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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

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(現実のカフェで)TポセイドンがT花沢とエンカウントした!

後日談(ゲームから六日後)


 チームポセイドンの面々は、30分ほどバーチャルゲームをプレイしてから、隣の市にある「街」へと繰り出していた。
 安くて美味しいと評判の夢屋のカフェ、室内の八人掛けを占領して、各々買ったバーガーやフライドチキンのセットを口に運ぶ。

「なんかさー」
 最後の一つだったポテトを咀嚼してから、翔太がぼそりと呟いた。

「ゲーム、寂しくなった気がしねえ?」

「あー、わかる」
 同調するのは愛翔だ。

「ゲーム面白いっちゃー面白いんだけど、張り合いがないんだよなあ。姫が居なくなったから」

 姫は「チーム花沢」のパーティーに所属していた。
 自分達、「チームポセイドン」の戦力になってくれるわけではなかった。

 だけど、

 「仲間」ではないけど、モンスターを駆逐してダンジョンを平定するといった、同じ目的を持った「味方」だった。

 戦って強くなれば、いつかあの子の目に止まったかもしれない。『お願いです、バーサーカー達から私を助けてください……!』いつかはそう、姫がすがってきたかもしれなかったのに。
 あの仮想現実の世界なら翔太は強かった。すでにレベルは100を超えている。小型のドラゴンなら一人で倒せるほどだ。

「バーサーカーさえいなけりゃ……」
 ばんと魁人がテーブルを叩く。

 姫を救出するため、チーム花沢に戦いを挑んだチームテンプルナイトは結局目的を果たすことができなかった。

『バーサーカーが姫を殺しやがったんだ!! あいつが!!!』
 長身のナイト、キリがこめかみに血管を浮かせながらそう唸り声のように言った。

『くそ! さっさと殺しときゃよかったんだよ! あいつさえいなけりゃああ!!』
 剣を抜いて木に切りかかる。そんな男に、他のチームメイトは何か言いたげだったが、結局誰も口を開くことはなかった。
 彼等が何を言いたかったのか知るすべはない。一番口の軽そうだった三月を捕まえることができれば良かったのだけど、三月はあれからゲームにログインしてこなくなったのだ。

 他の連中はなんとなく話しかけ難くて、姫の最後の様子をもっと聞きたかったのに結局聞けないままだ。

 それでも、バーサーカーが姫を殺した事だけは真実のはずだ。キリがあれだけ怒り狂っているし、誰も否定しないのだから。

 見たこともないぐらい綺麗で可愛かった姫。
 バーサーカーはチームテンプルナイトにあの子を渡したくなかったんだろう。
 渡すぐらいならと殺してしまったのだろう。

 バーサーカーは姫を私物化している屑だから。

 あいつさえいなければ、今頃姫はゲームの中で笑っていたかも知れないのに。

 翔太は空になったジュースの氷をストローで突いた。


 夢屋のカフェには八人掛けの大きなテーブルが二つ並んでいた。テーブルの間の通路を制服を着た女の子がふわりと進み、開いていた隣のテーブルのソファ席中央に座った。


 会話の声さえ止めてしまうぐらいに恐ろしく綺麗な女の子だった。

 外に照りつける初夏の日差しが嘘のような真っ白な肌で、目尻と唇だけが目を惹く優しい桜色をしている。
 この世のありとあらゆる穢れから神に守られているのだろうと夢想してしまうぐらい純粋に美しく、触れるのも怖いぐらいなのに、唇を開いた先に覗く舌は小さな癖に怪しいほど赤くてドキリとするぐらい淫靡で――――。


(ああああああれ姫じゃね!!???)
 翔太が小声ながら叫ぶように言った。
(ほんとだ!! 姫じゃん!! あの子って実在したんだー!!)

