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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

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姫はクレアのはずだったのに(南星高校 金山クレア)

噂の元凶の性格最悪の女子生徒の話です。
次回、チームポセイドンの反省回を更新します!!運営回も入れさせていただきます!
感想に頂いた設定はガンガン反映させていただきますので何かあればまたご意見ください!
―――――――

バーチャルRPGゲーム、レアクラスキャラクター

○通常レアキャラクター
【勇者】
 ゲーム上最強のキャラクター。
 物理攻撃から魔法攻撃、回復魔法もオールマイティに使いこなし、二刀流で攻撃に特化することも、盾で防御に特化することも可能。

○特殊レアキャラクター
【姫】
 パーティーに大いなる加護を与えることができるキャラクター。代表的な能力は戦闘中、頬へのキスでレベルアップさせること。
 パーティーレベルが上がると同時に成長し、特技のレパートリーも増えていく。

【バーサーカー】
 HPが低い姫を守るために用意されたキャラクター。
 姫と対になって出現する。防御力、攻撃力、HPが異常に高く、レベル差のある相手でも殲滅することが可能。「庇う」や「ガーディアン」で他者への攻撃を防ぐこともできる。

―――――――

 金山かねやま 呉安くれあは父親から渡されたゲームの資料、レアクラスキャラクターの紹介に目を通して「へえ?」と声を漏らした。
 アークナイトやら吟遊詩人、闇天使といったレアキャラクターの説明もあったが、クレアの興味を惹いたのは「勇者」「姫」「バーサーカー」、この三つのキャラクターだ。

 南星高校二年三組。
 クレアの通うこのクラスには、世界で始めてバーチャルゲームを作った会社『アースソリューション』に勤める保護者を持つ生徒が三名も居た。
 クレアもその一人で、父が開発企画部に勤めている。

 只今の時刻は午前二時。玄関から物音が聞こえてクレアは足の踏み場もないほど散らかった自室から出た。
 疲れた様子で玄関に腰を下ろし、靴を脱いで居たのは予想通り父だった。

「ねーオッサン、姫の出現条件って何? クレア、姫になりたいから教えてくんね?」

 深夜に帰宅した仕事帰りの父親に、クレアは尊大に言い放つ。
 父は眉間に皺を寄せて溜息を付いた。

「自分の事は『私』と言いなさい。高校生にもなって名前を使っては駄目だよ」
「うぜー。早く姫になる方法言えって。アンタが役に立つことなんてこんな事しかないんだからさ」
「………………」

 少々沈黙を挟みながらも、父はゆっくりと答え始めた。

「姫に相応しいかどうかの判定は、同じIPアドレスから男女がログインしてきた場合にのみ開始される。質問の結果、『姫に相応しい気質の女性』と『姫に献身的に仕える男性』だと判断されれば姫とバーサーカーになれる」

「ふーん。それだけ?」
「それだけだ」
「あっそ」

 クレアはあっさりと踵を返して自室へと戻った。
「そんだけでいいなら、間違いなくクレアが姫だよねー」そう笑って。

 姫に選ばれるだけの気質は充分に持っているとクレアは自負していた。

 ゲームには二年三組のクラス全員、合計三十四人もの人数が同時にログインする。南星高校は共学なので、女子と男子の数は大よそ半々だ。

 一緒にゲームにログインするクラスメイトの中に、『クレアに献身的に仕える男』は何人もいた。

 学年一の秀才のバンドウ。
 学年で一番体格がよくて喧嘩が強いと評判のビトウ。
 授業をサボるヤンキーだけど、クレアの言う事はよく聞くフタサキとヘンミ、ホリモト。

 この五人はクレアに夢中だった。
 バンドウとビトウは表立ってアプローチしてくることはなかったけど、クレアが困っていれば必ず手を貸してくれるし、ヤンキー三人はいつも周りに居てお互いを牽制しあいながら、他の男を威嚇して追い払っている。

 目立つのはこの五人だけだけど、他のクラスメイトにもクレアを好きな男は居た。
 クレアの自意識過剰ではない。視線を合わせるだけで赤くなったり、クレアが肩や腕に触るだけで意識した目で見てくる男子生徒が大半だった。

 クレアは学校で一番の美少女だったから。

 去年の文化祭で、一年生だったのにミス南星高校に選ばれていた。点数は他の女子達と拮抗してて、ぎりぎりの一位だったけど一番は一番だ。
 クラスの男子全員がクレアを特別視していると言っても過言ではないとクレアは思っていた。

