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高校生モニターを貸し切り旅館へと無料でご招待!

時系列が前後してます。カフェで別れた後のチームポセイドンの反省会です

 チーム花沢の連中と別れた後、チームポセイドンの六人は夢屋の中を進んだ。

 カフェとは反対側の出口から外へ出て――――――。


「うわぁあ」「うううう」「ぎゃああ」「うぁああ」「やあああ」「うぐううう」

 それぞれ唸り声を上げて、駐輪場の横にしゃがみこむ。


「すげえ、ざ、罪悪感が!」

「俺達、あれでしたね」

 翔太が無意味に敬語で切り出してしまう。



「俺達、完全に、「仲良いチームのプレイを邪魔する迷惑プレイヤー」でしたね」



「言うなああああ!!」

「結論から言っていい時と駄目な時があるでしょ!? もうちょっと迂回してよぉ!」

「迂回しても近道しても結論はかわんねーだろ! うわ、もーこれどうすんだよマジで!」

「でも心当たり超あるな」

「え? どゆこと?」


「あいつらがゲームオーバーになった後、ゲームの大幅な仕様変更があったじゃねーか。苦痛が無くなったり、PKできなくなったり、ゲーム内から外部のサイトにアクセスできなくなったり」


「あったあった! ひょっとしてそれって」


「……」「……」「……」「……」


 六人は青ざめた顔を向かい合わせた。


「……南星高校の連中も……なんか、チーム花沢の話題に触れようとしなくなったし」

「あいつら、知ってたんだろうな、これ」


 34人の大所帯だった南星高校。彼等の保護者にはゲームの開発関係者がいた。それも複数人。

 全滅から再びログインしてきた彼等の関係は、どこかぎくしゃくしているように見えた。ログインしてこなくなったプレイヤーさえ居た。きっと、これが原因に違いない。


「もーもー最悪じゃねーかあああ! くっそ! 南星の連中もちゃんと説明しろってのー!」

「どどど、どうしよう!?」

「どうしようって何が」

「だって、チームテンプルナイトとか、絶対これ知らないよね? あのキリって奴、まだバーサーカー目の仇にしてるし」

「あ、」


 六人はお互い顔を見合わせた。


「これ、あの連中に説明できるか?」

「え? 無理」


 結衣はあっさりと首を振った。剣で仲間に切りかかるような男相手に、


『チームテンプルナイトや南星高校は、お姫様にとって、チートキャラ目当てに攻撃を仕掛けてくる迷惑プレイヤーでした』

『知らない男に抱き上げられてキスされそうになって、脳溢血か心臓麻痺起こしそうなぐらいショックを受けたそうです』

『あれから一週間以上経つのに、思い出すだけでも震えてます』

『バーサーカーが姫を殺したのは、姫様が殺してって命令したからでした』


『お姫様はずっとプレーヤーに襲われるばっかで怖かったって言ってました』


 なんてもろもろの真実を報告なんて出来るはず無い。バーサーカーに寝返ったと思われて確実に逆ギレして襲いかかって来そうだ。


「……………………………………」



 チームポセイドンのメンバー全員、頭から血の気が引きながらも冷や汗が流れるのを感じた。

 六人してうな垂れて、深い深いため息を吐いてしまう。


「あのチーム、普通に仲良しグループだったんだね。なんであんな風に見えちゃってたのかなあ」


 シーフも勇者も、ゲームが怖かったとしか言ってなかった。

 人を切った感触を思い出して嫌がっていた。

 おそらく、南星高校戦での話だろう。


「お姫様の最後も、聞いてたのと全然違ったね」


 バーサーカーが姫を殺したと聞いたから、やっぱりバーサーカーはとんでもない悪人だったと怒りに湧いたのだが、姫が知らない男を怖がって、自分をバーサーカーに殺させたのなら、全然話は違ってくる。