 姫は形のいい足を真っ直ぐに下ろし、姿勢よくソファに座っている。
 見ているだけでも溜息をつきたくなる程に美しい。
 バーチャルの世界で見ても綺麗だったけど、現実世界で見るとやはり美しさはひとしおだ。
 あんな綺麗な人間が生きて動いているなんて奇跡みたいに思えてしまう。

(元気そうで良かったあああ。バーサーカーに殺されたって聞いたから、どうにかなっちゃったんじゃないかって心配だったし……)
 奈緒が無駄に足踏みしながら言う。
 6人全員に共通する思いでもあった
 姫が死んだと聞いて、バーサーカーに殺されたと聞いて、本気で辛かった。元気そうでよかった。バーチャルの世界の死が現実に反映されるはずもないのに、酷く安堵した。

(姿勢いいなー! モデル座りだし!)
(あの子お嬢様なんだろうね。桜丘って結構頭いい学校だもんね!)

(おい、翔太、結衣、話しかけてこいよ! 姫がゲームに戻ってこないのか気になる!)
(え!? そ、そうだな、話しかけてみるか! 結衣、行くぞ)
(うん!)

 翔太と結衣は立ち上がり、隣のテーブルの姫の前に立った。

「こ、こんにちは、ここ、いいかな?」

「え……」
 翔太では怖がられるだろうと、結衣が声を掛ける。姫は困ったようなはんなりとした笑顔で小首を傾げた。
 ゲーム内でのツインテールの髪も可愛かったけど、さらりと流すこのヘアスタイルもよく似合っている。
 姫が座るテーブル席は八人掛けの席だ。この大人しそうな姫が一人でこんな大きなテーブルを占領できるはずがない。きっと、友人が来るのだろう。
 この姫様のような、大人しくて可愛い同級生達が来て、静かに、だけど楽しそうに笑顔を交わす光景が目に浮かぶ。

 姫が警戒してない様子に安堵して、結衣は続けた。
「覚えてないかな? ほら、ゲームで会った」

 自分の顔を指差しつつ結衣が言うと、
「あ、街で声を掛けてくれた人! す、すいません、俺、人の名前覚えるの苦手で……。バカだから顔もすぐ忘れちゃって。どうぞ、座ってください」
 姫は慌てたように捲くし立てた。

「お、俺?」
 予想外の一人称に結衣も翔太も、隣の席で聞き耳を立てていた4人も一斉に驚いてしまう。
「あ、しまった。あの世界で一番最初に話しかけた女の子に、俺女きめーって言われて攻撃されたから気を付けてたんです。すいません、気を抜いて……」

「――――――――」

 例えるなら処女雪のように美しく汚し難く儚かった美少女が、実は太陽のように煌いた、真っ白の入道雲と青空の似合う美少女だったような。
 美少女は美少女でもジャンルが違う的な。
 イメージが崩れてしまうのだが逆ベクトルに再構成されていくという稀有な体験がチームポセイドンを襲った。

「い、いや、気にしないでいいよ。いつもどおりの喋り方で」
 ようするに、すごい美少女であることには変わり無いんだけど、想像してたのと違うぞ?という状態だ。チームポセイドンは戸惑った。

「竜神!」
 姫が立ち上がって手を上げた。
「この人達、ゲームで会った……」
 友人が来たのだろう。
 先ほど想像した、大人しくて可愛い女の子達を頭に描きつつ振り返り――――(バ、バーサーカー!!??)
 想像にかすりもしてない巨躯の大男、バーサーカーに目を見張る。

 なななななんでこいつが!!??

 お姫様って現実世界でもバーサーカーに捕まってるの!?
 姫を殺したこいつに捕まってんの!?

 なんてこった、ゲームの世界ならまだしも、現実世界でなんてどうやって助ければいいんだ――――、
 チームポセイドンは驚きにただただ息を呑むしかなかったのだが。

「海原先輩ですよね。お久しぶりです」
 頭を下げて正面に座ったバーサーカーに二人は目を丸くしてしまう。

「お、覚えててくれたのか」
「そりゃ覚えてますよ。友達気に掛けてくれた人ですから。ほら、お前のアイスとジュースとクレープ」
「サンキュー! 驕ってくれてありがとうな」
「こないだ驕ってくれた礼なんだからいちいちありがとうとか言うな」

 チームポセイドンは固まった。
 心の底から硬直した。
 まさに、「目が点になる」とはこのことかと自分の状態を分析してしまうぐらい、体の芯から固まった。




 ああああれ? 普通に仲いいカップルにしか見えないぞ?