「誰がバーサーカーになるかなー? 強くなくちゃだめなら、やっぱビトウかなー。でもホリモトも喧嘩強かったっけ」

 あとは、バーサーカーにあぶれた男が勇者になれば理想的だ。
 パーティーを加護する『姫』クレアと、姫の隣に立つ『バーサーカー』。そして、逆側の隣には『勇者』が立つのだ。


 学校でもバーチャル世界でも一番目立つのは金山 クレア。そう疑ってなかった。


 翌日の放課後、いよいよクラス全員三十四人がゲームにログインするため、空き教室へと集められた。
 バーチャル世界へ飛び込むための座席型の装置が物々しく設置されている。

「えー!? 姫なんて職業もあるんだー」

 クレアの友人、アヤネが弾んだ声を上げた。アヤネの両親は自営業で、『アースソリューション』とは何の関係もない。クレアから受け取った資料に目を通して、レアクラスキャラクターが存在することを知って興味津々に食いついていた。

「これ、クレア選ばれちゃうんじゃないー? 姫なんてクレアにぴったりだし!」

 思った通りの言葉をくれたアヤネに、クレアは内心ほくそ笑んだ。
 アヤネは姉御肌の闊達な女だ。だが反面おせっかいな面もあり、鬱陶しく感じることもあったけど、無邪気に賛美してくる彼女をクレアは好んで傍に置いて居た。

 クレアは大げさに手を振って、父に向けたのとは全く違う甲高く気弱な声を出して答えた。

「そ、そんなことないよ。姫になるには守ってくれるバーサーカーが必要なんだよ? クレアのこと守ってくれる人なんていないもん」

 語尾を細くしてから俯くと、アヤネがクレアの肩を軽く押した。

「馬鹿。クレアのためなら死んでもいいってぐらいの男子一杯いるでしょー。このクラスにだってさ」
「いるわけないよ……」

 か弱く呟くクレアの肩に男の腕が乗せられた。ヤンキー三人組の一人、ホリモトだった。

「オレ、ふつーにクレアのためなら死ねるけど」
「オレもオレも」「俺も!」
 フタサキとヘンミもホリモトに続く。
 それだけではなく、「お前が死ぬぐらいなら、オレだって」とビトウも言った。

「ほんとにぃ……?」
 クレアは上目遣いになり唇をほんの少しだけ突き出すあひる口で男達に訊く。
「ほんとだって!」
 口々に返事をする男達に、クレアは(ってか、当然でしょそれ)と内心で笑う。

 勿論表面には出さず、ただただ嬉しそうな顔をして見せ、飛び上がるように小さくジャンプをする。

「ありがとう! でも、クレアなんかの為に死んじゃ駄目だからね」
「自分の事、「なんか」とか言うなよ!」
「お前ほんっと自己評価低いよな! 超可愛いのに!」


 姫になれる。
 クレアはそう確信していた。
 これだけ自分を崇拝する男が居て、おまけに学校一の美女なのだから、姫以外になるなんてありえないとさえ思った。


 それなのに、

 RPGのフィールドに立ったクレアは姫ではなかった。
 攻撃に特化した、極普通の魔法使いだった。

「はぁ!? ありえなくね? どうしてクレアが姫じゃねーの? 姫に選ばれるのはクレアのはずなのにふざけんなっつーの!!」

 クレアは失望に木を蹴りつけてしまうが、慌てて周りを見回した。
 学校では、クレアは大人しく可愛く誰にでも好かれる女で、ちやほやされる存在でありたかった。本性を晒すのは夜の繁華街と家の中だけでいい。

 見回してからほっと息を吐く。
 初期位置が同じだったのは、クラスの中で孤立している大人しい女、ホンドウだけだった。
 目の前で机の中を探っても次の授業の教科書を机から持って行っても、文句一つ言わないので忘れ物をした時なんかに活用しているクラスメイトだ。
 笑顔で「ホンドウさんは他のクラスのお友達に借りれるから大丈夫だよね。クレア、友達少ないから……」と困った顔をすれば一気に自分が被害者になるのをクレアは知っていた。

 クレアは本性をむき出しにしてホンドウに詰めよる。

「あんたの職業って何? モンスター? じゃなかったら村人とか?」
「わ、わたしは……」
 ホンドウは震えながらウインドウを表示させて、「プリーストみたい……」と答えた。
「なにそれ。クレアよりお前の方が女っぽいってこと? ありえねー。ブスが調子に乗ってんじゃねーよ」
 クレアは思いっきりホンドウを蹴りつけてから歩き出した。さっさと他のクラスメイトと合流するために。

