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TS女子が「頬へのキスでレベルアップが出来る姫」になりました 作者:イヌスキ

襲われた挙句、愛想振りまいたりとか

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十二話

 まだ起きない竜神の横で、未来は美穂子に詰め寄っていた。
「美穂子! 今までどこにいたんだよ! ひょっとしてやられたのかもって思ってすげー心配してたんだぞ!」
「心配してくれてありがとうね未来。私、ヘムって街で目を覚ましたの。皆が見つからないから困ってたら、親切な人が助けてくれて――――」
 未来の頭を撫でながら美穂子が答える。

「美穂子ちゃん、これ、君の仲間の戦利品ね。集めておいたよ」

 壮年の男性が辞書かと見まがう枚数の紙と、袋を差し出してくれた。
 南星高校の連中が所持していたアイテムや装備品、金だった。
「ごめんなさい、ありがとうございます山本さん!」
 美穂子は立ち上がって一礼し、紙を受け取る。
「いえいえ。仲間に会えてよかったね。しかも見た事がないぐらい綺麗な子だねー。ひょっとして、君が噂のお姫様かな?」
 男に指差され、未来がきょとんと目を丸くする。

「噂……?」

「うん。チートキャラ、『姫』が出たって噂が回ってるんだ。たぶんもう、ゲームしてるプレーヤー全員が知ってるよ」
「そ、そうなんですか……!? もう最悪だ……! このゲームやだ中断したいよぉ……」
 未来は地面に手をついてうな垂れてしまう。

「まぁそういわずに。はまると楽しいよ。じゃあ、僕達はこれで」
「本当に助かりました!」
 山本が向かった先には大きな馬車が止まっていた。
 年齢の頃のばらばらな男女が手を振っている。

「じゃーねー美穂子ちゃん。また会えたら遊ぼうねー。あぁ、そうそう、おせっかいかもしれないけど、PKはあまり良くないよ。この世界、顔のグラフィック変えられないから現実世界で会った時気まずくなっちゃうし。まぁ、多勢に無勢だったから、君の仲間が襲われたほうなんだろうけどね」
「ありがとう、山本さん!」
「ばいばーい」
「ばいばいー!」

 可愛く手を降る美穂子が眩しく感じてしまい、未来は目を細めた。
「すげーなー美穂子って……。すぐ人と仲良くできて羨ましいな……。俺なんかいきなり女の子に殺されかかったのに……」

「あの人達、一人もPKしてませんでしたよね。なんでおれらってこう人に絡まれるんでしょうね。さっさと街から離れたがいいのかなあ」
 達樹が真っ黒になった右手を見て溜息を吐く。
「でも、今の状態で野宿なんて無理だよ」
「すよねー……。おれらPK率異常すぎますって! 六人パーティーで三人までペナルティ食らってるなんてさー。PK専門でやってるみたいで超感じ悪いっすよ」

 気絶している竜神はいわずもがな、達樹と百合の右手も真っ黒になってしまっている。
「降りかかる火の粉なんだから仕方ないだろう。襲われなければ戦ってない」
「PKは経験値が入らないから割りに合わないしね。僕達全員、デフォルトレベルがまだ一桁のままだよ」
 はぁ、と溜息をつく。

「ところで……どうしてプレイヤーと戦ってたの? 馬車の中から、竜神君が血まみれで人と戦ってるのが見えて、死ぬかと思うぐらいびっくりしちゃったよ」
 その場面を回想したのか、美穂子が顔色をなくして体を硬くする。
「未来先輩目当ての連中に襲われたんです。問答無用でいきなり攻撃されて……。無理やりさらおうとするなんてひど過ぎますよね」

「そ、そうだったの!? 未来、大丈夫だった!?」
 ウインドウになった竜神にばかり気が行っていたが、あの時、未来も全身に傷を負っていたのを思い出して美穂子は未来の細い肩を掴んだ。
「うん。俺は大丈夫」