 バーサーカーに腕を引かれ、奴隷みたいに引っ張られて行ったあのイメージは何だった!?
 落ち着け、落ち着け自分。結衣はテーブルを、翔太は虚空を凝視して考える。
 隣の席の四人も組んだ手の上に額をつけたり手に持つジュースをガン見したりして必死に気を取り直している。

「お前ってほんと良く人の顔覚えてるよなー」
「ひょっとしてまた忘れたのか? こないだも保育園実習のガキ忘れて泣かれてたのに」
「う……。あの時はフォローありがとうございました……」

 お――――――お姫様、自分の二倍はある男相手にお前とか言っちゃってるんだけど。
 え? バーサーカーのポテト普通に横取りして食べてるんですけど。

「ふふふ、ふ、二人ってひょっとして付き合ってるの……?」
 結衣が冷や汗を浮かべつつ姫に問いかけた。

「ち、違います! なんかしょっちゅうそう聞かれるんですけど、こいつ、俺のこと好みじゃないから」

 姫――未来はただ単に、付き合って無いことを強調するために俺の事云々を伝えただけだった。
 が、この台詞だけ聞くと完全に、

 えええええ!? 姫様の方がバーサーカーのこと好きだったの!? かかか片思い中なの!? 怖がってなかったの!? あれええええ!?

「あ! 達樹、浅見、こっちこっち!」

 また姫が手を振った。今度こそ女の子、と思いたかったが名前が既に女ではない。
 恐る恐る振り返る。
 そこにいたのは――――――。

(ええええ!!? シーフと勇者!!??)チームポセイドンはまたも息を呑んだ。

「ちーっす! 隣失礼しまーす。先輩のお友達っすか?」

 バーガーセットの乗ったトレイをテーブルに置きつつシーフが翔太の隣の椅子を引く。

 ゲームの中では殺してやると言わんばかりの眼光で睨んできたのに、子供みたいな笑顔で挨拶されて戸惑う。ヤンキーという印象は拭えないけど、クラスに複数人もいそうな普通の子にしか見えない。

「トラウマゲームで会った人達だよ」

 と、トラウマゲーム!? 姫の言葉に翔太も結衣も驚愕してしまう。

「うわ、思い出させないでくださいよ先輩ー。あのゲーム超怖かったですよねー! 竜神先輩のヘッドショット、夢にまで出てきましたよ」
「僕も未だに夢に出るよ。あれは本気で怖かったから……。人を切った感触が腕にこびりついて離れなくて叫びたくなるときもあるし……。う……、」

 シーフの向かいに座った勇者が頭を抱える。

「ひひひ人を切った感触とか言わないでくださいよ! げ、ゲームだから! あれはゲームだから! うわ、おれまで思い出しちゃったじゃないっスかあ! もう浅見さんんん」
「ご、ごめん!」

 シーフは勇者に向かって腕を振り、勇者は顔を両手で覆ってうな垂れる。
 あれ? この二人、こんなキャラだったの?
 勇者、ゲームの中で怯える姫を睨み付けて恫喝してなかったっけ!?

「先輩もマジ酷い目に会いましたもんねー。知らん男に抱っこされてキスまでさせられそうになって」
「!!!」

 アイスを持った姫の手がぶるぶると震えだす。
「達樹」
 窘めるようにバーサーカーに名前を呼ばれ、シーフは咄嗟に頭を下げる。
「す、すいません未来先輩! まだそんな怖がってたとは知らなくて」
「こここここ」
「大丈夫だから落ち着け」

 バーサーカーが肩を叩くと、姫はほっとしたように息を付いた。

「あん時、竜神が殺してくれなかったら、俺、脳溢血か心臓麻痺で死んでたよ。ゲームじゃなくてリアルなほうの体が」
「どんだけ怖いんですかあんた……」
「お前みたいなチャラ男にはわかんないだろうな! 怖いですよね! 知らない男に急に触られるのって!」