 モンスターとエンカウントする前に、ビトウとアヤネに合流できた。アヤネはサムライでビトウはファイターだ。
 二人とも、クレアが姫じゃなかったことに残念そうな顔をしていた。

「クレアが選ばれなかったんなら、もう、誰も姫になんてなれないんじゃない? 超レアなんだよきっと」
「だろうな。クレアが選ばれないぐらいのレアなら、資料だけの設定かもしれねーな」

 そうかもしれない。
 二人に言われて、この後合流したバンドウやフタサキとヘンミ、ホリモトにも同じようなことを言われて、クレアは納得した。
 いくつかのイベントをこなしクラスメイト達と次々に合流して、『リアの街』に付いたころには、クレアはもう姫のことは忘れていた。

「うわーあの子超かわいー」
「ねー、俺等と一緒にプレイしない? 俺達前衛ばっかだからさー」

 他チームの男達から声を掛けられ満足していた。
 クレアは教室内だけではなく、ゲームの中でも逆ハーレムのヒロインだった。

 南星高校内では、大人しく控えめで、友人も少なく、授業が終わると同時にすぐに帰宅してしまう普通の女の子を演じていたけど、ひとたび繁華街に出ればクレアには「彼氏」と呼べる関係の男が複数人も居た。
 しょっちゅう増えたり減ったりを繰り返すので、クレア自身人数を把握してないほどだ。
 現実世界での付き合いに忙しくて、たまにしかゲームへログインしてなかった。それでも、ログインするたびに男から声を掛けられ、アイテムや装備品をプレゼントされた。
 レアクラスプレイヤー、姫ではなかったけど、姫みたいな扱いをされて満足していたのだ。

 そんな矢先に。


『なんて素晴らしい! 皆様、ご注目ください! レアクラスプレイヤー、『姫』のいるチームです!』


 放送が街中に響いた。

 キスでパーティーに祝福を与えられる、このゲームのヒロインが街に現れた。

 クレアは愕然とした。

(クレアさえ姫に選ばれなかったのに、なんで!?)

 クレアはその時、ビトウと一緒に防具屋に居た。
 可愛いけど、妙に高額な、シスターの修道服に似た装備品を買ってくれると約束していたから。ビトウはしょっちゅうゲームにログインしていて、レベルがもう80を超えていた。その分、所持金も他のクラスメイトとは桁違いの額を手にしてて、可愛い、欲しいといえば何でも買ってくれる。
 試着して、後は購入だけの段階だったが、クレアは放送に店を飛び出して駆けだしていた。


 入り口に立つのは五人組のチーム。
 姫を守るように立つ男達を見て、クレアは目を見張った。


 モデルか俳優に違いない、丹精な顔をしたオッドアイの『勇者』。
 見るからにまだ幼いのに周りに睨まれても一歩も動じない、それどころか食い殺してやるとでも言わんばかりの顔をしている、怖可愛い容貌の『シーフ』。
 少々キツイ顔をしているけど鋭い眼光を持った迫力のある男前な長身の『バーサーカー』――――。



 クレアが描いていた理想のパーティーがそこに居た。



 クレアを守る「不良チームのフタサキとヘンミ、ホリモト」はいかにもヤンキーっぽい風貌で、荒れた肌やら厚い唇ややぶにらみの目、立ち振舞いも下品で、すれすれ「雰囲気イケメン」に引っかかる程度だ。
 クレアを守る学年一喧嘩が強く逞しい体を誇る「ビトウ」は体だけは大きいけどのっぺりとした顔のぶっちゃけ不細工な男だ。
 クレアを守る学年一番秀才の「バンドウ」も、容姿は並み程度でしかない。

 しかも彼等はファイターやナイトやモンクやガンナーと言った、このゲーム内に何百人もいる有象無象のキャラクターに過ぎない。

 『姫』が着ている服はさっき買おうとしていた服なんかより、ずっとずっと可愛かった。
 フリルとレースとリボンで飾られ、足元のガラスの靴も美しいフォルムを描いている。

「どうして」

 クレアが選ばれなかったのに、どうしてあんなチビ女が姫に選ばれたわけ!?
 その服だって、クレアの方が何倍も何千倍も似合うのに!!
(ありえなくね!?)
 そう言い放ちそうになってしまったのだが、それより先にビトウが上ずった声を出した。

