表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者の目指したアーカディア  作者: 鷲野高山
1章 新大陸の守護者
25/26

25話 盲目の射手

「…………」


 おかしい。予期していたはずの衝撃がこない。

 不審に思った蓮也は、閉じていた眼をそろそろと開いた。

 目の前にあったのは――掻き消されるように霧散していく、黒い影。


「……は?」


 思わず、呆ける。いったい、自分の見ていない間になにが起こったというのか。

 頭が若干混乱する。


「――そういえば」


 ふと、思い出した。被弾を覚悟した直後、なにやら戦場に似つかわしくない音が聞こえたのを。そしてそれは、以前どこかで聞いたことのある気がする音だったことを。


『ほう……』


 思考に耽っていた蓮也の脳を、シークファートの不思議な響きを含んだ声が揺さぶった。

 声につられて視線を移動させると、そこには、首を蓮也の後方に向けているシークファートの姿。

 何事か、と蓮也も体を回し、自身の背後を見た。

 そこにあったのは――。


「……琴葉?」


 中央棟屋上にある、人影。

 風にたなびく碧色の髪。その頭にちょこんと乗っている、幼竜。遠目から見ても断言できる。それはまさしく、中央棟地下にいるはずの、藤條琴葉であった。

 だが、蓮也の興味を引いたのは、なぜ琴葉がそこにいるのか、ではなかった。彼女の手にあるもの、そして、その構えにあった。


「……あれは?」

『弓、だな。人間にしちゃ、やるじゃねぇの』


 蓮也の呟きに、シークファートの楽しげな声が重なる。 

 だが、蓮也は疑問を拭えなかった。それもそのはず。おかしなことに琴葉は、矢筒も持ってなければ矢を番えているわけでもないのだ。


『しかも、曲射で一発ときた! 中々の芸当だな!』


 曲射。上方へと打ち出した矢を、落下させて対象へと当てる技術。

 シークファートの言う通りなら、先程の不可思議な現象を起こしたのは琴葉、ということになる。


「……ボス……こっち、くる」


 プルルッ、とフレットが振動し、今まさに蓮也の頭に浮かんでいた人物、藤條琴葉の顔がモニターに映し出された。


『む? お呼びのようだぜ?』

「…………」


 ……どうしたものやら。

 地上では、まだ舞が動けずにいる。しかし、琴葉のことも気になるのも事実。

 だがまあ、周囲には暴走体の姿もなく、上空からの第二射の気配もない。

 少しなら、と蓮也は中央棟屋上目指して飛翔した。


「どうしたの、琴葉?」


 シークファートの背の上から、屋上に立つ琴葉に問いかける。

 じっと微動だにせず、顔を蓮也へと向けていた琴葉だったが、ややあって口を開いた。


「……乗せて」

「へ?」


 思わず蓮也は、間抜けな声で聞き返した。

 なにに、というのは考えるまでもない。この黒竜――シークファートにだろう。


「……私も戦う……乗せて」

「戦うって……」

『オレは構わないぜ?』


逡巡していた蓮也に、シークファートが声をかける。その即答ぶりに、蓮也は思わずまじまじとシークファートを見た。


『気に入った! そいつのこともそうだが、そいつの武器も。鏑矢たぁ粋な武器(モン)使ってるじゃねェか! こりゃ、オレも血が滾るってもんだぜ」

「……鏑矢?」


 確か、聞いたことがある。

 だが、鏑矢とはあくまでも戦の始まりを告げるために戦場に放たれる矢……だったはずだ。

 しかも、先程の音がそれの発する音であるならば、かなりの大きさのはずだ。ほとんどメリットはなく、むしろデメリットしかないのでは?

 と、思案する蓮也をよそに、琴葉が屋上の柵を飛び越え、シークファートの背へとよじ登ってくる。


「……行く」

「……だけど――」


 なぜだか気合い満々の琴葉。しかし、蓮也は躊躇する。


「空……行く」

『諦めろ。この娘っ子は、やる気満々だぜ』


 それでも尚、頑なに降りようとしない琴葉。さらには、シークファートまでそれに同調しはじめる始末。


 ……こうなれば、自分が言い聞かせるしかない。

 そう思って、琴葉の顔を覗き込む蓮也だったが――。


「大丈夫。絶対に役に立てる」


 そこにあったのは、自信に満ちた顔だった。

 不安がないわけがない。危険が伴い、もしかすると大怪我どころではすまないかもしれない。

 だというのに、彼女、藤篠琴葉は笑顔だった。

 蓮也には、その顔がとても眩しいものに見えて。

 ――気がつけば蓮也は、頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