 質問され、結衣は「そ、そうね」と返す。

「おまけに無理やりキスさせられそうになって……!」
 姫はまだ中身のあるアイスクリームのカップを握りつぶしながら続けた。

「怖い時ってテンパって叫んで大暴れするもんだとばっかり思ってたんだけど、本当に、本当に、ほんっとうに怖い時って体から力が抜けてびっくりしたよ。脳みそが破裂しそうなぐらいぐわってきて、心臓は死ぬほど鳴ってんのに、指先からまで力が抜けるの」

「へーわかんねーなー」
「お前、知らない男にキスさせられるところ想像してみろよ。顔が近づいてくるの」
「先輩、八つ当たりでおれに新しいトラウマ作らせようとしてるでしょ」
 シーフが心底嫌そうな顔をする。

 翔太は、は、と肩を揺らしてしまった。
(知らない男にキスさせられそうになるところ)
 翔太もまた、姫にキスさせようとしていた。街で声を掛けたとき、腕を引いて外に連れ出し、キスをしてもらえさえすれば、こいつらに勝てると思った。
 なんであんなこと考えた俺!!?
 立ち上がりそうになった体を押さえ込む。

 いきなり引っ張られ連れ出され、キスしろなんて、言われた女の子からしたら意味不明すぎるだろう。自分が言われても意味不明すぎる。例え相手が可愛い女の子だったとしても。

「竜神に『ころして』くれって命令できたの、奇跡だったよ。あの時の俺、超頑張った」

「こ!!?!」
 翔太と結衣が同時に叫んでしまって、姫とバーサーカーと勇者とシーフの注目を浴びてしまった。必要以上の大声だったせいで、隣の席で叫んだ四人の声がかき消されたのは不幸中の幸いだが。

「ここ殺してくれって……その、ゲームオーバーになった時のこと!?」
 結衣が姫に向かい身を乗り出すように聞いてしまう。
 姫は結衣の様子にやや驚いていたものの、躊躇いなく頷いた。

「そうです。あのゲーム、バーサーカーって姫のお願い断れない設定で」
「ええええ!? そ、そうなの!?」
「そうなんです。だから、こいつに俺を殺させてゲームオーバーにして逃げたんです」
 必要以上に驚く自分達にやや引いた感じになりながらも、姫は最後まで答えてくれた。

 翔太も結衣も愕然とした。


 チームテンプルナイト。
 彼等は、言っていた。
 バーサーカーが姫を殺したと。
 それは、確かに間違いじゃなかった。

 あんなか弱い姫を殺したバーサーカーはやっぱり悪人だったと、怒りに湧いて。
 まだゲームを始めて一日しか経ってなかったのに仲間に殺されるなんて非業の死を遂げた姫を悼んで泣き出す子までいた。
 結衣も奈緒もがっつり泣いたのに。
 そもそも、バーサーカーを悪と決め付けていたのに、バーサーカーが姫の命令を断れないとなれば、全て、何もかも、根底からひっくり返る。


「オレにとっては死ぬまで消せないトラウマだけどな」
 疲れた様子で答えるバーサーカーに、姫が「う」と息を呑んだ。

 トラウマ!? 翔太もまた息を呑む。
 姫を殺したことがトラウマ!?

(――――それも、当然か)

 姫を他の男に渡すのが嫌だったんじゃなくて、姫に命令されて殺したのなら、トラウマにぐらいなるだろう。
 こんな小さくて可愛い子、しかも友達を殺すなんて絶対嫌だ。

 翔太はぼんやりとバーサーカーの心情を想像した。
 ころしてくれと命令されて、姫に武器を振り下ろす。もしくは魔法で攻撃する。恐怖に全身に鳥肌が立った。


「まさかゲームの世界とは言え、お前を殺す羽目になるなんて。これならゲーム断って留年になったがましだった」
「え、そ、そこまで!? そこまでじゃないよな!? なぁ、浅見、達樹もそう思――――おい、二人ともこっち向けよ!」

 姫がバーサーカーの腕を掴んで顔を覗きこむ。シーフと勇者に問うも、二人とも窓の外に視線を飛ばしていた。

「子猫握り潰した感じだった。生まれて一週間目ぐらいのふかふかしてきたぐらいの子猫を掌で「やめて! 俺が悪かったから! 殺せなんて命令してごめん!!」「ぎゃーやめてくださいっス先輩!」「うわああもう想像しちゃったよ!」「きゃああいやああ」「ちょ、ストップストップ!!」