「すげー! 姫超可愛いじゃねーか!! やっぱ可愛い子が選ばれる職業だったんだろうなあ」
「一般人レベルじゃ駄目だったんだなー! あの服だってそこらの女じゃ無理だしさ」
「やっべーあんな可愛い子初めて見た……」
「超キレー……」
「本物の姫って感じだなあ。ちょ、キャプとっとこっと」
「あ、オレもとっとこ。男達邪魔だなー。姫の前からどけっつーの」

 フタサキもヘンミもホリモトもビトウもバンドウも、アヤネさえ夢見心地に呟いていて、クレアの頭に一気に血液が上った。

(どういう意味? クレアが選ばれなかったのは、クレアが可愛くなかったからって言いたい訳!? あの女よりクレアの方が何倍も可愛いのに!)

 ここは街の中だ。攻撃が発動できない唯一の場所だ。
 そんな条件さえなければ、クレアはクラスメイトに向かって攻撃呪文を放っていたに違いなかった。


(ムカツクムカツクムカツクムカツクつかふざけんな!! 街中から注目されるのはクレアのはずだったのに!!!)


「くっそ、姫様完全に怯えてるじゃねーかよ。街に来たばかりのチーム解析してんじゃねーっての」
 ビトウが舌打をする。
「あの男達、なんで解析阻止の魔法使わねーの? 勇者がいたら解析なんてできないはずなのに――って、レベルひっく!! こんだけレベル低かったら解析だって有効か」
「なんだあの男達、マジ役立たずじゃねーかよ信じられねー」
「姫ってほら、キスだけでレベル上げられるチートキャラでしょ? 連中、姫に頼ってここまで来たんじゃないの?」
「あ、そっか! バーサーカーPKしてるじゃねーか。あんな弱そうな子の前でプレイヤー殺したのか!? 信じられねー!」
「あいつら全員柄わりーしなー」

 クラスメイトが口々に言い合う。


 逞しいバーサーカーが後ろを振り返り、姫の手を取って歩き出した。
 細いヒールのせいだろう。ふらつきながら歩く女はクレアの目には並み以下の女としか映らなかった。

(ヒールさえ履けないダッセェチビ女より、クレアの方が全然可愛いじゃん! なんであんな普通の女が選ばれて、クレアじゃ駄目だったの!?)

「うっわ、姫、なんか奴隷みたいじゃね? 勇者もシーフもファイターも姫のこと睨んでるしよ」
「無理やり引っ張るとか最低!」
 アヤネが、ビトウが口々にチーム花沢を罵るが、クレアの耳にはその言葉は届いてはいなかった。




 とにかく姫を殺したくて殺したくて仕方なかった。





 その日の深夜、クレアは一人、チーム花沢が泊まる部屋のドアを叩いた。




『はい?』
 多少眠気にかすれては居るが、低く響く声が中から答えた。
「あの、私……その、ちょっと話がしたくて、その、ちょっとだけでいいので、中に入れてもらえませんか?」

 甘えた声で強請る。クレアは自分の声の威力を知っていた。甘く響いて柔らかくて、男の庇護欲を誘う声だ。この声を聞いた男は確実に落ちる。ドアは開くと疑ってなかったのに、

『夜に女の人を部屋に入れるなんてできませんよ』
 あっさりと断られてしまって、危うく「はぁ?」と地声を上げてしまう所だった。

「ち、ちょっとだけでもいいんですけど……」
『すいません無理です。こんな時間に女の人の一人歩きは危ないですから部屋に戻ったがいいですよ』
「でも私――――」
 クレアは食い下がろうと声を絞り出すのだが、

『竜神、どうしたの?』

 中から響いてきた女の声に今度こそクレアは激昂した。
(ふざけんな! なんで一緒の部屋に泊まってんだよ! チビ女が男はべらせて調子乗ってんじゃねー!)

『なんでもない。起こして悪かったな』
 中から響く声が優しくなって、それにも頭に血が上る。

『いや――――その、起きてたからさ……――――ちょっとくっついていいか?』

(ヒールも履けないチビガキ女が媚びた声出してんじゃねーよ! っつーか喋り方も超がさつだし、やっぱりあんな女よりクレアが姫に相応しかったのにどうして!)

