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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました  作者: イヌスキ
襲われた挙句、愛想振りまいたりとか
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十三話

 木々の奥から重たい足音が響いてきた。現れたのは、普通のキノコではない。大きさは三メートルほど、シメジか、えのきのように、みっしりと寄り集まったキノコで、全部の幹に人の顔が張り付いている――。


「ぎゃー!!」

「ぎゃーーー!!! やっぱおれパスぅうう!!」

「未来」

 肩に掌を乗せられて、未来は反射のように屈んだ体に飛びついてキスをした。竜神だった。

 前に出た竜神は大剣を横に振り上げ一閃する。一撃で勝負は終わった。


 パパラパー。

『キノコニンゲンを倒した! 花沢百合はレベルが4に上がった! 花沢百合はレベルが5に上がった! 花沢百合はレベルが6に上がった! 花沢百合はレベルが7に上がった! 浅見虎太郎はレベルが4に上がった! 浅見虎太郎はレベルが5に上がった! 浅見虎太郎はレベルが6に上がった! 浅見虎太郎はレベルが7に上がった! 王鳥達樹はレベルが7に上がった! 王鳥達樹はレベルが8に上がった! 竜神強志は700ゴールドと痺れ薬を手に入れた!』


 それだけで音声は終わってしまった。


「あ、あれ? 竜神のレベルが上がってない……?」

「チート能力発動中は経験値が入らないシステムになってんだろ」

「戦う人間をローテーさせないと駄目だな……いや、待てよ、未来、やっぱり美穂子にキスしろ」

「えええええ!?」

 百合に言われて未来は真っ赤になった。

「なななななんで!?」


「美穂子が一番レベルが高いからな。全員のレベルが20越えてからローテーしよう」

「そ、そか、そうだよね。そ、そうなのか、そっ」

「落ち着いて未来、女の子同士なんだから平気だよ」

「う、その、よ、よろしくお願いします」

 何をだ。

 見ている全員が突っ込みを入れたくなったが口出しはせずに見守る。

 両手を重ねてお辞儀をする未来は見ていて和むのだが。


『キノコニンゲンが現れた!』

 ずしんずしんとキノコニンゲンが歩いてくる。

 同じモンスターだったのでテンションのままキスをするまでには至らず、未来は傍目からもわかるぐらいふるふるしながら、真っ赤になった顔を美穂子に近づけキスをした。


「『光の矢』」


 弓矢を構える体勢になった美穂子の手に、光の弓と矢が現れた。

 矢を放つと、何十本もの無数の弾丸に変わりキノコニンゲンを爆散させた。


「か、かっけー! すげー美穂子!」

「ふふ、ありがとう。未来のお陰だよ。お姫様のキスってレベル50も上げるんでしょ? 今の私、レベルが78だよ」

 レベルアップの声が響く。ようやく竜神のレベルも上がり始めた。

 立て続けにモンスターが現れた。今度は平たいヘビのようなモンスターだ。

 未来はまたふるふるしながら美穂子の頬にキスをする。

 頭の上に怯えて伏せた猫耳を幻視してしまう。



「ふむ、目の保養だな」

「っスねー。これ、キャプとか取れねえのかな」


 モンスターが現れ初めて二十分も経っただろうか。パーティーの平均レベルが18になった頃、


「うお、ギャラリー出来てんじゃん!」

 さして離れてない煉瓦道にこちらを見物している群集を見つけて、しゃがんで頬杖をついていた達樹が驚いて体を揺らした。


「見られるぐらいはしょうがねえだろ。未来も美穂子もすげー可愛いからな」

 竜神がギャラリーを見ないまま達樹に答える。

「竜神先輩って結構さらっとそういうこと言っちゃいますよねー」

「睨むなよ達樹。これ以上揉め事になると厄介だからよ」

「はーい我慢しまっすー。あー。むっかつくわー」

 人のモン見るなってのーと達樹は膝の上に両手を伸ばして、顔を手の間に埋めてダルマのように体を前後に揺らした。


「浅見も気ィつけろよ。お前も結構睨んでるみたいに見えるから」

「う」

「お前も人のことは言えないだろう竜神」