 バーサーカーの言葉を全員が涙目で止める。翔太と結衣も。

「ひ、ひょっとして、先輩達まだプレイしてるんですか?」
 露骨に話題を変えたシーフに問われ、翔太は「、うん」と答えた。

「根性ありますねー。おれ絶対無理ですよー」

「きゃあ、内海さん! お久しぶりです。覚えてますか? 熊谷美穂子です」
 華やかな声に顔を上げる。
「美穂子ちゃん……」
 プリーストだ。姫を痛めつけて怪我をさせた女――――だなんてどうして思ったんだろう。
 虫も殺せないような顔をした、垂れ目の少女がサンドイッチセットの乗ったトレイを抱えて立っていた。

「ゲームの中の人達と、もう一度連絡を取りたいなって思ってたんです! でも、私……あのゲームに入るのが怖くなっちゃって……」
「最後ひどかったスもんねー! おれなんか大鷹の呪いにやられてる上にあのイッタイ魔法食らってガチで泡噴きましたからね」
「抵抗できないまま巨大な刃物で狙われるなんて体験二度としたくないよ……」
 シーフががくりとうな垂れて、勇者が嫌そうに首を振る。

「うん。私も、怖くて死ぬかと思ったもん。麻痺掛けられて体中痛くて、魔法も封じられて何もできなかったし……あの時はほんっとにありがとうね、竜神君」
「あ?」
 プリーストに、バーサーカーが不思議そうに答えた。

「私達のダメージを引き受ける魔法、使ってくれたでしょう?」
 勇者がプリーストの言葉の先を続ける。
「ガーディアンだったかな。パーティーの物理ダメージを全部引き受けてくれる魔法だったよね。本当にありがとう竜神君」

「あの状態で良く使えましたよねー……。おれだったら絶対無理っすよ。ただでさえクソ痛かったのにさらに全員分のダメとか耐えられねえもん」
「オレ、HPだけは無駄に高かったからな」
「竜神先輩のそういう図太いとこはマジ尊敬しますよ……。変な噂も立てられまくるし参りましたよねー。浅見さん、たしかあの後、学校来てませんでしたよね」
「うん……。家に帰ってから、ミコさんから教えてもらった掲示板見ちゃって、その、書かれてた内容に驚きすぎて具合悪くなって寝込んじゃって」
「またアレ見たんですか。いいましたよね? 見たっていいこと無いって」
「つい。達樹君の忠告、ちゃんと守れば良かったよ」

「あの時はごめんな浅見。俺が姫の傷なんて特技使ったせいで」
「未来のせいじゃないよ! ぼ、僕の見た目がこんなだからこんなだから」
「こ、こんなってなんだよお前はスゲーカッコいいから自信持てよ!」
「か……!」
「わー、なんスかこのウゼーやりとり」
 赤面した勇者をうんざりとシーフが見やる。

「誰だ?」

 女の声が割って入った。
 腰まで黒髪を伸ばした女、チームリーダー花沢だった。

「トラウマゲームで会った人だよ」
 姫がシーフにしたのと同じ説明を繰り返す。

「あぁ、英雄気取りで鬱陶しかった連中か。ウチの姫を横から奪って行こうとしたこと、忘れてないからな」

 う!!
 的確に心情を指摘されて、翔太と結衣の胸に目に見えない何かが刺さった。

「なんでお前……そんな喧嘩腰なの? 変な言いがかりつけるのもやめろよな。すいません先輩。こいつこういう人間なんで気にしないでください」
「お前と美穂子は数少ない私の癒しだ。横から取られそうになってどれだけ苦しんだと思っているんだ」
「取られるわけないよ。俺、ビビリのコミュ障だもん。知らない人達とゲームなんて無理だし……それに、ほんと、ごめんな」

 姫がトレイに付くんじゃないかというぐらい、頭を下げた。

「俺が変なチートキャラだったせいで、お前達に怖い思いばっかさせちゃって……。何人もPKさせたり痛い思いさせたり、せっかくのゲームだったのに楽しむ暇も無くてごめん」