『あ? いいけど』
『――――このゲームすげーよなー。匂いも現実世界と一緒なんて…………。お前の匂い、やっぱ眠たくなる』
『寝ろ』
『うん』

(――――クソが!)
 クレアと会話していたのはバーサーカーだろうか、勇者だろうか、シーフだろうか。
 声のイメージからするとバーサーカーだけど。


 もし自分があのバーサーカーに守られていたら。
 ふと夢想した。
 大きくて強そうで、抱き締められたら体全部が抱え込まれてしまうだろう。
 背中に太い腕が回って、胸の中に包まれる妄想にふける。


 チビ女が許せなかった。

 クレアはウインドウを経ち上げて掲示板に書き込みをした。『チーム花沢は同じ部屋に泊まってる』と。
 姫がビッチという噂が立てばいいと思ったのだ。
 書き込むだけ書き込んで、眠りについたクレアは知らなかった。
 掲示板の噂がクレアの予想とは違う方向へと向かって行ったことを。

 この世界の宿屋のチェックアウトは十一時だ。
 クレアはぎりぎりまで眠ってしまい、慌てて飛び起きた。すぐさま約束していた装備品をビトウに買わせて、再度チーム花沢の男達に接触を計ろうと彼等を探した。

 チーム花沢の連中はほどなく見つかった。
 街を歩きNPCに話を聞いて回っていた。
 バーサーカーに抱っこされ腕の中で眠って、姫扱いされているチビ女が不愉快で堪らない。
 あの女の顔面に魔法を撃ちこむ妄想を何度も何度も繰り返してしまう。

「あ、すいません」

 とん、と軽く肩に当たって、相手は謝罪したというのに、クレアは不機嫌な表情をそのままに顔を上げた。
 慌てて表情を和らげる。

 肩が触れた相手は勇者だった。

 オッドアイはカラコンだと思っていたけど、近くで見ると全然違った。
 カラコンのどこか不自然で安っぽい色とは違う天然の輝きに見惚れる。

(やべー、超かっこいい)

 勇者と目を合わせたのはほんの一秒か二秒に過ぎなかっただろうに、古い映画の出会いがしらのワンシーンのように、妙に長く感じてしまった。
 シーフもバーサーカーもいいけど、やっぱり正統派が一番だ。


 別行動していたのだろう。細い道から出てきた勇者は振り返ることもなく、さっさとチーム花沢に合流してしまった。
「あの――」慌てて上げた声は勇者には届かなかった。



「クレア! あんたもちょっと来て」
 勇者と同じ道から出てきたアヤネが小声でクレアを呼んで、腕を引っ張ってきた。
「ちょっと待って……」
 勇者に話しかけたかったのに、無理やり引っ張られてクレアの頭に血が上る。
(こいつ、いっつも肝心な時に邪魔してくんのどうにかなんないの? 超ウゼーんだけど)

「クレアも連れてきたよ」
「よし、これで全員揃ったな。チーム花沢が街から出たら攻撃を仕掛けるぞ」

 バンドウの言葉にクレアは目を剥いた。
「え? ど、どうして……?」

「クレアも見たでしょ? あの柄の悪い連中! 姫、ちっちゃいのによろけるぐらい無理やり引っ張ったりして酷いよね」
「は?」
 アヤネが何を言っているのかよく判らなかったが、周りの会話からなんとなく推測できた。
 ハイヒールも履けなくてふらふらしていただけのあのチビ女を、バーサーカーが乱暴に引きずり回していると勘違いしているらしかった。

「それに、掲示板も見て! 昨日、あいつら同じ部屋に泊まってたって書き込みあったんだよ。絶対、あいつら姫様のこと苛めているよ」
「え」
 そういえば昨日書き込みしたのをすっかり忘れてた。クレアは掲示板を確認して驚く。
 クレアの予想とはまるきり真逆に掲示板の噂は流れていた。「姫」がビッチではなくて、「バーサーカー」「勇者」「シーフ」が姫を好きに扱っている悪人だと。「姫」が可哀相な悲劇のヒロイン扱いになっている。

(なにこれ! どいつもこいつも姫姫って頭おかしいんじゃないの? あの女にどうしてそこまで……!)

