていたミカが魔族の胸に手を突き込みながら注意する。
風属性の魔法で刃を手に作り、それを突き込んだのだろう。
タマモの返事も言い切る前にミカはまたもや高速で消え、元の場所で戦闘を再開する。
タマモはミカのことを目で追いかける。
助けて貰えて嬉しかった。
その姿が格好いいと思った。
直後にハッ、として自身の頬に手を当てる。
「・・・熱い」
自身の顔が赤くなっているのが分かる。
(わ、私、今、何を思ってーーー)
『私達獣種は強いと思った男に守られると、コロッといっちゃうの///』
唐突に、子供の頃に『どうやって私が生まれたの?』と聞いて帰って来たのろけの一つを思い出した。
(って、な、何で今、母様の言葉を思い出すのよ!)
ブンブン!とタマモは雑念を払うように頭を振る。
直後に武器を構えて一振り。
「ガッ!?」
襲い掛かろうとした魔族を斬り飛ばす。
(何も考えるな。何も考えるな。何も考えるなーーー)
彼女はとにかく周りの魔族へと武器を振り回す。
自ら敵陣に飛び込み振り回す。
とにかく、何かをしていないと落ち着かない。
彼女の頬から赤色が抜けたのはこれから数分以上経過した後のことだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★
(やっぱり小回りが効かない。速度はこっちが圧倒的に速いから馴らしたいんだけど・・・)
タマモから魔法による高速で離れたミカは適当に魔族の相手をしながらその魔法について考えていた。
草原ではじめて使った移動の魔法。
魔法の練習をはじめて直ぐに無詠唱でできるようになった魔法の一つ。
だが、その速さゆえに扱いきれていないところがある。
だから、わざわざウィンドボムを改良した移動方法を作ったのだ。
(これができればいろいろと楽なのに)
ミカは鬱陶しそうな表情を浮かべた。
彼が考えていたのは高速で移動しながら相手の首を落とすというもの。
シンプルだが、今の状況のような雑魚相手に認識できない速度で攻撃できるというのはいい。
欠点はその速度が見える格上相手には全く意味がないところだろうか?
そんなことを考えながら戦っていたからだろう。
「ゴブッ!」
「な、んグッ!?」
目の前の魔族の腹から内臓と共に飛び出してきた槍に反応が遅れてしまった。
とっさに体を捻って避けようとしたが脇腹を軽く抉られる。
「ほう?今のを避けるか」
槍に貫かれた魔族の後ろから低い声が響く。
槍に貫かれた魔族は槍を生やしたまま倒れ、その背後にいた魔族の姿があらわになる。
身長はおよそ二メートル強。
金色の瞳、顎当たりまで伸びている二本の太い犬歯、額から突き出ている大きな角、と人とは離れた特徴を持っていながらも、全体的に見ると人に近い姿をしている。
「・・・鬼、だよね?」
その見た目からミカは自身が連想したものを呟く。
防具に見えるようなものは身に付けていない。
普通の服を着ているように見える。
あくまで、見た目はだが。
魔法のある世界だ。
あの服は何故か頑丈だ、とかがあるかもしれない。
「オニ?・・・人間の呼び名など知らんが、俺と、そこで死んでるのはオーガだ。覚えておけ」
ミカの呟きに目の前の魔族が反応した。
その魔族は自身のーーーついでのようにミカが変身の途中で殺した魔族を指し示しながらーーー種族について口にする。
「ご丁寧にどうも」
相手の装備を見て、耐久や戦法などを考察していたミカは適当に返答する。
だが、その返答にオーガはニヤリと笑った。
「人間ということを否定しない、か。成る程。その変装、協力者はリリィ様か」
短い問答。
ただ一言呟いた内容から疑われ、この短いやり取りで自身の正体や、立場がバレてしまった。
(やらかした)
ミカは内心で舌打ち。
戦闘中、自身が変装していることなど忘れていたため、オーガに人間と言われても何の違和感も覚えなかったのだ。
「しかし、リリィ様を助けた人間がこんな小娘とはな」
「誰が小娘ですか。僕は男です」
「何?」
女に見られたことにミカは反射的に言い返し、その内容にオーガが一瞬固まった。
「・・・その反応はなんですか?」
「・・・リリィ様が生きていてはまた人間との争いが無くなるらしい。上の奴等の考えは知らんが、争いがないのはつまらん」
オーガは今のやり取りは無かったことにする気らしい。
ミカの睨みを無視してオーガが構える。
今までその大きい体で柄しか見えなかったが、このオーガの武器は二メートルを越える大きさの大剣のようだ。
「・・・戦闘狂の方でしたか」
ミカも今のやり取りを続けると自身が傷つきそうだと思い流れに乗る。
「周りの反応をみるに貴方がこの砦の現・主ですか?」
「そうだ」
「成る程。探す手間が減りました」
ミカはスッ、と相手の行動に反応できるように半身になる。
「名乗りは要りますか?」
オーガはニヤリと笑いミカへと突っ込んだ。
最近思いつきの無理やり感がすごいします。
大丈夫ですか?実は矛盾点とか無いですか?
次回は力の差、です。