 百合が茶化すと「オレは自覚があるんだよ」と竜神が苦笑する。

「僕も自覚はあるよ……。改善できないんだけどね……。竜神君、僕等がしょっちゅう絡まれるのって人相が悪いからなのかな?」

「人相悪いとか言わないでくださいよ……。傷つくっスよー」

 浅見の疑問に百合が口を開いた。

「関係ないだろう。お前達の人相の悪さは虫除けになっていい」

「うーん……」

 納得はできないのか、浅見は自分の目元に触った。


「また、眼鏡かけようかな……」

「眼鏡? 浅見さんコンタクトだったんスか?」

「目は悪く無いんだけど、色を隠すために眼鏡掛けてたんだよ。あれ付けてる時は顔が怖いって言われた事なかったから」

「あーそういや昔なんか言ってましたね。先輩に目が綺麗って言われたとかどうとかって」

「うん」

「なんがあったか知らねぇけど、目隠したら未来が悲しむんじゃねーの?」

 浅見は驚いたように竜神を見て、「それもそうだね」と顔を正面に戻した。


『屍肉の効き目が終了しました』


 アナウンスが流れて、未来と美穂子が戻ってきた。

「疲れたぁー」

「お疲れ様美穂子、未来」

「先輩達ばっかに働かせてすんません」

「しょうがないよ。レベルアップのためだもん」

 美穂子が頭を下げる達樹に笑顔を見せる。


「うあ!? 何あれ!?」


 未来がギャラリーに気が付いて竜神の後ろに隠れた。

「結構前から見られてましたよ」

「全然気が付かなかった……。やだなあ……また絡まれんのかなぁ……」

 未来が目を閉じて溜息を吐いた。



「こんにちはー。何かご用ですかー?」

「ヒッ! みみみ美穂子!?」

 ギャラリーに向かって笑顔で呼びかけた美穂子に、未来は毛を逆立たせた猫みたいな反応をしてしまう。

「可愛かったから見てただけー」や「かっこよかったよー」と女性プレイヤーが笑う。

「ありがとう!」

 何人かは気まずそうに、または笑顔で手を振りながら踵を返していったけど、こちらに向かってくる者も居た。


(きたーーーーーーー! どどどどうしよう竜神、キスしたがいいのかな)

(落ち着け、まだ戦闘になるって決まったわけじゃねえよ)


 未来は逃げ腰になって竜神の腕を力一杯に掴んでいた。

「こんにちはー。君ら高校生チーム?」

「はい」

 おそらく二十代半ばの、髭面の二人組みの男に問われて美穂子が答える。

「俺達二人だけでゲームしてんの。ぶっちゃけボッチプレイ寸前でさー。よかったら一緒にプレイしない?」


「誘ってくださってありがとうございます。でも、オレ達選抜されたモニターなんです。六人で動くように言われてるんで無理っすよ」

 答えたのは美穂子ではなく竜神だった。

 顔には笑顔を浮かべていた。黙っているとヤクザみたいな厳つい顔なのだが、笑顔になると取っ付き易い印象になる。笑いそうにない人間が意外にも笑顔で接してくれるギャップのせいでもある。


 髭の男は驚いたように竜神を見上げた。

「ひょっとして、システム管理側の? だから姫とか勇者とかバーサーカーとか珍しいチームなのかな?」

「違います。一般枠です。珍しいのができたのは偶然で」

「なんだそっか。びっくりしたよ――、そのお姫様、ひょっとして、君の彼女?」


 竜神の腕にしがみ付いて身を隠している未来を髭男が指差した。


「はい。気が小さいんであんま見ないでやってください」

 男避けの嘘であるが、なんの衒いも無く竜神は答えた。

「まじで!? そっかー、彼女なんだー。どうやったらそんな可愛い子彼女にできんの? モデルか芸能人でしょ? つか彼氏作っていいの?」

「普通の一般人ですよ」

「え!? そんだけ可愛いのに?」

「オレさ、芸能事務所に勤める友達がいるんだよね。その子ならすぐにデビューできると思うんだけど、興味ないかな?」

 髭男2に問われて、竜神が未来に訊いた。


「興味あるか?」

 未来は全力で首を振った。

「すいません、こいつ小心者なんで勘弁してやってください」

 竜神が直接断ってもいいのだが、この場合未来本人も嫌がっていると知らせたほうがいい。彼氏は女の意見を聞き、女は嫌がって、彼氏が女の意見を尊重する。段取りを踏んで断ったと言うのに、それでも髭男は引かなかった。


