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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

悪者共から姫を救え!(悪者ではありません友人です)

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二十二話

 チーム花沢の馬車が炸裂し全員が投げ出されたのを見て、キリは『庇う』を発動させた。

 対象は「姫」だ。姫はバーサーカーの腕から起き上がり、紙を取り出していた。
 そんな姫にキリは駆け寄り奪うように抱き寄せた。

(よし、間に合ったな……つか、軽! ほっそ! やっべ、庇うって麻痺ちゃんと全部防げたよな? ちょっとでも痛くなったらこの子ショック死しちまうんじゃね?)

 七斗が発動させる麻痺レベル8に備え姫をきつく抱き寄せ体を硬くする。
 麻痺はレベル4まで食らったことがあるが、「麻痺」なんて言えないぐらい痛みを伴う魔法だ。
 こんな綺麗な子に痛い思いはさせたくなかった。

 キリが姫を腕に抱くと同時に、姫が使おうとしていた紙が飛ばされる。
 その紙が「パーティーを全回復させる」アイテムだと知る者はなかった。
 すぐに魔法の札と魔法封じの札が使用され、チーム花沢とキリを苦痛で拘束した。

 麻痺の苦痛は想像以上だった。少し動くだけで皮膚が千切れそうだ。キリは悲鳴のように絶叫してしまった。
「いでぇ――――は、早く麻痺といてくれ!」
「そんなに痛いのか? 『ヒーリング』!」
 呪文が掛けられると同時に体が一気に楽になる。

「まじ痛いな、この麻痺レベル8……。つーか遅ェだろうが! さっさとかけろボケ!」
 キリは容赦なく、自分より頭一つ分は低い小柄な一樹を蹴りつけた。
「でッ! け、蹴らなくてもいいだろうが。お前もヒーリング使えるだろ! 自分でかけろよなー」
「うっせ! 死ね!」
「だ、だから蹴るなって」

 一樹に執拗に蹴りを入れていたキリだったが、腕の中の少女が目に入ってなんとなく足を止めた。
 姫はキリを止めて無いし、非難するような顔もしていないのに。

(なんだってんだよ)

 考えるまでもなかった。姫に、弱い者いじめしているところを見せたくなかったのだ。
 いいや、弱い者いじめしているわけじゃない。すぐにヒーリングを掛けなかった一樹が悪い。だから蹴ったのは当然の報復だ。
 当然であっても、身長が180もあるキリが小柄な一樹を蹴っている姿は弱い者いじめしているように見えなくもない。その程度の客観性は持ち合わせていた。

(忘れてたけど、俺もヒーリング使えるしな。一樹だけが悪いわけじゃねーか)

 姫に幻滅されたくはない。キリは「クソ」と呟いて、蹴るのをやめた。
 一樹が驚いた顔をしたことにまた腹が立って、再び蹴り飛ばしたくなった。確かに、普段であれば、もっと執拗に蹴り続けただろうけど。

 姫の首がかくんと反れて、慌ててバランスを整える。やはり暴れては駄目だ。きちんと姫を抱いていなくては。
 胸に引き寄せて位置を整える。チーム花沢の連中が動けなくなったことに安堵しているのか、姫は完全に体を預けてきている。

「――――――」

 キリは長い睫を震わせている姫に魅入った。
(やっぱスッゲ可愛い)
 掌まで覆う鉄の鎧越しなのがいささか口惜しい。現実世界の服装だったら、直接肌に触れて、温もりと柔らかさも感じることができたのに。

(可愛い子ってなんでいい匂いするんだ? ウエストほっせー。力入れたら折っちまうな。こんだけ小さくて細いのに、こんな連中にヤラレたなんて可哀想すぎるだろ。クソ男共も姫殴った女も全員ぶっ殺してやる!)

 片手を姫の腰から膝裏まで回し、もう片手で姫の肩を掴み、きつく、きつく抱き締めた。


 乱暴に扱うだけで壊れてしまいそうな、華奢で小さな姫を痛めつけたチーム花沢の連中は、全員、下種な悪党共だ。

 そのくせに、勇者が言った。

「変な噂が流れていることは知っています! でもすべて事実無根なんです! ――僕等はクラスメイトで、バーサーカーの竜神君は警察官の息子で、彼自身も警官になるため努力している。女の子に乱暴をはたらくなんてありえません! 今も一人で僕らの傷を受けてくれているでしょう!」