「しかし、未来自身攻撃を受けていたな。あれはなぜだろうか……」

 姫のHPが低いと襲ってきた連中が知らないはずが無いのに、爆発魔法が未来を襲った。結果として昏倒ですんではいたが、浅見がいなければ木から落下して死亡していただろう。
 あの場にいた浅見や竜神を狙ったのかもしれないが、姫のいる傍で範囲攻撃を使うなど、余りにも不用意だ。
 百合は唇に指を押し当て首を傾げる。黒の長い髪がさらりと腰で流れた。

「三十四人もいたんだから、チート能力が嫌いな人も交じってたんじゃないかな? 姫を仲間にしたら、クリア条件も全滅の条件も変わるし」
「あぁそれもそうか」
 チーム花沢のクリア条件は姫を女神に育てることであり、姫が死亡したら全滅だ。姫のHPの低さを考えると、ハードモードと言うよりハードコアモードに近い。いくら姫にチート能力があるとはいえども、ただ楽しくプレイしたいだけのゲーマーには足かせだ。
 浅見の言葉に納得して百合は頷いた。



「竜神!」



 未来の声に、百合、浅見、達樹の三人は同時に振り返った。
 蘇生から戻った竜神がようやく目を覚ましていた。敵が全滅したので『狂乱』状態も解除されている。
「竜神君、大丈夫?」
「美穂子?」
 竜神は久しぶりに見る友人の名前を呼びながら土の上から体を起こす。

「りゅうううううう!!!」
「せんぱいいいいい!!!」

 がし、と両方から服を掴まれて引っ張られ、う、と竜神は呻いた。
 未来と達樹だ。
「このバカバカバカバカ!! また暴走しやがって、お前、一回死んだんだぞ。美穂子が居なかったら一人だけゲームオーバーだったんだからなぁあ!!」
「そっすよ!! いきなり目の前で死んで、おれ、どんだけショックだったと思ってんすかぁああ!!」
 両方から揺すられ泣かれて、竜神は本気で焦った。焦りすぎて逆に冷静になるという現象が起こるぐらいに焦った。

「えと……、とりあえず、ありがとうな美穂子。ぜんっぜん何も覚えてねぇんだけど」
「どういたしまして」
「ありがとうだけで済むかばかぁ!!」
「そっすよありがとうだけじゃなんも伝わらねえっすよ!!」
「伝わるから落ち着いて二人とも」
 美穂子が竜神を揺する未来と達樹に言うが全く聞いてない。

「お前達……竜神はまだレベル2だし、初期位置から遠くない場所なんだし、ゲームオーバーになってもログインしなおしてくれば済む話だろうが。号泣するほどのことか」
「そういう問題じゃねーんだよ! こいつが暴走すんのが問題だろ!」
「そーっすよ! 死んだのがだめなんすよ!」
 しまった話が通じない。百合は首を突っ込んだ事を後悔してしまう。

「……お前達、末っ子か」

 泣く二人に反論されて、百合も焦りに焦って逆に冷静になる現象を内心で巻き起こし、三回転半ぐらい回ったような検討外れの質問をしてしまう。

「なんすかいきなり! それがどうしたっていうんすか!」
「今はウチのコミュ障の兄ちゃんなんかどうでもいいだろ!」

 ふむ。
 やはりそうかと一人納得する。どうでもいい情報ではあるのだが。
 因みに未来の兄がコミュ障というのも初耳だがどうでもいい。というかこんな所で兄を公開処刑するような真似をしてどうする。
 下に妹がいるらしい竜神はこのメンバーの中で兄貴分だ。未来が依存しているのは知っていたが達樹もこうまで懐いていたとは。

 赤面症ですぐにいっぱいいっぱいになる浅見は女なら可愛いだろうと思うこともあったが、達樹は正直女になったらと妄想さえしたこともない。
 だけどこうして色々と知ると、人にはそれぞれ可愛い面があるものだと感心してしまう。やはり、この世が女だけならばどれだけ幸せだろうか――いや、竜神にだけは可愛い面などまるっきりないな。などと取りとめもなく考えていると、美穂子が覗いてきた。