 おまけに、バーサーカーはガーディアンを発動させたのだという。


 姫は男に触られるのを怖がって死を望んで、

 バーサーカーはガーディアンを使いダメージを一身で受けて、パーティを守ったんじゃないか。


 花沢パーティーがレベルを上げる前に姫を救出しなければ。

 どいつもこいつも、自分達も、使命感に燃えていた。なのに蓋を開けてみたらどうだ。


 悪人に見えていたバーサーカーは少し話しただけの自分達の名前まで覚えていた。「友達を気に掛けてくれたから」という理由で。

 姫はバーサーカーを信頼していた。それどころか片想いして頼りにさえしている様子だった。知らない人間に触られたことを思い出すだけで震えていた。

 シーフは普通の男で、勇者に至っては随分と大人しそうな印象を受けた。プリーストだって普通の可愛い女の子だった。


 意地悪そうに見えた花沢は印象そのままだったけど、少なくとも姫を苛めてる感じはしなかった。

 姫自身がきっぱりと「こういう人間」と暴言を言い放ったのだから。

 英雄気取りで姫を助けようとしていたのを正確に見抜かれていたのは、今となってはただただ恥ずかしい。


「あいつらも普通にゲームしたかっただろうな」

「――――そうだな」

 六人は深く頭を垂れた。



 結局、チームポセイドンはチーム花沢に謝罪をすることもできず、

 チームテンプルナイトや他の連中に真実を打ち明けることも出来なかった。



 そしてそのまま約一週間が過ぎて、モニター終了の日が訪れた。



 高校生モニターのプレイ期間が終了し、各高校から、バーチャルRPG世界へログインするための機材が撤去されたのだ。





 結局全クリはできず、ゲームは中途半端のまま終了してしまった。

 記念としてセーブデータは受け取ったが、高額なバーチャルゲームを購入するつもりは無かった。

 チームポセイドンは今日で解散だ。

 ぽっかりと心に穴が開いたと思えるぐらいに残念だったけど、どこかほっとしていた。

 もう二度と他校の連中と会うことはないだろう。会ったとしても、話すことも無く挨拶程度ですれ違うだけの邂逅となるだろう。


 チーム花沢のことも、もう、忘れよう。そう思っていたのだが――――――。


 教師に呼ばれ、元チームポセイドンは職員室に集まった。


 そこで渡されたのは、案内書だった。


『モニター協力ありがとうございました! アースソリューションよりモニターの皆様へ感謝の気持ちを込めて、旅館貸し切りの慰安会を開かせていただきます。送迎付き、食事付き宿泊料無料!! 夜には無料出店が立ち並び花火大会も開かれますので高校生モニターの皆様、是非ご参加ください!!!』


 旅館貸し切り! しかも食事付きで宿泊料も無料!? おまけに無料出店と花火大会!!??


「よかったなーお前等。ゲームで遊んだ挙句に、一泊二日の無料旅行にまで招待されるなんてな。羨ましいもんだ。参加できそうなら、この同意書に保護者の方からサインを貰って来てくれ。学校外の活動となるんで先生の引率は無いから、絶対に自分でサインするんじゃないぞ。お母さんかお父さんにちゃんと許可を取れよ――――ってどうした? 変な顔をして。嬉しくないのか?」


 先生に問われて翔太は首を振った。


「いえいえ、嬉しくないはずないっすよ! すげー嬉しいんですけど……」


「開催は来週の土曜日だ。急っちゃー急だけど、せっかくだから参加してこい」


「はい……」


 六人は先生に挨拶をしてから、職員室を出た。


 そしてそのまま、職員室のドアの前で顔を付き合わせてしまった。


「ど、どうしよう……!?」

「どうって……絶対行きてえよな」

「行きたいに決まってるじゃねーかよ! これ断るとかありえねえだろ」


 当然ながら、六人とも、しっかりと案内書と同意書を握っている。


「でも多分、来るよな。チームテンプルナイト。チーム花沢も」

「そうなんだよね……」

「会わないように気を付ければいいんじゃねー? 高校生モニターって総勢150人ぐらい居るしさ」

「そっか、そうだよね。うん、旅館なら個室だし大丈夫だよね」


 送迎付きの無料旅行なのだ。多少の不都合には目をつぶって見ないようにしてしまうのが人情だ。少々気がかりではありつつも、チームポセイドンは来週末を楽しみに待つのだった。




 そして、チーム花沢も。




「竜神!! 無料宿泊だって! しかも貸し切りで花火大会と無料屋台まで出るって!」

 目をキラッキラさせて未来が竜神を見上げてきた。

 手には、先ほど山口に渡された案内書と同意書をがっちりと握っている。


「あんだけイッタイ思いしたんだし、これぐらいの見返り無きゃやってられませんよねー! 超楽しみっす!」

 同じく手に案内書と同意書を握った達樹がはしゃいで未来に言う。

「だなー! せめて元取ってやる!」


 元って何の元だろうか。未来は命まで落としたんだが屋台の食い物や花火大会で元が取れるのだろうか。

 竜神は真剣に考え込んでしまった。


「どうしたんだよ竜神、怖い顔し――――」

「ほんっと楽しみー! 一緒に温泉入ろうね、未来!」

 美穂子に背中から抱きつかれ未来は手を振って叫ぶ。

「ええええええええ!!?? そそそれは無理だろ! っていうか無理です無理です! 俺恥ずかしくて死ぬから無理!」

「見てこれ! 露天風呂だけじゃなくって、歩行湯もジャグジーも立って入れるお風呂まであるんだって! サウナも普通のサウナだけじゃなくてスチームサウナと塩サウナまであるよ!」

「話聞いて美穂子!!」


「安心しろ未来。私も一緒に入るから」

「お前が一緒で何を安心すりゃいいんだよ! 逆に怖いよ!」

 百合に詰め寄られ、未来が竜神を盾にする。


「夜ご飯は和食海鮮ー。朝ご飯は洋食バイキングー」

 美穂子はすっかりどっかの世界に意識を飛ばしてしまっている。


「竜神君、これ、大丈夫かな」

 きゃあきゃあはしゃぐ女子組プラス達樹を他所に、浅見が小声で竜神に話しかけてきた。


「多少は絡まれるだろうけど」

 未来や美穂子や達樹の喜びようだと「危ないから行くな」なんて言えるはずもない。


「絡まれるとしてもオレかお前か達樹だろうしな。一人歩きしないよう気をつけとけ」

「うん……」

「女連れの時喧嘩になったら、とりあえず未来と美穂子と百合逃がしてくれ。後はオレ一人でいいから、人数多くても気にすんな」

「了解。役立たずで申し訳ないよ」

「逃がすだけでも充分役に――」


「竜神、浅見!」

 どん、と未来が飛びついてくる。


「晩飯、カニとアワビ、どっちか選べるんだって! どっちがいい!?」

「カニ」

「僕もカニかな」


「全員カニだなー」

 ふにゃ、と笑う未来にささくれた心が解される。


 心配事はあっても、このメンバーで行ける旅行は楽しみだった。

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