 なんて往生際が悪い!
 そんな苦し紛れの言い訳、誰が信じるかよ。

 未来を抱えたキリは絶叫した。
「そんなはずねーよ!!」

 勇者の言葉に明らかに動揺したような顔をした三月と一樹にも腹が立った。

「この子、震えてんだよ! 嘘つくんじゃねーよ! 警察官の息子!? それが何? 警察官だったら犯罪なんかしねえっていいてえのか? ありえねーだろ! このゲームはな、ログイン時の質問が心理テストになってんだよ。まともな人間ならバーサーカーなんて職業になるわけねー!! つか今まで何百人っつープレーヤーに会ってきたけど、バーサーカーなんて狂った奴見たことねー! こいつだけだっつーの!!」

 そうだ。騎士に選ばれた俺達は正義の味方なんだから。
 キリは自分の言葉で確信を深め、姫を抱く手に力を込めた。



 竜神は「バーサーカーを悪者にする」案を捨てて、とにかく下手(したて)に出て、謙虚に、礼儀正しく振舞おうと方針を固めた。
 浅見の言葉に矛盾ができると完全に信用されなくなってしまう。
 血が詰まって掠れる喉から声を絞り出す。

「バーサーカーは、反乱の起こった国から姫を守って逃げてきた元騎士で、姫の変わりに呪いを受けて狂っているという設定です。オレのブレスに触って『キャラクターの物語』を読んでください」

 就寝前、宿屋で、ブレスを触って表示されるウインドウのメニュー全てに竜神は目を通していた。ログアウトの方法を探していただけで、キャラクターの設定については興味のない項目だったのだが、こんな場面で役に立つとは。

 「――――――」

 見た目がヤクザで諸悪の根源だと囁かれていた男に穏やかに話し出され、三月、一樹、二葉、十夜は虚を吐かれてしまう。

「ロ、ログイン時の質問が心理テストになっているなら、勇者である浅見は、ここにいる誰よりも勇気のある「主役の器」だということじゃありませんか! 浅見の言葉を信じてください!」

 百合も便乗して、怯えて震えた、だけど勇気を振り絞ったような声を上げる。伊達に探偵屋の娘はしていない。幼い頃から尾行や調査へとあっちこっち引っ張りまわされてきた。この程度の芝居は赤子の手を捻るより簡単だ。

 自分の言葉を逆手に取られ、キリは「う」と言葉を詰まらせる。

 浅見が続けて言った。
「プリーストの美穂子さんも言いましたが、未来は男が怖いんです。女の子も、知らない相手だと怖がるんです。震えているのもそのせいです。すぐに下ろしてあげてください。怯えるから、未来の傍で大声も出さないでください。未来が大丈夫なのは、いつも未来を他の男から守ってる竜神君だけなんです。触らないであげてください!」

「あ?」キリの額に血管が浮く。人を痴漢みたいな言い方しやがって。姫を触っていたのはお前等だろう。浅見を蹴りつけてやろうと一歩を踏み出しかけたが、
「な、ちょ、え? ねぇ、今の全部まじで?」
 動揺してじたばたと暴れる三月に足を止めた。
 三月は本当に馬鹿な女だった。日常生活でも馬鹿丸出しだが、学力も低くてテストで素で0点を取る。
 キリも大概馬鹿だったが、それでも0点を見たのなんて初めてだ。
 放っておくと、チーム花沢の連中に言いくるめられてヒーリングを使いかねない。

「実はちょっとガーディアン使ったの変だなって思ったんだ。パーティー守ってるってことだしさ。バーサーカーが掲示板の話通りの屑男なら絶対使わない魔法じゃん。ガーディアンなんて。こ、この人、イメージとなんか違うし」
「暴走目的だったってだけだろ!」
 動揺する三月をキリが怒鳴りつける。

「だって、だって馬車攻撃したとき、お姫様に『庇う』も使ってたし、な、なんか変じゃない?」
「お前すぐ信じすぎ」

 キリと同じように、チーム花沢が信じられない七斗が三月をたしなめる。バーサーカーは映像で見てもヤクザっぽかったけど、実物はもっとヤクザだ。勇者も悪人面だしシーフに至ってはヤンキーだ。七斗はこの手の、いかにも弱者を踏みつけていそうなタイプが大嫌いだった。

 クラスにもいるのだ。授業中まで固まって騒ぐ馬鹿が。注意した教師を殴って停学を食らったのに、停学空けてからもまた教師を殴ろうとした。
 怯えて引き下がる教師に爆笑して、今ではやりたい放題だ。
 別に真面目に授業を受けたいわけではないから、それはまだ我慢できるのだけど、このタイプの馬鹿男は無駄に女にモテルのがムカツク。

 一緒に騒ぐ女の中に、ずっと好きだった幼馴染が交じっているのを思い出してしまい、七斗はもう一度達樹に剣を振り下ろしたくなった。

「そ、そっかなー」
 三月は仲間にあしらわれながらも、視線を倒れ伏す竜神に落とした。

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