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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

悪者共から姫を救え!(悪者ではありません友人です)

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二十一話

「目的地、『リアの街』」

 百合がウインドウで指定すると馬車が走り出した。
「やっぱ呪い消しって教会なのかな」
 馬車の椅子は電車の席のような対面式になっていた。昏倒して木のベンチに横たわる達樹に薬草を使いながら、浅見が首を傾げる。
「それ以外思いつかないなあ」
 未来が座る椅子に手を付いて、肩を突き出すようにして答える。

「なに? あれ」
「ん?」
 美穂子がふと外を指差した。全員何気なく指差された方向を見る。
 大きな光の玉があった。
 太陽? かと思ったが、違う!
 巨大な火球が迫っていた。

「な――――!? マ、『マジックシールド』!!」
「ヒ、『ヒールレベル3』!!」

 攻撃だ!
 浅見は咄嗟にシールドを張り、美穂子は昏倒状態の達樹を全回復させ、竜神は隣に座っていた未来を抱え込んで『庇う』を発動させた。

 馬車が炸裂して全員外に投げ出され、爆風に飛ばされる。

 浅見が咄嗟にシールドを張ったというのに全く効果がなかった。

「『庇う』発動、対象、姫」
「ゲルトカゲの呪いの札『麻痺レベル8』使用!!」
「『呪文封じの札』、使用! 対象勇者!」
「『呪文封じの札』、使用! 対象プリースト!」
「『呪文封じの札』、使用! 対象ファイター!」
「えーと、『呪文封じの札』、使用! 対象シーフ!」

 チーム花沢を待ち構えていたチームテンプルナイトは、馬車が爆発するとほぼ同時に魔法と特技、アイテムを使用していた。

「きゃああああ!」「あぁああ!」「わああぁ!」「ぁああ、な、ん、」「ぐ――!」
 爆風に飛ばされ地面に叩き付けられて、ただでさえ激痛に襲われていた体に更に痛みが上乗せされる。使われた魔法は麻痺だったのだが、少し動くだけでも全身を引き裂かれるような激痛が走る。

(未来……!!)
 竜神が抱えていたはずの未来がいない。
 ナイト――キリが『庇う』を発動させ、麻痺から未来を守っていた。

「いでぇ――――は、早く麻痺といてくれ!」
 未来を横抱きにしたキリは、皮膚が張り詰め筋肉が軋み、呼吸さえままならないぐらいの強烈な苦痛に引きつるような悲鳴を上げた。

「そんなに痛いのか? 『ヒーリング』!」
 一樹が呪文を使うと、祈りをする少女のエフェクトがキリの上に浮かんで水の雫が落ちる。
 キリの体を襲っていた痛みが一気に引いた。

「まじ痛いな、この麻痺レベル8……。つーか遅ェだろうが! さっさとかけろボケ!」
 キリは容赦無い蹴りを一樹の膝に入れる。
「でッ! け、蹴らなくてもいいだろうが」



(なにが、おこったんだ)

 未来は男の腕に抱えられて、知らない男の顎と喉と胸と空をぼんやりと見ていた。

(おとこの――――うでのなかだ)

 いったい、なにがどうなったんだ。
 攻撃が飛んできて、馬車が爆発して、それから、どうして男に抱えられてる?

 は。

 肩ごと頭が揺れて、短く息を吐いた後は呼吸さえ覚束なくなった。
 心臓が尋常じゃないほど大きく早く脈打ち、脳の血管が熱くて破裂してしまいそうだ。

 突如足元が超高層の展望台のガラス張りの床になってしまったような。
 ゴキブリか蜘蛛かムカデが背中を這い回っているような。
 海の中で、巨大な魚が口を開けて足元に居たような。
 耳元で爆音が響いたかのような、紙魚のような小さな虫が体中にたかり体を食い荒らしているような、巨大な猛獣に飛びかかられようとしているかのような、ぼつぼつ空いた無数の穴を見ているような、呼吸さえもままならない身動き一つ取れない小さな箱に閉じ込められたかのような。

 恐怖と嫌悪感に、生命機能が停止しそうになる。




 うつ伏せで地面に倒れている美穂子は、肱を地面に付いた体勢のまま固まってしまっていた。
 爆風に飛ばされ擦り切れた皮膚の下に無数の小石が食い込んで、痛くて腕を避けたいのに、たったそれだけの行動さえ取れない激痛に呻く。
(痛い、痛い)生まれて初めて経験する強烈な痛みに泣き喚きたくなるけど、動くどころか声を上げるのも辛くて硬直しつづける。
 そんな美穂子の前、未来が男に抱き上げられていて息を呑んだ。