「百合ちゃん」
「ん?」
「竜神君が無事でよかったね」

 全てを見透かしてくるような綺麗な瞳に見詰められて、百合は苦笑するしかなかった。
「あぁ、そうだな」

 ゲームオーバーになってもログインしてくればいい。そう言った百合ではあったが、やはり、竜神が死なずに済んだのは喜ばしいことだった。




 号泣する二人が落ち着くのを待ってから、百合はアイテムの分配を始めた。

「とにかく、色々と手に入ったんだ。また襲われてもすぐに対処できるように装備を整えよう」
「はいっス」

 装備できる装飾品はそれぞれ付けられる者が付け、防御系の補助アイテムは未来が持つ事となった。そして、竜神には大量の回復アイテムが押し付けられた。

「僕達の中では竜神君が一番目立つからね。今後も真っ先に襲われるだろうし、今回みたいに回復が間に合わない場合があるかもしれない。これだけあれば僕達も安心だよ」
「うん。全回復アイテムが三つもあるじゃねーか。これ、一番取りやすいところに入れておけよ。お前って暴走したら死ぬまで止まらないんだから」
 未来が竜神の手元を覗きこんで頷く。
「そっスよ先輩に抜けられたらおれ等戦力ガタ落ちなんですから、気を付けてくださいっス」
「わかったよ」
 竜神は短く答えて、アイテムを分別しながらポケットに入れた。

「さて、まだ日は高い。いい加減モンスターとの戦闘でレベルアップしようじゃないか。最高で達樹のレベル6、最低で竜神のレベル2だなんていくらなんでも心もとなさ過ぎるからな」
「うん」

「おれ、このゲームクリアしたらもう二度とやらねっスよ……。現実っぽく戦うのがこんなにコエーなんて思ってなかったし」
「俺も。蜘蛛はでけぇし竜神が撃たれたの目の前で見ちゃったしさ。いろいろと擦り切れた。精神的な何かが」
 このメンバーで一位二位を争うビビリ二人が肩を落とす。

「私、回復が使えるから任せて。ちょっとは楽にしてあげるからね」
「期待してます! そういや、美穂子ちゃんの職業って何?」
 達樹に尋ねられ、美穂子はウインドウを開いた。

「私はプリーストだよ。回復に特化した魔法使いなの。レベル28、使える魔法は回復魔法の『ヒール』パーティ全員を回復できる『ヒールレベル2』『蘇生』『解毒』『防御力アップ』『魔法防御力アップ』敵の速度を遅くする『スピードダウン』敵の魔法攻撃を封じる『沈黙』攻撃魔法は一つだけなの『光の矢』光で攻撃する魔法」

「れ、レベル28!? なんでそんなに高いんだよ美穂子」
 驚いて未来が身を乗り出す。
「助けてくれた山本さんたちの平均レベルが40ぐらいだったの。簡単にレベル上がるのが楽しいからって、強いモンスターの戦いに参加させてくれて、一気に上がったんだー」
「なるほどー! 確かにレベルガンガン上がるって気持ちいいもんなあ」

「んじゃ、私もお姫様のパーティーに参加させてね。皆、ブレスはめた腕出して」
 美穂子に言われるがまま、円陣を組むようにして全員中央に腕を差し出す。
「もっと寄って」
 美穂子に言われて全員一歩踏み出す。かちゃん。ブレスが上下の手に挟まれ、ぶつかり、淡く光った。
「オッケーです。これでパーティーが組めたよ」
「へー、こんな仕組みになってんのかぁ」