「そっかー残念。でも、何かあったら連絡してよ。これ、オレの連絡先ね」

 男が竜神に紙を渡した。受け取った途端、ウインドウが開いて竜神の情報が更新される。携帯のアドレス帳のような機能に髭男の情報が自動的に入力されていた。

 竜神も同じように情報を渡した。といえども、個人情報はなにも入力してなかったので、ゲーム内で使えるメールアドレスと名前だけだ。


「先輩ー、そろそろ勘弁してくださいよー! おれ、このゲームで頑張って彼女作るつもりなのに、先輩達みたいなカッコいい大人にこられたらまじ泣けるっつーの……」

 達樹が立ち去ろうとしない髭男二人相手に小声で涙声を上げた。


 達樹は女と話している美穂子と百合をちらりと見てから、髭男二人組みを引っ張っていく。

「まじで勘弁してください! おれ、このゲームで女にかっこいいとこ見せるつもりなんですから邪魔しないでくださいっスお願いっスから!」

 見るからにガキな達樹に涙目に懇願されて、男達は一歩引いてしまった。


「興味あるのは姫だけだっての。他の女には興味ねーから心配すんなよ」

「まじで?まじで?ならさ、あのお姫様、おれの部活のマネージャーなんっす! あのコエー彼氏経由しなくても連絡取れるっスよ!」


 マネージャーだなんて嘘八百であるが男達に嘘を見抜ける術はない。女にいい所を見せたいと言うのも嘘だ。

 達樹にとって美穂子はなんだか恐れ多いし、百合に至っては普通に怖い。同級生の女子達も、未来さえたまに下に見る事がある達樹の、頭が上がらない唯一の女達だった。


「……ならお前にも連絡先教えとくわ」

 男はまた紙を取り出して達樹に渡した。達樹もメールアドレスと名前を送る。こちらもゲーム内で使えるだけのアドレスだ。

 髭男が竜神達に背中を向け、達樹の肩に腕を回した。そして小声で言う。

「あの姫様紹介してくれたらお前にAV女優紹介してやっから頼むぜ」

「まじっすかあああ!? 是非お願いします!!」

 目を煌かせ、無邪気に懐いてくる達樹に男達は頷いて離れて行った。達樹は九十度に近く頭を下げて、竜神達の元へ帰っていく。


「よく耐えたな達樹」

 竜神は苦笑して達樹を褒めた。

「もっと褒めてくださいっス。脳の血管五、六本いったわコレ」

 後ろ姿の達樹は浮かれたように体を左右に揺らしているが、顔は引きつって血管が浮いていた。男達を穏便に追い掃うという目標があったとは言え、うざい相手に愛想よく振舞うのはストレスが溜まる。


「じゃあばいばーい、連絡するから返事してねー」

 美穂子と浅見は手を振りながら去っていく小柄な女の子達に手を振り返して、通路に背中を向けた。


「浅見、顔がなんか張り付いてるぞ」

 未来が浅見に言う。

「筋肉が固まってる気がするよ……」

 目に表情が出るように意識して表情を作っていたのだが慣れないので顔が笑顔の形のまま戻らない。

「つかれた。ほんっとに消耗しました。ゲームの世界ってこんなしんどいモノなんですか!? もっと気楽なモンなんじゃねーの!? なんで襲われた挙句に愛想振りまいたりしなきゃなんねーんだよ」

 達樹がぼやく。


「…………」

「浅見さん! あんたが無言になったらキレてるみたいでコエーっすからなんか言ってくださいっス!」

「僕、もう疲れたよ……。現実世界でも友達少なくて人間関係で辛いのになんでゲームでまでこんな」

「ストップ! ガチで欝な愚痴はストップ!」

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