 友達の達樹さえも怖がった未来が、他の男に耐えられるはずがない。
 事実、未来は虚ろな目で男に抱かれていて、様子が尋常じゃない。

「み――未来に触らないで……!! その子、男の子が怖いの、離してあげて……!」

 声を出すだけでも全身が軋んで苦痛に気を失いそうだった。それでも必死に美穂子は叫んだ。このままでは未来が死んでしまうような気がして。

「やっぱりそうか。噂通りこいつらに乱暴されていたのか。可哀想に」
 十夜が言いながら、竜神の横に立った。手には剣が握られていた。
 達樹、浅見の横にも一樹と七斗が立つ。

「違う――!! 皆、そんなことしないよ! やめて!」
「やめろ! お前等、抵抗出来ない相手に最低だぞ!!」

 美穂子に被せるように百合も絶叫する。
「うるさいわね。どうせアンタ達もお姫様苛めてたんでしょ? 私、そういう陰湿なの大嫌いなの」
「あはは、変なカッコー。これで戦ってるなんてまじうける」
 百合の横に槍を持った二葉が立った。美穂子の横には細身の剣を持った三月が。
 顔の横に立てられた、触れるだけでも切れそうな鋭い剣に、美穂子は「ひ」と息を吐いた。

 鋭く尖ったランスが百合の右胸を狙う。
 細身の剣が美穂子の背中を狙う。
 両手剣が達樹の腹を狙う。
 同じく両手剣が浅見の胸を狙う。
 幅広の剣が竜神の背中を狙う。

「くそ……」
 百合は呻いた。腰に銃がある。掴んで、撃ち込んでやりたいのに指の関節が動かすだけでもげるように痛い。このまま何も出来ずになぶり殺しにされるのか? 悔しい。悔しい!
 美穂子は恐怖に体を震わせ涙を零す。

 槍の、剣の切っ先が転がる五人を貫こうと構えられる。


「『ガーディアン』!」
 唯一魔法を封じられなかった竜神が呪文を唱えた。




 一気に武器が振り下ろされる、中、胸の前で真っ直ぐに剣を構えたナイトのエフェクトが浅見、達樹、百合、美穂子、未来の上に現れた。

「――――――――!!?」
 その場にいた全員が驚きを表情に出した。

 チームテンプルナイトは竜神が魔法を使った事に、チーム花沢は、間違えなく武器が自分の体を貫いているのに痛みが無いことに驚いていた。

 うつ伏せになっている美穂子は分からなかったが、百合、浅見、達樹は見た。
 振り下ろされた武器の先、自分の体に刺さってるはずの場所が波紋のように揺れているのを。

 そうだ、竜神が言っていたではないか。
 ガーディアンは、仲間全体の物理攻撃ダメージを身代わりに受けられる魔法だと――――!


「せんぱ、い」
「竜神君!!!」
「竜神君――!!」
「竜神!!!」

 竜神自身が刺された背中だけでなく、浅見の胸に、達樹の腹に、百合の胸に美穂子の背中に受けた傷が、全部、竜神の体に反映されていた。
 うつ伏せになった彼の体の下、血溜りがゆっくりと広がっていく。



 ただでさえ痛む体に更に苦痛が上乗せされて竜神は低く呻いた。
 背中が胸が腹が裂かれて痛みに目が眩む。
 喉を一気に血が上ってきて、息を吐くのと同時に血を吐いた。血が気道を塞いで呼吸がままならなくて苦しい。体の苦痛よりもこちらが深刻かもしれない。自分の血で溺れそうだ。

 ガーディアンを使用したのでとりあえずは友人を守れるが、これからどうすればいい。竜神は自問した。
 美穂子の声さえ届かなかったぐらいなのだから、「男」が暴行の事実をどれだけ否定しようと信じるはずは無い。何を言っても未来を捕らえた連中には届かないだろう。呼吸が苦しい、全身が痛む。

 朦朧とする意識を叱咤して、どうにか考えを巡らせる。

(――……あぁ、この方法ならいけるか?)