 パパラパー。聞き覚えのあるファンファーレが響く。

『パーティーの平均レベルが上がりました。姫の情報が更新されました』
「ん? なんだろ」
 機械音声に促されるように、未来がウインドウを表示させた。

「HP180 MP0……。特技に増えてるな。『姫の加護』モンスターとのエンカウント率がほぼ0になる」

「ほぼ0!?」
「どうりで。竜神と二人だった間はしょっちゅうモンスターと戦闘していたのに、お前達と合流してからは敵が現れなくなったはずだ」
 街に入ってすぐ、「よく街に辿りつけたな」そう投げかけられた声を思い出す。普通ならあの街にたどり着く前に数々の戦闘があったのだろう。イベントの三つ四つ飛ばした可能性さえある。

「お姫様って結構迷惑なキャラなんすねー」
「ご、ごめん」
「いっだ!」
 達樹の頭に容赦の無い拳骨が二つ飛んだ。百合と美穂子だ。

「まだまだ隠し特技が出てくるんだろうな。パーティーレベルが上がれば閲覧できるようだし、とにかく、全員レベルを上げるぞ」
「え、でもどうやってあげるんですか? お姫様いたらモンスターと会えないんでしょ?」
 達樹が殴られた頭を摩りながら言う。

「これを使う」
 百合は紙の束の中から一枚抜き出した。

 抜き出された紙には、折り重なった人の死体の絵が描かれていた。
「うわ、それ何?」
 怖がりの未来が思わず一歩引いてしまう。
「『屍肉』一定時間、一定範囲にいる一番強いモンスターを呼び寄せるアイテムだ」
「そんなの使って大丈夫かよ……?」
「便利なアイテムじゃねーか。だらだら歩き回るの面倒くせーし、さっさと使うぞ」
 竜神がアイテムのウインドウを表示させ、使用のボタンを押した。同時に紙が消えてなくなる。

「よし、最初はおれから行きます。モンスターきたらキスしてくださいね先輩」
「えっ?」
「え?」

 心底驚いた様子の未来に、達樹も驚いてしまう。
「ど、どしたんすか? ここらの敵見ましたよね? あのウナギみたいなの。おれ、今の状態じゃダメージ3しか与えられないんすけど……」
「――――――」

 未来は地面を見て右へ左へと視線を走らせて、桜色の口元を細くて柔らかそうな指で覆った。
 先ほど泣いたせいでただでさえ赤かった目尻が真っ赤に染まり、長い睫で縁取られた瞳が怯えたように伏せられて涙が潤んで――――。
 何を考えたのか、ふる、と首を振ったせいでツインテールに結ばれた髪がふわふわ揺れる。
 晒された細い首や細い肩、うなじの白さが目に痛い。
 今までは、キスしないと味方が死ぬような展開ばかりだったので意識する暇もなかったのだろう。
 改めて突きつけられて恥ずかしくなってきたのだろうが。

「あのー、先輩、深く考えちゃだめっスよ。なんか逆にエロイからさ。さくっとちゅーしてくれないかなーって」
「えええエロイとかいうな! くそ!」

「男の子にキスするのが恥ずかしいなら、私ならどう?」
 美穂子に言われて未来は悲鳴のように叫んだ。
「美穂子になんて余計ムリィ!!」
「そうなの?」
 竜神が死んだとき、何の躊躇いも無く飛び付いて来たので平気だとばかり思ったのだけど。
「当然だろ! 美穂子と浅見にすんのが一番恥ずかしいよ!! ぶっちゃけ竜神とか百合とか達樹は汚れてる感じすっからましだけど浅見と美穂子はなんか綺麗だもん!」
「お前……私になら何を言ってもいいと思ってるんじゃなかろうな。流石に傷つくぞ」
 百合が黒の睫にくっきりと彩られた切れ長の瞳を潤ませていた。

「!!? ご、ごめ!」

 未来は息を呑むものの、
「百合がこんぐらいで傷つくわけねーだろ。罪悪感を煽って付け込もうとしてるだけだ。隙見せんな」
「なぜ判った竜神。侘びに未来の胸を揉ませてもらうつもりだったのに台無しじゃないか」

「お、お前のそういうとこが汚れてるんだよぉおお!」


『キノコニンゲンが現れた!』
 突然機械音声が響いた。最初の敵だった。

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