「チーム花沢が街から出たぞ!」
「よし、行くぞ!」

 歩き出したクラスメイトにクレアも付いて行く。
 予想もしてなかった展開になってしまったけど、これはこれで、チャンスだった。

 クレアが姫の位置に付くことができるかもしれない。

 クレアがやめてと言えば、クラスメイトは止まるだろう。
 ある程度戦ってから攻撃するクラスメイトを止めれば、バーサーカーもシーフも勇者もクレアに感謝するはずだ。
 きっと、これまでに話しかけてきた他のチームの男達同様、チーム花沢の連中もクレアに感謝して仲間になって欲しいと懇願してくる。

 クラスメイトはどうとでも言いくるめる自信があった。
(攻撃を止める言い訳は……まいっか。場面でどうにかなるっしょ。大勢で戦うのは卑怯だってのもいっかなー)

 楽しくなってきた。クレアは足取り軽くクラスメイトを追った。

 チーム花沢が森に入ってしばらくしてから、ヤンキーのヘンミとホリモトがチーム花沢の前に立った。

「なぁ、その女、俺達にくんね?」

 そう声を掛ける。意識がそれた瞬間を狙い、ガンナーであるフタサキがバーサーカーを撃ち抜く。
 姫へのキスを使われる前に重力使いが攻撃魔法を仕掛ける。
 先日覚えたばかりの重力を横にする大魔法だ。

「おい、姫まで落ちてるじゃねーか! 早く止めろ!」
 姫まで巻き込まれているのを見て、フタサキが怒鳴る。
「ちょ、これ、姫だけ解除すんの無理かも」
 重力の魔法使いが慌てながら答える。
「ええええ!? ふざけんなよ!」
「初めて使う魔法だからしょうがねーだろ!」

 そうこうしている間に、バーサーカーが木へと降りたった。

「あいつ姫を盾にしてやがる! あんな華奢な子を盾にするとかありえねえだろ! ふざけんな!」
 フタサキが銃を構え、再び狙撃する。
 銃弾は見事にバーサーカーの肩を打ち抜いて――――――。

 振り返った姫が、泣きそうな声で叫んだ。

「――や――やめてよ! もう撃たないで! ――あんた達と一緒にいくから!!」

「え?」
 かすかに聞こえた悲鳴にフタサキがびくりと肩を揺らした。

「あ、あれ? 今のって……なんか、普通に友達攻撃されて泣いてるみたいな……」
「あ――――――!!」

 フタサキの言葉はクレアの絶叫にかき消された。

 姫が飛びつくように勇者にキスをしていた。姫に相応しいハートと煌きのエフェクト、動きに揺れるドレス、髪、勇者の顔に添えられた姫の手――――。
 何もかもが許せなくて、クレアは反射的に姫に向かって魔法を使っていた。

 さして強い魔法では無かったけど、範囲攻撃だ。
 巻き込まれたバーサーカーが暴走状態になり、次から次へとクラスメイトをウインドウ状態に変えていく。

 クレアもまた、痛いと思う暇すらなく一太刀でウインドウへと変えられてしまった。




 チーム南星高校はゲームオーバーになり、現実世界へと戻ってきた。

 クレアがヘルメットを脱ぐと同時に、フタサキとヘンミが詰め寄ってくる。
「なんでお前、あの時姫に攻撃したんだよ! お前の攻撃さえなけりゃ、バーサーカーだって暴走せずに済んだのに!」
「オレがもう一回ヘッドショットすりゃ、安全に殺せたっつーのによ!!」

 頭ごなしに文句を言われて、ただでさえ不機嫌だったクレアの機嫌は更に降下した。
 それでも学校のクレアは大人しく静かで可愛い女で居なければならない。
 俯いて、涙を浮かべて唇を突き出して答える。

「ご、ごめん……。勇者を攻撃しようとしたんだけど、間違っちゃって」
「間違って範囲攻撃とかどんだけ頭悪いんだよ!!」
「つかぶっちゃけ、普通に姫狙ったろ。自分が姫になれなかったからって姫に嫉妬してんじゃねーよみっともねーな!」

 嫉妬!? その言葉にクレアの何かが弾けた。あんなチビ女に嫉妬なんかするはずない。だってクレアの方が可愛いんだから。

「はあああ? なにそれ。妄想で文句言わないでよ! つーかあの程度でいちいち文句いうとかウゼーし!」

「――――――!?」
「ク、クレア?」

 大人しく可愛かったクレアの変貌に、アヤネも驚く。

「そ――それがお前の本性かよ。だよな。つーかホンゴウさんの机から教科書とか勝手に取るしよ。なんか変だと思ってたんだよな」
「それ、今関係あんの? 話逸らそうとすんのマジ馬鹿っぽいわ。死ねよバーカ」
 クレアは言い放つだけ言い放って、さっさと教室を抜けた。