 バーサーカーを悪役にすればどうだろうか。
 自分が全部命令してやらせていたのだと思わせれば、矛先を自分一人に向かわせることができる。
 浅見と達樹に、百合と美穂子に命令して未来を乱暴させていたと思わせれば、友人達を守れる。
(これしか思いつかねえな。悪役、バーサーカーから姫を救出したヒロイズムに燃える連中を煽る、一番効果的な言い回しは何だ)
 それと同時に、
(未来から手を離させるにはどうしたらいい)
 早く男の腕から下ろさないと、未来がパニック状態になってしまうかもしれない。早く、一刻も早く、効果的な言葉を考えないと。


 傷を受けた竜神が血を吐くのを目の端で見ながら、百合は現状を打開する策に頭をめぐらせていた。
(くそ、何を言っても信じさせられる気がしないな)
 第一、百合は基本的に男にも女にも嫌われる性格をしているのだ。自覚がある分、相手を煽る予感しかない。
 自分の傷が自分に反映されるならそれもいいだろう。相手を怒らせた先に、現状を切り開く策が眠っているかもしれない。
 だが今は駄目だ。自分の傷は竜神に反映されるのだから。流石に目覚めが悪い。

(待てよ)

 いっそのこと竜神一人を悪の権化にして切り捨てるか。
 自分一人のために竜神を傷つけるのは不本意であれども、浅見、達樹、美穂子、そして未来まで助けられるとなれば話は別だ。躊躇なく竜神を犠牲にできる。多分……いや、間違えなく竜神は乗ってくる。

 美穂子は完全に怯えていて沈黙するだろうし、浅見はさしてノイズにもならないだろう。よし、せいぜい派手に泣き真似をしてやるか。
 だがこの手を使うには、竜神がガーディアンを発動させた事が厄介だ。ガーディアンなんて自分のパーティーを守るための呪文でしかないのだから。
 どう辻褄を合わせるべきか。百合は再び考えを巡らせた。


「おい、バーサーカーは呪文使えないんじゃねーのかよ!」
 キリが怒鳴る。
「レベルアップして使えるようになったんじゃない? バーサーカーって初めて見るからステータス知らなかったんだし仕方ないよ」
 答えるのは二葉だ。
「とにかく、こいつから始末しないと」
「駄目だ。五人で同時に攻撃したのにダメージがあんま通ってねえ。このダメージ数じゃ、殺す前に暴走状態になるぞ。暴走状態になったこいつ一人に、南星の連中が20人以上やられたって言ってたし」
 一樹が首を振った。
「くそ、俺達レベル70越えてるのに」
「HPと防御力が高すぎるんだよ」

「うー、それじゃ、しかたねーよなあ」七斗が照れたように笑う。
「仕方ないって顔して無いけど」
「でも、姫を守るためなんだからしょうがないじゃねーかよ」
「まず姫に確認取りなさいよ!」
「わかってるって」


 浅見もまた、必死に考えていた。何を言えばこの場を切り抜けられるのだろうか。

 仰向けになっているせいで周囲の状況が判らない。
 苦痛がない眼球だけで懸命に見回す。竜神が血溜りに倒れている。達樹は意識さえ朦朧としている様子だ。ただでさえ呪いを受けていた。その上この苦痛では、昏倒状態など関係なく失神してしまうかもしれない。美穂子が肱を付いた体勢で涙を落としていて、無力感に浅見は呻いた。竜神はチームを守ってくれているのに、自分は何一つ役に立たないなんて!

「――いくらゲームだからって……未来が珍しい能力を持ってるからって、こんなやり方で無理やりチームから奪うなんてひどすぎます! 僕等のクラスメイトを離してください!!」

 逆方向から責めようと意を決して浅見は口を開く。それだけで体中が痛みにぎしりと軋みを上げた。肺まで引きつるのがわかるが、今は苦痛に負けている場合ではない。歯を食いしばって痛みをやりすごす。

 襲ってきたナイト達は己を正義だと思っているはずだ。
 ならば『僕達、チーム花沢にとって、お前達はレベル差をかさにきて、チート能力目当てに仲間を浚おうとする卑怯者だ』と突きつけてやろう。実際、襲撃者の姿を見た瞬間、浅見はそう思ったのだ。

 自分達は未来に乱暴など働いていないと胸を張れる。何一つ恥ずかしいことなどないのだから。

「え?」「は?」
「何言ってるんだ、お前達、この子に――――」

「変な噂が流れていることは知っています! でもすべて事実無根なんです! ――僕等はクラスメイトで、バーサーカーの竜神君は警察官の息子で、彼自身も警官になるため努力している。女の子に乱暴をはたらくなんてありえません! 今も一人で僕らの傷を受けてくれているでしょう!」

 正攻法の浅見の攻めに竜神と百合は苦痛の中で感心していた。ひねくれた卑怯者の百合と竜神は正攻法など二の次にしてしまい、選択肢にも入れて無かったから。
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