「いいっスよ。そもそもおれ、RPG面倒だし」
「謝らないでいいよ。悪いのは未来じゃなくて、未来目当てに襲ってきたほうだもん」
「うん。僕こそ、ちゃんと守れなくてごめんね」
「気にするな」

 ――――――――――。
 翔太も結衣も、チームポセイドンのメンバー全員が愕然とした。

 姫を救おうと奮闘していた。自分達も、チームテンプルナイトも、チーム南星高校も。

 翔太は席を立った。

「そろそろ行くな。お邪魔しました。よかったらまたゲームにおいでよ」

「いやいや無理っすよ! メンタル強いあんた達と違って、おれ達、根性無しっすもん!」
 シーフが手を振り、
「お誘いありがとうございます。でも、僕も無理そうです」
 勇者が苦笑して、
「わ、私も、こ、怖いから無理です」
「俺も絶対無理です!」
 プリーストと姫が首を振って、
「オレも遠慮します。すいません」
 バーサーカーが頭を下げる。
 花沢は何も答えなかった。

 翔太と結衣は隣の席に戻り、荷物とトレイを持った。その時。

「――――あ! あんたら、街の入り口で未来先輩に話しかけてきた人達か!」
 開いた席に移動しようとしていたシーフが、立ち上がったままチームポセイドンを指差した。

「いきなりどうしたんだよ達樹。今、思い出したの?」
 姫の疑問に答えないまま、シーフはあの時、姫を背中に隠して睨んできた顔で言った。

「あんたたち先輩の胸とか足とかめっちゃガン見してたっしょ。やめてくださいよああ言うの。おれ滅茶苦茶むかついたんスよー。男連れの女の子にはもちっと遠慮してください! あんた達だって、知らん男にその子達の胸とか足とかガン見されたら嫌でしょー」

 結衣と奈緒を指差してシーフが唇を尖らせる。

「あ……ごめん。悪かったよ」
 翔太は素直に謝ることしかできなかった。

 殺してやるとばかりに睨み付けてきていたシーフの姿を思い出す。
 姫と会話をしたから睨んできたとばかり思っていたんだけど、割と真っ当な理由で怒らせていたんだなあと苦笑するしかない。




 チームポセイドンは狭い通路を抜けて、カフェを出たところで「待ってください」と呼び止められた。
 姫だった。後ろにはバーサーカーも立っている。

 バーサーカーも姫も制服姿なのに、「リアの街」で見た光景がフラッシュバックした。
 白のドレスでふわふわと頼りなく歩く姫と、大剣を背負ってこちらを伺うバーサーカー。

 怯えたような様子で後ろを――バーサーカーを伺う姫。
 あれは、バーサーカーが怖かったからじゃなかったんだと唐突に理解した。
 バーサーカーを頼りにしてたから、目配せしてただけだったのだと。

 姫は「リアの街」で見た時と同じよう、少しだけ怯えた様子で近づいてきた。

「達樹と百合が失礼な事言ってすいません、それと――その……ほんとうに、ずっとプレイヤーに襲われるばっかりで……怖かったから、唯一普通に話掛けてくれたの先輩達だけだったんで嬉しかったです。ありがとうございました。あの、それと、厚かましいお願いですいませんが……」
 姫の声が小声になった。
 ちらりとバーサーカーを見て、聞こえないのを確認してから先を続けた。

「あいつらのこと、悪く言う人がいたら訂正していただけませんか? もうプレイしてないから大丈夫かなって、思うんですけど、でも、万一にも言われてたら嫌だし、お願いします」

 ぺこりと頭を下げて、姫は踵を返していく。

「食ってる途中にごめんな、竜神」
「いいけど」

 バーサーカーの胸までしかない。腕の太さも足の太さもバーサーカーの半分程度しかない。
 華奢で、触れるだけでも壊れてしまいそうな小さな姫が、乱暴にバーサーカーの腕を引いて歩く。




 ゲームの中で見た姫と何一つ変わらない女の子なのに、チームポセイドンは、この十分程度のやり取りで「姫」を全く別人のように感じてしまっていた。
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