 ウサ晴らしに街で遊んでから、22時過ぎてようやく自宅へと帰る。


「ただいま! ママ、聞いてよー! 学校で超ムカツクことがあってさー」
 クレアの母はこの時間には大抵、肌の手入れをしてリビングで寛いでいる。父親は帰宅が遅くて、いるはずがないと決め付けていたのだけど、リビングには母と父と、スーツの男が三人で向かい合って座っていた。

 母の顔色が悪くて、クレアは母親に駆け寄った。
「どうしたのママ」
「クレア、お前もそこに座りなさい」
 父に座るよう促されるが、クレアは「は? 命令すんじゃねーよオッサン」と切り捨てた。
 言うなりになるのが嫌なので反発してしまったのだけど、でも、母親の様子が気になって結局腰を下ろしたのだけど。

「お父さんとお母さんは離婚することにしたんだ。お前はもちろん、お母さんについていくだろう?」
 離婚と聞かされてもクレアは驚きもしなかった。むしろようやくオッサンから離れられると喜びさえ沸いてくる。

「離婚? へー、そ。いつ出て行くのあんた」
「出て行くのはお母さんとお前だよ」
「離婚するならアンタが慰謝料払うの当然でしょ。家と金、置いて行けよな」

 父の隣の男がクレアに向かって名刺を差し出してきた。

「始めまして。私、弁護士の三藤と申します。お嬢さんもご存知でしたよね? ご自分が金山氏の娘ではないと言うことを。あなたの本当のお父さんはこちらの写真の男性ですよね?」

 三藤と名乗る男が資料の束から写真を取り出した。

 そこに写るのは、間違えなく「父」の姿だった。年の頃は三十代半ば。目の前の「オッサン」より若くて顔のいい男だ。
 クレアが三歳だったか二歳だったか、物心付いたときにはすでに「パパ」と呼んでいた相手でもあった。
 母が教えてくれたのだ。クレアの本当の父親はこの人だから、この人をパパと呼びなさいと。
 たまに母に連れられて会いに行く男を「パパ」と呼び、一緒に暮らしているだけで、父親ではない男には「オッサン」と呼び名を区別していた。
 「オッサン」は気持ち悪くて一緒にいるのも不愉快だったけど、たまにしか会えない「パパ」のことは大好きだった。腕を組んで笑顔で歩いている写真もある。

「こんなの、こそこそ調べてたわけ? 超陰湿。きもっ」
 写真は自分が小学生の頃の姿まであった。こんな大昔から調べていたなんてまるでストーカーだ。


 父は娘に――いや、妻の浮気相手の子供に、腹を立てる事はしなかった。ただ静かに告げた。

「お前にもほとほと愛想が尽きたよ。浮気相手の子供とは言え、縁合って家族になったのだし、高校卒業まではと我慢してきたが、ホンドウ次長のお嬢さんに暴力を振るっていただなんて恥ずかしい」
 あ、とクレアは眉を顰めた。ホンドウの父もまたゲーム会社に勤めていた。しかも、父親の上司だと聞いたような気がする。

 母が怒り心頭といった様子で立ち上がった。
「最低だわ。もうこれ以上話すことはないわ。慰謝料だって私の方が請求できるはずだから、私も弁護士付けてくるから覚えておきなさいよ!」
「はぁ? ひょっとしてこのオッサン、ママに慰謝料払えとか言ってきたの? ありえねー。馬鹿じゃねー」
 母は専業主婦で働いていない。それに女だ。離婚したいのはオッサンの方なんだから、払うのは当然オッサンだろうに。そうクレアは笑う。

「今度からは他所のオッサンではなくて、本当のパパに養ってもらうといい」
「そーするよ。くっせー親父と暮らさず住むし。ママ、さっさと荷物纏めてこっから出て、本当のパパんとこいこ」
「ええ。もちろんよ」


「あぁ、そうそう、一つ言い忘れてた」
 クレアに向かって、オッサンが言う。

「レアクラスプレイヤー姫は、バーサーカーと姫が、お互いに深い信頼関係で結ばれた男女だと判断された場合のみ出現するんだよ。まぁ、お前にこれを教えてたところで、結果は変わらなかっただろうけどな」

「だからなに」

 家財道具全て持って言っていいから、二週間以内に出て行くようにと父の弁護士からの指示があった。
 クレアは大様に構えていた。母が弁護士探しをしている。出て行く事になるのは父のはずと疑って無かったのだ。
 だけど結局、いくら「金を払うから」と言っても母の依頼を受けてくれる弁護士はいなかった。
 受けてくれそうな弁護士でも、「この場合だと……慰謝料の減額が精一杯ですよ。それもこれだけ証拠を揃えられてると難しいですねえ」と消極的で、慰謝料の請求などできそうになかった。
 十日目を過ぎてクレアと母は少しだけ危機感を持ち始めた。

 オッサンはあの日から家に帰ってはこなくなった。自分の荷物だけをまとめ、さっさと引っ越していったのだ。

 クレアは知らなかったのだが、「本当のパパ」にはすでに家庭があった。
 パパはママより若い女と結婚していた。

 しかもパパにまでかなりの額の慰謝料の請求があったようで、家に飛び込んできたパパはママに「減額を頼んでくれ」と泣き落としをしてきた。
 ママは渋っていたが、慰謝料の金額を聞いて驚き、怒り、オッサンの携帯を鳴らそうとしたのだが、オッサンの携帯は解約されていた。

 クラスでクレアを姫扱いする者も居なくなり、アヤネはホンゴウとつるむようになった。

 当然ながら、母からの慰謝料の請求は通用せずに、自己破産しても慰謝料の請求からは逃れられず、「オッサン」に十七年分の金銭を償っていかなければならなくなった。
 その代償として「パパ」と一緒に暮らすことができるようにはなった。

 だけど血の繋がった「パパ」と一緒に暮らせると言う喜びはなかった。

 「パパ」はそれなりの会社に勤めてはいたのだけど、今まで稼いできた金を「オッサン」と「元妻」に慰謝料として支払い、財産どころか職まで失って体一つでクレアとママの住む安アパートへと転がり込んできたからだ。
 狭いアパートで転がってテレビを見ているのは、ただのくたびれた中年男でしかなかった。
 長年専業主婦だったママも水商売に働き出して、美人だったはずなのにあっという間にくたびれた厚化粧のオバサンになって。

 たった二部屋しかない狭いアパートの中、しょっちゅう喧嘩するパパとママの声にうんざりして、クレアは外へ出た。

 金が必要だし、元父親の「オッサン」に媚を売るか。そう考えてクレアはオッサンの会社に行った。
 「オッサン」をパパと呼んでごめんなさいと頭を下げればまたもとの暮らしに戻れる確信があったのだ。

 広い家。専業主婦で綺麗なママ。たまにパパと会って。稼ぎだけはよかったオッサンの給料で、欲しい物は何でも買える生活に戻れるはずだと。

 会社から出てきたオッサンの後を尾ける。案の定、オッサンは新築の家を買って新たな住居としていた。
「へー、なかなかいい家じゃねー。前の家より狭いけど、新築だし、まいっかー」

 父はすぐに見つかった。幼い子供と一緒に庭で遊んでいた。
 子供は無邪気にボールで遊び、「パパー」とオッサンに抱き付いていった。横には、まだ二十代だろう若い女が立っていて――――。

 浮気だ!! ママを責めておきながら、このオッサンも若い女と子供を作っていたんだと嬉々として家に乗り込んだ。

「おっさんさぁ、自分も浮気してたくせママにだけ慰謝料請求するとかまじサイテーすぎ。払った金返せよ。この家もクレアが住んでやるからさー」


 そう笑うのだが、オッサンは動揺もしなかった。

「あの子は妻の連れ子だよ。正確にいうとまだ妻ではないが、半年後に正式に結婚するつもりでいる。接触禁止令が出ている事は聞いてないのか? 次脅すような真似をしたら、法に訴えて慰謝料の額を増額するから覚えておきなさい」

 オッサンは他人を見る目でドアを閉めた。
 自分のいうなりになる奴隷だと思っていたオッサンだったのに、何一つ想像どおりに行かなくて、クレアはドアを思いきり蹴って踵を返した。
 慰謝料はしっかりと増額されてしまい、母から泣き叫ばれたのは後日の話だ。

ただ、「南星高校は一枚岩じゃなかった」ってだけの話のつもりだったのになぜこんな文量に……。死ぬほど疲れましたこの話。読むも疲れる話ですいません。ちょっと調べたのですが、この場合だと慰謝料は一千万円代になるみたいですね。この母子の場合だと悪質なのでもっと行くかも知れませんが。
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